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久生十蘭, 川崎賢子 / 岩波文庫 (23件のレビュー)
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ひだまりトマト
久生十蘭の短編集ですね。 久生十蘭(1902ー1957)函館生まれ。小説家。 十五篇の短篇が納められています。 解説の川崎賢子さんは『久生十蘭は、文学の諸ジャンルを横断し、複数の文化のあいだを越境し、…おびただしい書物を批評的に引用し再編しつつ、戦時下・占領下の困難な現実にそこなわれることのない、珠玉のような作品を残した。』と語らされています。 戦後期の文学を高めた名手と言えます。 人間味あふれる、深みのある作品は読みごたえがあり、感慨深いですね。続きを読む
投稿日:2024.04.07
tamazusa_do
初めて読む作家。 何かで紹介されていて興味を持ったか、購入して積読になっていた。 買っておいて良かったと思う。美文である。 初出はほとんどが終戦から5〜6年のもの。 まだ戦争の傷が癒えない時期で、戦争…がらみの物語も多い。死が身近である。 悲劇的な話多く、伝奇的な要素もあるが、おどろおどろしさは感じられず、透明感がある。 描かれていることは無惨なのに、なぜか美しい。 『母子像』なども、戦時中サイパンでの日本人の悲劇はあったが、物語の中の本当の地獄はそこではないところにある。 『白雪姫』では、氷河のクレバスに落ちた女性の遺体が20年以上の歳月を経て生前のままの姿に凍り付いて出てくる。性悪な女だったが、魂は洗われ、男の胸の憎しみも長の年月に消え、浄化されたような結末だ。 ギャンブルにのめり込み、確立の研究に人生を費やす『黒い手帳』は、呆れるほどの執念に恐ろしさと同時に滑稽を感じる。 なかなかそこら辺にはない作品の数々だと思う。 先が知りたくてストーリーばかりを追ってしまったが、地の文章をもっと味わわなくてはと思った。 編者による解説は難しく、ほとんど研究者向け。 一般人としては、物語をただ味わいたい。続きを読む
投稿日:2023.12.30
nt
久生十蘭の2冊目。1編を除いて戦後、1946年から1957年に発表されたものが収められている。1957年は十蘭が55歳で亡くなった年であり、この付近は晩年の作と言うことになる。 先に読んだ同じ岩波…文庫の短編集『墓地展望亭・ハムレット』と同様に、非常に凝縮された見事な表現が目を惹くが、物語の構成も優れているし、予想外の展開になる作品も多く、やはり、一つ一つがキラキラ輝いているような粒ぞろいである。 しかし、何故か短編集として通読すると、ちょっと疲れてしまう。1編ごとに凝縮されて濃厚な上に、文学性が多岐にわたっており、多彩すぎて作家のコアな「声」が迫ってこない。技巧的で言語表現に凝りまくっている点でナボコフを想起させるが、ナボコフにあるヘンタイっぽさは皆無で、ずっと大人しくも見える。実際にこの作家は穏やかな人物だったのだろうか。 やはりなかなか正体が掴めないこの作家へ目を凝らしても、何やら霧がかかって茫漠としている。それでいて、個々の作品は非常に優れていることも確かなのだ。 さらに十蘭を少しずつ読んでみたい。続きを読む
投稿日:2021.11.12
サイトム
このレビューはネタバレを含みます
なんとも味わい深い短編が15篇はいっています。「黒い手帖」などはなんともサスペンスがあるし、「黄泉から」とか「春雪」などは戦争で死んでいった娘たちの話であり、いたましいが、これを美しく書いている。読み返してみたい作品である。
投稿日:2017.09.03
葎花
該博な知識がさらりと反映され、しかも物語は、決してしつこくないくせに充分な分量を語って心地良い。「小説の魔術師」の異名が、確かに相応しい作家に思う。理屈や感情で通るところにこの作家の文章はない。あっと…言わせてやろうなどという作為もない。ただ、物語がくるくる渦を巻いて、読者が予想していたのとは「位相が異なる同じ場所」に落としていくイメージがある。位置的には予想通りであっても、空間が違うのである。私などはただ、語りの巧みさに釣り込まれて未知の世界へ落とされるばかりである。読後に独特の浮遊と満足があった。良い出会いだった。続きを読む
投稿日:2016.05.26
深川夏眠
文芸・演劇評論家、川崎賢子セレクト、 主に戦後に発表された久生十蘭の短編選集。 作品のテーマ・雰囲気に合わせて 自在に文体を変えているが、どれも見事。 個人的には終戦直後の作、 どことなく内田百閒に似…たテイストの 「黄泉から」「予言」など、 少し素っ気ない感じの話が特に好み。 何となくいい雰囲気を醸して上手いこと誤魔化す、 みたいな姑息な手を使わず、 鋭い観察眼と深い洞察力で人間の心に切り込み、 その断面を覗かせるような描き方が素晴らしい。 女の読者に、 登場する女性キャラクターを愛らしい、 愛おしいと思わせる手腕たるや……(茫然)。 三一書房『中井英夫作品集Ⅸ「時間」』自作解説にて 「他人(よそびと)の夢」で > 久生十蘭の「姦」を模した電話のお喋りで繋げた 部分への言及がある(p.513)が、 この本に収録された「猪鹿蝶」というのが 「姦(かしまし)」の元のタイトルだそうだ。 電話での話題に立ち現れ、 当人のマシンガントークを冷笑するかのような、 優雅な客体の涼しい佇まいが小気味いい。続きを読む
投稿日:2016.03.09
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