【感想】火星年代記〔新版〕

レイ・ブラッドベリ, 小笠原豊樹 / 早川書房
(100件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
30
34
17
1
1
  • 抒情詩

    この作品は1999年の夏からはじまり、2050年代にかけて地球人によって入植され移り変わってゆく火星を連作短編小説集といった形式にして描かれた作品です。SFというには科学的考証などには無頓着なのでSFというよりはファンタジーというべきでしょうが、それよりもこの作品の真骨頂はその抒情詩的な文体にあると思います。
    作品のオープニングにあたる“1999年 ロケットの夏”と題されたたった3ページほどの部分。ロケットがはじめて発射される時の大人も子供も熱狂する様をこれほど詩的に、優しくつづった文章にはなかなか出会えないでしょう。それより先は地球の人々によって火星がじわじわと汚されてゆく様が描かれてゆきます。ちょうど地球を汚していったように...。
    これを読むと最近の宇宙ビジネスさえ罪深いものに思えてきます。人間って観光旅行でさえ、その土地を汚したりしてますからね。
    続きを読む

    投稿日:2013.09.25

  • ブラッドベリと言えば、これ

     これなくしては語りようのない、ブラッドベリの代表作です。

     未来SF小説ですが、1999年1月の出来事から始まります。
    地球では、第1次 火星探索隊が出発。 しかし、帰還せず。
    そして、第2次 探索隊も行方不明となり
    2000年4月に第3次 探索隊が...
    ようやく、読者には何が起こったのかが分かりますが
    この隊も行方不明になり、地球は未だ何も知りません。

     2001年6月、第4次火星探索隊が着陸した火星は...
    同年8月、第1次 火星移住者のロケットが到着して
    以降、町が建設され、子供が生まれ...
    最後の記述は 2026年10月、
    その時、地球人が見た火星人とは... ?

     銀色に輝くロケット、遥かな宇宙に
    人間は何を夢見て求め、何を見、そして何を知るのか?
    ジャンルは SF, しかし
    悲しく優しく美しく、叙情的ですらあります。
     日本語翻訳本でも、色や音、風や水も感じられる
    豊かな表現に魅了されます。
    (私が読んだのは、旧版です)
    続きを読む

    投稿日:2014.04.30

  • 1950年に思いを馳せる死の星MARS

    2030年(改正版なので1999年から大人の事情により変更)に火星へと人間が到達し2057年までのオムニバス形式で火星にやってき地球人の物語です。レイ・ブラッドベリは戦後間もない頃(1950年出版)の核戦争を想定して地球が滅びる前に第二の地球として遠い遠い火星を選んだのでしょうか。
    新たな惑星への移住、地球を捨ててきた様々ん人々の様々な思い、第2の人生としてやってきた人々がほとんどで、叙情的なストーリーで様々物語を堪能出来ます。火星は第2の母星になるのでしょうか。2016年現在も火星への移住を目的に火星探査が続けられてます。
    続きを読む

    投稿日:2016.12.05

  • 火星と人類の歩み

    人類が初めて火星に向かうところから始まる、連作短編集です。短編作品が時系列順に並んでいるため、読み進むにつれて物語中の時代も進んでいきます。ときどき登場する装飾的な文体がちょっとくどく感じるものの、全体としては比較的読みやすい部類に入るでしょう。
    古典とされる作品なので正直内容はあまり期待していませんでしたが、各短編はそれぞれ雰囲気が異なっていて飽きることなく読めました。怖かったり、滑稽だったり、ちょっとほのぼのしたり、考えさせられたり……これは今でも十分通用する古典ですね。もっといえば、本書の時代設定は現代~近未来ですので、今の時代に読んだからこそ心に響く部分もあったと思います。
    続きを読む

    投稿日:2013.11.04

  • 傑作

    SFの古典的名作です。
    古典的名作というと小説に限らず漫画でも映画でも、「当時はエポックメイキングだったけど、それ以降、その作品を真似た上にさらに新しい要素を付け加えた名作が出ているので、今読む(見る)と、まぁ普通」という作品があります。
    しかしこの作品は今読んでも十分面白いです。それはおそらく、非常に叙情的だからでしょう。
    SFといっても難しい科学的な説明や理屈はありません。そういう点では藤子不二雄の漫画と通じるところがあるかもしれません(もちろん、この作品のほうが藤子不二雄より先にあったのですが)。
    僕は大人になってから読んだのですが、多感な中学生ぐらいの時に読んでおきたかったなぁと思える作品です。
    続きを読む

    投稿日:2013.10.28

ブクログレビュー

"powered by"

  • はやみ

    はやみ

    このレビューはネタバレを含みます

    最初どうしてもイメージできない描写がひたすらに続き、これ読み切れるかなと心配していたのだが年代が進むにつれて加速度的に読みやすくなる。でも文明のうつろいを描写で感じることになるとは……。
    「優しく雨ぞ降りしきる」のスピード感と「火の玉」における信仰対象への解釈の話がいっとう好き。こういう話、自分で思いつきたかった!というタイプの面白さ。

    私にはまだ言語化が難しいところがたくさんあるのだが、先に同作者の華氏451度を読んでいたのでこの辺りは作者のテーマなのかなと思った。たまに殴りかかるような風刺が飛んでくるのでまったく油断できない。
    ホラーっぽいなこれ…という描写もちょくちょくあったが、巻末の解説にある掲載誌の話を見て納得した。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.04.04

  • aqua

    aqua

    このレビューはネタバレを含みます

    火星がどんな風に侵略されたか、地球はどんな状況なのか、地球人は何を考え火星へやってきたか、それらをいくつもの短編を読んでいくことで把握できるようになっているのが面白かった。喉元にナイフを突きつけられたような恐怖を味わう話もあったし、心を押しつぶしてくるような話や、詩的で美しい話もある。
    目線が変われば見えてくるものも違っていて、それぞれの立場で真実を見せてくれるのが良い。これが一人の主人公の語りであれば偏った情報しか得られないからだ。
    いくつか印象的な短編があった。第三探検隊が懐かしさの中で殺された話。地球人の愚かさに抗おうとしたスペンダーの話。火の玉に出会った神父たちの話。死んだ家族を造った男の話。火星人になった話。どれも忘れがたい。きっとこうやって争いや悲しみはひとつひとつ積み上がって、戻れないところまで来てしまうのだなと思った。
    ラストの水面を眺めるシーンはゾッとさせられたけれど、それ以降の年代記も読んでみたい。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.02.18

  • dunlopsystem

    dunlopsystem

    このレビューはネタバレを含みます

    評価も感想も非常に難しい。とりあえず詩人、幻想みたいな謳い文句に引っ張られると結構具体的な描写をしていて、拍子抜けするかもしれない。
    普通に人が死に、殺し、殺される。地味で淡々としているが、かなり無常でダークな作風だ。ダークといっても暗黒ではなく冷たい暗灰色といった感じ。
    かなり読むのにコツが必要で、現実的な先入見は捨てなければならない。火星と言っても当然リアルな火星ではない。しかし人の見た夢の中の火星も違う気がする。地球が見た夢の火星みたいなイメージだ。本人が神話と表現するように幽世みたいな。まあよくは分からないが。

    最初は捉え所がなくて微妙だと思ったのだが、終盤に進むにつれ文章のキレ味も増してくる。華氏451度のように文章でぶん殴ってくるような衝撃はないが、やはり表現の核も結論も変わってはいない。
    最後に収録されている『優しく雨ぞ降りしきる』と『百万年ピクニック』の表現力や抒情性はやっぱり素晴らしい。
    短編集ということだが、各話一応連続性があり、この百万年ピクニックで完成し、そういうことだったのかと納得する作りになっている。
    そして三体III下などはある意味この作品の改変バージョンであることに気付く。代表作と呼ばれる理由もそこにあると思う。埋め込まれた後続への種子が咲いたのだろう。創作を通した著者の計画は成功しているのかもしれない。
    ただ一つ、年代表記は不要だったと思う。あまりに展開が性急すぎる。

    瞬発的な面白さは無いが、徐々に良さが浸透してくるタイプで、ある時ふいに読むと波長が合って頭に入ってくる感じだ。しかしそのタイミングは分からず、読めない時は本当に読めない。読める時も作者が序文で宣言している通り、答えが明快に解るとかではなく、何かスッと感じ入り読めてくるとしか自分には表しようが無い。まあこの序文が最も意味が分からないのだが……。だから面白いという観点では評価出来ず、かなり読み手を選ぶと思う。全く読んだことがないので詳細不明だが、確かに星新一が影響を受けたっぽい作風だが、更に掴み所がなく解り難い話だと思う。キノの旅などが好きな人には刺さるかもしれない。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.01.30

  • マサル

    マサル

    「ロケットの夏」から始まる、火星年代記。地球から火星へとやってくる人々。面白い話があれば、怖い話もある。痛烈な風刺もあれば、切なく悲しい話もある。ブラッドベリが描く数々の短編。視覚的にも思い浮かべやすいストーリーが多い。
    序盤は夢や希望溢れる話が多いと思いきや、一癖も二癖もある展開。終盤は物悲しい話が続くが、絶望的な暗さではない。この辺りの匙加減が絶妙。
    続きを読む

    投稿日:2023.10.05

  • 司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    「火星への最初の探検隊は一人も帰還しなかった。火星人が探検隊を、彼らなりのやりかたでもてなしたからだ。つづく二度の探検隊も同じ運命をたどる。それでも人類は怒涛のように火星へと押し寄せた。やがて火星には地球人の町がつぎつぎに建設され、いっぽう火星人は…幻想の魔術師が、火星を舞台にオムニバス短篇で抒情豊かに謳いあげたSF史上に燦然と輝く永遠の記念碑。著者の序文と2短篇を新たに加えた新版登場。」続きを読む

    投稿日:2023.09.15

  • らばぴか

    らばぴか

    地球の人間が火星を訪れ、人間のための世界を作り、去っていく経過を描いた連作短編集。そしてブラッドベリやっぱりすごい、登場人物は皆生き生きと動き回り、情景がくっきり浮かんでくる語り口。時にファンタジー、時にホラー、時にコメディ。滑稽であったり、無常感を纏っていたり、とにかく生々しく感情の色々な部分を揺さぶってくる短編の数々。
    特に良かったのは穏やかな夏の夜を楽しむ火星人たちが人間の到来を知らずの間に知覚してしまう『夏の夜』、火星に到着した探検隊の夜を描く『月は今でも明るいが』、大焚書であらゆる本が焼かれた地球を抜け出してきた男が、火星にポーの作品に出てくる陰鬱な館をこしらえる『第二のアッシャー邸』、老夫婦のもとに地球で死んだはずの息子が現れる『火星の人』。あと傑作集に収録されていた『優しく雨ぞ降りしきる』もやっぱり好きでした。でも実際のところ、全編良かったです。良かった。
    続きを読む

    投稿日:2023.08.08

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。