【感想】書いて稼ぐ技術

永江朗 / 平凡社新書
(26件のレビュー)

総合評価:

平均 3.4
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5
7
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ブクログレビュー

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  • yonogrit

    yonogrit

    314

    私の知っている優秀な編集者たちには、古書店と図書館をうまく使うという共通点があります。わざわざそのために仕事場を神田神保町に移した、なんていう人もいるくらい。古書店は「本を安く買えるところ」というイメージがあるかもしれませんが、 店の性格のひとつでしかありません。古書店には古い本も新しい本も、いわば時空を超えて本が並びます。昨日出たばかりの本も並べば、1200年あまり前につくられた百万塔陀羅尼まで売っています。

    図書館を積極的に利用しましょう。図書館がいいのは、辞書などレファレンス本しているところです。いまどき大百科事典なんて図書館に行かなきゃ見られません。少し 規模の大きい図書館なら、複数の大百科事典があります。同じ項目を読み比べると、けっこう違いがあります。暇な日は、ぼんやりテレビを見たりネットに夢中になってむだな時間をつぶしていないで、近所の図書館に行ってみてください。何の目的もなく書架を端から順番に見ていく。本の背表紙を読んでいくだけでも、いろんなことを思いつくはずです。 ふだんは足を踏み入れない児童書コーナーに行くのもいいでしょう。衣食住の歴史などを わかりやすく図解した絵本や図鑑のたぐいがたくさんあります。閲覧室に持っていってぱらぱらめくってもいいし、借り出してもいい。

    資料の基本は本です。どんな本をどう読むかによって、フリーライターの仕事の質は決 まります。趣味で読むのではありませんから、好きな本だけ読んでいればいいというものもない。ときには苦手なジャンルや嫌いな人の本も読まなければなりません。 退屈でも、我慢して読むしかありません。 フリーライターとして仕事をするときは、同じテーマの同じような本を大量に読むことをおすすめします。同じような本を何冊も読むのはムダなことのように思えるかもしれませんが、ムダなようなことを敢えてすることによって見えてくるものもあります。 同じテーマの本をたくさん読んでいると、そのテーマに関する本質が見えてきます。私はこの現象を「球が止まって見える」と呼んでいます。松井やイチローにとってピッチャ ーの投げたボールが止まって見えるように、そのテーマの本質が見えてくるのです。 似たような本であっても、著者が違えば主張は少しずつ違っています。違っているはず です、類書がたくさんある中で、著者は自分の主張がいかに他と違っているかを訴えようとしますから。少しずつ違っているんだけれども、共通しているところもたくさんあります。 その共通しているところが、同じテーマの本をたくさん読むことによってだんだん、 絞られてきます。そのテーマについての最大公約数的なもの、それが「本当のこと」と 言っていいでしょう。 「本当のこと」は陳腐なものです。だいたい私たちの常識にかなうもの。一見、常識に反しているようでも、よく考えると納得できるもの。

    「本当のこと」が見えてくると、「嘘のこと」も見えてきます。財テクでいうなら「収入 を増やして支出を減らす」ということから外れた突飛な提言は、見た目は派手でもどこか 嘘くさい。陳腐でないもの、凡庸でないものは、どこかに無理があります。ネタとしては それでいいのかもしれませんが、あくまでそれはネタです。 もしもそのテーマに関する本を一冊しか読まなかったとしたら、それはギャンブルみた いなものです。それがとてもすぐれた内容の本だったら当たりです。その一冊から得られ るものは大きいでしょう。しかし、それが奇をてらっただけのトンデモ本だったら、間違った知識を得ることになります。間違った知識を元にしたのでは、間違った原稿しか書けません。その本が当たりかハズレかは、本をたくさん読んでみないとわかりません。たくさん読むうちに、その本を相対的に評価できるようになります。

    私は小説を仕事で読むとき、登場人物の一覧表をつくることがあります。といってもき ちんとした一覧表ではなく、新しい人物が現われるたびに紙に名前をメモしていくだけで すが。小説は人間関係を把握すればだいたい全体像がつかめます。登場人物の名前以外に、 地名など固有名詞を紙に書いていくこともあります。固有名詞は小説を読むときの鍵にな ります。哲学者の鷲田清一さんに、海外文学を読むときのコッを教えてもらいました。登場人物 の名前を暗記することだそうです。鷲田さんはドストエフスキーの小説に出てくる人物の 名前をずらずらっと諸んじて見せました。登場人物の名前を覚えてしまうと、ストーリー も、印象的な文章も、記憶することができます。

    出版業界は学歴や階層からいってもかなり特殊な、偏った世界です。学歴は圧倒的に四年制大学卒業以上が多い。高卒の人や短大卒、専門学校卒の人もいますが、数からいうと です。また高卒や短大卒、専門学校卒で出版業界に入った人も、日ごろから読書によって四大卒以上の知識を身につけている人が多い。

    結婚もリスク分散のひとつです。昔から、ひとりでは食べられなくても、二人ならなん とかなる、といいます。ひとりで年収一五〇万円の生活はつらいけど、二人合わせて三〇 〇万円ならなんとかなるかも。結婚しても生活費は倍になりません。多少広いところに移 るとしても家賃は倍にならないだろうし、食費も少し増える程度でおさまってしまいます。 光熱費もあまり変わらない。 貧乏だから結婚できないといいますが、貧乏な人は結婚したほうがいいです。独身のひ とり暮らしなら失業すると収入ゼロ。結婚したら、片方が失業してももう一方が家計を支 えられます。収入ゼロではないので、仕事探しもうまくやれるでしょう。

    ライターは常に新しいジャンルを開拓していかなければ生き残っていけません。 生物学者の福岡伸一さんの著作に『動的均衡』というエッセイがあります。生物は食物 などのかたちでたえず外部を取り込み、自分の細胞をどんどん入れ替えています。それが 生命という現象です。見かけは同じでも、常に変わっている。変わらなければ死んでしま いますし、死んでしまったものは変わりません。変わらずにいて死んでしまったものは、 腐って消えていくだけです。しょうが、均衡を保つためには動的でなければならない。あらゆる職業にいえることで ライターもまったく同じです。 こういうと大げさに聞こえるかもしれませんが、ようするにいろいろやってみる。じたばたしてみる。
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    投稿日:2023.07.31

  • morinokazedayori

    morinokazedayori

    著者はフリーライター。ライターのなりかた、生計のたてかた、取材の仕方など、ライターという職業のよいところ大変なところがよく分かる。安定した生活をしていくためのリスク対策は、ライターでなくても参考になるところが大きい。出版業界の諸事情も面白い。さらりとした文体で、とても読みやすかった。続きを読む

    投稿日:2022.05.22

  • がんちゃん

    がんちゃん

    メディアはこれからも技術や世相によりカタチは変われど「好奇心代行業」としての役割は求められる。

    “書く”ということに意識的になろうとして借りた。
    硬軟織り交ぜつつ、わかりやすさと面白さを意識してると思うが、フリーライターだけあってのらりくらり感が出てる。
    自分がフリーライターになれるきにはならないが、なるかもしれないと思わせる、不思議さはある。

    駒込図書館で借りる
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    投稿日:2021.01.24

  • dai-4

    dai-4

    書いて稼ぐ。蠱惑的。でも躊躇してしまう。それを払拭するためのヒント集。媒体は増えて、手軽になって、何らかの形で発信する人数はうなぎのぼり。だからといって、簡単になったとは言い切れないんじゃないか、と。そんな思いにとらわれながら、本書を読んでもなかなか一歩が踏み出せない自分がいるのです。続きを読む

    投稿日:2019.06.10

  • ykikuchi

    ykikuchi

    ライターとして生計をたててきた著者の経験を紹介している。ライターとして生きていくための視点などは、すべてのビジネスにもあてはまる。人とは違う切り口で対象を見つめて、編集していくことなど、ビジネスマンにも必要な心構えだ。続きを読む

    投稿日:2018.10.20

  • nekotuna

    nekotuna

    amazonのレビューでは厳しい事が書かれているが、自分はこの本は十分に評価できる。

    批判者は本を一冊読んだぐらいでライター(それも売れっ子の!)になれるなんて事は絶対にあり得ない、という事をわかっていない。
    個人的体験だと批判している人もいるようだが、著者はこの方法で成功したのである。それが他の人に通用するかどうかはその人次第である。
    こういった本の使い方はそのエッセンスをどんな形であれ自分の物できるかどうかにあるのだと考えるのだが....

    自分が気になった点をまとめると

    最初から、メモ術は不完全であり、いつか飽きると思いながら使う(これはライフハック全体にも当てはまる)
    want/can,like/writeの違い(自分の好きな事だけ書けるわけではない)
    ライターと評論のちがい(新書と専門書のちがい、みたいなものか)
    企画・営業、発想、情報収集、取材のノウハウ(企画書の実際は見てみたいな)
    「兼業ライター」(やはり、日曜ライターから始めよ、だよねぇ...)
    などなど....

    ライターを目指す人だけではなく、ブログや批評家を目指す人、Lifehack/知的生産系に興味ある人も目を通すべきだと思う一冊でした。

    最後にもう一度、「この本をあなたの血肉に出来るかどうかは、あなた次第だ」
    続きを読む

    投稿日:2018.10.14

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