【感想】スラップスティック

カート・ヴォネガット, 浅倉久志 / ハヤカワ文庫SF
(23件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
6
5
5
4
0
  • 非ナショナリズムの行方

    やや長めのエッセイじみた著者の述懐形式のプロローグを経て物語は始まります。
    突然変異のフリークス(奇形)な双子の姉弟。巨大でモジャモジャ髪で乳首が四つもあって、姉とセットになれば比類無い知恵を発揮するものの、バラになれば読み書き以上の事が大分覚束ない(逆に姉は単独では読み書き以外だけが達者)。そんな弟が主人公です。
    そんな弟が合衆国大統領に就任。それだけでも割と大丈夫かと思いたくなりますが、更に全米が不治の病に冒されて国家としての体を失っていきます。
    とはいえ、ディストピア的な重苦しさは皆無です。全編にわたって繰り返される「ハイホー」(思考のしゃっくり、と称されます)がその証。

    読み解く鍵の1つは主人公の政策。ファミリーネームを撤廃させて、人為的かつランダムに決めた独自のファミリーネームを使うように定めます。血統も何も関係ない、単純にランダムにミックスされた「拡大家族」による共同体構想と言えるでしょうか。
    もう2つは物語の端々に現れる「中国人」。文明として進歩も失い劣化したアメリカを凌ぎ、最早彼らには理解不能な独自のブレイクスルーを遂げています。
    この2つから、本書はナショナリズムや権力、富める者が不可避的に陥る一種の貴族主義、そういったものが人々の不幸の温床になるとして、それを無効化したらどうなるか、という思考実験とも捉えられます。進歩は失われ文明の勢いは一気に消失する、でも人々は不幸じゃない。緩やかな衰退を楽しんでいる風すらあります。
    中国人は、西欧文明の外部に存在する英知の象徴と考えるべきでしょうか。英知はアメリカを見放し、遙か先に進んでいってしまいます。

    ニヤリとさせられる諧謔に満ちつつ、しかし読み進めるに従ってジワリジワリと侘しさを感じさせられます。
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    投稿日:2014.01.26

ブクログレビュー

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  • mich

    mich

    スラップスティックとはどたばた喜劇を指すようです。あまり聞きなれない言葉。そもそも無声映画で作られたスタイルなので、小説で使われるジャンルではないのかもしれません。日本でいうと個人的には筒井康隆の作品にそういう匂いを感じるところですが、それとて正しいのかよくわかりません。
    ただ、ヴォネガットの作品からは、全般的にこの「スラップスティック」のイメージがつきまといます。とにかくどの作品も登場人物がバタバタしている印象。まだ読了四作ですが、彼の作品はどれも普通のシナリオではありません。設定も舞台背景も、ワードチョイスも何もかもが異質。奇抜。だからといって読みにくいわけではない。舞台がわかれば、あとはなんなく物語に入り込むことができます。そんな作品だからこそ、その奇抜な展開のどこかに道徳めいた、核心をつくなにかを見つけてしまいがちです。本当にそんななにかが隠されているのかわかりませんが。。
    本書もそんなわかるけど、よくわからない作品。とにかく肩の力を抜いて、シニカルでジョークな展開に、ただニヤニヤするのが楽しめる読み方かもしれません。
    続きを読む

    投稿日:2021.09.26

  • mktr

    mktr

    狂気や暴力を描いた前作とは打って変わって、落ち着いた作品になっている。相変わらずまえがきが素晴らしく、設定は少しSF風味。物語は題名ほどのドタバタ劇ではないが、その意味は読めばわかる。作者は奇形児でもなければ大統領でもないはずだが、どのあたりが自伝要素だったのだろう。ヴォネガットの中ではかなり好きな作品で、特に双子のキャラクターが良かった。決して明るい話ではないが、なんとも言えない著者の優しさが伝わってくる良作。続きを読む

    投稿日:2021.04.04

  • ravenclaw55

    ravenclaw55

    「チャンピオンたちの朝食」(1973)の次に発表された作品。

    この作品から、ジュニアが取れて、カート・ヴォネガット名義で発表される。

    「タイタンの妖女」(1959)、「母なる夜」(1961)、「猫のゆりかご」(1963)、そして代表作「スローターハウス5」(1969)に比べると、ややパワーダウンが感じられるが、それでもヴォネガットはヴォネガットだ。続きを読む

    投稿日:2020.07.19

  • dipnoi

    dipnoi

    『タイタンの妖女』よりは読めたけど、やっぱり合わないヴォネガット 。いまいち何が言いたいんだかわからない。アメリカのことしか書いてないからかな。

    投稿日:2019.05.28

  • jun.k

    jun.k

    魅力のありかがどうにも分からない。分からないのだけど琴線に触れるなにかがある。そんな気持ちがしています。

    無人島にもっていくとしたら? というときに上位に入ってしまうかも知れない一冊です。
    傑作! だとか絶対におすすめ! などとはなかなか言えそうにないけれど。

    フィクションとリアリティのバランスがよくて、シリアスとチャーミングも同じ場面に併存しています。
    続きを読む

    投稿日:2016.10.03

  • paraparayomu

    paraparayomu

    残念ながらこの作品は私には合わない
    表紙   7点和田 誠
    展開   3点1976年著作
    文章   3点
    内容 410点
    合計 423点

    投稿日:2015.12.01

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