【感想】地域再生の経済学 豊かさを問い直す

神野直彦 / 中公新書
(20件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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ブクログレビュー

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  • NAO.A

    NAO.A

    このレビューはネタバレを含みます

    財政学が専門の教授の本ということで、財政学色の強い本だった。
    財政学についての、教養はもちろん、基礎的な知識や概念を押さえることもでき、さらに財政学の重要性をわかった上で、日本において、どのように地域再生をすべきかを学ぶことができた。
    財政力とは、財政需要と課税力で決まること、地方自治体は、出入りが自由なために、所得再分配を実施するのは、出入りが不自由な国家(中央政府)となること、などが財政学の基本的な知識として役に立った。
    とりわけ、「公共財を民営化すれば、市場で供給することになる。つまり、そのサービスは購買力に応じて分配されることになってしまう。したがって、民営化するか否かは、それが欲望かニーズかが決定の基準となる。」(158頁より抜粋)
    これは、公共団体がいかに市民に寄り添うべきかを明確に示しているとともに、公共財、民営化が如何なるものかを表すまとまった明快な文章だと思う。
    地域の自然(環境)と文化の再生を軸にした、ボトムアップ型の地域社会再生の成功例として、フランスのストラスブールや、スペインのビルバオ、スウェーデン、高知市、札幌市、掛川市(静岡県)、湯布院町(大分県)などを取り上げており、その有用性と可能性を知った。上の成功例の都市に、ぜひこの本の内容を踏まえて、足を運びたいと思う。特に、ストラスブールの最新鋭の路面電車(LRT)は目を引くもので、軌道は芝生と共にいきている。ストラスブールでは、鉄道でさえ、緑と寄り添っているのだ。
    また、筆者は、地域再生は地方自治体が財政の自己決定権を持つ重要性を説いており、集権的分散システムから分権的分散システムに改めるべきだとも主張している。わかりやすい表現だ。
    地域で生活を完結できないから、地域は廃退していくとも書いていたが、本当にその通りだ。
    ヨーロッパの元工業都市における、地域再生の過程は、日本でも応用ができる現実的かつ健全なものであった。
    そして、ヨーロッパの地域再生、もっと言うなら、本書において、はずせないキーワードには、「サステイナブル・シティ」というものがあった。ヨーロッパでは、持続可能な地域社会は、市場メカニズムに依存しない、(自己決定権を持った)市民の共同経済によって創ろうとしているのだ。そこでは、「補完性の原理」も徹底されている。それは、「個人ができないことは家族が、家族ができないことは市町村が、市町村ができないことは県が、県ができないことは国が、国ができないことはEU(欧州連合)が」(本書107頁より抜粋)というものである。
    つまり、「公的部門が担うべき責務は、原則として、最も市民に身近な公共団体が優先的にこれを執行するものとする」(本書107頁より抜粋)のだ。実際に、ヨーロッパで地域再生が成功している地域の自治体は、財政の自己決定権を持つ。住民に一番近い団体が、ニーズに答えてくれるため、住民の福祉水準も高い。
    色々、書いたが、細かい理屈よりも、ヨーロッパの都市に習って、地域の環境に配慮をし、もっと地域の文化や、自然といった、地域のアイデンティティー(自己同一性)を振興して行かなければ、愛する地元は死んでしまうということをよく考えてみないといけないと思う。
    地域再生に関心がある人には、ぜひ読んで頂きたい。

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    投稿日:2019.02.10

  • reinou

    reinou

    このレビューはネタバレを含みます

    2002年刊行。◆非市場経済分野を主たる分析対象とする財政学。同分野のうち地域共同体の過去の道行と現状、将来像を提示する。◇各国の実例、日本の例をふんだんに示しているのは良。ただ、将来像が、理想主義的・桃源郷的な感はある。もちろん、こちらに税政、税金投入の対社会効等の基礎知識が足りないせいもあるが…。◆著者は東京大学大学院経済学研究科教授。

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    投稿日:2017.01.20

  • tamurakoichiro

    tamurakoichiro

    ※メモ

    【きっかけ】
    地域経済について積読だったものに着手。

    【概要】
    地域経済の問題と財政構造について。

    【感想】
    古くて狭い。
    かつ、ヨーロッパ礼賛信仰の域を出られず。

    ネット社会の進展の大幅な進歩があったことは、出版時と現状の違いではある。
    それは織り込まれていないとしても、官・政を変革の責任者として置いている点は、今の目から見ると果たしてそれでどうなのという印象になる。
    空間としての都市については、付け焼刃で論じている印象をぬぐえず。

    地方財政の構造と中央との関係の入門にはなった。

    時代的に、反郵政民営化の論調を感じる。
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    投稿日:2016.09.04

  • おだヒロ

    おだヒロ

    正直言って、特に税の部分は不得手であるので、難しかった。
    が、今の地方創生に通ずる。ていうか、そのものであった。
    10年以上も前に書かれている。さすがは、神野先生だ。

    投稿日:2015.09.18

  • akiyoshi0411

    akiyoshi0411

    日本の地域がどうして縮小していったか、東京、大阪名古屋の大都市にどうして人口が集中するのか。

    その経緯を経済学の観点からまとめた一冊。

    少し難しくて、あんまりインプットできなかったけれど、、

    都市には人口が集まるけれど、生活機能はないので、ホームレスや生活保護者など、生活に困窮する人が多いらしい。続きを読む

    投稿日:2015.07.03

  • k-masahiro9

    k-masahiro9

    このレビューはネタバレを含みます

    財政とは市民が支配する共同の家計である。財政では、市民の共同負担によって、市民の共同事業が実施されていく。
    工業によって荒廃した都市を、人間の生活する「場」として再生しようとするヨーロッパの地域再生では、財政による市民の共同事業として、自然環境の再生が最優先される。つまり、工業によって汚染された大気、水、土壌を蘇らせることが、市民の共同事業の中心テーマとなる。(p.10)

    そのため工業社会では、経済の本質が蔽い隠されてしまう。繰り返せば、経済とは人間が自然に働きかける行為である。ところが、工業社会では人間も自然も排除しようとする方向に動くのである。(p.38)

    財政学的アプローチを現在の視点から学び直せば、非市場経済の重要性を忘れてはならないということである。確かに、市場経済を拡大させ、大量生産・大量消費を実現させ、飢餓的貧困という災禍に苦悩することは解消した。しかし、それも強制的結合にもとづく共同経済、つまり財政が福祉国家として機能することを前提としていたのである。(p.50)

    福祉国家は中央集権国家である。人間の生活が地域社会における人間の絆で支えられているのではなく、遠い政府の参加なき民主主義によって保障されることになる。
    そのため地域社会への帰属意識は薄らいでしまう。地域社会での自己の存在をアイデンティファイすることもできなくなる。地域社会同士の連帯の上に、国民国家が統治するという姿は見えなくなる。(p.60)

    地域社会には人間の暮らしがあり、伝統的文化がある。それぞれの地域社会には食の文化があり、食の文化にもとづく食生活は地域社会の食の生産と結びついている。(p.83)

    人間の育成はあ共同体の相互扶助として実施されてきた。というのも、人間の育成そのものが、人間が社会を組織する目的だからである。人間の育成は生産のために行われるわけではない。その逆である。人間を育成していくために、人間は生産を行っている。しかし、人間の社会の目的である人間の育成が、生産の前提条件となり、社会の構成員が共同作業で担わざるをえなくなる。(p.147)

    行政改革といえば、内部効率性のみを追求しがちである。しかし、地方財政では外部効率性のほうが内部効率性よりも重要である。外部効率性とは地域社会のニーズに合っているかどうかという効率性である。ニーズに合っていない公共サービスをいかに安い価格で生産しようとも、それは無駄であり、非効率である。(p.158)

    里山の保護は自然環境の保護にとどまらない。自然と共生してきた日本の文化の保護でもある。つまり、里山条例は「潤いと安らぎのある都市環境を形成」する目的で、「人と自然の豊かな触れ合いを保持する」だけでなく、人と人との触れ合いの保持ともいうべき「歴史および文化を伝承するため」でもある。(p.174)

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    投稿日:2014.08.25

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