【感想】二つの祖国(四)

山崎豊子 / 新潮文庫
(32件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
16
9
4
0
0
  • 第四巻~東京裁判 後

    2011/10/25読了。
    今年度に入ってすぐに手に取った記憶があり、
    ずいぶんと時間がかかってしまったように思う。
    新装文庫版により全4巻。
    トヨコさんの作品は、いつものごとく第一巻を読み終わるのに
    時間がかかってしまう。
    本作品においては、ざっくりと下記のように分かれるかと。

      第一巻~日系アメリカ人強制収容所
      第二巻~戦場における日系二世
      第三巻~東京裁判 前
      第四巻~東京裁判 後

    第一巻では、戦争時下の日系人家族がどのような
    処遇を受けたかを通して、小説構成上の舞台設定、
    登場人物の心理スケッチを読みながら
    彼らの人となりを理解する工程を踏むのだが
    その作業に時間を費やされてしまう。
    第二巻以降は、戦場ないし裁判という局面において、
    本作品のテーマでもある二つのアイデンティティの端境の中で
    自分の果たすべき役割を見出しながらもそれに伴う苦悩に
    悶える主人公にぐっと感情移入することができ、
    夢中になって読み進めることができた。

    また、第三巻以降では、東京裁判というあまり馴染みのない
    話題に触れ、戦争指導者たちの証言から
    全く知らなかった事実や、意外な思想・信条に
    触れることができる。
    個人的な一番の関心事は、天皇についての扱いについて。
    法的理屈とは無関係に、日米ともに現実に即した
    暗黙知の中でことが進んでいったのだと実感。
    この点は日本人にとって絶対に譲れない聖域であり、
    そこを侵さなかったGHQは懸命だと再確認。

    この作品を読了できたので、最新の「運命の人」及び、
    「ぼんち」「華麗なる一族」以外の
    代表的な作品はほぼ網羅できたかな?
    戦争三部作を完読して思うのは氏の描く女性像って
    なしてここまで男目線の理想像が描けるのかしらと
    毎度のごとく感心してしまう。ナギコーーー。
    Wikiで本作のモデルは誰だろうと調べると
    思わぬネタバレに合ってしまったのが悔やまれるところ。

    余談だが、「不毛地帯」の壹岐正のモデルである瀬島龍三が
    後の作品の「沈まぬ太陽」だけでなく、本作にもちらっと登場。
    まあ、東京裁判を扱えば必然ではあるけれど。

    広田弘毅については、悲しいかな予備知識が足りず。
    東条英機は割合良く描かれているが、さもありなんかなと。
    続きを読む

    投稿日:2013.12.26

ブクログレビュー

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  • にしど

    にしど

    軍事裁判、椰子との関係の結末は。
    裁判後賢治は身の振り方をどうするか…
    重い結末はだったがこの物語らしい納得いく内容でした。山崎豊子さんの作品はどれも印象深い。

    投稿日:2024.03.23

  • tailslope

    tailslope

    このレビューはネタバレを含みます

    第4巻目は東京裁判の後半部分が展開される。
    天羽賢治は東京裁判の言語調整官として、日々の裁判に臨んでいた。
    裁判が進むにつれて、勝者が敗者を裁く様相が明確に成っていった。
    最初は公正な裁判を望んで、その一助になればと思い、臨んだ賢治であったが、
    裁判が進むにつれて、その実相は裁判という体裁を整えただけの、勝者が敗者を裁く不正な内容だった。
    賢治は裁判が進むにつれて、煩悶する日々が続いた。
    日本に来ている賢治の妻エミーとも夫婦喧嘩が絶えなかった。
    かつての同僚の椰子との付き合いにだけ、心が癒される賢治だった。
    椰子は広島での被ばくが元で白血病になる。
    日々衰えていく椰子を、裁判が忙しく見舞いにも行けない賢治は、ますます苦悩の日々が濃くなっていく。
    椰子が重体の知らせを聞いた賢治は、すぐにでも駆け付けたかったが、裁判中に、それは許されなかった。上司になんとか許しを得て、極秘に広島に向かったが、間に合わなかった。
    死ぬ直前まで、「ケーン、ケーン」と言っていたと椰子の妹の広子から聞き、その遺体を見て賢治は慟哭した。
    傷心の賢治は東京に戻った。
    やがて、判決の時が来た。
    戦争犯罪人となり、7人が絞首刑の判決を受けた。その中の一人は文官であり、どう見ても死刑の判決はおかしいと賢治は思ったが、モニターである賢治は判決に一切の口出しはできなかった。
    裁判中に審議された、アメリカの原爆投下についても文書からは削除され、何も問題にされなかった。
    日々疲れていく賢治は自分のしていることは何なのかと煩悶の日々は続く。
    そんな中、賢治にCICからアメリカについての忠誠の嫌疑がかかり、査問される。
    自分はアメリカに懸命につくしているのに、どこまで行っても人種差別され、嫌気がさして軍隊を辞めてしまった。
    一方、かつて椰子の夫であった、チャーリー宮原は、軍隊を辞め、華族と結婚し、結婚式が済むとアメリカへ行ってしまった。
    賢治の弟、忠は生前の椰子の言葉によって、賢治とのわだかまりが解消していった。
    忠は日本に残った。
    裁判が終わり、妻のエミーと二人の子供は先にアメリカへ帰した。
    チャーリーの結婚式を中座した賢治は宿舎へ戻り、軍隊の制服とピストルを返却する用意をした。
    弟の忠から連絡があり向かったはずが、どういう訳か、誰もいない裁判所に着いてしまった。
    裁判では、「被告を絞首刑に処す」と言わされた。
    賢治は虚無感に襲われ、ピストル自殺をする。
    死ぬ瞬間の賢治の脳裏には、星条旗と日章旗がはためいて、砂漠の砂塵が濛々と容赦なく吹き付け、果てしなく続く鉄条網が焼き付いた。

    悲しい結末で終わってしまった。
    この物語はフィクションであるが、巻末にある作者が取材した協力者の氏名と膨大な参考文献から、史実を忠実に再現した物語だ。
    この物語を読んで、戦中戦後の日系人の苦悩が初めて分かった。
    テレビでもNHKの特集番組か、なにかで東京裁判の様子を流していたが、そんなものかと興味が無かった。
    戦犯として、極悪人に仕立てあげられた東条を含む死刑囚7人は普通の良識人であったようだ。
    本物語で、その様子が理解できた。
    偉大な作家のご冥福をお祈りします。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.01.04

  • さくら

    さくら

    東京裁判がクライマックスを迎える。
    通訳とはいえ、主人公は、一人の日本人に死刑を宣告をすることになる。
    また、広島で奇跡的に助かったはずの恋人は、白血病を発病し、広島の病院に入院してしまう。
    臨終に間に合うことができず、主人公はその後ずっと引きずることになる。

    そんな主人公のお荷物でしかない妻は、子供とともにアメリカに帰る。

    次第に主人公は心を病み、酒に溺れる。
    そして、自死という最悪の選択をして、この物語は幕を閉じる。

    主人公と、その親友のチャーリーはモデルとなる実在の人物がいるそうで、主人公はやはり現実でも自殺をするらしい。
    その原因は明らかになっていないが、この小説で描かれているように、東京裁判の重圧から心を病んだことによるものと考えられる。

    主人公には生き抜いて、アメリカのマスコミ業界でまた活躍して欲しいと思っていただけに、最後の展開は残念でならない。
    後味は悪い物語だったが、これまでスポットが当たらなかった東京裁判の詳細について、アメリカ在住の日系二世について知ることができたので読んで良かった。
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    投稿日:2023.07.12

  • MASIA

    MASIA

    東京裁判の判決が下ろうとしていた。
    東京裁判にモニターとして携わる賢治は、連合国側が敗戦国・日本を裁く一方的なやり方に疑問を覚える。

    椰子には原爆による暗い影が…
    原爆の恐ろしさを感じる。

    勝者が敗者を裁く。
    勝者が正しいのか…
    広島、長崎への原爆投下は正しいことなのか…

    戦争は二度と起こしてはならない。
    核を使うなんてことはあってはならない。

    『私は米国の敵だったのだろうか』

    アメリカに忠誠をつくした日系二世にもかかわらず、戦争が終わってもまだ差別され、少しでも日本への心情があると反米と言われる…

    狭間で苦しむ賢治…

    賢治には二つの祖国を持つ身として、戦って欲しかった。
    日系アメリカ人の不遇と公正を世に問い続けて欲しかった。




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    投稿日:2023.05.14

  • yukia

    yukia

    やるせないな...
    虚無感に陥った賢治は、はっと、パズルのピースが全てハマったようにw、死へのピースを自ら埋めてしまったのだな。引き返す機会もあったが、椰子という心の支えを失った賢治には終焉へ一直線だった。
    これを読んで、第二次世界大戦や原爆などへの受けての考え方が微かに変わった気がする。▼インドのパル判事「戦争を犯罪として裁く法律が国際間に出来ない限り東京裁判の被告を戦争犯罪者とすることは出来ない」と東京裁判という名の政治を批判したように、現在は戦争犯罪を裁く国際法や国際法廷等が設置されているが、国連自体が安保常任理事国の拒否権で機能不全である。
    続きを読む

    投稿日:2022.10.25

  • 語らいネコ

    語らいネコ

    全巻を読んでみて
    在米2世でアメリカ国籍を持ちながら日本の精神を学んできた主人公が太平洋戦争という時代に差別や偏見と家族との関係に葛藤しながら開戦〜日本への国際軍事裁判までを綴った小説。
    戦争とはなにか・国とはなにか・家族の在り方とはなにか・法とはなにか・幸せとはなにか等の本当に答えのない問題を問いかけていて、こんなに考えさせられる小説はないし、日本人として戦争について考えるなら必ず読んだほうがいい本だと思う。続きを読む

    投稿日:2022.06.06

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