遠い山なみの光

カズオ・イシグロ, 小野寺健 / 早川書房
(98件のレビュー)

総合評価:

平均 3.4
6
32
36
10
1
  • カズオイシグロの世界

    悦子はイギリスで安住し、佐和子はアメリカの夢を見る…。
    大日本帝国時代の夢が大英帝国下では緩やかに続いているという日本人の琴線に触れる悲しいストーリーです。
    大日本帝国は本当に外見だけは偉大でした
    けれど、実際は、国家神道なる排外思想とアジア選民主義で中国の協力も得られないまま、海洋国家としての長大な防衛線を守るあてもなく、資源もなく、空母は輸入で内製化の量産も確立しておらいないというお粗末な内容でした。
    そして、そのことを誰も口に出せなかったという本末転倒な国家神道効果で、ついに中国との日中戦争を抱えながら、南印進駐、対英戦争、日米開戦に突き進んでしまったわけです。
    カズオイシグロの父親は海洋学者らしいですが、おそらく戦争には反対か中立だったのでしょう。そうでなければイギリスが受け入れるはずもありませんから…。
    日本ではあの戦争から年月だけは経っていますが、この遠い山なみの光は日本人の心を射貫く力があるでしょう。
    左翼はソ連崩壊とマルクスの死によって力を失いましたが、それが極右としての戦犯支持層、靖国参拝を公的に行う準極右の台頭を招いたことは、この作品中の”緒方”老人的な立ち位置にある方々が対外最終戦争の敗北を鼻にもひっかけていなかったことの裏返しでは、と考え込んでしまうような現実が今にあります。
    藤原さん的な上流半有罪層の諦念、悦子のような中流無罪層の明日と欧州への無邪気な甘え、そして佐和子的な上流有罪層がアメリカに見る夢…。
    …まるで、今の日本に当てはめても全くおかしくは無いとは思いませんか?
    非常に上手いです。
    是非読むべきでしょう。
    星5つ。
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    投稿日:2018.09.18

ブクログレビュー

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  • Hitsuji Bungaku

    Hitsuji Bungaku

    このレビューはネタバレを含みます

    読後感としては、何か綺麗な音楽を聞いたような印象だった

    語り手の日本とイギリスとの生活を交互に、最後には一緒くたに語ることで、物語に重層感が与えられている気がした

    佐知子と万里子の不気味な夫婦が、物語に不穏な感じを与えており、さらに語り手の悦子の娘である景子が自殺したことが重く、暗い影を物語に投じている

    現在と過去を交互に描く手法は読んでいて、その2つのつながりを意識しながら読むことになり、想像力がより働かされた

    ニキと景子という、悦子の生んだ対照的な娘が印象的だった
    生と死のような、明と暗のような、光と影のような対極的な存在が、悦子という1人の母親から生まれ、それぞれの人生を歩んでいくことが、1人の人間が抱える対称性のようなものを感じさせた

    緒方さんと二郎という、キャラクターの色が全面に出ているのも読んでいて面白い

    佐知子が頼みの綱とする、フランクというアメリカ人の男が、佐知子と万里子の不確定な未来を象徴するように不気味に、謎の人物として描かれている

    のちに、景子はイギリスに渡ることになり、景子の未来が佐知子と万里子によって暗示されているようにも読めた

    物語自体になにか読み進めるドライブとなるものがないといえば、ないのだが、自然と読み進めてしまう静謐な文体が見事

    万里子と子猫の関係が、万里子=子猫として、万里子のこの先の困難な運命を暗示しているようにおもえた
    佐知子が子猫が入った箱を川に流すシーンでは、万里子を大切にしていると考えつつ、本当には万里子のことを考えられておらず、幸せにするどころか不幸な運命を歩めさそうとする母佐知子の誤った認識が表れているようだった

    わかりやすく、読みやすい簡潔な言葉で、言葉では表しきれない人々の定めを端正に描いているイメージだった

    将来の生活に希望を持つ過去の語り手と、娘を失った現在の語り手との対比が際立っている

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    投稿日:2020.01.31

  • cinejazz0906

    cinejazz0906

    日本の戦前から戦後にかけての時代環境の大変革、価値観が大転換する日々の暮らしの中にあって、人生の不条理に抗って生きる母娘と取巻きの人々を、復興の兆しが見え始めた被爆地長崎の丘陵地を舞台にした回想の物語。登場する女性たちの心情は、自らの人生の薄闇の中で、過去の清算の方法を手探りながらも〝かすかな希望〟を求めて彷徨う魂であるかのように感じられる。戦後の長崎で生まれ、英国に帰化した【カズオ・イシグロ】氏の処女長編小説は、淡い幻想と夢想の世界へと誘われる。続きを読む

    投稿日:2019.12.10

  • もりやん

    もりやん

    敗戦後、社会の有り様が変わる中で、女性のあり方も目まぐるしく変わっている。そういう変化を、大げさに、直接的に描くのではなく、街に生きる人々の会話の中に自然に盛り込んでおり、そこは読みやすかった。物語の構造が面白くて、佐知子と悦子、万里子と景子の被りが不安感を増長させるんですよね。特に、最後の強い口調で万里子を諌める悦子の姿に強烈な違和感。ここは解釈が分かれそうな気もするけど、誘導が巧みで面白いなと思いました。もう一度読み込んでみないとわからない。続きを読む

    投稿日:2019.06.28

  • かーかー

    かーかー

    とても読みにくい本だったと思います。いや読む事は出来たんだけど、読み解くというか理解するのが困難でした。佳境となる部分は分かるんだけど、この会話や展開が意味する事はつかみ切れなかった気がします。だけど、そんな不確実さがこの本の魅力だったりするのかなとも感じてなんだかよく分かりません。とりあえず、時間を忘れて夢中になれたので良かったです。続きを読む

    投稿日:2019.05.06

  • hvnstr

    hvnstr

    このレビューはネタバレを含みます

    カズオ・イシグロの処女作。
    叙述トリックというのか、文を連ねるうちに、人物の背景が明らかになる。あっという間に迷路の行き当たりにぶちあたったような地点があり、そこが訴えることの意味(日本の戦後の卑屈な欧米主義、自虐史観による教育の骨抜き)が立ち現われてくるときの、驚きに目を啓かれる。

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    投稿日:2019.01.29

  • YAJ

    YAJ

    このレビューはネタバレを含みます

     著者作品は2作目。『私を離さないで』が、そうとう重厚で奥深い内容だったから、覚悟して読み始めたが、それよりは格段に軽く、でも格調高いというか、思索に富んだ面白い作品だった。

     まだ2作目なので、作風云々は語れないけど、”価値観”というものを考えさせられる。訳者あとがきでは、

    「彼は、価値のパラダイムが変ったとき ― 戦争に負けたときなどが典型的な例である ― に訪れる過渡期の混乱のなかでも、不条理という見方だけで割り切らず、たとえかすかなものでも希望を棄てない生き方を描くことが多い。」

     とある。 登場人物間で交される、けっして交わることのない会話が実に印象的で、摩訶不思議な虚無感を抱かせる。面白い。戦前の価値観と戦後の価値観、グローバリゼイションとローカライズ(当時はそんな発想すらなかったろうけど)の平行線をたどる様が延々と描かれるが、時代を経てそれらがどうなったかを考えみると面白い。

     面白いと言えば、舞台が長崎であるのにお国ことばを使っていない点。リアリティを求めるなら、地元の人々は、長崎弁、博多弁など、九州界隈の方言で記されるべきだ。ここが原書の英文の翻訳小説である点の面白いところだ。訳者小野寺健氏は、敢えて、標準語による訳を選んだのだと思う。
     選んだ理由は、時代感が出るからだと拝察。解説で池澤夏樹が「小津安二郎の映画を想起するのはさほどむずかしいことではない」と記すように、言葉遣いが『東京物語』、原節子弁なのだ。原文(英語)で読むのとでは、大きな差のでるところだろうなと思う。

     てなことで、翻訳モノへの興味は、昨年来継続中。
     ”作者から、ある人物の名にある漢字は避けて欲しいという連絡”があったのは、誰のことだろう。うどん屋の藤原さんちの息子の和夫ではないだろうか? ”一雄”として著者の存在を想起させては、違うということなのかなと想像している。

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    投稿日:2019.01.11

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