ザ・サークル

デイヴエガーズ, 吉田恭子 / 早川書房
(24件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
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  • 気鋭の作家が描くプライバシーが悪だとされる完璧な民主主義社会の姿

    巨大インターネット企業「サークル」を舞台にした近未来小説。というより小説仕立ての予測シミュレーションと言った方が適切かも。きっかけはこれまで未整理で複雑だったユーザー情報を一つに統一したトゥルーユーの誕生と、お互いにシェアしあえば世界中の何百万のライブ映像にアクセスできる安価な個人用ライブカメラの登場にあるのだが、やがて社のトップは「秘密がなくなれば、人類は善になる」とか、「人類が経験しうるすべての経験への平等なアクセスは、基本的人権である」と宣言するまで至る。その過程に、なんら不自然な突飛さはない。

    ただし同じような発想が日本でも生まれるだろうか?という問いは興味が尽きない。これはアメリカ、いやシリコンバレーという地でしか育まれない特有の思考形式だと思う。秘密は、「常軌を逸脱した行動様式の一部であり、反社会的で、非道徳的で、破壊的な行為を助長する」からなくすべきだし、すべての人のあらゆる経験にアクセスできることは必須で、自分の経験をオンライン上でシェアできないようにすることは、「知識の独占」で「わがまま」だという考えは、アジア人の間にも生まれまい。

    透明性とオープンアクセスを信奉する会社で生き残るために、主人公のメイはキャンパス内で必死に努力する。 なにせこの会社は、ソーシャルであること、オンライン上のあらゆるアカウントで絶えず存在感を示しつづけることが、仕事の欠かすことのできない一部であるとする会社なのだ。一定レベル以上のコミュニティ参加が求められる職場というのは、まさに一昔前の社内運動会が盛んだった日本企業そのもののような気もするが。

    ソーシャルネットワークとジャンクフードの類似性を指摘する箇所が面白い。社交的でないとなじられたマーサーが、問題は不自然に極端な社会的欲求を生み出す彼女の会社のツールにあると指摘し、他社との極度なコンタクトなんて誰も求めていないのになしで済ませられなくなるのは、科学的に塩分と油分が配合されたジャンクフードみたいなもので、「やめられない空疎なカロリーのソーシャルネットワーク版」だと言い返す。

    マーサーはこの他にも、ソーシャルネットワークの進んだ状態を「誰にも強制されること」なく「自ら進んで自分を鎖に繋いで」しまう「社会的な自閉状態」と呼び、なるほど思わせる。

    今年発売されるApple Watchがただのオモチャにしか思えないほどの究極なウェアラブル・デバイスが登場する。手首のモニターとつながるセンサーをドリンクと一緒に飲むことによって得られるデータは次の通り。心拍、血圧、コレステロール、体温の変化、摂取カロリー、睡眠時間、睡眠の質、消化効率、ストレス値、汗のPH値、血中酸素濃度、赤血球数、歩数、姿勢などなど。

    しかし、自分についてのデータ収集が、やがてそれだけでは済まなくなり、他の人のデータまでも欲しくなり、それなしには足りないと感じてしまうような世界が、サークルが目指す完全化の達成した倒錯した世界なのだ。

    何も持たず旅に出るなんてわがままで、非ソーシャルは自尊心の低さの現れだと主人公が詰られるシーンがあるが、新興宗教施設内での折檻や連合赤軍の総括を連想させ、なかなか恐ろしい。自分の趣味や興味を周りの人に知らせることは、自分の役割を果たすことにつながり、コミュニティの一部であることの不可欠な要素であるとする指摘は、一見まっとうに思えてなかなかに罪深い。

    透明化したメイが自分は以前よりはるかに改善されたと感じる場面はなかなか興味深い。ついつい甘いものに手が伸びるダイエット志望の人にも、ついもう一杯と杯を重ねるアルコール依存症患者も、カメラによって常に見られて窮屈だという思いよりも、メイのようにカメラによって自分の振る舞いが矯正されたという感謝に変わるのだろうか?
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    投稿日:2015.03.07

  • 限りなくノンフィクションに近いフィクション

    GoogleとFacebookが合体したような架空の会社サークル。
    そこに入社した主人公の仕事やブライベートを通して現実を風刺している作品です。

    IT関連の仕事をしている人やSNS好きには「分かる分かる」という内容がたくさん出てきます。

    “透明化”が本当に実現したらどうなるのか、見てみたいような見たくないような
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    投稿日:2017.04.09

ブクログレビュー

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  • hirocs

    hirocs

    ”今年、映画も公開されており、日本封切り前に原作を読むと決めて購入。500ページ超の大作小説だけど、文体がかなり早口(?)なので、話が佳境に入ってからは思っている以上にさらさら読み進められた。

    それにしても、ここまで公開されてしまう世界は怖すぎる…
    ただ、主人公メイの行動を笑いとばせない自分がいる。

    マーサー、カルデンの言葉にうなづきつつ、迎えた結末は・・・。

    映画ではどんな風に描かれているのか、楽しみ。

    <キーフレーズ>
    ・トゥルーユー(Ty)
    ・「“コミュニティ第一”知っているだろうけど、これが我が社のスローガンだ。」(p.54)
    ・「当社では、社員のソーシャルネットワークのプロフィールとアクティヴィティを社内活動の不可欠な部分とみなしているの。」(p.104)
    ★「君はつまらない人間になったよ。一日12時間デスクに座り、そのせいかとして見せられるものといえば、一週間もすれば忘れられる実在しない数字以外に何もない。君が生きたという証拠は何も残らない。」(p.278:マーサー)
    ・秘密は嘘
     分かち合いは思いやり
     プライバシーは盗み(p.323)
    ・「今起こっていることを止めなければ。僕は真剣だ。サークルの完全化が迫っている。」(p.340:カルデン)
    ・「みなさんの願いと気持ちだけを送ってください。メールやジングなどは結構です。」(p.385)

    <きっかけ>
    田中伶さんのビジネス書サロンでの紹介を読んで。”
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    投稿日:2019.08.15

  • akikobb

    akikobb

    分厚めだったが一気に読んでしまった。
    現代版1984、とか言われているらしく、これまでも私の人生に何度か訪れては無視されている、【今こそ1984を読むのだ】のお告げまた来た…。
    主人公のメイが、「サークル」という会社の社是にだんだん染まって行く様子が恐ろしかった。
    ヒトラーも、パルパティーンも、民衆に歓迎されて独裁者になった。
    「サークル」もおんなじ。
    私も、GoogleなりAmazonなりドコモ(こう並べると小物感あるからむしろ信じてるんだけど)なり…に個人情報を提供しまくる生活への抵抗感がどんどん薄れている。というか抵抗感はあるのだけど、それよりも「便利だからまあ仕方ない(今さら無い生活に戻れない)」という気持ちの方が勝ってしまう。みんなやってるし、それが世の趨勢か、なんてわかったような理屈で納得して、受け入れてしまっている。
    安い方がいいし、早い方がいいし、楽な方がいいし、ちょっとやだなとは思っても、信念……なんて言うほどのものでもないしねえ、、ポチ、てな感じで。
    こういう怠惰な心が独裁者を作るのだなあ。
    頑なにケータイ持たない人、スマホにしない人、LINE使わない人、たちが時代時代にいた(いる)けど、周囲からさんざんからかわれたり文句言われたりしながらも「いえ私はmixiはやりません」と言っていたあの人みたいに高潔であらねば、とか思うその一方で、信念を貫くために死にたくはない。自分一人ならまだしも、家族が「死をも厭わず俺は信念を守る!」と言ったらどうする?生きるべきか死ぬべきか、それが問題よ…。
    そんなこと考えている間に、ただの便利な道具として世界に浸透しきった「サークル」アカウントが、悪魔の全体主義ツールに変貌しちゃうんだから、トロイの木馬。
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    投稿日:2019.06.27

  • suburibilly

    suburibilly

    この物語のようなことは既に現実に起こっている。ばかばかしいと思っても世の中の仕組みから逃れられなくなっていく

    投稿日:2018.11.04

  • へ〜た

    へ〜た

    「すごい、ここは天国だ」という書き出しで始まる、現代ディストピア小説。かつてのディストピア小説は共産主義国をモデルにしていたわけだが、この現代ディストピア小説のモデルは言うまでもなく Google で、誰もが内心気がついている恐怖感を具現化した。そして、これが壮大なパロディとなるか、黙示録となるかは、まだ誰にも判らない。

    Dave Eggers は現代アメリカを代表する作家で、この "The Circle" も New York Times bestseller #1。本当は原著で読もうと思っていたのだが、面白そうだったので翻訳でサッサと読んでしまった。
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    投稿日:2018.07.15

  • atsuko

    atsuko

    繋がること、シェアすることが加速していくと、こんな絶望的な世界になってしまうのかと思うととても怖い。こんなこと起こらないだろう、と笑えない今があるからこそ。
    ブラックユーモアの極地、デストピア小説という言葉にも納得がいった。続きを読む

    投稿日:2017.03.28

  • ワンダー

    ワンダー

    ますます進化するIT化、ソーシャル化。
    「いいね」押していい気分に。「いいね」押されていい気分に。

    会社の資料はすべて共有フォルダへ。メールは全員へ返信で。
    CCには知らない部署の人の名前までずらっと並ぶ。

    すべてオープン、それが「善」となんとく思うようになり、
    すべてを透明化することで社会が一歩前進すると信じていた。(少し前の頃)

    透明化によって、貧富・優劣の差はなくなり、手助けし合える“素敵な”社会が生まれても、
    なんか居心地の悪さも感じる。個性もいつの間にか失われている気がする。
    そんな「違和感」が脳裏をよぎる人もちょいちょい出てきたが、世間の“ムード”には抗えない。(ここが今)

    10年後 あの時に感じていた「違和感」は正しかったんだ、と気付いても遅い。
    サークルという輪の真ん中は空洞。何もない。

    手遅れにならないように、今、多くの人にこの本を読んでもらいたい。
    ただ、手遅れにならないようにこの“ムード”に抵抗したいところだが、
    抵抗する方法がわからない現実に気付くと恐怖感はさらに倍増する。

    この本に書かれてるのは、良かれと思って築き上げた夢のような未来の影に潜む、
    取り返しのつかなくなった「奇妙な世界」。
    罪のない“ムード”をどうやって軌道修正すればいいのか、考えさせられた。

    BGMはゆらゆら帝国「空洞です」の小泉今日子バージョンで。
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    投稿日:2017.03.17

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