スマイリーと仲間たち

ジョン・ル・カレ, 村上博基 / ハヤカワ文庫NV
(13件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
3
6
2
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  • 「スマイリー」と言っても、スマイリー小原とは関係ありません

    「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」、「スクールボーイ閣下」に続く「スマイリー三部作」の完結編。ソ連情報部の「もぐら」(二重スパイ)により壊滅的な打撃を受けた<サーカス>(英国情報部)を舞台にした一作目から読み続けた読者としては、本作ラスト近くでのスマイリーとピーター・ギラムの会話には感慨深いものがありました。ま、「事件の背後に潜むカーラの驚くべき秘密」が、思いの外しょぼかったのは置いとくにしても(をい)。

     ただ、まあ、手強いですね、ル・カレは。わたしも、今読み返したら最後まで読み通せるかどうか分かりません。分かりませんが、新訳で再刊行された「ティンカー」から再読したい気持ちが無いでも無いです(どっちやねん)。

     そんなわけで、時間と体力があり余ってる人は、まずは「寒い国から帰ってきたスパイ」から読んでみるといいんじゃないでしょうか。あと早川書房は「リトル・ドラマー・ガール」や「パーフェクト・スパイ」も早いとこ電子書籍化するように。
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    投稿日:2013.10.26

ブクログレビュー

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  • りおん

    りおん

    このレビューはネタバレを含みます

    スマイリー三部作完結。
    これが一番文章が読みやすかった気がする。
    スマイリーがひとりで動く場面が多く、視点が安定してたのも読みやすかった要因かもしれないけど。

    ちゃんとカーラとの決着はついたものの、手放しで喜べるような終わり方ではく、哀愁が漂う終わり方なのが作者らしくて良い。

    ティンカー〜…から結構かかったけどやっと読み終わった。
    達成感というか…なんというかこみあげてくるものがある。

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    投稿日:2019.03.07

  • ayh1r0

    ayh1r0

    このレビューはネタバレを含みます

    スパイの世界とは何の関係も無い、平凡な人間の視点から始まる語り口はいつものことながら、ある殺人事件をきっかけとして謎を追っていく展開は、文字通り「スパイ・ミステリー」というジャンルらしいお話でした。

    色々な人物の視点がころころ入れ替わる過去作に比べ、今作では大部分がスマイリー視点で進みます。かつてサーカスの長として自分の「仲間たち」に任せていた情報収集の役割を、今度は自分一人でこなし、老体に鞭打って進み続けます。人に会い、話し、嘘と事実を注意深く選り分ける。

    特に17章は読んでいて興奮が止まりませんでした。
    遠路はるばるハンブルクまでやって来たスマイリー。ようやく鍵を握る人物の居場所を見つけたと思ったが、しかしカーラの方が一足先だったことを知ります。ここで手がかりは無くなったかに見えたその時、黄色のチョークの伏線が効いてきます。
    「いったいあと何人の死者の遺産をうけつがねばならないのかと思った。」
    追う者は追われる者に変わります。警察の目をごまかすため、レンタカーを隠し、乗るつもりの無い飛行機の席を予約し、服を買って着替え、自分の別人格を生贄にして、本当の目的地に向かいます。
    この用心の深さに、いちスパイとしてのジョージ・スマイリーの知識と経験の豊かさを改めて感じ取ります。この一章の中に、スパイ小説に私達が期待するスリルが詰まっています。

    ところで、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』で終盤で強調されていたのは「アンチクライマックス」の予感でした。結末に向けて物語がどんどん盛り上がるのではなく、どんどん盛り下がっていく。
    単純に組織の裏切り者を捕まえてめでたしめでたし、となるのではないことを、あえて何度も念押しすることの意味は、物語の主眼はそこには無いからです。だから、スマイリーは部屋に入って直接目で見る前から、声で裏切り者の正体を先に知ってしまいます。
    ミステリーものの定石のように、誰かを悪者として捕まえれば全て解決するような分かりやすさは、現実の世界にはない。結局その裏切り者も、社会や体制が、あるいは冷戦という構造が生み出したものの一つに過ぎない。だから、物語の目的が裏切り者を見つけることであっても、本当に伝えたいことはそこにはない。少なくとも『ティンカー、テイラー…』ではそう感じました。

    それでも、この『スマイリーと仲間たち』の終盤には、純粋なエンタメとしてのクライマックスを予感せざるを得ませんでした。「彼」は来るのか、来ないのか。殺されるのか、生きのびるのか。ハラハラドキドキとその決定的瞬間を待ち、そしてついにそれは訪れる。

    個人的にはとても納得のいく、ある意味ほっとする結末でした。どんな人間にも弱みはあること、諜報戦とはまさにそれをえげつないほどに利用し合う戦いであること、それでもなお今回だけは、冷戦という戦いに勝つためではなく、資本主義の優位性を示すためでもなく、ただ大切な人を守るためであったこと。
    ベルリンの壁という舞台は、『寒い国から帰ってきたスパイ』の忘れえぬラストと同じ場所ですが、こうも違った結末が待っているとは思いませんでした。

    「スマイリー」シリーズの新作が25年ぶりに出るという話も聞きましたが、とりあえずそれまでに全作読めて良かった……と思ったらまだ読んでいなかったのが『死者にかかってきた電話』でした。読まねば……

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    投稿日:2017.05.13

  • kikyo

    kikyo

    スマイリー三部作完結編で、旧ソ連の宿敵〝カーラ〟との最終的決着までを描く。重厚な筆致は更に磨きが掛けられており、ル・カレ独自の世界がゆっくりと始動する。前作の漠然とした分かりにくさは消え、より引き締まった構成ではあるが、集中力を欠くと挫折しかねない。タイトル通り、物語はスマイリーに主軸を置いている。かつての仲間が犠牲となっていく非情な諜報戦のただ中で、老体に鞭打ちながら真相を求めて歩む孤独な後ろ姿は、影の存在でありつつも、自国他国問わず真っ先に国家の使い捨ての駒となるスパイの悲哀を物語っている。
    冷たい怒りを抑えつつも、或る瞬間には滲み出てしまう吐露に、終わりなき闘いの不毛ぶりが表れている。実体がほとんど明らかにされていなかった〝カーラ〟が、ようやく姿を現す終盤のシーンは、本作のみならず三部作全体を通してのクライマックスであろう。「勝つ」ためには、自らも薄汚い手段を取らざるを得なかったスマイリーに去来する思いは、苦く空しい。
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    投稿日:2016.11.30

  • ふうこ

    ふうこ

    このレビューはネタバレを含みます

    スマイリー三部作の終わり!
    やっと大物カーラの秘密を見つけて直接対決。
    今回ばかりはスマイリーが重い腰を上げて動き回ります。
    読んでるこっちは「やっとカーラをギャフンと言わせるぞ!」と思っても、そうはいかないのがこのシリーズの素敵なところ。
    はっきり勝敗がついたはずなのに、ラストは何とも言えない。
    スマイリーは自分の人生を狂わせた男を捕まえたけど、それは幸せに結びつかない。
    カーラの描写も良かった。
    くたびれた普通の中年男なんだよね。得体の知れない、恐ろしいほど策略家なロシアの超大物が。

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    投稿日:2015.12.26

  • balloonhead

    balloonhead

    このレビューはネタバレを含みます

    再読。数年のことだけど間をおいたことで感想が
    変わるのは、作品の深みのおかげでしょうね。
    今回は、奥さんのアンに何だか同情。スマイリーのような
    徹底した思索とそれを誠実に作業として実現する能力は、
    尊敬に値するけれど、一緒に暮らすのは大変そう!
    (以下、三部作を順に読まない人にはネタバレかな)
    だからと言って、まんまと仕組まれた不倫に応じるのも
    おばかさん。

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    投稿日:2014.09.14

  • abraxas

    abraxas

    ジョージ・スマイリーは、元英国情報部の現地指揮官。冷戦時には有能なスパイとして情報部を指揮していたが、世界情勢は緊張緩和(デタント)へと舵を切り、顔ぶれを一新したホワイト・ホールは情報戦も英米協調をうたい、かつてのような英国独自のスパイ網の必要性を認めなくなった。自前で情報をさぐるよりアメリカのいとこ(カズンズ)から聞けばいい。そのほうが安上がりだ。大幅な予算削減の結果、現地協力者は解雇。「首狩人」や「点燈屋」といった特殊な分野を受けもつ工作員グループも解散してしまっては、その指揮を執るスマイリーに出番はなかった。早い話がリストラである。

    電話がかかってきたのは深夜だった。亡命エストニア人グループのリーダーだった「将軍」と呼ばれる元工作員が殺されたのだ。事件を穏便に処理したい政府は情報部監視役レイコンを使い「将軍」の工作指揮官であったスマイリーに調査を依頼する。現場に足を運んだスマイリーは、その残虐な手口からソ連情報部(カーラ)の仕業と判断を下す。殺害動機は「将軍」が手に入れた証拠物件の捜索とその隠滅である。調査の結果「将軍」が見つけたものとは、ソ連情報部チーフでスマイリ-の長年の宿敵カーラを失脚させるにたる二つの証拠と判明。カ-ラの弱みを見つけたスマイリーは、政府の暗黙の了解のもと散り散りになっていた工作員を再編成し、カーラの追い落としをはかるのだった。

    スマイリー長篇三部作の完結編である。第一部『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』は、カーラが英国情報部(サーカス)内に送り込んだ「もぐら」と呼ばれる二重スパイをあばくスマイリーの推理がさえる推理劇。第二部『スクールボーイ閣下』は、スマイリーの推理に加え、現地工作員ジェリーが香港、インドシナを舞台に大活躍する冒険活劇だった。ただ、どちらも三部作の主人公たるスマイリー自身があまり前面に出ることなく、裏方に甘んじた憾みがのこる。しかし、さすがに完結編である第三部は主人公スマイリーが頭脳だけでなく足を使い、おまけに英国内はもとよりハンブルグに飛び、なんと苦手な自動車まで運転して、謎を追う本格的なスパイ小説になっている。

    八月のパリ。黒服を着たマリア・オストラコーワが前髪をひょこひょこさせながらショッピングバッグを肩に街路を行く。冒頭の一見本筋に関係なさそうなシーンから読者は一気にル・カレの世界に引きこまれる。この亡命ロシア女性もそうだが、「将軍」ウラジーミルとその情報源オットー・ライプチヒといった主要人物にかぎらず、ちょっと顔を出すだけの傍役ひとりひとりにいたるまで、人物造形の巧みなことはどうだろう。主人公スマイリーその人にしたところが、度の強い丸眼鏡をかけた風采の上がらぬ小男ときている。そのスマイリーに向けて、側車つきオートバイに乗った長身のファーガソンがすれちがいざま敬礼してみせる場面など一幅の絵のようだ。

    ひとつの時代が終わるとき、世界の枠組みもまた大きく変わる。盗聴、尾行、防諜室といった完成されたスパイの技術が古臭く滑稽なものとしてかたづけられるのはまだ許せる。しかし、その技術に習熟し、それをつかって情報をさぐり、受け渡ししていた人間もまたシステムの末端として切り捨てられる。新しいシステムにうまくのれる者は生き残り、そうでないものは葬り去られる。

    スパイに限らず、どんな組織にもいえることだが、人と人が接触するとき、そこには人間的なファクターというものが生まれる。敵味方のスパイ同士でさえ監視している者は監視対象に好き嫌いの感情を抱くという。まして同じ仕事を共にした仲間となれば当然のことだ。上層部はシステムの切り替えと同時に不要となった人員を廃棄するが、スマイリーにはできない。どんなときでも冷静でいることはできるが、非情にはなりきれないのがスマイリーという男なのだ。

    死んだ「将軍」の部屋を捜索しながらスマイリーは物思いにふける。「われわれ自炊をする男は半人間だなと思いながら、彼はソースパンとフライパンをひっぱりだし、トウガラシとパプリカのなかをかきまわした。家のなかの他のどこでも――ベッドのなかでも――人は自分を周囲から遮断し、好きな本を読んで、孤独が最高だと自分をだますことができる。だが、キッチンばかりは、未完のしるしがあまりに目に立って、それができない。黒パンのかたまり半分。粗悪なソーセージ半分。タマネギが半分。牛乳がびんに半分。レモンが半分。紅茶が袋に半分。生活の半分。」アンと別れてからのスマイリーは「半人間」なのだ。

    風采こそ上がらぬものの、スパイとしての能力はとびぬけて高いスマイリーは、一種のスーパーマン。彼に会い彼と話をした者は誰もが彼を好きにならずにいられない。そのスマイリーをして落とすことができなかったただ一人の男がカーラである。何故か。それはカーラはユング心理学でいうスマイリーの「影」だからだ。コニーの喩えをかりるなら彼ら二人は「ひとつのリンゴの半分同士」なのだ。いかに完璧な職業的人格を構築しようと、スパイもまた人間である。スマイリーにとってアンは「幻想を捨てた男に残った最後の幻想」だった。カーラはヘイドンを使い、スマイリーからアンを奪った。友人と妻の裏切りはスマイリーを苦しめ、彼の力を奪うにちがいないと考えたからだ。

    いっぽうスマイリーもまた「将軍」がさがしあてたカーラらしくもない不手際に、彼の弱点を発見する。そして、ホワイト・ホールが過去の遺物として葬り去ろうとした、尾行、張り込み、盗み撮りといった諜報技術を駆使し、カーラを落とす。雪が舞うベルリンの壁を背景にしたスマイリーとカーラの再会は三部作のハイライト。カーラの手からすべり落ちるスマイリーのライターが物語の終りを告げる。

    ル・グウィンが『ゲド戦記』の主題とした自分の影との戦いを、ル・カレはリアルなスパイ小説に仕立ててみせる。ジグソウパズルのピースをひとつひとつ仮想の絵柄に当てはめながら、最後に残ったピースを追い求めるような理詰めの探索は上質のミステリのよう。登場人物のひとりがスマイリーをシャーロック・ホームズに、カーラをモリアーティ教授に喩えているが、「将軍」の足跡から時代がかった諜報活動であるモスクワ・ルールに則って隠された証拠の品を見つけるスマイリーの捜査は名探偵そのもの。どちらかといえば、アームチェア・ディテクティブ派と思っていたスマイリーがクロフツの刑事のように何度も現場に足を運ぶのが心に残る。老スパイが執拗にこだわったルールの遵守は、人を欺き、弱みに付け込むスパイの世界に残された最後の倫理だったのかもしれない。
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    投稿日:2013.06.08

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