【感想】美食倶楽部 ――谷崎潤一郎 大正作品集

谷崎潤一郎, 種村季弘 / ちくま文庫
(6件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
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  • どっぷり浸かる甘美の世界

    表題作「美食倶楽部」は、幻想としての美食が語られる、谷崎らしい繊細でセクシャルな描写が際立つ名作。

    食の快楽と、人の欲望を満たす快楽が絶妙に重ねられ、強い印象を残してくる。
    谷崎の美しきものを求めてやまない欲求は、お腹をすかせて食べ物を欲する衝動に似ている。

    耽美主義的な大正期の作家は、高いプライドと美意識をもち、独創性を掲げる芸術家として小説を描いた。

    ドイツ幻想文学を専門にする種村李弘が選んだ、幻想文学者谷崎の夢と現実の世界を行き来する物語に存分に浸ることができる一冊。
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    投稿日:2015.03.12

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  • マッピー

    マッピー

    このレビューはネタバレを含みます

    目次
    ・病蓐の幻想
    ・ハッサン・カンの妖術
    ・小さな王国
    ・白昼鬼語
    ・美食倶楽部
    ・或る調書の一節―対話
    ・友田と松永の話
    ・青塚氏の話

    それほど谷崎潤一郎作品を読んできたわけではないけれど、明らかにこれは今まで読んできた谷崎とは全然違う。
    耽美というよりあからさまに変態寄りだったり、悪夢のような話だったり、なんだろうちょっと大衆的。
    読みやすい文章も相まって、「これ、菊池寛じゃないよな」と表紙を確認すること数度。(切り口はまったく菊池寛ではありません)

    おどろおどろしい作品もあるのだけれど、からりと乾いた文体がどうも日本っぽくない。
    どちらかというとポーとかスティーヴンソン。
    もしかしたらマーク・トウェインもお好きだったでしょうか。

    ”どうも日本人はくだらないセンチメンタリズムに囚われるんで、芝居でも活動でも湿っぽいものが多いんだけれど”(青塚氏の話)
    意識的にドライに書いたのでしょうね。
    もう少しウェットになって闇が増えると江戸川乱歩になる。

    『美食倶楽部』を読みたくてこの本を借りたはずなんだけど、一番無理だったのが『美食倶楽部』でした。
    全然おいしそうじゃないし、何なら気持ち悪い。
    海原雄山に「こんなものが美食といえるか!この馬鹿者が!」と怒鳴りつけてほしい。

    思わず笑っちゃったのが『或る調書の一節』。
    人を殺してもろくに反省もしない男、奥さんが「心を入れ替えて真っ当になってくれ」と泣くたびに自分は救われるような気がする、という。
    他に愛人がいるのだけど、奥さんに泣かれると、自分もつい泣いてしまう。
    だけど、取調官に「では奥さんを愛しているのか」と聞かれると「愛していない」と、「泣いてくれるなんてかわいいひとではないか」と言われると「顔がかわいくないので、「かわいくありません」と、実に正直にお答えなさる。
    これが真面目に行われている会話だと思うと、妙な可笑しみを感ぜざるを得ない。

    『友田と松永の話』は、絶対スティーヴンソンだわ。

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    投稿日:2024.02.26

  • 海外おやじ

    海外おやじ

    このレビューはネタバレを含みます

    谷崎潤一郎のイメージというと、耽美、エログロナンセンスあたりが思い浮かびます。

    私も若いころ「痴人の愛」「卍」「細雪」らを読んで、驚嘆した覚えがあります。いわゆるフェティシズムのはしりといえるかもしれませんが、明治生まれの人があそこまで極端な性癖を文章として露出できることに感激したものです。といっても内容は概ね忘れてしまいましたが。

    ・・・
    さて、本作「美食倶楽部」は、表題作を含め7作品を収録しています。

    個人的に面白いと感じたのは「白昼鬼語」「美食倶楽部」「友田と松永の話」あたりです。

    「白昼鬼語」は語り手の私が、神経症的な友人園村の「これから、殺人が起こる。一緒に見に行こう」という誘いから展開するツイスト満載のエンタメ小説。美しき殺人者と恋仲になりそして彼女に殺されたいという、これまた常軌を逸した園村の発言は谷崎作品ならでは。

    「美食倶楽部」は、いわゆるグルマンの集まりである美食倶楽部のリーダーの、とある一日の一シーンを切り取ったもの。主人公、全国の美食を食い尽くし飽き飽きしているさなかに漂う芳香に気づきます。香しい匂いに誘われて辿り着いたのは「浙江会館」。メンバー限定のクラブの中からです。どうしてもそこで供される料理が食べたい、きっと本場の本物の中華なのだろう。主人公があの手この手でなだめすかしておすそ分けを勝ち取ろうとする苦心のありようといったら涙がでます笑。これもまたやっと時代が谷崎に追いついたかのような描写でした。ほら、ガチ中華っていうんですかね、人気らしいじゃないですか。

    「友田と松永の話」、こちらは、奈良の旧家の奥さんから主人失踪につき相談がある話。主人公は心当たりがあり探りを入れる後に、大変な事実を最後に告白されます。

    ・・・
    それから少し感じたのは、もう大正時代の言葉は古語になりつつあるのかな、ということです。

    普通の現代文だとすらすら頭の中に入ってくるのですが、候文だったり時代がかった言葉遣いが多く、口の中でぶつぶつ読みを確認しながら読んでいて、読書スピードが全然出ませんでした。挙句寝落ちも多発。
    内容は面白いのですが、うちの子供たちなんかは素で楽しむことは出来なさそうです。きっと「読めない」とか言い出しますね。かといって谷崎を現代語訳する!?それもなあって思います。

    10年後、20年後、そのころの若者たちにも谷崎をそのままで味わって欲しいなあと思いました。

    ・・・
    ということで久方ぶりの谷崎作品でした。

    内容は実に現代的、言葉遣いが現代人にはやや難あり、といったところ。

    日本の近代文学が好きな方、ぶっ飛んだキャラが好きな方、やや古風な言葉遣いに拒否反応がおきない方にはお勧めです。

    移りゆく言葉遣いと時代に、一抹の寂しさを感じた初春の休日でありました。

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    投稿日:2023.02.19

  • 蓮子

    蓮子

    谷崎が大正時代に発表した作品集。「細雪」などの作品と比べると此処に収録された作品達は「雅」「耽美」というよりはどろっとした陰鬱さのある悪魔的な美しさだ。変態的と言ってもいいかもしれない(褒めてます)。「美食倶楽部」は「食魔人」との名がぴったりな、食に貪欲な谷崎らしい作風。「白昼鬼語」「友田と松永の話」は江戸川乱歩のようなミステリー風な物語で乱歩も影響を受けていそうな気がする。「青塚死の話」は変態性炸裂。何処か猟奇的な匂いがする、倒錯した、フェティッシュな作風はこれまた乱歩が好きそうな感じで私も大好物な作品。大満足な1冊。続きを読む

    投稿日:2019.09.23

  • 深川夏眠

    深川夏眠

    アンソロジーで芥川龍之介「魔術」を読んだら、
    谷崎の「ハッサン・カンの妖術」を再読したくなったので、
    久しぶりに手に取った。
    一段落が長くても全然気にならない読みやすさ。
    テンポがいいというよりは、
    喉越しのよい麺類のようにツルツルッと入ってくる文章。
    種村季弘セレクトによる大正期の短編小説・全8編で、
    編者のセンス・嗜好が伝わってくる好著。

    ■病蓐の幻想
     心配事が頭の中をグルグル回って、
     眠ったのかそうでないのか判然しないという、
     身につまされる嫌~な話。
     懇切丁寧な歯痛の描写は知覚過敏の読者には拷問に等しい(泣)。

    ■ハッサン・カンの妖術
     芥川龍之介にインスピレーションを与え、
     「魔術」を書かしめたと目される作品。
     語り手=谷崎が図書館で出会った
     インドからの留学生との交際。
     彼、マティラム・ミスラは子供の頃に出会った妖術師
     ハッサン・カンについて語った――。
     ミスラのセリフ(p.69)

     > 物質と霊魂とは(略)
     > どこまで行っても一致するはずはないのだから、(略)
     > いずれか一つを選ばなければならないのです

     で、T.R.コグスウェル「壁の中」の
     「人間は二つの道を同時にたどることはできない(略)
     ただし、そうするには二つの世界が必要だ」という
     ウィッケンズ先生の言葉を連想した。

    ■小さな王国
     一見平凡だが実は恐ろしく奸智に長けた子供に翻弄される教師。
     これは怖い……。

    ■白昼鬼語
     再読。
     最初に読んだのは『谷崎潤一郎犯罪小説集』で、だった。
     プラクティカル・ジョークの一種かと(かなり悪質だけど) 。

    ■美食倶楽部
     これも悪質な冗談というか。
     谷崎が「こんな話」を書いたら、こうなるのか(笑) 。
     グロじゃなくてエロ寄りだった……って、違うか☆

    ■或る調書の一部
     刑事(A)が容疑者(B)を訊問して作成された調書の一部、
     という体裁の短編。
     (B)とその妻は共依存関係にある模様。

    ■友田と松永の話
     ダイエットとリバウンドの話(笑)。

    ■青塚氏の話
     これはヒドイ(いい意味で)!
     変態節全開(褒めてるんですよ)!!
     若くして病死した映画監督が、亡くなる前、
     女優である妻に書き残していた遺書。
     カフェで接触してきた変なオジサンに絡まれて
     嫌な目に遭わされた話。
     とにかく生理的に気色悪い、
     一種のホラーと言っても差し支えない内容だが、
     アイドル(偶像)は、
     たとえプライベートで配偶者(パートナー)がいたとしても、
     支持者みんなのものだ、
     ファン一人一人の所有物なのだ――という考え方には、
     一応、首肯せざるを得ない。
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    投稿日:2019.06.04

  • pyonko

    pyonko

    不気味で滑稽でもあるが艶めかしい。

    「或る調書の一部」の掛け合いなんかは笑ってしまう。
    しかし、善いことができるはずがないから、
    気持ちの好い悪い事をするという一節にどうも心を惹かれる。

    投稿日:2015.08.17

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