【感想】靖国問題

高橋哲哉 / ちくま新書
(68件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
12
19
22
6
1

ブクログレビュー

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  • 湖南文庫

    湖南文庫

    高橋哲哉(1956年~)氏は、東大教養学部卒、東大大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学、南山大学文学部専任講師、東大教養学部助教授、東大大学院総合文化研究科教授等を経て、東大名誉教授。専門は現象学、言語哲学、倫理学、政治哲学。
    本書は、毎年太平洋戦争終戦の時季になると話題に上がる(特に、首相が参拝をした年は)、いわゆる「靖国問題」について、様々な視点から考察したものである。
    内容は概ね以下である。
    ◆感情の問題・・・靖国神社とは、国家的儀式を伴う「感情の錬金術」によって戦死の「悲しみ・不幸」を「喜び・幸福」に転化するシステムにほかならない。その本質的役割は戦死者の「追悼」ではなく「顕彰」である。このシステムから逃れるためには、戦死を「喜ぶ」のではなく「悲しむ」だけで充分である。
    ◆歴史認識の問題・・・靖国問題の歴史認識は、「A級戦犯合祀」の問題としてのみならず、太平洋戦争の戦争責任を超えた、日本近代を貫く植民地主義全体の問題として問われるべきものである。よって、仮に「A級戦犯分祀」が実現したとしても、それは中韓との政治決着にしかならない。
    ◆宗教の問題・・・これまで首相や天皇による(宗教法人である)靖国神社の公式参拝を合憲とした確定判決はなく、それは日本国憲法の政教分離規定に抵触していることを示している。政教分離規定は、神道が「国家神道」となって事実上の国教になることを、歴史的反省を踏まえて防ぐためのものであり、その改定はあり得ない。他方、靖国神社の宗教性を否定して特殊法人化することは、靖国神社が戦死者の「顕彰」の活動(=宗教活動)を止めるわけにはいかない以上不可能であるし、それは、かつて国家神道を「超宗教」と位置付けた「神社非宗教」の復活にもつながる、危険な道である。
    ◆文化の問題・・・日本の文化の根源には「死者との共生感」があり、それを首相や天皇の靖国参拝の根拠とする考え方があるが、靖国神社には「天皇の軍隊」の敵側の死者が祀られた例はなく(戊辰戦争等を含め)、それは国家の政治的意志を反映していることにほかならず、文化論的アプローチには限界がある。
    ◆国立追悼施設の問題・・・「無宗教の国立戦没者追悼施設」の新設は、追悼や哀悼が個人を超えて集団的になっていくことにより、「政治性」を帯びてくるというリスクを孕む。そうした移設が意味を持つ大前提は、日本国家としての、過去の戦争責任の認識と、非戦・平和主義の確立の二つ。即ち、「政治」が施設をどう使うのかが全てなのである。
    靖国問題は、極めて複雑な問題である一方、感情的になりやすい性格の問題である。そうした中で、自分の考えを持ち、様々な議論に参加していくために、複雑な論点を整理・理解することは欠かせない第一歩である。
    そういう意味で、著者が最終的に導き出す結論めいた見解への賛否はともかくとして、論点が列挙されている本書は一読するに値する一冊と思う。
    (2023年1月了)
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    投稿日:2023.01.23

  • mamohacy

    mamohacy

    内容が難しいというか冗長すぎるため中断しています。

    一気に読みきって終了してしまいたい。

    ↓途中までのメモ

    062 感情の錬金術
    064 A級戦犯合祀問題の本質
    067 80年代までは中国 韓国政府は黙っていた
    072 戦争指導者のみを問題にし日本兵士は被害者と見なす中国の姿勢は大幅な政治的譲歩
    073 小泉の酷い靖国思想
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    投稿日:2020.02.17

  • キじばと。。

    キじばと。。

    加藤典洋の『敗戦後論』(ちくま学芸文庫)に対して厳しい批判をおこなったことで知られる著者が、靖国神社をめぐる諸問題について考察している本です。

    著者は、靖国神社に合祀されたひとたちの遺族が示す激しい感情を参照することから議論を説き起こし、「祖国のために命をささげた英霊を顕彰する」という回路のうちに遺族の感情を回収する装置として、靖国神社が機能していることを指摘します。さらに、「歴史認識の問題』「宗教の問題」「文化の問題」「国立追悼施設の問題」というテーマにわたって、著者自身の考えが展開されていきます。

    靖国神社をめぐってどのような問題が提起されているのかということを知るのみならず、哲学者である著者がその論理的な帰結を追求していくことで、英霊に対して公的行事として報恩の儀礼をささげるということに内在している問題が明確にされているという意味で、興味深く読みました。ここまで問題の次元を掘り下げてしまうと、当然のことながら「自然」な遺族感情に依拠するような議論とは完全に乖離してしまうことは避けられにように思います。

    著者のこうしたスタンスに対しては、賛否それぞれの立場から意見があるでしょうが、「靖国問題」とされているものの論理的な帰趨を明確に示したという点では、双方の立場から読まれるべき本なのではないかという気がします。
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    投稿日:2019.11.06

  • hy343

    hy343

    靖国神社について、素朴な疑問を抱いていた。

    (1)靖国神社とは何か?
    (2)「A級戦犯」とはいえ、既に死刑が執行されている。なぜ中国等は問題視するのか?
    (3)公式参拝に違憲判決が出ているのに、なぜ小泉氏に何らのペナルティーもないのか?
    (4)内外の圧力に対して、小泉氏はなぜああも頑ななのか?
    (5)つまるところ、靖国神社は是なのか非なのか?

    そこで、この本を手に取ってみた。

    「感情の問題」「歴史認識の問題」「宗教の問題」「文化の問題」「国立追悼施設の問題」と章を区切り、それぞれの切り口から問題の所在を明らかにしていく。

    著者は哲学者なんだそうだが、それだけに筆致は論理的であり、公平に思える。そして「素朴な疑問」への答えもおおむね書いてあるように思った。
    ごくごくかいつまむと、以下のような感じ。
    (必ずしも本にこう書いてあるというわけではなく、私がこう理解したということ)

    (1)への答え…国民を喜んで死地に赴かせるために作られた顕彰装置である。
    (2)への答え…刑を全うしていない者も合祀されている。それより以前に「A級戦犯」を問題視するのは、むしろ問題を矮小化して解決を図ろうとする中国指導層の戦略である;「A級戦犯」だけではなく、「靖国の存在」自体が真の問題である。
    (3)への答え…直接合憲か違憲かを問う裁判は起こせない…らしい(起こされた裁判はいずれも「公的参拝」によって原告の利益や権利を侵害されたかどうかについての争い)。その中で「違憲」判断を示したのは2004年4月の福岡地裁判決があり、係争中が6件あるが、少なくとも「合憲」とした判決は現在までにひとつもない。ちなみに7月26日にも大阪高裁で同様裁判の判決があったが、憲法判断には踏み込まなかった。
    (4)への答え…は、明確ではない。てゆーか、小泉氏の胸の中を推し量るしかない。没論理の説明しかしていないのは確か。
    (5)への答え…戦争を非とするならば、靖国も非だ。興味深かったのは、歴史認識を明確にしないまま「国立追悼施設」を作っても第二の靖国となるだけだという指摘。

    非常に「面白い」本だった。
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    投稿日:2019.06.13

  • ykikuchi

    ykikuchi

    "靖国神社への参拝は、なぜ問題となるのかを整理する目的で本書を手にする。この本は、歴史家ではなく哲学者が論理的に伝えることに重きをおいたもの。
    1.感情の問題
     当時、戦死による悲哀を幸福に転化していく装置が靖国神社だった。
     戦死者の追悼ではなく、顕彰こそが本質的な役割。
     (追悼とは、死者を偲び悼み悲しむこと。
      顕彰とは、功績などを世間に知らせ表彰すること)
    2.歴史認識の問題
     A級戦犯の分祀が実現したとしても、政治決着にしかならない。靖国神社への歴史認識は戦争責任を超えて植民地主義の問題として捉えるべき
    3.宗教の問題
    4.文化の問題
    5.国立追悼施設の問題

    歴史を再び学びたくなった。山田風太郎の戦中日記など後に読むきっかけになった。"
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    投稿日:2018.10.14

  • Chanrisa

    Chanrisa

    このレビューはネタバレを含みます

    靖国問題について、①遺族感情 ②戦争責任 ③宗教性 ④文化 ⑤追悼施設 という観点からわかりやすく説明されている。
    今までは、靖国神社を、国のために戦ってくれた人への感謝を表する場だと考えていたのだけれども、それ自体に政治的な問題があるのだとわかりはっとさせられた。追悼施設ではなく、顕彰施設。人々の悲しみを喜びへと変えてしまったこと。個々人が靖国に賛成するか否かという問題ではなく、この神社はいまだに天皇主義が色濃く残った場なのだ。それをよすがとする者もいれば拒否反応を示す者がいるのも納得できる。
    戦後処理がもともと曖昧に終わってきた日本では、この問題が収束することはないのだろう。しかし、多くの政治的問題を孕むことは明らかに理解することができた。
    公式参拝を正当化するのは無理だ。

    靖国神社は政治性がありすぎて、純粋に平和を願って参拝するのにはなんだが気後れしてしまう。
    第二の靖国とならない、追悼施設をつくってほしい。でも無理なんだろうな。

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    投稿日:2017.10.11

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