【感想】木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

増田俊也 / 新潮社
(163件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
98
38
12
2
0
  • 格闘技ファンじゃなくとも必見の一冊

    筆者は柔道史上最強の男、木村政彦がなぜ力道山に負けたのか?それは、プロレスのアングルだったのではないか?という、仮説を証明するために木村の半生を軸に知られざる戦前戦後の柔術•柔道界、格闘技界の歴史を辿っていく。
    (講道館柔道が柔道の唯一の流派だとおもっている方も多いのでは?)
    そして、最後に作者がたどり着いた結論は??
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    投稿日:2013.09.28

  • 腹から湧きでる悔しさを殺すことは、人を倒すより難しい。

    自身も柔道選手であった新聞記者・増田俊也が、柔道史上最強の木村政彦の真の姿を伝えるべく、18年の歳月をかけて取り組んだ圧倒的な取材の記録。

    日本柔道史において傑出した存在であり、15年間不敗のまま柔道界を引退した柔道家・木村政彦。「負ける」ことが一番嫌いで、練習中にただ膝を付かされたというだけで悔しくて眠れず、深夜に包丁を持ち出して相手を刺しに行こうとしたほど。ヒクソン・グレイシーの父、エリオ・グレイシーが柔術の試合で唯一負けたのが、木村だったとも言われています。

    とても挑発的なタイトルにもある力道山の存在が、彼の人生を大きく変えました。力道山とプロレスラーとなっていた木村との試合は、引き分けで終わらせるという約束の試合でした。ところが、力道山は約束を反故にしてだまし討ち。敗れた木村は表舞台から姿を消しました。人一倍、負けず嫌いだった彼の悔しさは、想像を絶します…。

    「力道山に負けた男」と報じられた木村は、後に「勝負の世界なんだ、いまさら弁解も何もしない、まさしく僕の負けだ」と語ったそうです。果たしてそれは彼の本音なのか。力道山への怒りと、哀しみを抱えながら生き抜いた半生を丹念にたどります。
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    投稿日:2016.11.11

  • 格闘技に興味なくてもはまる、寝不足必至の面白さ

    すこぶる面白い。700ページでしかも二段組の大著だが、数日の間一度も読書が遠のくことはなく、文字通り貪るように読んだ。
    だが、読後感はすっきりしない。
    これは戦後以降からの章で感じていたことだが、読めば読むほど木村という人物がわからなくなる。人より3倍も練習し試合前には瞑想もするほど精神が研ぎ澄まされていたはずなのに、思想・信条が心のうちに芽生えてこないというのにも納得いかないが、負ければ切腹する覚悟をもって勝負に臨むと言う一方で、練習も程々でしたたかに酩酊して現地入りするのだ。鬼と呼ばれるが性質は柔和。
    力道山には卑怯なだまし討ちで負けただけで真剣勝負なら勝っていたはずという作者の思いは、太田の「後になって悔やむならリングに上がるな」という一言で一気にしぼむ。面白いのはこれを作者は隠さず、手の内をさらしていることだ。
    読後この一戦を見たが、どうひいき目に見ても木村が負けるべくして負けたという印象しか残らない。本を手に取る前に見なくて良かった。ただ天覧試合はあるなら見てみたい気がする。
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    投稿日:2013.12.12

  • 700ページ二段組み それも気にならないほど熱中できる

    柔道史上最強と詠われる鬼の木村政彦と力道山の昭和の巌流島決戦を中心に木村の歩んだ道が綴られている。
    もう一方の主役力道山以外にも大山倍達、塩田剛三など伝説のあるいはマンガの主人公が話に絡む。

    戦前の木村は柔道日本一をめざし激しい修行に明け暮れる。今の柔道より実践的で寝技、関節技以外に当て身、つまりパンチや蹴りもある総合格闘技に近いものだったようだ。足払い一発がとにかく痛いらしく得意技の大外刈りも切れが鋭く受け身がとれず失神者続出、とうとう練習では禁止になり又グレイシー柔術ではキムラロックと名付けられた腕がらみは立っても寝てもかけることができ、通常とは逆の左手を極めながら投げる一本背負いなどもあった。寝技でも下からの三角締めなど当時開発された技は多くレベルは非常に高かった。

    師匠もすごい何せ名前が牛島辰熊だ。自らが果たせなかった天覧試合での優勝を弟子の木村に託す。また思想家でもあり東城英毅暗殺を試み、柔道が強くなること以外には興味がなく一方で師匠には逆らえず実行犯にさせられそうな木村がなんとか逃げ回っていたようでもある。

    1日9時間の乱取り、うさぎ跳びで風呂に行き、腕立て1000回、巻き藁突き左右1000回、立ち木への打ち込み数千回が日課でとうとう木が枯れてしまい、眠る前にはイメトレまでこなすのが日課で、その結果畳の端を持ってあおいだり、100Kgのバーベルを腕の上を転がしたりとエピソードは満載だ。

    また精神力もすごい、負けたら腹を切ると思い詰め実際に本当に切れるか確かめている。この結果日本選士権を3連覇し、戦争を挟んで15年間負けなしであった。

    戦後は師匠の牛島の興したプロ柔道に参加するが客は入っても出る方が多く興行は行き詰まる。そのころ妻の結核の薬代を稼ぐためにハワイに渡りプロレスと出会った頃から運命が変わり始める。木村は師匠とは違い金があれば使いやりたい放題の悪ガキのままでもあった、簡単に金が入るプロレスについては勝負だとは考えていなかったようだ。

    ブラジル遠征では伝説のエリオ・グレイシーとの一戦が行われた。会場は前年のワールドカップ地元開催の為にたてられたマラカナン。決勝でブラジルは悲劇の逆転負けを喫しており、ここで行われたブラジルの英雄との一戦はワールドカップの決勝と同じほどの熱狂ぶりだったらしい。
    練習していなくても自力が違い過ぎ試合は一方的になる。ついてキムラロックでエリオの腕を折るがそれでもタップしないエリオにセコンドの兄が代わりにタップした。木村はエリオの執念をたたえ、エリオは後年この唯一の敗戦を生涯忘れられない屈辱であり誇りであると語っている。

    一方の主役力道山も同時期にプロレスを始めている。実力もあったようだがそれ以上にスターにのし上がったのはプロレスというショーを理解し、またあらゆるものを利用したしたたかさにあるようだ。シャープ兄弟を呼びタッグに木村を口説き落としたが自分が主催者として木村に負け役を押し付けて行く。

    金を稼ぐためにプロレスを受けた木村だが負け役が続くにつれ世間の評判が落ちて行くのに耐えられなかった。力道山に対して真剣勝負なら負けないと挑戦状を叩き付ける。しかしそれでもプロレスの範疇であり、力道山と同格の結果を出せればいいと思っていたらしい様子が見える。

    第一回の日本選士権は引き分け、二回目は勝ちを譲るとの念書を出すが力道山はのらりくらりと自分は出さないまま契約が決まった。試合前トレーニングに精を出す力道山と酒ばかり飲んでいる木村。木村はいざとなれば寝技に持ち込めば勝てると思っていたようだがコンディションの差は大きい。途中まで八百長を信じていた木村に対しいきなり仕掛けた力道山。右ストレートがまともに入るがその後もまともにガードせず一方的に打たれ続けた木村はKOされた。試合後も木村が八百長を持ちかけたと念書をマスコミに流す力道山。マスコミに叩かれる木村。リング内でも外でも木村は負けた。何があっても負けないと準備していた木村であれば油断はなかったろう。しかしプロレスは勝負と思わず準備を怠ったために負けたのだ。

    怪我の見舞金という形で力道山と木村は手打ちをする。しかし写真撮影が終わると力道山は帰る木村を見送りにも来ない。この後木村は短刀を持って力道山をつけ狙うがそのうち恨みを抱えたまま田舎に帰り、この後の半生を苦しみ続けることになる。

    東京五輪ではヘーシンクに対抗できるのは当時47歳の木村しかいないという意見もあるほどで実際に練習に来たメダリストたちも寝技ではおもちゃにされていたらしい。最後のエピソードでは弟子の岩釣が地下格闘技のチャンピオンとなり誰も知らない世界で木村の柔道が強いことを証明したと遺言代わりに伝えている。
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    投稿日:2014.01.01

  • 腸が煮えくり返るほどの怒りのやり場はどこだったのか

    “このミス”出身の小説家増田俊也が、ノンフィクション作品の書き手として素晴らしい仕事をしたのが、本書『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』。

    日本の柔道史上最強と言われ、15年間不敗のまま柔道界を引退した怪物、木村政彦。練習中に膝を付かされることすら彼には耐え難く、深夜に包丁を持ち出して相手を刺しに行こうとしたという伝説が残るほどの怪傑だ。

    その木村が、相撲出身の英雄力道山とのプロレス試合で、引き分けに終わる約束がだまし討ちにされ、敗北を期してしまう。それを契機に木村は表舞台から姿を消していったのだった。

    最強とうたわれた男が、卑怯な手段で土を付けられた。「力道山に負けた男」と冠がついてしまった木村の心中はいかなるものだったのか。膨大な資料と取材で描き出した圧巻の1冊。
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    投稿日:2014.03.12

  • 時代に封印されたプロレスの1つの歴史書

    とはいえ、すべてが真実と確定しているわけではなく、本書はかなり木村側にたったものの見方をしています。
    力道山がプロレスラーとして以外の部分で悪評が高かったのは事実ですが、それを超えて怨念のようなものすら感じます。
    また、「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」と言う事に対する答えは残念ながら本書にはありません。しかし、「木村政彦の手で殺すべきだった」と言う事を1から解説している本といえるでしょう。
    プロレスファンにこそ読んで欲しい1冊ですが、それに加えて昭和のTVを中心とするエンターテイメント創成期を語る上でも重要な1冊だと感じます。
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    投稿日:2013.11.15

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ブクログレビュー

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  • やっさん

    やっさん

    増田俊也
    『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』

    世紀の柔道王木村政彦の生涯伝記。
    柔道詳しくないので、こんな凄い人が居たのが驚きじゃった。

    あのグレイシー一族の祖とも言われるエリオ・グレイシーの腕を骨折させた技が「キムラ・ロック」と技の名前になる程に最強の強さを誇ってた。

    時代はプロレス人気になり、力道山との対決の末待ち受けていたものは…。

    柔道の歴史、プロレスの歴史等、格闘技好きの人にオススメですw

    2014年読破
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    投稿日:2024.02.17

  • 小松福門

    小松福門

    すべての格闘技好きに読んでほしい、胸が熱くなる超大作。総ページ数が700弱あるにもかかわらず、途中でダレることなく一気に読んでしまった。師匠・牛島辰熊さんと弟子・木村政彦さんの関係があまりにもドラマティックでカッコいい。まず師匠の名前からして一般人とは違う何かを感じる。名字の「島」以外すべて動物で構成されており、その名の通り人間離れした強さと巧みさを持つ寝技の鬼である。見た目も渋く、浅黒い肌と日本人離れした堀の深い顔に鋭い目つきが光を放ち、整えた口髭が雄々しい。さらに笑顔が可愛いというギャップまで持ち合わせている。

    彼ら二人の根本的な違いは、牛島さんには宗教観があり、木村さんにはなかったことではないだろうか。宗教が良い悪いという話ではないが、普通の人間が自身の中に絶対的な軸を持ち、崇高な目標に向かって生涯ブレずに生きていくのは簡単ではないだろう。牛島さんには確固たる宗教観があり、まだ幼い木村さんには師匠・牛島さんと柔道の世界しかなかった。そしてその世界は戦争によって引き裂かれてしまう。

    読了後は、どうしても力道山さんに対してネガティブな見方をしてしまう。けれども読者が一方的に力道山憎しとならないような著者の配慮も感じた。力道山さんと木村さんは戦争の被害者だと著者は言うが、私も同じように思う。膨大な数の資料の中から各記事や証言を照らし合わせて真実に迫り、ここまでわかりやすく並べてくれた著者の執筆力、取材力は本当に素晴らしい。ただの格闘技好きで未経験者の私でも大変読みやすかった。資料収集と取材、そして連載終了までに18年を要した超大作である。柔道業界から排除されてしまった木村さん、そして牛島さんの名誉のためにも多くの読者の手にとってもらい、後世に語り継がれていってほしい至高の一冊。

    「木村の前に木村なく、木村のあとに木村なし。」
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    投稿日:2023.09.04

  • highriver

    highriver

    まずオープニングでぐっと引き込まれる。柔道家の木村政彦の名前は聞いたことがあったが、ほとんど何も知らなかった。この作品で彼のことをたくさんの人に知ってほしい。

    投稿日:2022.03.21

  • khmx5200

    khmx5200

    ノンフィクションを読む喜びを最大級に味わった本。厚さが全く気にならない。経歴、時代状況からみて、木村のような選手はもう現れ得ないだろうことを納得させられる。力道山戦などなければ、、、といろいろ考えてしまう。続きを読む

    投稿日:2019.09.15

  • シャクナゲとエビネ

    シャクナゲとエビネ

     「ゴング格闘技」誌に4年間にわたって連載された大作。史上最強の柔道家、木村政彦の生涯を描く。

     木村はまだ学生だった頃に柔道全日本選士権を3連覇、さらに天覧試合を制覇する。戦後はプロ柔道に参入し、ブラジルでエリオ・グレイシーを破る。そしてプロレスラーに転向し力道山と対決するが、卑怯なやり方で倒されてしまう。

     高邁な思想家でもあった牛島辰熊と、その弟子でありながらただ勝ち続けることにしか興味のなかった木村。どちらが人間として立派だったかと問われればなんとも答えようがない。どちらが好きかと問われれば、より人間的な木村であるような気もするが、やたら暴力的で欠点も多い木村を手放しで賛美する気になどなれはしない。柔道は超一流であってもそれ以外は不器用な木村が、戦後の混乱の中で道を踏み間違え、利用され、柔道家としての名声を失っていったことは、残念ではある。

     そして老いと死は、どんな人間にも訪れる。強さに取り憑かれてしまった木村は、生きている限り敗者の汚名に苦しまざるを得なかった。死は木村にとって救いであったかもしれない。「これでよかったよね」 ── 晩年に木村が涙を流しながら妻にいったこの言葉は悲しいけれど慰めでもある。木村の人生を眺め渡せば感じるだろう、何が幸福で何が不幸か、何が正しくて何が間違いだったかなんて、簡単に決められないのではないかと。

     いわゆる格闘技の「アングル」で書かれた本かと思って読んだら、そうではなかった。著者自身、高専柔道の流れを汲む七帝柔道の経験者であり、確かに木村贔屓になりがちだけれど、関係者へのインタビューや当時の新聞記事などの一次資料に基づいて事実をありのままに記そうとしていることが分かる。戦前・戦後の柔道の歴史についての解説も興味深かった。
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    投稿日:2019.08.04

  • yomuzo

    yomuzo

    ◆日本格闘技史、最大のナゾ!◆
    「木村の前に木村なし、木村の後に木村なし」と言われた不世出の柔道家、木村政彦。昭和29年、木村は人気絶頂の力道山と、プロレスのリングで対決する。視聴率100%の世紀の一戦、木村は一方的に潰され、国民的大スターの座から転落する。なぜ木村は、いとも簡単に敗れたのか?スポーツノンフィクションとして、異例のベストセラーとなった、第43回大宅壮一ノンフィクション受賞作品。続きを読む

    投稿日:2019.06.04

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