円の足枷―日本経済「完全復活」への道筋

安達誠司 / 東洋経済新報社
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  • 坂本 龍

    坂本 龍

      安達の最も新しい著作である。安達の論には、常に豊富データによって、「レジームの転換」歴史的に何時起きたのかという視覚がある。デフレの克服とデフレの解消という二つの類似はするが、前者は中央政府と中央銀行の自覚的政策であり、解消は中央がその自覚無く、雪崩式に解消されていったという不作為の「政策」による大きな違いがある。デフレの解消には、円安ということによって、達成されるという認識が、安達にはあるのであろう。そして、無自覚な政策が、デフレ解消に向かうのにどのように作用していくかを見極める手立てとして豊富なデータが使われ「説得」することに使われる。その手際は、リフレ政策提唱者としても「異色」であるが、現状の日本の経済の状態を眺めるには、この異色さが、リフレーションの作用を知るには必要事項となっている。そこに安達の「天才」を見る気がする。
    「新しい国際経済秩序
     今後、日本が「円の足伽」を克服することができるか否かを考える際には、最近の国際経済環境の大きな変化を踏まえる必要がある。その変化とは、二〇〇〇年以降「新プレトンウッズ体制」と呼ばれる、アメリカを中心とした新たなモノとカネの流れが成立していることである。
     「新プレトンウッズ体制」とは、ラトガーズ大学のマイケル・ドウーリーらによって提唱されている新たな国際経済秩序である。ドウーリーらは、現在の世界経済では、ほぼアメリカ一国のみが最終消費者、いい換えれば世界経済の成長を牽引する「機関車」という立場にあり、そのアメリカにおける最終消費の拡大が、いわゆる「BRICS」に代表されるような新興経済圏の高成長を支えているという世界経済の構図を描いた。
     ドウーリーらは、?アメリカという世界経済の「一極」が世界の総需要を支え、?その総需要によって、そのほかの国々、とくに新興経済圏の輸出産業が発展し、当該国の高度経済成長が支えられる、という世界経済の構図は、あたかも第二次世界大戦終了直後の「プレトンウッズ体制」を彷彿とさせるものであることから、この体制を「新プレトンウツズ体制」と命名したのであった。
    アメリカの高成長を支える仕組み
     旧プレトンウツズ体制では、大戦の被害をまったく受けなかったアメリカが大戦後の世界経済をモノ、カネ両面から支え、ヨーロッパや日本の経済復興を支えた。しかし、新プレトンウッズ体制は、一九七〇年代までのアメリカを中心とする旧プレトンウッズ体制とは、その性格が大きく異なる。そこで改めて、新プレトンウツズ体制のメカニズムを概説すれば、以下のようになるだろう。
     ? 「中心国」アメリカの内需がグローバルな実体経済の牽引役として世界経済の成長を支える。
     ? その代償としてのアメリカの経常収支の赤字を「周辺国」 (東南アジア諸国、BRICS、
     および産油国)の公的外貨準備が支える。これが、アメリカの長期金利を低位安定させ、この低金利がさらにアメリカの高成長を支える。
     ? 欧米先進国の金融資本市場はすでに一体化しているため、自由な資金移動によって、先進
     主要国の長期金利は平準化される。
    ? 新プレトンウツズ体制では、従来は一次産品産出国であった新興経済圏における製造業の発展に注目する。これら新興経済圏における製造業の発展が、電力需要や原材料需要を拡大 させ、一次産品価格の高騰を導き、これらの国の経常収支黒字を拡大させている。
    従来、新興経済圏は投資超過国として、ネットでは諸外国からの資金流入が海外への資金流出を上回り、その結果、経常収支赤字国となるのが常態であった。今日では、これらの国は経常収支黒字国となり、これらの国の外貨準備が、債券投資という形でアメリカに還流することによって、アメリカ国内の資金不足(貯蓄投資バランス上の貯蓄不足)を埋め合わせている。そのため、アメリカは膨大な経常収支赤字を生みながらも、ド〜の価値は安定し、高成長を続けることができるという新たな世界経済の構図ができ上がっている(図4・1)。すなわち、旧プレトンウッズ体制では、モノとカネの親方の出所がアメリカであったのに対し、新プレトンウツズ体制では、モノ、カネ親方が、周辺国からアメリカに流入する一方、アメリカは周辺国のモノの生産を促進させる総需要をつくり出しているのである。
    一中心国と周辺国の関係
    この新プレトンウッズ体制の大きな特徴としては、
    ? アメリカの経常収支赤字および世界の国際収支の不均衡が拡大する中で、アメリカ経済の高成長が続くこと
    ? この間、アメリカヘの資金流入は止まらず、これがアメリカ、ひいては先進主要国の長期金利の低位安定を維持していることが指摘できる。長期金利の低位安定によって、アメリカを含めた多くの先進主要国で、名目成長率が名目金利を上回る状態が続き、これが世界的な安定的高成長局面を継続させていると考えられる。
     通常であれば、アメリカの膨大な経常赤字は、ドル暴落やアメリカの長期金利の急騰を引き起こし、世界経済に深刻な経済的調整局面を招きかねない。しかしドウーリーらは、この国際経済の構図は長期安定性を有すると考えている。
     前述のような「周辺国」と「中心国」の関係、すなわち、中心国の高成長が周辺国の輸出を支え、周辺国の高成長を支える一方、周辺国からの資金フローが中心国の経常収支赤字のファイナンスを可能にするという構図は、それだけ世界経済の相互依存が強まったことを意味している。
    つまり、一方が崩れると他方も容易に崩れる関係である。この状況下では、周辺国、中心国双方とも、当面はこのような世界経済の構図を壊すインセンティブを持たないのである。
     また、周辺国からの資金フローの多くが公的準備であるということは、為替介入による周辺国の為替レートの低位安定化を意図した政策的なマネーフローであることを意味している。そして、それが周辺国の輸出条件を有利にし、高成長が可能になった。これらは、民間投資家主導のマネ−フローが中心であることから、ホームバイアスを調整したベースで、ファイナンス理論でいうところの分散投資の有効性が常に意識される欧米先進国の投資スタンスとは異なり、期待リターン如何にかかわらず、アメリカヘの投資を志向し続ける可能性が高い。その意味では、周辺国の政策スタンスそのものの変更がないかぎり、この経済システムは安定性を有すると考えられる。」
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    投稿日:2007.09.25

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