【感想】さようなら、オレンジ

岩城けい / 筑摩書房
(204件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
43
91
39
8
1
  • おとぎ話ではない、全力で生きていこうとしている人々を描いた物語

    強く前向きに生きていこう、と思わされる小説でした。

    母国を離れてオーストラリアの田舎町に暮らす二人の女性。彼女達を守り慰めてくれるはずの、慣れ親しんだ母国語、友達や見慣れた風景はここには無い。ぶつかって傷つきながら進んでいく姿はすごくリアルで、胸が痛くなります。自分にとって譲れないものは何だろう?生きていくために本当に必要なものは何だろう?という根本的な問いかけが、二人の女性を通して伝わってきます。これからもきっと、何度か読み返すと思います。

    「自分とは関係ない、海外という特殊な環境にいる人たちの話」とは感じませんでした。日本が大好きで、日本にずっと住みたいという人にも是非読んでほしいです。
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    投稿日:2014.01.17

  • 遠く離れた異国のサリマを身近に感じる

    この物語には2人の女性が登場します。
    故国の紛争から逃れてオーストラリアに流れ着いたサリマ。
    同じく夫の仕事のために夢をあきらめて渡豪してきたサユリ。
    生まれも育ちも、背景にある文化も全く異なる2人の人生が、英語教室での出会いをきっかけに交差します。

    全く馴染みのない世界に最初は戸惑い、読みづらさを感じましたが、逃げ場のない生活の中で力強くひたむきに生きる彼女たちに、次第に感情移入していきました。
    特にサリマの息子が母親に対する態度を変えていく場面には、胸に迫るものがありました。

    最初は遠かったサリマの存在が、読後は身近に感じられるはず。
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    投稿日:2014.08.02

  • タイトルや表紙から、海外を舞台にしたほろ苦い恋愛小説を想像していたのだけれども、いい意味で裏切られた。

    第150回芥川賞候補作。タイトルや表紙から、海外を舞台にしたほろ苦い恋愛小説を想像していたのだけれども、いい意味で裏切られた。主人公は二人。アフリカ移民の女性と日本からやってきた女性。アフリカからやってきた彼女は、望んで故国を離れたわけではない。争乱の果てに両親と弟たちを失い、やむを得ず南半球の大陸へと流れた。彼女には夫と二人の息子がいるが、夫のほうはしばらくしてのち、行方をくらましてしまう。自分を受け入れてくれた国は善意に満ちているけれど、マジョリティとマイノリティとのどうしようもない断絶がある。右も左もわからない、言葉さえ満足に通じない土地で、彼女は生きていかざるを得ない。深い孤独のなかで。

    一方、ここにもう一人の女性がいる。彼女は夫(言語学者のようだ)の仕事の都合でここにやってきた。もともと彼女自身も大学に籍をおいていたが、現在は生まれたばかりの娘の育児に専念している。だが彼女にはほんとうにやりたいことが別にある。それは、「物語」を書くこと。けれども、異国での生活は案外と厳しく、生活に追われるうちに妊娠・出産してしまった。夫のほうはどこか能天気で、家族を思いやっているようにはみえるけども、どちらかといえば自分の仕事のほうを優先している。彼女もまた、深い孤独のなかにいる。

    そんなふたりの人生が職業訓練学校の英語教室で交わる。だが作者はここでちょっとした「仕掛け」を試みた。アフリカ移民の女性と日本人女性、彼女たちそれぞれの視点から物語を語ることにしたのだ。そのため、日本人女性のパートは、彼女の恩師への書簡というかたちでつづられる。あるいは、良いニュースと悪いニュースとがEメールのかたちで(しかも英文ママで)、ときおり挿入される。マイノリティのなかにおいても、彼らの関係性には、当然のことながら微妙な温度差がある。アフリカ移民から見れば、日本人女性はウチに籠って神経を尖らせている「ハリネズミ」であるし、逆に日本人女性から見れば、アフリカ移民の彼女は、気の毒になるほどに言語の素養がない。視点を分けることで、彼女たちの姿がくっきりと浮かびあがる。

    知的な女性が自身の孤独を手紙につづる話といえば、クッツェーの『鉄の時代』がある。日本人女性の書簡体の部分は、どこか『鉄の時代』を彷彿とさせるものがある。そんなことを考えながら読み進めていったら、彼女が『鉄の時代』の主人公を「清潔すぎる」と評する場面が出てきて驚いた。クッツェーの描く主人公は、老女であろうが、癌に侵されていようが、所詮はマジョリティであるのだ。やはりこの物語の奥底には、「差別」というものが横たわっていて、そして欧米諸国ではマイノリティである日本人の苛立ちのようなものが表現されている。しかしマイノリティ同士がゆっくりとお互いを理解し合い、肩を寄せ合うことで、そこに居心地の良いコミュニティが生まれる可能性もある。作者はそんな希望を、この物語に託したかったのではないだろうか。

    この物語には最後にもう一つ大きな「仕掛け」が施してあって、おそらくはその「仕掛け」の是非が選考会での議論の主題となることだろう。つまりはそのトリッキーさが、芥川賞にふさわしいかどうかということだが、個人的には、たとえ受賞を逃したとしても、この作品の評価が下がることはないと考える。
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    投稿日:2014.01.21

  • 強く胸を揺さぶられた物語でした

    言葉さえ不自由な異国の地で片寄せあい生きる二人の女性を描いた話。

    と私は思う事にします


    作者がとった手法に賛否が分かれるかも知れませんが
    手法がどうあれ読者の心に強く訴えるものを感じさせる物語だと思います続きを読む

    投稿日:2014.01.28

  • 英語という鏡

    ごく普通に読んで十分に面白い小説だが、自分は「英語」を重要なモチーフとした物語として読んでしまった。
    アフリカ難民の「サリマ」と日本人研究者の「ハリネズミ」。生まれも育ちも全く異なる二人の女性が、オーストラリアの英語教室で出逢う。
    意思疎通のための「共通語」という単純な話ではない。サリマはハリネズミの英語を通じて彼女を知る、逆も然り。「英語という鏡」に写った相手とのコミュニケーションにおいては、誤解も勘違いもあり、もどかしさが常につきまとう。
    サリマとハリネズミと章ごとに話者を交代させる手法により、このもどかしさが、痛々しいまでに読者に伝わってくる。
    また、二人の女性はそれぞれ「家族」に関する悲劇を経験するのだが、それを英語で語ることが、悲劇を克服する契機となる。自らの母語と文化、それらによって形作られてきた自分自身を「英語という鏡」を通じて見つめ直すことにより、傷ついた心がパワーを取り戻す。
    英語を学び始めた中高生にこそ読んでほしい。
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    投稿日:2014.03.03

  • きれいな文章です

    海外に住むということ、
    様々な理由があり、
    文化や言語も異なり、孤独感も募ることもあるでしょう。
    特に女性目線で描かれており、
    仕事をもつ男性とは違う、社会から切り離される
    困難も際立っています。
    しいテーマだと思うのですが、
    正面から問題をとりあげ、
    友情や希望を取り込んで
    丁寧に文章にされていると感じました。
    普段日本では当たり前の学ぶこと、
    言葉の大切さを再確認させてくれる本でした。

    描写がとても切なく綺麗でした。
    続きを読む

    投稿日:2014.04.30

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ブクログレビュー

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  • もん

    もん

    他の方の感想を読んで初めてオーストラリアに逃げてきた、と知った。読んでる天気予報がスカンジナビアンというので、北欧へ移民したのかと思っていた…

    アフリカへの勝手な偏見から、始まりの文章で血のついた作業着、という表現で最悪な仕事かと、これまた勘違い…日本人の移住者のさおりの手紙で段々と明かされていく。
    何人かの女性の生き様を、第二言語に悩むことを、また教育を受けたことのない人とで会った日本人女性の反応を、国力の違いをありのまま表現しているのはとてもよかった。

    短いながらに深い。
    薄く、文字も大きい本なのだが、内容は深く読ませる。とてもよかった。小学生の推薦図書にしたい一冊だ。
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    投稿日:2024.03.28

  • 57☆

    57☆

    移民の国オーストラリアでも白人優位社会なんだろうか?アフリカ難民も日本人も差別を受けながら暮らしている。サリマは学ぶ機会がなく母語さえも不十分な状態で第二言語を学んでいる。その困難さがよくわかった。表現する言語を持たなくても感じることはたくさんある。少ない言葉、稚拙な表現でも伝わるものがある。日本に暮らす技能実習生や難民の人と接するとき、この本を思い出したい。続きを読む

    投稿日:2024.02.13

  • Yasuyuki Suzuki

    Yasuyuki Suzuki

    サリマが難民になって異国に来て言葉の壁を克服する過程が感動的でした。ハリネズミこと日本人が子供を亡くすシーンは悲しかったです。サリマの仕事を覚えて行き英語学校での頑張りは読んでいて応援したくなりました
    異色の感動作もあなたもぜひ読んでみてください。
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    投稿日:2023.12.04

  • Anony

    Anony

    感想
    アイデンティティを凝縮した言語。手放すことがあまりにも容易な現代社会。それでもあえて固執する。ずっと消えない灯火を灯し続ける。

    投稿日:2023.05.01

  • todo23

    todo23

    生まれたばかりの女の子の母親であり、大学で働く夫を持ち、、自らも高等教育を受けてオーストラリアに暮らす日本人女性。アフリカで戦争に巻き込まれ命からがら逃げ出し、難民としてオーストラリアに移住。夫は蒸発し二人の子を男の子を育てる黒人女性。同じ英会話教室に通う全く異質な二人の女性が主人公の話です。
    それぞれの生き様を描きながら、合間に書簡体を挟み込み、重層的に話が進みます。本音の話、最初は話の筋が見えずかなり苦戦したのですが、途中からはグイグイ引き込まれます。これが岩城さんのデビュー作のはずですが、そんなことを全く感じさせない見事な構成力です。わずか170頁。余白も大きな本ですが、充実度が高く、重たい長編小説を読んだような気がします。
    岩城さんは長くオーストラリアで生活されている作家さんで、先日読んだ『サウンド・ポスト』でもこの作品でも、母語(日本語)と第二言語(英語)の葛藤が大きなテーマなのですが、どうも岩城さんの文体は、翻訳書を、あるいは英語で考え日本語で書た文章の様な感じがします。それも味なのでしょうが、私はちょっと苦手です。
    全体を覆うどこか重苦しい雰囲気は岩城さんの持ち味なのでしょうね。それでも二人の女性がしっかりと前を向いて進んでいくエンディングは心地良く。
    続きを読む

    投稿日:2023.01.30

  • quatorze

    quatorze

    このレビューはネタバレを含みます

    それでもイタンジたちは強く生きていく。

    アフリカから難民として渡ってきたサリマ。夫と共に日本から渡ってきたサユリ。2人の女性を軸として、オーストラリアの田舎町で生きていこうとする異邦人の生き様を描いた小説。

    第二言語という異国で生活するための言葉を獲得したサリマだが、彼女の底にある強さは今までの人生と息子への思いにあった。決して奪われないものがある。それは自分の人生を肯定するための尊厳。日が沈んでまた新しい日が来るたびに、新しい自分へと生まれ変わり、階段を登っていくのだという前向きな強さ。

    サリマからハリネズミと呼ばれるサユリは、幼い娘を事故で亡くす。大学で学び、書くことを手放そうとした彼女に、サリマは「違う」と伝え続ける。結局彼女は書き続けることを選んだ。様々な事情に振り回される彼女も奪われないものを見つけた。それが母語で書くことだった。

    言語は思考を形作る。コミュニケーションの手段となる。マイノリティつまり「イタンジ」である登場人物たちが、自分の中にある奪われないエネルギーを見つけ、立ち上がっていく姿は美しい。まるで鮮やかなオレンジの夕陽のように感じた。

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    投稿日:2023.01.29

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