【感想】孤独な夜のココア

田辺聖子 / 新潮文庫
(167件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
32
59
56
6
1

ブクログレビュー

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  • けよし

    けよし

     読んだことないので、おじさんが20代女性視点の恋愛小説ってどうかなと思いましたが、読んだらすごく面白く、とてもよかったです。おじさんにも、おすすめします。
     解説の綿矢りささんも書かれていますが、主人公の女性たち、優しいし、どことなくサバサバした感じがして、どんな状況でも前向きです。その姿に癒されたり、励まされたりしました。
     田辺聖子さんの女性の心情表現については、よく分かりませんでしたが、読み始めると少し粘っこい文章だなと思いました。それもすぐに慣れ、スイスイ読めます。

     時代は昭和です。TVドラマの『不適切・・・』の昭和時代よりももうちょっと昔です。そのため、本の最後に編集部から「・・・今日の観点からみると差別的ととられかねない表現が散見・・・原文どおりとしました。」みたいな説明がつけられたりして。
     昭和を知らない世代には、女性を取り巻く社会情勢に違和感を感じるかもしれません。
     それでも私は、昭和感は薄いと思いました。それは、田辺聖子さんの表現が、「遠くから見て楽しんだ」とか「匂いをかいだ」みたいな主人公の行動や、その時の気持ちなんかが中心だからかな、と思いました。まあ、自分も昭和ですしね。

     この本は、原田ひ香さんの『図書館のお夜食』で田辺聖子さんのレシピが紹介されたり、覆面作家さんのお宅に全集があったりしたことから選びました。
     覆面作家さんの洗面所で『田辺聖子全集』が見つかったことに、とても違和感を感じていましたが、もしかしたら覆面作家さんは、お風呂なんかで田辺聖子さんの作品を読みながら孤独を癒し、生きる勇気をもらっていたのかもしれませんね。
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    投稿日:2024.03.18

  • あつし

    あつし

    女性が主人公の短編集
    恋をする女性の心模様が丁寧に描かれている

    人の心を丁寧に言語化したものを読む。ということが読書の一つの目的であると思っているので、本書はまさしく人の心を丁寧に言語化している

    投稿日:2024.03.02

  • Macomi55

    Macomi55

    「帰りみち、私は自分のために、赤に白い斑入りのチューリップを十本ばかり買った。やっぱり気持ちがふつうでなくて、浮き立っていたからかもしれない。華やぎ、というふうなのかもしれない。」
    12編の短編を集めたこの本の中で、「エイプリルフール」という短編のこの部分が一番好き。
    会社で、陽気で皆から愛されるがおっとりしていて抜けたところのある四歳年下のキヨちゃんと付き合っている和田さん。
    男と女の付き合いで、男が払うのが当たり前なんて思っていない。お金を大切にするしっかりもので、結婚するかどうか分からなかったら、当たり前のように男に甘えるということの出来ない28歳の和田さん(女性)。だけどそんな和田さんといると「一番落ち着く」というキヨちゃん。キヨちゃんは旧家の後継で、和田さんはそんな旧家の甘ったれのボンボンと結婚しようとは思ってなかった。がある日、キヨちゃんの出張中に病院へいくと「おめでた」であることが分かった。冒頭の抜粋部分はそのときの和田さんの描写。
    この短編集に収められた女性達は20代後半で、その時代(昭和50年代前半)としては結婚適齢期を超え、会社で残っている女性としては年が上のほうになり「甘えて可愛い」と思われる年代をとうに超え、自立し、仕事を面白いと思いながらこなしている女性達が多い。
    だけど、女性から見たら一見可愛くないが、頼れる、人の気持ちが分かる年上の女性を「落ち着く」「可愛らしい」と思ってくれる男性がいるようで。しかもその男性たちは大抵、わりとイケメンで楽しくて、モテモテで。
    ちょっと、女性側の願望も入っているかもしれない。でも、全くウソでもないと信じたい。頑張っている女性には、自立している女性には、人生の中で一瞬でも「華やぎ」があると信じたい。それが、冒頭に抜粋した部分に現れている。
    頑張って、自立して、そして他者にも思いやりのある女性は、きっと報われる。…けれど、永遠ではない。「エイプリルフール」はハッピーエンドで終わったが、バッドエンドで終わった話も多かった。
    姉御肌で、有能で、結婚しても仕事を辞めなくていいと言われて結婚し、家事と仕事を頑張って両立していたのに、結局いつも帰りの遅い女性に愛想をつかして旦那が出て行ったという話もある。

    別の年代の恋愛の話もある。
    「叔母さんの家の庭には、初夏から夏にかけていっぱい、赤いひなげしが咲いた。わたしはひなげしが大好きで、その季節、遊びに行くと、いつもどっさり、もらって帰るのだった。」
    「目に見えぬ神サマの手がシワシワの花弁を開いてゆく。とても薄いのに破れもせず、みーんな静かに開ききると、風に身をゆだねるようにしてそよぐのだった。そういう花がいくつもいくつも重なり、そして白い金網の向こうには、青い海があった。」

    これは「ひなげしの家」という短編の語り手の梨絵子の叔母さんの家の描写。叔母さんはバーを経営している38歳の独身女性で、神戸の海の見える家で42歳の画家である既婚男性と住んでいる(不倫)。叔母さんは小さくても自分の店を持っていて、どちらかというと同棲しているおじさんのほうがお金にだらしなく、ヒモっぽい。そんなだらしなさと「38歳と42歳の恋なんかいやらしい」ということが親戚からは嫌われている。
    けれど二人は遅く知り合ったからこそ、二人の時間を大切にしていた。ひなげしの花のように鮮やかに柔らかく。そして、本当に二人の時間はひなげしの花の花びらのように薄くて、風に吹かれて散ってしまうものだと分かる。

    平凡に頑張っている人達の中にふと訪れる華やいだ温かな恋愛。永遠でもないし、両思いでも男女間で思いが異なる。でもそんな一瞬を優しく飾ってくれる田辺聖子さんの文章好きです。
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    投稿日:2024.02.25

  • まる

    まる

    人生って、恋愛ってこんな瞬間ってあるよね、を切り取ったみたいな短編集。時代的におそらくもう、こんな背景は描かれない。

    投稿日:2024.02.21

  • amy

    amy

    田辺聖子の恋愛小説短編集。やっぱり執筆当時時代背景もあってすごくリッチ。
    なんだろうな、大金持ちがばんばん出てくるわけじゃないんだけど、独身の女性の生活ぶりや文化とかに対する感覚が、こう、豊か~!って感じ。
    たったの1行で展開が急転直下で「え、え、え…?」ってなるところがあって、明るい雰囲気のまま気がついたら真っ暗になってた、みたいな話もあり、たった1行で数文字で状況を一変させるなんて小説という装置をわかりすぎている。
    でもめちゃくちゃ自我が強くて傲慢で無邪気で愛さずにいられない女性がめっちゃ出てきてよかった。さすが田辺聖子…
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    投稿日:2024.01.29

  • planets13

    planets13

    人を好きになるという、甘さよりも、切なさ・ほろ苦さが静かに包む感じ。とくに最後の一編が本当にココアのように温めてくれる気がする。

    投稿日:2023.12.24

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