【感想】ポーツマスの旗

吉村昭 / 新潮社
(54件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
25
21
3
1
0
  • もう一つの日露戦争

    思えば世に「戦争」(戦闘)を扱った歴史小説は多い。
    本書は日露戦争の講和会議からポーツマス条約について扱った小説で、
    「戦争」ではなく「外交」がテーマであると思われる。

    が、少しここでクラウゼビッツの『戦争論』を思い出してみよう。
    ざっと言えば、「戦争は政治的手段とは異なる手段をもって継続される政治にほかならない」
    ということである。

    ということは、逆に言うと、講和条約というのも、戦闘とは違う手段をもって継続される戦争なのであろう。
    日露戦争とは何であったかを決定づける条約。
    戦闘に劣らぬ戦いである。

    戦いの相手はロシアだけではない。
    条約締結の場であるアメリカのマスコミ、そこに対して力を持つユダヤ人・・・
    いろいろなことを考えなければならず、読んでいてとてもスリリングである。

    そして、衝撃的なのが講和条約締結後、日本で待ち受けていた激しい非難・暴動・・・。
    おそらく中高の歴史の授業で聞いたことはあるであろうが、
    ここまでの経緯について小村寿太郎に寄り添う形でものがたりを読んできた読者には、
    やりきれない思いだろう。
    全体に台詞も少なく、淡々とした描写であるだけに、
    「小村を斬首せよ」
    という群衆の言葉が一際残酷に響く。

    戦いの物語であった。さて、何との戦いだったのだろう?
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    投稿日:2014.10.02

  • 日露戦争を終結させるために命を削った男の物語

    強国ロシアを相手にぎりぎりの折衝を重ねて勝ち取った講和条約。しかし、その結果に過度な期待を寄せていた国民からは弱腰外交と罵られ、家族の命まで危険にさらされる日々。決して幸せとは言い難い人生だったろうに、最期まで日本のために尽くした小村寿太郎の生き方に圧倒されました。
    彼と共に戦った随員たちやロシア全権の苦悩、したたかなアメリカの様子も描かれていて、読み応えたっぷりの一冊です。
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    投稿日:2014.03.03

  • 戦争とマスコミと世論の関係

    日露戦争に勝利した後、ポーツマスで講和条約を結ぶべくロシア全権と交渉する過程は大変面白いのですが、それ以上に、日本が国防の為にロシアと開戦した事や、日本・ロシア、アメリカの世論などが交渉に影響してくる過程が大変勉強になります。一旦戦争になると国民は新聞でその状況を知り、勝っていたら「戦争賛成!もっと戦え!」となり、負けていたら「戦争反対」とる。しかし今勝っているからと言って、圧倒的に国力の大きいロシアとこれ以上戦争継続すれば、日本の敗北は目に見えている。
    しかしこの事実を国民は知らないのでロシアと交渉している小村寿太郎を責め、「もっと強気で交渉しろ」という世論が沸き立ちます。国の為に命を削るような交渉をした小村の晩年は辛いものでした。
    日露戦争終結後、ポーツマス条約を経て清や韓国へ日本が進出(言葉は難しい)していきます。そして韓国併合論が言われ、伊藤博文が安重根に暗殺されて、その後韓国が併合されます。日本はなぜ韓国を併合したのか、併合しなければならなかったのか、最後の方に数ページですがその辺りの状況も書かれており、学校で習わなかった歴史を知る事ができました。しかし大東亜戦争(太平洋戦争)で新聞が「連戦連勝」と書きまくり、戦争から手を引けなくなってしまった、という面があると思うのですが、日露戦争終結時と同じような「間違った情報に基づく世論」は危険で怖いと思います。しかし本当の事実をマスコミに公開できない、するべきではない、事もあり(ポーツマス条約交渉中に、日本に戦争継続の国力が無いことを発表するわけにはいかない、等)、あぁ、難しいです。こういう本当の歴史を知り、活かさなければならないと思います。
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    投稿日:2013.12.30

  • 一気読みです

    とにかく面白いです。当時の国際情勢、日本の立場、そして何より小村寿太郎のありように感動しました。明治時期の日本人の凄味が伝わってきます。

    投稿日:2014.02.20

  • 日露戦争

    戦争とはこのように終わらせるものなのかと納得しました。
    日本の近・現代史のことは本当に知らなくて、「日露戦争に勝利した」と知っていただけなので興味深かったです。
    また、冒頭いきなりの「日本の国旗のはじまり」がおもしろいのですが、国歌については後半ときどき「国歌が演奏された」という感じでさらっと出てくるだけなのが少し気になりました。国歌の成り立ちも知りたかった。
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    投稿日:2014.10.12

  • 「坂の上の雲」を終わらせるために

    両国にとって泥試合となった日露戦争の終結を任せられた外交官、小村寿太郎とウィッテ。2人の静かな激戦は「坂の上の雲」に負けていない。漁夫の利を得ようとするアメリカのしたたかさも見どころ。

    投稿日:2013.09.28

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ブクログレビュー

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  • あだちたろう

    あだちたろう

    文字通り国の存亡をかけた綱渡りの駆け引きが丁寧に書いてあって、日本史的な結論はわかっているんだけどドキドキしながら読んだ。この構成、最高。
    自分としては小村寿太郎の私生活が意外にクズだったのが面白かった…続きを読む

    投稿日:2024.04.13

  • 植物委員

    植物委員

    歴史小説として個人的には満点の作品でした。
    国の尊厳をかけたギリギリの外交交渉。容易に譲れない全権たちが、それでも講和成立に向け妥協点を探りあう。そんな緊迫した様子をまるで同室で見ているような臨場感が、この小説にはありました。小村という人物にも大変興味をもちました。乃木や東郷が英雄ならば小村も同等に英雄なのでは、そう思いました。続きを読む

    投稿日:2022.10.19

  • tamasukebiron

    tamasukebiron

    作品は、基本的に叙事詩的な文章で書き進められており、淡々と当時の時間の流れと出来事を連ねているが、それがポーツマス条約の緊縛した場面をより強く浮き彫りにしていると思う。困難なポーツマス条約を成立させた優れた外交官、政治家として記憶していた小村であるが、"私"の方はとても陰の部分が濃い人生だったことは、この作品で知った。
    日本が近代国家として名乗りを挙げた日露戦争の勝利の一方、このポーツマス条約が後のさらなる悲惨な戦争の歴史に繋がっていくことを考えると歴史の皮肉さを思う。
    この度のウクライナ戦争もあり、読んでみた一作であった。
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    投稿日:2022.09.04

  • ひゃっほう

    ひゃっほう

    米村万里さんの書評がきっかけで読んでみた一冊。

    恥ずかしながら、小村寿太郎という名前もポーツマス条約という名詞も「教科書に載ってたなぁ」くらいの記憶しかなかったけれど、こんなにも熾烈な駆け引きがあったとことが授業で教えられていたら興味の持ち方が違ったと思いました。

    当時の外交、戦争、政治がどのようなものだったのか、垣間見ることができる良作。
    果たして現代日本の政治家に、これほどの熱量があるのだろうかと改めて疑問を抱いてみたりもしました。

    ポーツマス条約における小村氏の功績だけでなく、家庭人としてのダメっぷりも記されているのが本作の面白さ。
    決して教科書っぽくならず、小説として楽しめる理由の1つはここにあるのでしょう。

    これまであまり歴史小説は読んできませんでしたが、
    戦争や人種差別に強い関心が出てきたのもあってか、近代歴史小説にはハマる予感がします。

    2020年55冊目。
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    投稿日:2022.09.04

  • ようすこう

    ようすこう

    日露戦争の講和条約締結に尽力した小村寿太郎の話。
    日露戦争の海戦を描いた海の史劇の後に読んだ。

    前半は出来事の羅列が多く、若干読みづらいが、後半のロシア全権ウィッテとの緊迫した交渉は、息詰まるものがあった。

    また、当時のロシアのマスコミ(新聞)操作も印象的で、時代は違えど、戦争におけるマスコミ、民衆の印象操作が重要なのは、今も昔も変わらないことが分かる。

    日露戦争後の民衆の暴動、軍部の権力拡大など、このあたりから日本の外交はおかしな方向へと進んでいくことになり、あとがきにあるように、小村の行った外交は、全然日本の最後の英知といえるそうだ。
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    投稿日:2022.05.01

  • Ryohei

    Ryohei

    初の吉村作品。こう言った記録小説自体を初めて読み、読み進めるのには時間がかかったが、通常の小説と同じく、或いはそれ以上に世界に入り込むことができたのは不思議な感覚だった。

    舞台はポーツマス講和会議、日本全権の小村寿太郎。小村は私も多少縁のある宮崎・飫肥出身ということもあり、読前から思い入れがあった。ただ、ポーツマス条約という日露戦争の輝かしい成果の話と思っていたが、実際は当時も今も色々な見方ができる結果だったのだということを知った。

    小村はメディアを使った印象操作を行わなかった。積極的に利用していたロシアとは対照的な姿勢に私は非常に小村らしいと誇らしく感じた。昔からメディアの力で世論は動くし、たった一つの記事が大きく戦争を左右するのだなと改めて実感した。ウィッテは日本目線で見ると嫌な外交官であるが、終盤ロシア皇帝の勅命に対して決死の抵抗をする姿は素晴らしく、彼も平和と自国の利の狭間で苦悩し続けた人なのだなと感じた。

    本作で衝撃だったのは外交官以外の小村の印象だった。一言で言えばクズ人間。家庭は顧みず、借財は平気で踏み倒す。小説としては小村という人物にどういう感情を抱けば良いのか分からなくなるが、ありのままの人物を描くのが吉村流なのかなと思った。そして私は自堕落な私生活を踏まえてもなお小村を憎めない。一生を外交官という職務に捧げた人物なのだと思う。
    続きを読む

    投稿日:2022.04.17

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