【感想】玉村豊男 パリ 1968-2010

玉村豊男 / 東京書籍
(2件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • ふうこ

    ふうこ

    筆者が初めてパリを訪れてから現在まで、パリの街が変わる様子を思い出と共に書いています。
    時折挟まれる自筆の水彩画がとても綺麗!
    写真より雰囲気があって素敵です。

    学生時代に日本の商社マンの通訳をした話、ギャルソンのパトリックの話が印象深いです。続きを読む

    投稿日:2016.02.27

  • wabuta

    wabuta

     また買ってしまった。
     洒落た水彩画の表紙が目に留まってつい。もうパリ関連本は50冊を超えている。玉村さんの本も二冊目だし。
     しかし、こういう「気になる」本は読んでみると必ず新たな発見やナルホドが必ずある。この一冊もやはりそうだった。
     玉村さんは40年ばかり前、東大在学中にパリに留学した。以来毎年パリ東京間を行き来するような生活を送り、現在では著作者としても時々テレビに出る事情通としてもそこそこ著名で、信州ににワイナリーを、静岡にミュージアムを所有しているという、羨ましい限りの経歴の持ち主だ。
     若かりし頃単身パリに渡った最初の晩、予約していたホテルに理不尽な門前払いを喰らい、カフェではクモの巣の張ったブドウを出され、ようやく泊まれたホテルのベッドで文字どおり情けなさに「泣き寝入り」したくだりなどは、華麗なイメージの羨ましいオジサンも最初はこうだったのか、と思えてなんかいい感じである。
     玉村さんが世に知られるきっかけは、37年前に著した『パリ・旅の雑学ノート』がベストセラーになったからだが、この一冊は未だにパリの街案内本としてはいささかも色あせていない。特に半分以上のページをパリのカフェとは何か、そのカフェを知って楽しむにはという記述にさかれている。人さまはあきれるパリかぶれ(パリを偏愛し、とくにパリのカフェを盲目的に愛するという意味で)の私にとっては極めて正当な書き方であった。また、今回この『パリ 1968-2010』に寄せられた氏自身の手になる40枚余りのスケッチもいい。どこか回想の中の鮮明な光景のようであり、逆に今見ている幻想の様でもある。それは、書名が明示するように、今現在の街と人とを眺めながら42年間に移りかわり、消えていった街と人とについて回想する記述と見事に重なりあっている。

     今、私は1968年という年号に注目する。
     パリに5月革命が燃え上がり、東京に全共闘運動が勃発した学生運動の年だ。同時に中国では文化大革命が巻き起こり、ミラノの須賀敦子はこの頃から「コルシア書店」は過激な論争の渦に巻き込まれていったと語った、まさしくその時代、その年である。
     当時まだ小学生だった私は、そんな時代の空気を吸ったという実感には乏しい。2011年2月の現在ただ今、チュニジアで巻き起こったIT政変の波が、次はエジプト、今度はリビアと燎原の火のごとく拡がるのを日々のニュースで唖然と眺めている。全く同様に68年の私は、東大から始まってあっちの大学、こんどはこっちの大学と拡がっていく学生運動の様子をテレビニュースでただぼんやり見ていた。「馬鹿どもが」と親父がつぶやくのを脇目で見ながら。
     だから、68年に渡仏した玉村氏が閉鎖されたパリ大学に入構できず、周辺のカフェで時間をつぶすような過ごし方をするうち、大声で論議している学生に頷いたり声をかけられたりする、いつのまにやら活動学生の一員のようになっていくあたりの回想は生々しい。当時のパリや東京の学生やミラノの「コルシア書店」の面々が吸っていた時代の空気がありありと伝わってくる。

     先日亡くなった立松和平は生涯栃木弁の抜けない人だったが、東京初体験の回想で、「早稲田の食堂にはいったのよ、一番安いメニューがオニオン・スライスでね。で、それを注文したら出てきたのは薄く切った玉ねぎだけなのよ。ごはんが出てこないのよ、いつまで待っても。オニオンス“ライス”だと思ってたのよね、だから待ってたのよ」と語っていた。
     玉木氏のパリ初体験回想でも、初日ホテルで泣き寝入りした翌日、今度は食堂でオニオン・スープを注文しても言葉が通じなくて往生する。私は栃木弁の立松氏の回想記を思い出し苦笑する。と同時に、自分では経験したこともなくて想像もできない海外留学で出会うカルチャーショックも、田舎もんが東京で味わう赤っ恥も根は一緒なのかもと思えてわかった気になる。

     パリを描いたお洒落な水彩画に目が留まって買ってしまった一冊だったが、結局、60年代末の時代の空気を知るという、思わぬ収穫がやっぱりあった(これで少しは「コルシア書店」の時代背景もわかった)。

     それにしても、ホテルのフロントではなめられ、オニオンをフラン語でキチンと話せなかった小僧っ子が、歳月を経てパリのあちらこちらに馴染みの店と馴染みの友を持つムシュウ・タマムラに成長し、初めて入ったどんくさい客お断りの一流レストランで、音信不通だった何十年来の“友”と思わぬ再会をし、今は副支配人となって入店待ち客をさばいていた友と、がっちり抱擁しあう場面など、パリ偏愛者の私は感動に震えて涙まで流してしまった。
     ただ、そういうのに憧れて、今更「アン・エクスプレス・シブプレ」とか覚え始めても、私なんかがムッシューになれるワケじゃないですけど。
    続きを読む

    投稿日:2011.02.26

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