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ウィリアム・ケント・クルーガー, 宇佐川晶子 / ハヤカワ・ミステリ (30件のレビュー)
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総合評価:
ABAKAHEMP
4
煮えたぎる怒りの果てに訪れる小さな奇跡
好きな小説やテレビドラマは決まって、登場する人物たちがたまらなくいとおしく思えてくるのだが、この作品も同じだった。 読み終わってなお、ニューブレーメンという小さな町とそこに住む住民たちが身近に感じられ…、とても作者が創造した架空の町だとは思えない。 何度も家族(とりわけ兄弟がたまらなくいい)、町の人との何気ない会話のシーンで涙があふれそうになり、ページを繰る手が止まった。 全米4大ミステリ賞で最優秀長編賞を独占した本書だが、失礼な話むしろそれが余計に思えてしまうほど、ジャンルに囚われない新鮮な読後感と深い余韻をもたらしてくれる傑作だった。 とりわけ主人公たちがブラント家を訪問する最初のシーンは印象深い。 ポーチでは父親で教区の司祭を務めるネイサンと隠遁した盲目の天才ピアニスのエミールが籐椅子に座り談笑しながらブラインド・チェスをしている。 家の中では将来を嘱望された音楽家である姉のアリエルが、そのエミールの口述した回顧録をタイプしている。 庭では耳が聞こえず情緒不安定なリーゼを吃音症の弟のジェイクとその兄で主人公のフランクが手伝っている。 牧歌的で平穏な交流場面がやがて悲しみに変わるのだが、作者は単なる悲劇で終わらせず、最後には再生と許しを用意している。 「ありきたりの祈り」というタイトルの付け方も見事で、家族を救う小さな奇跡という込められた意味は明かされてなお胸に迫るものがあった。 気に入った箇所をいくつか。 「幸せとはなんだ、ネイサン? ぼくの経験では、幸せは長く困難な道のあちこちにある一瞬の間にすぎない。ずっと幸福でいられる人間などいないんだ」 「喪失は、いったん確実になれば、手につかんだ石と同じだ。重さがあり、大きさがあり、手触りがある」 「彼らはおれたちの近くにいるんだよ」 「彼らって?」 「死者だよ。違いはひと息分もない。最後の息を吐けばまた一緒になれる」続きを読む
投稿日:2015.03.22
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ちぃ
1961年、ミネソタに住む13歳のフランクと弟ジェイクとその家族の物語。 その街に住むひとりの少年の死から物語は始まるものの、ミステリーというより、 少年の成長や人間ドラマにポイントが置かれていて、じ…っくりとその世界を楽しめた。 やんちゃでちょっと短絡的、だけど兄弟思いの兄と、 吃音というハンデをかかえつつ、慎重で思慮深い弟の対比が良かった。 最初は冒険を嫌い、前に出ない弟にヤキモキハラハラし、中盤からは「お兄ちゃんもいいとこあるやん!」と兄の印象も変化し、二人のことが大好きになった。 ラスト付近で起こる奇跡にも胸が熱くなった。 牧師であるこの兄弟の父親にも好感が持てた。 信仰心を持たない自分にも、彼が場面場面で放つ言葉にうなづいたり、考えさせられた。 怒りを抑えることや冷静に行動するためのヒントをもらえた。 登場する他の大人たち、特に牧師と兄弟を精神的に支える男と 犯人の嫌疑をかけられるインデアンの男も良かった。 ※フォローしている方の読書記録は 次に読んでみたいと思う本の参考になり、たいへんありがたく思ってます。続きを読む
投稿日:2023.07.22
shintak5555
読書備忘録696号。 ★★★★★。 翻訳される海外文学作品は、評価が高いから翻訳されている訳であり、やはりアタリが多い。 アメリカの中北部州ミネソタ州を舞台に少年が大人になっていく様を描いた秀作。 …ミネソタ州はミシシッピ川があり、トム・ソーヤやハックリベリー・フィンが大冒険を繰り広げたり、大草原の小さな家でインガルス一家が住むウォールナットグローブがある。笑 すなわち、豊かな自然に恵まれた牧歌的な風景がすごく似合う舞台。 そんなミネソタ州のミネソタ・リバーのほとりの町ニューブレーメンで13歳の少年フランク・ドラムが初めて人の死、しかも最愛の家族の死に直面する残酷なひと夏の物語。そしてミステリでもある。 その年の夏、死の連鎖は知り合いの少年ボビー・コールがミネソタ・リバーに掛かるユニオンパシフィック鉄道の構脚橋で列車に轢かれるところから始まる。 そして、その事故死は、見知らぬ旅人の自然死を経て、最愛の姉アリエルの殺人事件に繋がり、連鎖して自殺と広がっていく。 物語は、主人公のフランクが当時の1961年夏を40年後の視点から回想する語り形式で進む。 まだ第二次世界大戦の傷跡が人々の心に残っている時代。戦争から戻り牧師となった父、牧師となったことに不満を持つ母、吃音が激しく人前では一切喋らないが聡明な弟ジェイク、そして音楽の才能がありジュリアード音楽院に進学予定だった最愛の姉アリエル。 教会で、父の手足となり働く戦友のガス、巡査のドイル、母の昔の恋人エミールとその家族たち。 ニューブレーメンという小さな町に暮らす人々がフランクの目を通して、生き生きと、日々懸命に生きる。 そして物語の大きな柱は中盤に突如訪れる。最愛の姉アリエルが家に帰らない。懸命に捜索する家族。そしてフランクはミネソタリバーに浮かぶアリエルの発見者となる。事故なのか事件なのか。悲嘆に暮れる家族の元に、検死の結果として殺されたことが伝えられる。 誰が何の目的でアリエルを殺したのか。町のごろつきや差別に苦しむインディアンに容疑者として浮かび上がる。しかし、フランクがたどり着いた真相は驚くべきものであった・・・。 少年であるが故、行動の不自由さ、それを巧みに潜り抜けて真相に近づいていくストーリーは、間違いなく珠玉のミステリー小説である。 牧歌的な風景の中で起きた死の連鎖、そして少年が必死で背伸びして青年になっていく通過儀礼的残酷なひと夏の物語には引き込まれました。 この作者の作品「このやさしき台地」も読む予定。そのうちに。舞台は当然ミネソタでしょう。笑続きを読む
投稿日:2022.11.18
kemukemu
悲しい物語 でもミネソタ州の田舎町の風景と人々の情感がたっぷりで、荘厳な家族愛の映画を見終わったような、満足感と脱力感を感じる物語。 1961年夏 牧師の父と美しい母と姉に囲まれ、吃音障害を持つ弟…と13歳の主人公フランクが経験した特別なこの夏の出来事。 自身の心の底に住み着いた戦争の後遺症ゆえに、ひたすら“神”の道を進む父の言葉は、困難にあった町の人びとの心にいつも寄り添っていた。 自分の家族に起こった困難のとき、母はそんな夫に「せめて今日だけは“ありふれた祈り”にして……」とつぶやく。 キリスト教の赦しや救済について、疑い迷い罵るという感情が普通にあること、それでいて、それらをすべて俯瞰するように包み込み潜んでいる“神”の存在。 信仰心ですべてを解決していたら、この本は「つまらない祈り」になっていただろう。続きを読む
投稿日:2022.09.05
fukayanegi
このレビューはネタバレを含みます
いくつもの死に向き合う中で成長する兄弟。 とりわけひとつは最愛の姉の死。 姉の死にまつわるフーダニットの目くらましも悪くない。 また、そういったミステリ性をおいておいても、周囲の人々との繋がり、母の心身崩壊と再生を通じて過ぎて行く少年時代の特別時間の描き方がとても良いと感じた。 時間の軸を進め、関係者達のそれぞれの死でこの物語を締めくくっていくところもふさわしいクロージングだった。
投稿日:2019.08.20
winder
40年前の1961年の夏を当時13歳だった主人公が回想する。ミネソタ州ニューブレーメンに住まう主人公とその家族や、かかわりのある人々が構脚橋で起きた出来事とともに丹念に描かれ、時代と西部のテイストが楽…しめる。中盤からは・・・もうネタバレしちゃうので書かないけど、じっくり読ませる深い味わいがあり堪能しました。初クルーガー。他の作品もボチボチ読もっかな。続きを読む
投稿日:2018.12.25
国領町
2014年エドガー賞、 文春3位、このミス3位 1961年夏、ミネソタ州の田舎町 語り手 フランク・ドラム13歳 牧師の父親 ネイサン 芸術家肌の母親 ルース 音楽の才能に恵まれた姉 リーゼ 吃音症…の弟 ジェイク ジョン・ハートの『ラスト・チャイルド』『川は静かに流れ』に続いて『ありふれた祈り』を読んでみると エドガ―賞って長編推理小説だけどミステリー的な要素より 人間の内面を深く描いた優れたヒューマンドラマが評価されてるような印象。 後半、動き出してエピローグまで良かったけど 中盤にかけては退屈な感じ あんまり退屈な時間が長くてどうも エピローグがなかなか効いてましたが たどり着くまでは、いまいち感が強かったなぁ続きを読む
投稿日:2017.10.26
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