【感想】〈すべての夢|果てる地で〉 第3回創元SF短編賞受賞作

理山貞二 / 東京創元社
(14件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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5
4
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  • ”SF初心者”の方に勧めたい。

    この作品は過去のSF作品のオマージュやリスペクトに満ちている……そうだ。
    なぜ、こんな曖昧な書き方をしたのかというと、わたしは”SF愛好家”を自称するほどにはSF小説を読み込んでいなかったからだ。
    人公Kが小松左京、アーサーがアーサー・C・クラーク、アイザックがアイザック・アシモフ、ボブがロバート・A・ハインラインを其々、名前の元ネタにしているのが分かった程度で、それ以外にも存在するであろう”内輪ネタ”には気づくことができなかった。わたしはたぶん、作品の魅力の半分には依然として触れていないままなのだ。
    ただ、もう半分の魅力は存分に堪能できた。
    〈すべての夢|果てる地で〉は他のSF作品のオマージュやリスペクトを抜きにしても、質の高いサイエンス・フィクションだ。実在するSF小説と絡めて、独創的な要素を相対的に薄めてしまったのが惜しいとさえ感じられる。

    物語の舞台は社会の歪みが顕在化し、破局の予兆が見え隠れしつつある近未来。主人公Kは世界の何処かにあるという量子コンピューターを求めて旅を続けている。だがKは知らず知らずのうちに恐るべき陰謀に加担させられていた。

    この作品の最も独創的な部分のひとつは、その”陰謀”の内容だ。あまりにも壮大な陰謀で、ネタバレされるまで気づかないのは請け合い。また、そのときに奇妙なタイトルに込められた意味が分かるはずだ。

    むしろ”SF初心者”の方に勧めたい。
    わたしの場合はSFの知識が無かったことが、作品を客観的に評価する助けになった。

    ただオーウェルの”1984”だけは読んでいても損はないかもしれない。
    この作品はディストピア(悪夢のような世界のこと)のイメージを1984に強く依存していて、読者が1984を読んでいない場合を想定していないように思える。
    わたしは前に1984を読んでいたために、謎が明かされたときに強烈な衝撃を受けた。しかし、そうでない人にとってはどうだろうか。
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    投稿日:2014.02.04

  • ジョージ・オーウェル風

    作家が思い描いた世界は現実にならない。
    ハードボイルド調な主人公Kとフォッグマンと呼ばれる量子学的にもつれた世界からの干渉者を描いた作品。確かに、過去のSFが無かったら、今でもSFは未来を見せる圧倒的な力を持ったフィクションだったのだろうなとは思えます。
    作家が思い描いた世界は現実にならないことを盲点に落ちまで持っていくのはすごいですが何となく合成品のようなつまらなさが終わりには漂います。
    が、たぶん読み込みが足らないのでしょう。
    パルプ紙の本、近頃買ってないなあ。
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    投稿日:2015.07.22

ブクログレビュー

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  • sukato

    sukato

    小川一水「宇宙でいちばん丈夫な糸 ――The Ladies who have amazing skills at 2030.」
    庄司 卓「5400万キロメートル彼方のツグミ」
    恩田 陸「交信」
    堀 晃「巨星」
    瀬名秀明「新生」
    とり・みき「Mighty TOPIO」
    川上弘美「神様 2011」
    神林長平「いま集合的無意識を、」
    伴名 練「美亜羽へ贈る拳銃」
    石持浅海「黒い方程式」
    宮内悠介「超動く家にて」
    黒葉雅人「イン・ザ・ジェリーボール」
    木々津克久「フランケン・ふらん ―OCTOPUS―」
    三雲岳斗「結婚前夜」
    大西科学「ふるさとは時遠く」
    新井素子「絵里」
    円城 塔「良い夜を持っている」
    理山貞二「〈すべての夢|果てる地で〉」(第3回創元SF短編賞受賞作)

    とり・みきと神林長平の作品が個人的にはやはり好み。
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    投稿日:2023.06.16

  • bukuroguidkodama

    bukuroguidkodama

    2011年はどういう年だったかってもう今は2013年なので
    去年はどういう年だったかというと2012年なのである
    2012年篇が出てから読むよりましだけれど
    もう2012年のことなんて覚えていないぞ
    2011年はいろいろあったからともかく

    小川一水『宇宙でいちばん丈夫な糸 The Ladies who have amazing skills at 2030』
    毎度おなじみ作者
    副題とおり『妙なる技の乙女たち』連作中のひとつ
    これだけきりだしても面白がりがたい
    カーボンナノチューブのSFとの現実味どあいはそうだと思う

    庄司卓『5400万キロメートル彼方のツグミ』
    指示が音声入力なのもすごいが
    なぜツグミなのかわからない 意味ないのか
    ライトノベルに侵されすぎてジュブナイルの純がどんなだったか
    文章はしばしに無駄を感じる

    恩田陸『交信』
    同選集過去最短(たぶん)1ページ
    「はやぶさ」盛り上がっていただけるは
    宇宙開発事業としてまこと結構だが
    なぜ「はやぶさ」だけ
    「かぐや」もがんばったんだよ
    爆発迷走墜落しないとお涙頂戴できませんか
    題名と内容だけあって置いておくと
    そのうちなんだかわからなくなる1ページ

    堀晃『巨星』
    「バビロニア・ウェーブ」というと
    「リフレクト・フォース」と同じにきこえる程度に
    何が書いてあるかわからない
    小松左京作品はあまり読んでいないので
    オマージュというフランス語と同じ
    『明日泥棒』の「直列二気筒」は
    大学生のとき初めて沼袋駅のスーパーのレジが
    そうなっているのを発見して興奮
    さすがはなのみやこだいとーきょーと思い出

    瀬名秀明『新生』
    こちらはパスティーシュでリスペクトらしい
    小松左京作品にはぜんぜんもんくないのだが
    SF選集「2011年傑作編」を買ったのに
    それはおいても良い作品だから載せたのだろうけれど
    はやぶさや小松左京や福島で爆発しなくても
    2011年は2011年

    とり・みき『Mighty TOPIO』
    マンガは絵が使えるのでずるい
    映像作品だとさらに効果よく音をかけ合わせられて
    さらにずるい
    文章でしかのものもあるしたいていなんとかなるけれど
    やはり文章でしかない

    川上弘美『神様 2011』
    この選集初(たぶんたぶん)の「著者のことば」なし
    ジャンル「文芸」文章芸
    うしろに術がつくとなぜかありがたい日本語

    神林長平『いま集合的無意識を、』
    「ついったー」は商標登録 R.P.G
    伊藤計劃作品や
    ネットワークに日々多くのひとがつないで費やしていることに対する
    SF作品についての随筆とか評論
    集合的無意識を生成するということが
    これまでの歴史が想像できる範囲を超えて
    想像できなかったものを想像できえるのか
    とりあえず宇宙飛行士にはならずとも月から地球をみてみたいが
    それほど人間には期待していない
    まったくしていないのではないにせよ

    伴名練『美亜羽へ贈る拳銃』
    面白がれる娯楽作品が読みたい派としては
    これくらいの長さで短編小説という気
    脳マッピングがそこまで再現性あるなら
    ミステリにならないのではだが
    こまけえこたぁいいんだよ
    例によってもちろん『ハーモニー』のことも
    すっかりさっぱりまるきり全然少しもまったく覚えていないのが
    (例えば主人公の性別も答えられないくらいに)
    この作品は娯楽小説として作り物じみて面白い
    ただ上と矛盾しないが短編小説としては長めに感じる

    石持浅海『黒い方程式』
    そういえば今回はこの選集恒例のこれのどこがSFだとの文句がなかった
    『冷たい方程式』はミステリにおける
    説得力ある「意外な結末」ものにおける
    「最初に書いたもの勝ち」で感心させられたが
    ミステリでもSFでも「説得力ある」の部分を
    読者がどれくらい興深く感じてくれるかは技術の外にあって難しそうだ
    この作品に限ったことでもないけれど

    宮内悠介『超動く家にて』
    「ほぼぎりぎりSFといえなくもなくもないかな」なミステリ
    『すべての夢~』が「マニア向け過ぎはしないかと思った」わりには
    これは良いのがよくわからない
    ミステリの限界突破をSF畑からうらやましがってるだけなのでわ

    黒葉雅人『イン・ザ・ジェリーボール』
    これも風変わりな舞台立てのミステリでSFとしてはなんとも
    ミステリとしてはおとなしめ
    参考文献のひとはミステリでなくとも読めて
    ミステリでないと読めないのとは違うと思う

    木々津克久『フランケン・ふらん -OCTOPUS-』
    この作者の作品は
    「ひとあじちがう価値観」心をくすぐるが
    『ブラックジャック』でなく『夢幻紳士』路線で
    ひとつ上の作品と同じく力量に差がありすぎる
    作品として劣っているからといって各人の好みとはまた別だけれど

    三雲岳斗『結婚前夜』
    嫁ぎ先の状況と親元との対比に
    読むこちらの心境が一方偏りすぎで効果薄
    先行作品の黄金則を反転させたのだろうけれど
    あまりうまくいっていない

    大西科学『ふるさとは時遠く』
    「どんどん高い塔を建てていくと先端は光速を超えるんじゃね」
    の麓を眺めた舞台設定発想
    天円の描写は地上のスペースコロニーでとても面白いが
    つじつま合わせるのがすごく大変そうで
    郷愁に浸っているどころでない気がする
    そのずれたのんきさが作者の持ち味と思うが
    あんまり明るい話でなくいまひとつ

    新井素子『絵里』
    「子供が親に感慨を持ってくれないなら親が負担を負うことはない」
    という意見へまともに反対するのはとても困難だが
    「予定外着床」という「事故」の責任は誰にあるかと
    「子供が親をどう思うか」と「親が子供を育てなければならない」関係を
    混ぜてはいけないのでは
    SFかどうかとかでなくお話としてしっくりこない

    円城塔『良い夜を待っている』
    別格過ぎて他の作品が霞む

    理山貞二『〈すべての夢|果てる地で〉』
    いかにも「出し惜しみなく詰め込んだ」作品
    前向きにSFらしいSF活劇
    ロバートの愛称がボブらしいのが不思議
    オーウェル効果はヴェルヌウェルズの昔から
    その反証のほうが多い気がしてしまうので
    もう少し踏み込んで欲しかった
    アイデア盛りだくさんだけれど
    「活劇」なのでもうすこし華麗なまとまりだともっと良かった

    どの短編を取捨選択するかにもよるだろうけれど
    神林円城のお二方ととり・みきのお一人は別格として
    その他は上と比較して残念
    しいてあげると伴名石持大西理山といったかたがた
    各作者様には名もなき一読者の感想などと関係なく頑張っていただきたい(えらそう)
    続きを読む

    投稿日:2018.11.13

  • Kyohei

    Kyohei

    [2011年SFアンソロジー「拡張幻想」を読んで - heyheytower]( http://maijou2501.hateblo.jp/entry/20120717/1342537347 )

    投稿日:2018.03.04

  • hitoshinakamura

    hitoshinakamura

    3.11があった2011年のSF集.1ページだけの短編というのもあったが全体的に味わい深いものが多い.「すべての夢/果てる地で」は読むのに気合がいる.

    投稿日:2015.11.08

  • kmm53646

    kmm53646

    色々な種類の作品が収録されていますので、自分の趣味には全く合わないものも多いのですが、特に気に入ったのは「美亜羽へ贈る拳銃」、「黒い方程式」、「絵里」の3編でした。特に「絵里」は重いテーマを(悪い意味ではなく)軽い感覚で書かれているのがとても良かったです。続きを読む

    投稿日:2013.10.14

  • koutaquarter

    koutaquarter

    このレビューはネタバレを含みます

    3.11を題材にしたとり・みき『Mighty TOPIO』、川上弘美『神様2011』と、伊藤計劃モノ(強引!)の神林長平『いま集合的無意識を、』と伴名練『美亜羽へ贈る拳銃』が強すぎて、ほかはあまり印象に残らなかった。まったく別種のものであるが、日本人の"SF"を変えたという点で、この二つはやはり大きかったのだな、と。どちらも最高級に強力でありながら安易に触れれば容易に変質し得る素材であるがゆえに、ここに収められた各編のクオリティには泣き笑いを捧げるしかなかった。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2013.09.02

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