【感想】戦争の条件

藤原帰一 / 集英社新書
(21件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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  • 戦争と平和を考える、時宜にかなった本です。

    国際政治学者で藤原帰一東大教授の本です。「書籍説明」欄にも書かれているように一筋縄でいかない国際政治を、いくつかの問いを立て、それに答えていくという形で議論が進められます。答えるとはいっても、そこは国際政治です、誰もが認めるただひとつの正解なんてあるはずがありません。昨今のわかりやすそうに聞こえる「日本国民を守るため」と称する思考停止の単純な議論ではなく、いろいろな条件を丁寧に考えることで平和の条件を考えるという、真正面から国際政治の思考方法に触れられる本だと思います。とはいっても、難解な本ではありません。もちろん国際政治を扱っているので、たてられている問いはどれも簡単に答えられるものではありませんが、問の難度と記述の平易さは別ものです。勇ましい議論でカタルシスが得られるような本ではありません。今の日本、戦争と平和を考えるとき、時宜にかなった本だと思います。続きを読む

    投稿日:2014.08.15

ブクログレビュー

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  • Qui vult Lectio

    Qui vult Lectio

    今年退官の藤原氏の講義録。論点を提示するスタイル(おそらく授業で討論?)。保護する責任と沈黙の陰謀は初耳、人道的介入は戦争回避と矛盾するがそこが課題。

    アメリカと同盟を結ぶ各国の存在から勢力均衡ではなく公共的覇権国の意義を見出すが、筆者はその意義を疑問視。覇権国による恣意的判断には不満が募るが、強制力に疑問符がつく多国間協調よりは実効性があるのではないか。

    民主主義による文民統制が平和を生むという仮説を三浦瑠璃の議論から反論する。民主主義は国際関係よりも国内社会を優先するため両者の調整には外交官が不可欠だと思う。

    権力移行論については両者が合理的行動を取れば覇権戦争は起きない立場をとっているが、筆者は勢力が同程度の場合を見落としている。勢力均衡だから大丈夫ということだろうが、この場合は成長速度に有意に差があるので成立しないと思う。割愛したのだろうが、場合分けをしているのだから説明してほしかった。経済(生産力)と軍事が一体化する近現代において分離して考えるのは違うと思った。

    領土対立については、国益増進における国土の重要性が減ったという理屈には概ね首肯できる。民族意識に基づく国民国家の思想と国際法の矛盾(棚上げ最適?)が対立を起こしているのも理解できた。歴史問題について、国内被害者・兵士・国外被害者の三者に双方が目を配れていないことが問題と語る。ナショナリズムと結びつき、増々拗れてしまう。

    そのナショナリズムであるが、民族自決に基づく分断回避のための自己欺瞞として「国民」の中に包摂することで共通の歴史を創造するものとして評価している。今年の東大入試に出題されたが、日本人としては歴史的資料から日本は古来より一体の国であったといいたいが、中々難しいものではある。

    最後に核開発について、軍事行動・経済制裁・国際対話から手段を選ぶが、結局は主観的リスクと相手の信頼だと喝破する。そこから平和の条件として勢力均衡・絶対平和主義の止揚としての戦争違法化と好戦国排除を提案するが、実効性・正当性を齎すには課題山積である。玉石混交の国際政治で玄人の貴重な意見に触れられてよかった(タイムリーでもあったし)。

     2022/3/5
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    投稿日:2022.03.23

  • stratton

    stratton

    「A国に軍事侵攻されたB国が、第三国Cに派兵を求めてきた。C国はどのような行動をとるだろうか」という様に、固有名詞を避けた問いかけを軸にして国際政治について考えてゆく一冊。
    様々な考え方を披露するものの、結論があるわけではなく、「まさに現代国際政治のジレンマそのもののなかに読者を放置したまま、この章を終えることとしたい」などと突き放してしまう。読んでいる途中は、正直言って疑問を感じていたが、「結び」を読んだ瞬間、著者のこの突き放しの意図がわかってスッと落ち、星の数もひとつ増えた。曰く「教育問題と並んで、国際問題は素人の発言が専門家と横並びにされる領域である。…(中略)…国際問題について行われる議論の多くは、白い鳥を集めて鳥は白いと言う人と、黒い鳥を集めて鳥は黒いと言う人との間の争いに過ぎ」ない、と。なるほど。
    この本は、まず「結び」を読むのが正解だ。
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    投稿日:2018.11.18

  • dekadanna

    dekadanna

    具体的な国名を出さず、ある程度抽象的な議論を提示させて、国際紛争について考えさせる本。自分の頭で考えるという点でなかなか画期的な本だと思う。高校あたりの政治経済で、こういう本で勉強しても良いのではないだろうか?後半の、ユーゴの詳細な記載は、ボスニア問題を考える上で非常に参考になるだけでなく、民族自決ということの意味を考えるきっかけとなる非常に良い題材と思った。民族自決を唱えたウィルソンが、民族とは言っていなかったというところが興味深く、また自分の意見とも一致していると思えたのが興味深かった。
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    投稿日:2018.11.12

  • showide

    showide

    国際経済学の入門書。答えでない問を通して国際関係について考えるという手法を取っており、いろいろ考えることのきっかけになった。

    投稿日:2018.10.07

  • 人生≒本×Snow Man

    人生≒本×Snow Man

    抽象化のせいか記述が薄い。思考訓練にはちょっと歯ごたえが足りないか。

    全体として、著者があとがきで述べている「暴力の存在を諦めたり、まして武力行使を美化したりすることではなく、また暴力と戦争の排除を訴えるなら世界も変わるという過剰な楽観に走ることでもない」道筋を示すことには合格しているとはいいかがたい。

    *ハッとした記述
    ・広島の語り(日本国民の犠牲)、南京の語り(日本軍の犠牲)、靖国の語り(日本軍兵士の犠牲)。戦争の異なる側面が語られている。
    ・多数派の非暴力と少数派の暴力という対照は、少数派は民主政治による自己実現を期待できないという制度的な特徴にねざしたもの。
    ・(ナショナリズムは)歴史的には新しい意識であっても悠久の歴史を主張し、その悠久の歴史を当事者も固く信じ込む。それが当たり前のことであるかのように信じ込む信念の強さは、自由主義や社会主義とは比較にならない。
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    投稿日:2015.11.20

  • hibiscum

    hibiscum

     著者は国際政治学を専門とする東大教授である。本書は、A国やB国などさまざまな仮定の状況を設定し、どのような対応が起こるかを考察するという形式を繰り返して、国際政治の初歩を考える、という書である。本書を自ら読もうとする人ならば、専門家でなくてもすんなり理解できるような内容であり、そんなに難解な内容ではない。
     最近のマスコミや識者の論調には、自論に合った現実を提示し自説の正しさを強調するものが多く見られるが、その一方、反対者も同様なので議論は深まることなく互いに罵るだけ、という見苦しい状況にあるように感じているが、そのような不毛で本質に遠い論議にさらされている人やうんざりしている人にこそ、国際政治の初歩としての本書を読んでほしい。
     世界の現実と歴史を目をそむけずに客観的に学んでこそ、平和の実現の第一歩なのだから。
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    投稿日:2015.10.04

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