【感想】ひきこもり文化論

斎藤環 / ちくま学芸文庫
(4件のレビュー)

総合評価:

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  • momongadesu

    momongadesu

    「 孤独であり続けることを勧めたいわけではありません。しかし人生の一時期、それもできるだけ若い時期に、取り返しのつく形で孤独を通過しておくことは、きわめて重要な意味を持つでしょう。」

    「私の知る限り、ひきこもり状態からいい形で抜け出せた人には、どうも読書好きが多いように思います。そう、いかにインターネットが情報革命をもたらしたとはいえ、いまだもっとも深く、もっとも多様な世界は活字の側にあるでしょう。一人で大量の本を読む経験は、一人で遠くまで行くための脚力をもたらしてくれます。より深く、よりしなやかな生の形式としての孤独。その復権を、私は切に願うものです。」

    『私の知っているある当事者は、かつて私にこう語ってくれました。 「ひとりでいても何も起こらない。でも人といると、何かが起こるんですよ」  ここで肝心なのは、彼がけっして「人といると良いことがある」とは言っていない、ということです。それは悪いことかもしれないし、失望するような経験かもしれない。しかしそれでも、偶発的に起こる「何か」の価値を受け入れよう。そう彼は主張しようとしているようにも思えます。』

    『そもそも「ひきこもり」は小説の題材にはなりにくい。他者との出会いが起こらない彼らの世界は、あらゆる物語から徹底して見放されている。(…)そこには「自分自身という他者との出会い」すらも欠けていることが多いのだ。それゆえ言ってみれば、悲劇ですらあり得ないのが彼らの悲劇にほかならない。』

    『 人がなぜひきこもるのか、その問いにはいまだ答えがない。しかし考えてみれば、これはそんなに珍しいことではない。同じように、人がなぜ狂うのか、人がなぜ人を憎み、愛するのか、そうしたことにも解答はない。精神医学にはそれができると言う人がいる。しかし、おそらくそれは間違いだ。僕の尊敬するある精神科医はこう言った。「わかればわかるほど、わからなくなる」と。本当にそのとおりだ。精神医学、あるいは科学一般にできることは、原因ではなくて過程を明らかにすること、それだけだ。 』

    2021/12/18読了
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    投稿日:2021.12.18

  • watson

    watson

     大学の図書館で借りて読んだ。知り合いが引きこもりで、その人をもう少し理解したかったから手に取ってみた。読んでみて、ひきこもりは病気の一つなのかと思ってたけれど、著者いわくひきこもりは病気ではなく状態を表す言葉であるらしい。
     この本でブログを書くときどんな内容がいいだろうかと考えていたのだが、著者はひきこもりや不登校など思春期・青年期の精神病理学を専門としているので、この本も面白かったし、著者の本をもっと読んで紹介する記事を書いてみてもいいかもしれない。
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    投稿日:2021.04.27

  • kuninoriyamazaki

    kuninoriyamazaki

    ウイキペディアで斎藤環氏のコメントを目にして氏に興味を覚えたので、手に取った。実際本書を読み進めていくと、その舌鋒の鋭さには舌を巻くという他ない。多少心理学の用語が難解に感じられ、しっかり氏の主張が認識できたか、怪しい面があった。さらには極めて分析的な論調に私の方が心持ちを苦しくしたため、韓非子を読んだ時のように私には受け付けない内容なのかと、怪訝な思いもしていたが、気を取り直して再び読むとスポンジに水がしみ入るように、愉快に読めた。氏の主張は哲学的な見地に立つ時も心理学の観点からも難解になるきらいがあるが、それでも辛抱して読み進めると、至言名言が随所にあり、それは引きこもりに適用可能であることを越えて、一般性を発揮していると言い得る。この著書で私がどれだけ実質的に進歩したかは全然自覚がないが、私の心理の追求という点からも、日本を知るという点からも、様々に有益な本だった。続きを読む

    投稿日:2019.02.06

  • RANI

    RANI

    昔観たテレビ番組のある場面が忘れられない。不登校の女の子に手を余した両親が、不登校やひきこもりを治すやや高齢の女性に依頼して、スパルタ的に娘を矯正してもらうという番組だった。とりあえず登校しはじめる娘と、それを笑顔で見守る両親、スパルタ矯正業者・・・めでたしめでたし。本当にめでたいのは、その番組だ。

    斉藤氏の著書にあるように、金もうけ主義ではないかもしれない矯正業者に限らず、理解の浅い人間が手を差し伸べることに対して、それは ’ルールの存在しない善意による暴力’ である。こういう問題に簡単な解決法などどこにもないのだ。ひきこもりをしている人々は周りに数人いて、たまにその母親から話を聞かされていた。世間が云うような、単純に親の甘やかしが原因とは考えられずずっとその理由がわからないでいたが、斉藤氏の本を読み少しわかった気がした。そのひとつに、’去勢’(父親を始めとする他者との関わりのなかで、自己万能性の去勢を経てより社会的な存在となり成熟へと繋げるということ)を妨げる、’去勢否認’(母親密着など)が大きな原因であるという。逆を言えば去勢は必須。
    ひきこもるという行為は、内省を深め、うちに豊かさを保ち今以上に自己を磨くこととだろう。しかし世間一般のいうネガティブなイメージのひきこもり者は、他人との関わりを断ちたい・傷つくのが怖い、という理由かと思っていたが、その逆であるという。
    他者との肯定的な出会い・・・それがあれば、ひきこもりから一歩外にでることができると斉藤氏は提案している。そのきっかけとなるのは、インターネット・SNSでるという。’対話の無意味さ’ そこを大切にしていこうと。暗い部屋でPCにかぶりつくひきこもり・・・そんなイメージを持つことはやめた方がいい。事実SNSが果たす他者との関わりによって、外に出られる人がいる。
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    投稿日:2016.11.06

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