【感想】少将滋幹の母

谷崎潤一郎 / 新潮社
(34件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
11
10
8
1
0

ブクログレビュー

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  • koba-book2011

    koba-book2011

    ▼かなり以前に読んだんですがその時に感想を書き忘れたもの。だいぶ忘れていますが。

    ▼平安時代、初老の中級貴族?が、歳の差婚の若妻を、権力者の藤原ナントカさんに、奪われるんです。でこの若妻は当然評判の美人である。初老貴族は屈辱に震えます。悔しい。惨め。この若妻との間に子供がいて、これがのちの少将滋幹なんです。つまり少将滋幹にとって、幼年期にそんな形で生き別れになっちゃった、お母さん。少将滋幹の母。

    ▼この顛末と、母恋の思い。これが実に心理劇で映画「羅生門」の如きサスペンスフル。な、だけではなくて。それに加えてなんだか禁断な恥ずかしさ。身悶えするほどの気はづかしさ。そしてなんだかエグくて儚くて人肌で美しい。つまりは谷崎なんです。

    ▼どうやら本作は翻訳などされているという意では谷崎の代表作だそうです。まあ、海外受けしやすそうですが(短いし)。圧倒的におもしろいのだけど、個人的谷崎ベスト3には入らないかなあ・・・。って何がベスト3なんだろう。「細雪」「猫と庄造」「台所太平記」な気もするが・・・いや「春琴抄」・・・「痴人の愛」・・・「卍」・・・そもそも未読の作品も(谷崎前期中心に)まだまだあるし・・・うーん。
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    投稿日:2024.01.05

  • 眠る猫

    眠る猫

    少将滋幹は大納言藤原国経の息子。母は業平の孫。
    この2人50歳の歳の差がある。70代の国経が大事に大事にしていた美しく若き妻は20代。
    おいらくの恋にも程がある。本当に国経の子だろうか?
    この若くて美しい妻の噂を聞きつけ、国経の甥である藤原時平に奪われてしまう。
    その時国経の元に残された子供が滋幹である。

    話はまだ、若き夫人が国経の元にいた頃、平中が夫人のところに通うところから始まる。
    噂を聞いた時平が平中を呼び夫人のことを聞き出す。2人のやりとりが面白いし、時平にしてやられる平中が不憫すぎて笑える。

    以前読んだ小説「時平の桜、菅公の梅」ではこの滋幹は時平が夫人の元に忍び込んで、その時の子のような描き方だったが実際はどうだろうか?
    時平の元に行った夫人は、「時平の桜、菅公の梅」では子供は生まれていないが、谷崎潤一郎さんのこの小説では子供を生んでいる。色々と設定が異なっている。国経はやや老ぼれた感じが強いけれど、時平は傲慢で自信家な谷崎作品の方がしっくりくる。

    妻を奪われた後の国経が不憫。
    その行動は不可能だけれど、そうするしかなかったのも哀れ。
    時平の元に行ってしまった母に会いたいとも言えず、耐えていた滋幹が、40年経ってやっと再会したところは涙ぐんでしまう。

    「時平の桜、菅公の梅」と読み比べてみるのも面白いと思う。
    昭和28年に書かれたと思えない小説。

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    投稿日:2023.04.30

  • takeshishimizu

    takeshishimizu

    主人公の滋幹はいつ登場するのかと思いながら読み進めた。結局、後半になってやっと登場した。そう、あの蘭たけた北の方が置き去りにした息子のことだったのだ。だから、その母がタイトルにあるわけだ。そこでタイトルの意味もはっきりした。そして、最後のシーンにつながる。その場所は、哲学の道よりももう少し北になるのだろうか。川があり小さな滝もあったのだろう。老いた母と出会うシーンが目に浮かぶのだ。滋幹の老いた父国経が不浄観とやらですさんでいく、なんとも重々しい場面から最後の美しい再開の場面へと向かうのだ。前半は、平中がコミカルな役回りで、時平とのやりとりでタジタジに追い込まれていくところ、思いを果たせない女性のお虎子を取り上げるシーンなど、もう電車の中で読みながら、笑わずにはいられなかった。時平の企みが功を奏し、国経の北の方が連れ去られる。ここで大きく話は展開する。平中が幼い滋幹の腕に歌を書き、その母へ自分の思いを伝える。返歌もあったようだから、それなりに心は通じ合っていたのだろう。いずれにしても、この平安時代の空気感をたっぷりと感じることができたのがなんともうれしい。たぶん5年前なら途中で投げ出していたかもしれない。それがこんなに楽しめるとは。そのことが自分にとっては驚きである。3年前に、1年半ほどかけて、月1回のペースで源氏物語を時代背景の解説などもしてもらいながら読む機会を得た。それが、これほどまで自分の身についているとは思いもよらなかった。中高で古文は一通り学んだはずだが、まったく何も残っていなかったのだ。やはり学習というのは、機が熟して、自分の中から学ぼうとする意欲がわかないと身につかないものなのだなあとしみじみ感じた。そう言ってしまっては身もふたもないのだけれど。続きを読む

    投稿日:2021.10.07

  • block

    block

    芥川龍之介に、「好色」という有名な短編がある
    今昔物語を原作にしたもので
    とある平安貴族が、惚れた女につきまとったあげく
    精神を疲弊して死んでしまうという
    考えてみれば、なんだか変な話であるが
    対話ではわかりあえない男女関係の絶望を
    女性上位でユーモラスに描いたものと言えるだろう

    「好色」の主人公は平中(へいちゅう)という男で
    どうも実在の人物だったらしい
    漁色にばかり熱心な、ぐうたら役人であったが
    それゆえ、女好きな一部の上司とは非常にウマが合った
    谷崎潤一郎は、この平中を軸にして
    平安における色男たちの小さな年代記を作り上げた
    それがこの「少将滋幹の母」である
    平中を軸にとは言ったものの、タイトルを見ればわかるように
    必ずしも平中が中心の話ではない
    彼は序盤の、どちらかといえば狂言回しにすぎず
    本題はむしろ少将・藤原滋幹、すなわち
    平中の上司の妻が前の夫とのあいだにもうけた子供、にある
    滋幹(しげもと)の、生き別れた母親に対する思慕が
    最終的に語られていくのだが
    おそらくは谷崎自身、母親との関係が
    自分の女好きな人格形成に大きな影響を与えていると
    認識していたのではないか
    その点、母親の狂気を恐れていた芥川とは明確に世界観が異なる

    女の糞を見れば、彼女への愛も冷めるはず
    そんな発想を逆手にとられ
    フェティシズムの罠にかけられた平中は
    卑屈のあまり糞すら愛そうとしている自分に気付いて絶望した
    そして死んだ
    しかしそういう理屈を理解したとしても
    フェティシズムを快楽と捉える人には
    平中の死を実感できないだろう
    そこんとこの断絶を埋めるために
    会えない母への恋しさを持ち出したのだと思う
    つまり、人は総て母の体内から出た不浄のようなものであるから
    むしろ不浄は懐かしむべきものだという考え方である
    それに焦点を当てて明らかになる芥川と谷崎の差異が
    ここでは平中と滋幹の差異に擬せられているわけだ
    生は不浄であり、死は浄化である
    この作品を書くことで
    ある意味谷崎は、芥川の死を浄化しようとしたのではないか
    僕はそう思う
    だとすれば、逆に谷崎も本音のところで
    死は不浄だと認めていることになるけれど
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    投稿日:2021.01.28

  • Soma Oishi (大石宗磨)

    Soma Oishi (大石宗磨)

    このレビューはネタバレを含みます

    少将滋幹の母
    (和書)2010年02月16日 19:39
    1953 新潮社 谷崎 潤一郎


    美しい女をめぐる人々の間の関係がとても上手く織りなされている。年月の流れ、和歌、種本などなかなか興味深い内容で読み応えはあった。

    ふと自分の過去の情景が頭をよぎる。

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    投稿日:2020.09.25

  • しじみ

    しじみ

    このレビューはネタバレを含みます

    時平が国常の妻を奪う強烈でドラマチックなハイライトシーン、平中が侍従の君の機知に富んだ嫌がらせで袖にされるさま、国常が妻を想う執念、名場面がいくつかあるけれど、やっぱりラストの滋幹の「お母さま!」に尽きる。
    平中、時平、国常、焦点を当てて語られる人物はあくまでも脇役、滋幹ですら主役ではなく、「母を恋い慕う子の叫び」が主役の本なのだと思った。

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    投稿日:2017.07.01

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