【感想】閉鎖病棟

帚木蓬生 / 新潮文庫
(408件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
83
143
129
25
3
  • 心揺さぶられる

     九州のとある精神科病院に治療入院している患者さんたちのお話です。
    恥ずかしい話ですが「閉鎖病棟」という言葉と意味を初めて知りました。
    入院形態にパターンがある事やどのような症状の人が入院するのかも知りました。
    著者が精神科医であると知り、裏打ちされたものがあるからこその物語の厚みだと感じました。

    それぞれが重い過去を背負い、家族から疎まれ拒まれても明るく生きようとしている所で、事件は起きます。痛々しさとやさしさが織り合わされ章ごとに淡々と話は進みます。
    私たちから見れば考えられない非日常がそこにありますが、そこで己の罪と生き方を問うていく文章に心を揺さぶられました。
    生れ落ちること、生きること、死ぬこと、自由である事を考えさせられる話でした。
    ★5でも足りない読後感。

    多くの方に読んでほしい1冊です。

     
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    投稿日:2015.06.22

  • 山本周五郎賞受賞は、伊達ではありません

     もう何も言うことはありません。 しばらくレビューを書くことさえ出来ませんでした。hazu-haya-yuさんの言うとおり、★5つでも足りないくらいです。
     この筆者の作品は、ずいぶん以前、国銅という作品を読んだことがあります。骨太のロマン溢れる小説を書かれる方だと、勝手に思っておりましたが、今回は、精神科医でもあるという筆者の面目躍如といったところでしょうか。
     平々凡々の生きてきた私には、想像もできないような世界が描かれています。また一方、凶悪犯罪が起きたときによく聞く、精神鑑定というコトバ。そして、その後、被疑者がどのような処置をされ、どう扱われているのかは、あまり公にはなりませんし、また、現在行われていることが正しい方法なのかは、私には良くわかりません。ただ、犯罪に到るまでの経緯も、人それぞれであり、これは難しい問題ですね。
     冒頭は、あれ?短篇連作なのかなと思いました。しかしそれは、患者達のそれぞれのプロフィール紹介だったのですね。様々な過去を持った人々がそこに描かれています。先天的に犯罪思考を持つ人なんて、存在しないのかもしれません。赤ちゃんの目は、どんな子でも澄んでいますもんね。
     一番最初のエピソードが、女子校生の堕胎から始まりますが、何も語られないので、淫行の末かもと思いきや、とんでもない事件の結果だったとは、最初は思いもよりませんでした。この島崎さんがヒロイン的役割を果たすわけですが、途中で消息不明になってしまいます。私は小説の筋を追いながらも、それが気になって気になって仕方ありませんでした。でも最後にまた、ちゃんと成長した姿を見せてくれるというのも、読者を最後まで引きつけますし、また、あの乱暴者の重宗が死ぬ間際、ホッとしたような顔を見せたという描写にも、心惹かれるものがありました。
     とにかく、読後の余韻に浸りたくて、しばらく他の小説に手を伸ばすことをためらうような作品は、久しぶりでありました。
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    投稿日:2016.10.30

ブクログレビュー

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  • ダイちゃん

    ダイちゃん

    1.著者;帚木氏は小説家。大学仏文科を卒業後、TBS勤務。2年後に退職し、医学部で学んだ。その後、精神科医に転身する一方で、執筆活動。「三たびの海峡」で吉川英治文学新人賞、「閉鎖病棟」で山本周五郎賞など、多数受賞。帚木氏は現役の精神科医であり、第一回医療小説大賞を受賞(医療や医療制度に対する興味を喚起する小説を顕彰)。
    2.本書;現役精神科医が、患者の視点から病院内部を赤裸々に描いた人間味ほとばしる物語。閉鎖病棟とは、精神科病院で、出入口が常時施錠され、自由に出入り出来ない病棟。ここを舞台に、患者が個別の事情を抱えながら、懸命に生きる姿を描く。死刑を免れた秀丸、性的虐待を受けて不登校になった島崎、・・・。「感涙を誘う結末が絶賛を浴びた」と評価された。24項の構成。山本周五郎賞受賞。
    3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
    (1)『1項』から「(女医)堕ろす場合は相手の人かお母さんと一緒に来なさい」。「(母親と女教師)学校で何があったの?誰かが意地悪するの?」。「(母親)学級費も一体何に使ったの」 『20項』から「(島崎)こぼれる涙をふきもせず、義父との関係を告白しました」。「(チュウ)大抵の事には驚かない私も、背筋が凍る思いがしました」 『14項』から「(チュウ)島崎さんが重宗に辱めを受けた」 『24項』から「(島崎)医院に住まわせてもらって、昼はそこで働いているの。夜は医師会の看護学校」
    ●感想⇒読書嗜好からすれば、この類の本は苦手です。案の定、最初から中学生が望まぬ妊娠し、中絶するという内容です。最近マスコミでもこうした事件がよく報道されます。一言でいえば、義父は非道極まる人間です。女性の人格を無視した行為には反吐が出ます。相談相手たるべき母親は、子供に寄添うどころか、無視と非難「学級費も一体何に使ったの」。義父は言うまでもなく糾弾されるべきですが、母親こそ再婚相手よりも子供を大切に考え、普段からもっと関心を持つべきでしょう。彼女は、その後も患者から辱めを受け、精神的にはボロボロになりました。それでも、立直る姿に感動です。一般的な事しか言えませんが、子供達が悲惨な被害者とならないように、周囲の大人達が気を配る社会になる事を節に願います。さらには、被害者が、誰にも相談出来ない状況に追い込まれるのだけは避けたいものです。社会全体の課題だと思うのです。
    (2)『10項』から「(秀丸)男ば作っておやじを死なせたのもあんた[母親]。死んだおやじの年金ば貰うてぬくぬくとしとるのもあんた」 『20項』から「戦争に傷ついて帰ってきた父親を裏切って、絶望させ、六歳も年下の、子持ちの男と暮らすという母親の生き方を、私[秀丸]が許せなかった」
    ●感想⇒「父親を裏切って、絶望させ、六歳も年下の、子持ちの男と暮らすという母親の生き方」は、いかなる事情があっても許しがたい行為です。夫が戦争に行って生死をさ迷っている中で、不倫にうつつをぬかすなど言語道断。人の道を外れた行為に弁解の余地はありません。結婚には、❝愛する人と人生を共に歩み、子供が出来れば、育てて社会に送り出す❞という義務があるのです。結婚してから、他の人を好きになったり、配偶者を一生を共にする人ではないと思う事もあるかも知れません。しかし、物事には順序があります。好きな人のもとにに行きたいのなら、離婚が先です。そして、子供がいれば、わが子の将来の幸せを考える事も重要です。
    (3)『21項』から「(医師)人の幸せなど簡単に他人が決められるものでもありませんよ。本人が進みたい方向に進めるというのが幸福でしょう。現在の塚本さんが決めた道というのは、退院して自分で生活したいという事ですから、それを応援してやるのが幸せに通じると思いますよ」。「(主任)これまで本当に兄さんの幸せについて考えた事がありますか」
    ●感想⇒「人の幸せ・・・本人が進みたい方向に進めるというのが幸福」。人間は人生の節目(進学・就職・結婚・・・)でどの道に行くか選択しなければなりません。その際は、取分け親は、あれこれと自分の考えを押付けがちです。ぐっと我慢して進路については、人生の先輩として、アドバイスに留めるべきです。本人が助けを求める事がなければ、自分で決めさせる事が良いと思います。失敗しても、勉強代と考え、救いの手を差し伸べる事が良いでしょう。一度だけの人生なのですから、悔いのない方向に進むとよいですね。「応援してやるのが幸せに通じる」は、至言です。
    4.まとめ;本書を読んだ動機は、山本周五郎賞受賞作のベストセラーであり、普段あまり関与しない世界を見たい、という事でした。精神病患者という言葉は差別用語に聞こえます。しかし、この本を読めば、そんな偏見を持ってはいけないと痛感します。島崎さんを凌辱した、重信(札付きの強盗殺人者)を殺害するという方法は良くないと思いつつ、「島崎さんがあんな風に元気に立ち直ったのは秀丸さんのお陰」を読むと、心のどこかで拍手する自分がいます。最後の文章「秀丸さん、決して死んじゃいかんよ、チュウさんは青い空を見上げて心の中で叫んだ」には不覚にも涙腺が緩みました。解説の「帚木作品は例外なく、弱い立場にある者やハンディを背負った者に対して、温かい眼差しを注ぐ」に納得です。(以上)
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    投稿日:2024.04.12

  • ゆみ

    ゆみ

    自分も精神疾患を持っていて、精神科のデイケアとか閉鎖病棟とか実際に訪れたことがあって、その時のことをさまざまと思い出した。何度も読みたい作品

    投稿日:2024.04.08

  •  arata

    arata

    淡々と話は進んでいくのだけど、キュウーッとゆっくりじわじわ胸を締め付けてくる話でした。
    冒頭はこの物語の中心人物たちが、病棟に来る前の話をオムニバスみたいに語り、急に現在の話になっています。「チュウさん」「昭八ちゃん」など呼び名が病棟内でのニックネームに。
    それがなんとなく気になるし、いちばん最初に書かれていた由紀の中絶も真相が気になりつつ、物語は患者らの過去を織り交ぜながらこれといった盛り上がりもなく、精神病棟の日常が過ぎているように感じました。

    ところが一転!由紀が巻き込まれた事件で一気にいろんなことが加速し、読み手の私の感情もざわつきが収まらず、最後は一気に読みました。

    もうこれ以上この人たちを辛くしないで終わってほしい...ッ

    「秀丸さん、退院したよ」とチュウさんが叫ぶシーンに涙がほろり。過去の病気も事件もすべて受け入れ、仲間として一緒に生活してきた時間が走馬灯のように巡ってくる感覚です。最後もドアが力強く開くような明るいラストでした。

    わりと最近映画化されたんだなーと思って予告編観ただけなのに涙腺崩壊しました。
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    投稿日:2024.03.10

  • yu-cnz

    yu-cnz

    精神病棟に入院している人々の生活
    外の世界と同じようにそこには社会がある
    退院したいと、外に出たいと思う

    自分は本当に病気なのか
    と聞かれ、答えに躓く

    確かに
    自分が普通なのか
    至って健全かどうか
    なんてはっきりと言えないもんなあ
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    投稿日:2024.02.14

  • ゆり

    ゆり

    統合失調症の患者を第三者目線ではなくて当事者目線で描いてるのが新鮮。でも、それによって精神科病棟の人も珍しい人ではなく、自分と同じようにひとりの人として登場人物を受け入れられたきがした。

    投稿日:2023.12.18

  • ゆきちょん

    ゆきちょん

    読んですぐは時代背景が予想より昔過ぎるのもあり、患者さん達にもなかなか入り込めず…でも読み進めるにつれて過去を知るにつれて、人を知るにつれて、応援したくなる気持ちが膨らむし、このまま穏やかに過ごして欲しいと願ってしまうほど入り込んでしまいました笑
    素敵な人たちばかり。優しい人たちばかり。
    チュウさんの詩も好きでした。
    最後の最後はほんとに泣けました。
    どうか、この物語のみんなが、穏やかな毎日を過ごせますようにと願ってしまうラストでした。
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    投稿日:2023.12.07

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