【感想】多摩川物語

ドリアン助川 / ポプラ文庫
(16件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
5
6
3
0
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ブクログレビュー

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  • 湖永

    湖永

    多摩川の岸辺の街を舞台にした8つの連作短篇集。

    どれも優しさが隠れている。
    ほろっとさせる場面もあって、心に染みてくる。
    読みやすくて短篇なのに内容も熱くてドラマ1本観たようだった。

    ○黒猫のミーコ〜無人販売所を出す雅代さんに寄り添う黒猫ミーコ。

    ○三姉妹〜古書店で働く洋平が気になるのは、料理を作る匂いなのか三姉妹なのか。

    ○明滅〜克之とマル君の友情

    ○本番スタート!〜隆之の裏方仕事・小道具は主人公でもある。

    ○台風のあとで〜雅之がホームレスから貰ったものは知恵。

    ○花丼〜「大幸運食堂」の継春さんが助けた看板屋が書いた看板は。

    ○越冬〜父子家庭と母子家庭の出会いと将来。

    ○月明かりの夜に〜亡くなった母が残していた言葉。




    花丼に残していった看板の言葉が良い。
    それを見たら店主も力が漲るはず。
    「生きていきますどこまでも」
    「花丼食べて花咲かせ」

    月明かりの母の言葉も心に残る。
    大変な時期もそれも景色のひとつ。
    いい時も悪い時も、すべての景色を味わうのが人生。
    だめな日は、だめな日なりに毎日を味わって生きていきなさいね。
    笑っていれば、またきっといい景色の日がきますから。



    愛のある優しい言葉がたくさん溢れている物語だった。




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    投稿日:2024.03.10

  • avec toto

    avec toto

     8編からなる短編集。最初の二編辺りでもう、やっぱりこの作家さん一番好きだわ〜と、ときめいた。もっと評価されていい作家さんだと心から思う。

     中でも、「黒猫のミーコ」「明滅」「台風のあとで」「花丼」は特に好きだった。

    ドリアン助川さんの文章には優しさが溢れている。その人物の心の声を、1つずつ丁寧に掬って文章にしてくれる。余白を省いて、行間を読みなさい!というスタイルではなく、読む人にも優しい。なので、読んでいる最中はあれこれ考えることなく、その人物の心が素直に真っ直ぐに心に刺さってくる。では、簡単な内容なのかというとそうでもなく、読んでいる間中、そして読後も、その風景や、人物の感情、どうかすると、その周りに生きる人々まで含めた世界観が、しばらく自分の周りを覆っているような、別世界でありながら、とても親しみのある所へ身を置かせてくれる。しっかりとした物語の世界の中で、読者はあれこれと想像を働かせることができる。そして、その多くは、本来日頃の生活の中で感じ得る人間の優しさであったり、辛さであったりする。これこそが、人の気持ちを考えたり、想像したりするということではないだろうか。

    そして、最後に突然の散文詩。スケールが大きく、何者も近づけないような大きな流れた時の存在。震えました。

    今読んで良かった。こういう本を読みたかった。文が美しく、現実の生活に即していながらも、なかなか出会うことのない人の真心や優しさに触れさせてくれる本。移り変わる自然の風景と人生の時。
    上質な上にわかりやすい文章なので、若い方にもたくさん読んでもらいたいです。

    好きだったところ******

    少し前に南の風が強く吹いたろう。あれが春の挨拶だ。透き通った刷毛を走らせて、自分の通り道を見せていく。131

    今日も一人励ましたと、言った本人だけは思っている。相手の思いやりの方が上でうなずいてくれたかもしれないのに、いいことを言ったような気分で鼻の穴を膨らましている。
    だが、一人ぼっちになると、他人を励ました分だけへこむようなところが継治さんにはあった。すべては虚勢なのだ。166

    良い時も悪い時も、すべての景色を味わうのが人生なんだとお母さんは思うわ。235

    時よ、いつ過ぎ去ったのだ。
    輪郭のつかめないこの風景を、
    今、愛せよというのか。
    なにもかも、これが本当の姿だというのか。239
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    投稿日:2024.01.04

  • ruokalalokki

    ruokalalokki

    8本の短編集
    ちょっとどこかで繋がっている物語。
    さすが叫ぶ詩人の会、ところどころドキッとするような表現が出てくる
    なんだか優しい物語で、さん、くん付の第三者目線で書かれているのもそれを助長させている感がある。
    切なくなるけど決して苦しくはならず、逆に心が温かくなるそんな本でした。
    多摩川に行ったことがあれば、情景が浮かんでセピアな感じで読めるのだろう。
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    投稿日:2023.11.21

  • mysterymanbo

    mysterymanbo

    ドリアン助川、映画「あん」の原作者という知識しかありませんでしたが、短編もいい。とにかく文章力は嫉妬を覚えるほど素晴らしい。こうした良い文章に触れるといつの間にか読む方も心が豊かになります。
    内容は、どこにでも居そうな庶民の姿が、思いやりやお節介を通して人生の襞として描かれる連作集。特に、心の底で遠い記憶に埋もれていたはずの出来事が、あることをきっかけでさざなみの様に蘇ってくる様は、時を経ることによって甘酸っぱくより芳醇さを増しているようです。短編小説の名作です。続きを読む

    投稿日:2023.10.09

  • なんてひだ

    なんてひだ

    ドリアン助川さん、放送作家にラジオのパーソナリティに、そして作家業に多才なんだ。たくさん表現して行く行き方なんだ 多摩川は遠すぎて思い入れはないけど、8人だけじゃないまだまだ物語に富んで2出来てもいいね。正子さんの回が好きかな 娘を1人で育て上げ、逃げずに自分の言葉で立ち向かう、線香を上げにきた友達の会話で人となりも分かる。良い人だった 最後の多摩川を舟で下る回想は正子さんで切ないけど、多摩川に見守られる人生って良いと思う。あんを読んでこんな胸打つ物語をもっと読みたいです、で本屋に出ないのが切ない。続きを読む

    投稿日:2023.08.31

  • suzuka

    suzuka

    このレビューはネタバレを含みます

    花丼、越冬と月明かりの夜に、が好きだった。

    花丼
    もう家賃などの支払いも無理で、客も入らないどうにもならなくなったオーナーは、自死しようとしていた人を助ける。そして自分の食堂に連れていく。
    すぐに温かいものを食べさたいが、仕込み前で何もない。仕方なく、まかない飯を出す。そうしたところ、大喜びで、お替りまでする。
    その後、花丼と名付けたこのメニューを食べに来る人がたくさんあるように。あの時救った人は看板屋さんだった。食堂に、花丼の看板を置いてくれていた。

    越冬
    シングルマザーとシングルファザーの話。それぞれの子どもが、学校で隣の席に座っていたことから、一緒にバードウォッチングに行く。距離が、だんだんと縮まる中、シングルファザーに関西への転勤が。シングルマザーに、一緒に4人で関西に行かないかと言うと、おもいがけない返事が。一緒に行きますが、このままそれぞれの父、母として4人で暮らしましょう。それぞれの子どもに、他に好きな子ができたら、その時に私は50を過ぎてますが私を花嫁にしてもらえますか?

    月明かりの夜に
    シングルマザーの子どもとして育った良美。母親に散々わがままを言いながら育った。ある時、今日からあなたの母親は、いません。友達として暮らすので、正子ちゃんと呼びなさい、そして家事の割合を増やす、と。
    そんな年月が流れ、母親は亡くなる。遺品整理の中、近所の人にあげた落語のテープ。これはあなたが持っておくべきものだ、と言われ、母親が最後に聞いていたものだと思い聞き直す。するとその中に、母親の肉声が入っていた。

    どれも、少しずつ自分に似ているところがあったりして、じわじわくる。生き方、子どもとの接し方、など日々試行錯誤しながら、なんとかここまで来た。そんなに世の中、捨てたものでもないし、なんとかなるさ、そんな気持ちになったりする。でも、ここに描かれているのは、令和のいまでなく、昭和なのかな…
    重い本ではなく、サラッと読み切れる短編集。

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    投稿日:2023.01.04

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