【感想】無実はさいなむ

アガサ・クリスティー, 小笠原豊樹 / クリスティー文庫
(24件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
6
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ブクログレビュー

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  • おけいはん

    おけいはん

    このレビューはネタバレを含みます

    一族の汚名を雪いだはいいものの、それによって歯車が大きく狂い、様々な苦悩を生んでしまう。
    Ordeal by Innocence というタイトルがそれをよく表している。
    レイチェルによって「人為的な方法によってつくられた」一家。レイチェル自身は本当の家族になれると信じて疑わなかったのだろう。でも、最後の各人のその後を見るに、やはりそれはうまくいかなかったということだと思う。
    慈善事業と家族の在り方、児童虐待の根深さなど昨今の社会問題に通ずるテーマが盛り込まれている。
    「そのくらいにしとかないとクリスティに殺されるよ」と多くの読者が思ったことだろう。正義を貫こうとするキャルガリが報われて何より。

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    投稿日:2024.03.19

  • オズ

    オズ

     無実はさいなむ
     女性資産家の殺人事件。逮捕されたのは養子の息子(ジャッコ)。息子は獄中で半年後に亡くなり、しかしアリバイを主張していたが、確認されなかった。二年後、事件の起きたアジール家にキャルガリという学者が訪れる。彼は二年前の事件当日、屋敷から離れた場所で逮捕されたジャッコを車に乗せた事実を伝えにやってきた。
     事件当時は交通事故に巻き込まれ、その後僻地での仕事の為、彼が逮捕されたことを知らず。せめて死後であっても彼が犯人ではないという事実を明らかにする為にアジール家を訪問する。
     殺人の罪で逮捕された無罪の男。彼のアリバイを持ちながら不幸により証言できず、良心の呵責を持つ学者。犯人と思われていた人物の無罪がわかり、動揺するアジール家の人々と関係者。
     そして当然、事件は再捜査になり、それを担当する陰気な警視のヒュイッシ。
     この作品では主人公と言われる人物がいない為、様々な目線、心情から物語が明かされていく。アジール家の人々は子供達は全員養子で性質も異なり、全員が一癖、二癖もある人物達で、その他主人の秘書やお手伝い、娘婿等人物も豊富で一体どういう性質の事件で女性資産家が殺害されたのかが終盤までわからない。また、アジール家の人々は事件を掘り返す事を拒み、それでいてそれぞれがそれぞれを疑う様な状態になっていく。屋敷全体に不穏な空気が蔓延り、様々な物が崩壊していく手前にある。
     当然、二年前の事件で警察が新事実や証拠を押さえる事も難しく、更にはアジール家の人々も非協力的だ。一方、キャルガリも自身の行動によりもたらした結果が更なる不幸の連鎖になる事に責任を感じ、独自に真相を追求する。
     
     作品としてプロットはクリスティの中でも屈指では無いだろうか。現代のミステリーでもこの様な多角的な視点でのミステリーは少ない様に思う。真実を告げたキャルガリ学者目線、再捜査により何としても事実を明らかにしたいヒュイッシ警視目線、そして養子の婿であり屋敷に留まり事件の究明に好奇心を燃やすフィリップ目線が主な視点だが、その他登場人物達の目線から語られる章も沢山あり、かつ養子姉弟という関係性を考慮しながら進行する為、少し複雑になっている(探偵や語り手が固定されていない為、その部分が不満の人もいる様だ。しかし想像してみると多角的な視点から物語の本質へフォーカスされていく様子はとても見事でドラマチックだ)。
     残念な事は、最後結末(犯人が判明してからエピローグに至るまで)がまるで手抜きの作文みたいに一瞬で終わってしまう事だ。犯人を究明するパート迄至高の流れだったのにいきなりトーンダウンどころかクリスティがどこかへ行ってしまったかの様だ。実はもっと話を長くした方が重厚感や様々な人間模様が見れるし(絶望感、愛情、信念、守秘、悪意、憎悪の全てがあるはずの作品なんだ)最後の陳腐なメロドラマオチも丁寧にまとめれば傑作の一つだったのではと思う。
    しかしそれでも星は5なんだ(笑)。設定、犯人の意外性、動機、悪意。これだけでもこの小説が充分に面白いと思ってしまう!!
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    投稿日:2023.10.27

  • アン

    アン

    あまり楽しめなかった。ミステリーは人間ドラマを楽しむタイプだが、キャラクター描写が一面的すぎるし、往々にして偏見や差別(時代背景があるとはいえ)が隠せない視線を感じる。ミステリーの種明かしにも小気味良さはない。続きを読む

    投稿日:2023.02.10

  • bluecoat

    bluecoat

    母親を殺したのでは末の養子ではなかった。
    では、夫、秘書、使用人、養子養女たち、のうち、
    だれが殺したのか?

    という、ショッキングな状況のわりに、
    淡々と進む印象を受けました。
    三人称視点で書かれていますが、
    人物の心情描写が薄いからでしょうか。
    でも、人物の心情描写を詳しく書くと、
    誰が犯人かがすぐ分かってしまいますね(笑)

    なお、実行犯はトリックのためだけに創造されたということを、
    あからさまに感じさせるのがクリスティの怖いところ。
    続きを読む

    投稿日:2021.09.24

  • tanaka9999

    tanaka9999

    2004年発行、早川書房のクリスティー文庫。解説は濱中利信(ミステリ評論家)。解説によると失敗作。でも作者はベストテンに入れているという。「失敗作」と見做している理由は何点か解説があげているが、ほとんどは納得できるもの。しかし、心の内面を描いて暗く流れる話はなかなかに面白い。ただ確かに最後の謎解き部分がどのように出てきたかわかりにくいかな。続きを読む

    投稿日:2021.08.07

  • ao-neko

    ao-neko

    慈善家の夫人が殺され、その養子ジャッコが逮捕され獄中死した事件。その二年後、とっくに終わったはずの事件に光明をもたらすかのように思える、ジャッコの無実を証言する者の訪問。しかしそれは誰にも喜ばれるものではなく、新たな波紋を生み出すことになる。いったい犯人は誰だったのか。家族間に疑心暗鬼が渦巻くミステリ。
    冤罪が晴らされることは場合によっては望ましいのだけれど。その代わりに真犯人がまた家族内にいるのでは、という疑念。そしてうまく罪を逃れたように思えた真犯人にとっては戦々恐々の心地だろうし。そりゃあ波紋を投げかけるに決まっていますが。無条件に喜んでもらえると思っていたキャルガリ、軽率です(笑)。しかしまさかこの家族の複雑さは思ってもみなかったでしょうが。
    それぞれの思惑が捩れて絡まり、もう誰が犯人であってもおかしくない状況。ただ、最後の方になると犯人が誰かというのはとても分かりやすかったのです。でも過去の事件の真相は意外といえば意外。
    続きを読む

    投稿日:2021.07.31

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