【感想】二つの祖国(一)

山崎豊子 / 新潮文庫
(46件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
21
18
3
0
0
  • 題名のとおり、彼らに祖国が二つあったならよかったのに。

    戦時中の日系二世とその家族の物語、著者の戦争三部作と言われるうちの、2作目。三部作のなかで一番好きな作品です。
    日本に生まれてそこで暮らしていると、「自分は日本人だ」ということをことさら思う機会は少ないことと思います。作中の日系二世が第二次大戦に巻き込まれ、自分の祖国は一体どこなのかと問う姿が、本当に悲しいです。題名は「二つの祖国」ですが、どちらも本当の祖国とは思えなかったのでは・・・。続きを読む

    投稿日:2013.11.24

  • 第一巻~日系アメリカ人強制収容所

    2011/10/25読了。
    今年度に入ってすぐに手に取った記憶があり、
    ずいぶんと時間がかかってしまったように思う。
    新装文庫版により全4巻。
    トヨコさんの作品は、いつものごとく第一巻を読み終わるのに
    時間がかかってしまう。
    本作品においては、ざっくりと下記のように分かれるかと。

      第一巻~日系アメリカ人強制収容所
      第二巻~戦場における日系二世
      第三巻~東京裁判 前
      第四巻~東京裁判 後

    第一巻では、戦争時下の日系人家族がどのような
    処遇を受けたかを通して、小説構成上の舞台設定、
    登場人物の心理スケッチを読みながら
    彼らの人となりを理解する工程を踏むのだが
    その作業に時間を費やされてしまう。
    第二巻以降は、戦場ないし裁判という局面において、
    本作品のテーマでもある二つのアイデンティティの端境の中で
    自分の果たすべき役割を見出しながらもそれに伴う苦悩に
    悶える主人公にぐっと感情移入することができ、
    夢中になって読み進めることができた。

    また、第三巻以降では、東京裁判というあまり馴染みのない
    話題に触れ、戦争指導者たちの証言から
    全く知らなかった事実や、意外な思想・信条に
    触れることができる。
    個人的な一番の関心事は、天皇についての扱いについて。
    法的理屈とは無関係に、日米ともに現実に即した
    暗黙知の中でことが進んでいったのだと実感。
    この点は日本人にとって絶対に譲れない聖域であり、
    そこを侵さなかったGHQは懸命だと再確認。

    この作品を読了できたので、最新の「運命の人」及び、
    「ぼんち」「華麗なる一族」以外の
    代表的な作品はほぼ網羅できたかな?
    戦争三部作を完読して思うのは氏の描く女性像って
    なしてここまで男目線の理想像が描けるのかしらと
    毎度のごとく感心してしまう。ナギコーーー。
    Wikiで本作のモデルは誰だろうと調べると
    思わぬネタバレに合ってしまったのが悔やまれるところ。

    余談だが、「不毛地帯」の壹岐正のモデルである瀬島龍三が
    後の作品の「沈まぬ太陽」だけでなく、本作にもちらっと登場。
    まあ、東京裁判を扱えば必然ではあるけれど。

    広田弘毅については、悲しいかな予備知識が足りず。
    東条英機は割合良く描かれているが、さもありなんかなと。
    続きを読む

    投稿日:2013.12.26

  • 二つの祖国

    「大地の子」をNHKで見て原作を読み、中国残留孤児という第二次世界大戦の犠牲者の存在を知った。
    またそのあまりにも苛酷な人生について涙せずにはいられない。
    同様に戦時中のアメリカでの日系二世の物語。戦争という異常事態に翻弄される人生に心が痛くなる。続きを読む

    投稿日:2014.11.20

ブクログレビュー

"powered by"

  • にしど

    にしど

    日系二世として、日本人アメリカ人どちらからも阻害され、苦しみながら生き抜く賢治とその一家周りの人たちの第二次世界大戦中の物語。4部作。
    他の作品に比べ、主人公の印象がいまいち薄かった。2巻に期待。

    投稿日:2024.03.18

  • tailslope

    tailslope

    日米開戦後、本編の主人公の邦字新聞の記者である天羽賢治はFBIに連行され、スパイ容疑で留置所へ入れられる。
    そして、アリゾナ砂漠の収容所へ送られる。
    砂漠の収容所から釈放され、ロスアンゼルスの家に帰ると家族は強制退去されていた。
    家財道具一切を二束三文で売り、一人2つまでのスーツケースの所持を許可されて、家族が移動させられたのは、競馬場の馬小屋だった。
    床にタールを撒いた、馬糞の付いた臭くて不潔な馬小屋に何千人もの日系人が、押し込められた。
    一週間に1回のみ、馬小屋の馬を洗うシャワーを使用することを許された。不潔な場所で、日系人達は、家畜の牛馬の扱いだった。
    しばらくして、千五百名の日系人はマンザナールの砂漠の中に建設されたバラックのマンザナー強制収容所へ入れられた。

    ※以下、ウイキペディアより。
    1942年2月19日にフランクリン・ルーズベルト大統領が発した大統領令9066号によって翌3月に開設された。マンザナー収容所は最大時には10,046名を収容し、収容された総数は合計で11,070名となった。

    アンケートや天皇の写真を踏み絵にしたり、日系人は各個人の米国への忠誠心を試される。親兄弟妻子間で意見が別れ、家族の絆の崩壊を招いた。
    同じ二世の賢治の弟の忠は、人種差別の米国に嫌気がさして、戦争前に日本へ帰属した。
    かつて、日本に留学していた賢治は、祖国日本と米国人としての自分との葛藤に悩む。

    戦前・戦時中と、相当な迫害を受けて来た日系人の心の有り様が、本作を読んで初めて分かった。
    日系人は人種差別を受けながら、そうではない白人もいるというエピソードが救いだった。
    物語は、更に続く日系人の苦難の道へ。
    二巻へ、つづく。
    続きを読む

    投稿日:2023.10.14

  • あすか

    あすか

    二つの祖国(一)〜(四) 山崎豊子を読んで

     著書は、日米開戦から戦後にわたるアメリカ在住日系人の物語である。戦中、強制収容所での生活が人々を苦しめ、様々な悲劇が生まれた。

     開戦前、主人公の天羽賢治は、日本人向けに発行している邦字紙「加州新報」の記者として働いていた。父の乙七は、クリーニング店の店主。母のテルは、父の仕事を手伝っていた。両親共に働き詰めの日々。「子供達に祖国日本の教育を受けさせたい」という思いからであった。兄弟は、日本の大学生である弟の忠。ハイスクール三年生の弟、勇。ハイスクール一年生の妹、春子。妻は、価値観の相違がある妊娠中の恵美子。

     アメリカ合衆国の忠誠心テストは、家族の絆を引き裂く残酷なものであった。
    下記二つの質問が最も人々を悩ませた。
    No.27:あなたは命令されれば、どこであっても、米陸軍兵士として戦闘任務につくか、
    No.28:あなたは合衆国に無条件の忠誠を誓い、日本の天皇、その他外国政府、組織に対する忠誠と服従を拒否するか、
     弟(勇)は誰よりも素早くYes、Yesと決断し、米陸軍に志願した。賢治はYes、Noと回答するも、その実力を評価され、米軍日本語学校の教官として働く決心をする。No、Noと回答した両親は、息子達から裏切られた気持ちで一杯であった。家族はバラバラとなった。

     本書で一番心を痛めたことは、決断することに伴う犠牲であった。日系人達は二つの祖国に対して、それぞれの価値観をもっていた。

     賢治は、米陸軍所属の日本語学校教官の道へ進む時、両親の気持ちを深く傷つけた。語学兵になり戦線へ出る決意をした時、妻を先の見えない不安な気持ちにさせた。両親と妹を悲しませた。死と向き合う環境で、命の保証はないからだ。

     終戦後、賢治は東京裁判のモニター(通訳の訂正)の任務を引き受けた。アメリカ側を援護する役割であった。米軍の一員として、忠誠心を失わず懸命に働いた。一方で日本と日本人への愛情は決して忘れなかった。しかし、結果として日本人達へ沢山の傷を負わせてしまうことになった。

     人の気持ちに寄り添うことができる優しい賢治は、自分の決断により、周りの人達がどれだけ深い傷を負うことになるか、痛いほど理解していたであろう。だから、自分自身もその傷を背負いながら生きていた。その苦しさは、計り知れないものであったに違いない。

    アメリカで生きていく為には、自分の信念よりアメリカに全ての忠誠心を捧げたほうが楽であろう。しかし、ほとんどの人は自分の感情を殺し、簡単に割り切ることができないと思う。賢治のように。

     アメリカ在住日系人達は、戦前・戦中・戦後、残酷な差別を受け続けてきた。「戦争は差別を決定的にする最も恐ろしい凶器」であると思う。死者、負傷者だけでなく、家族や大切な人との絆が崩壊する。そういった心の傷を抱えた人々が地球上に多数いるだろう。

     東京裁判の記述から、戦争の裏事情を学ぶことができた。理不尽極まりない裁判であり、強い憤りを感じた。特に下記二つの事実は許しがたいと思った。
     まずは十一ヵ国の判事の判決について。7名の判事と4名の判事の間には、意見の相違があった。しかし、徹底的な議論をすることはなく、判決となった経緯。
     そして原爆投下問題。日本は原爆投下の二ケ月前からソ連を通じて降伏の準備をすすめていた。それを承知で原爆を投下したこと。さらに、法廷記録から原爆投下に関する記述は全て削除されたこと。

     山崎豊子の作品に向き合う情熱は、尊敬の念しかない。社会問題を徹底的に取材し、真実を迷いなくぶつけてくる。そういう作家は数少ない。「読者のバトンを繋げて行きたい」という思いから感想を書いた。

    令和5年7月5日

    続きを読む

    投稿日:2023.07.05

  • さくら

    さくら

    山崎豊子作品の戦争シリーズ第二弾。
    太平洋戦争におけるアメリカ在住の日系二世が主人公。
    1巻では、真珠湾攻撃から始まった戦争において、アメリカ在住の全ての日本人が収容所に入れられるところから始まる。

    ハワイでは日系人は少数派ではなかったため、それほど冷遇されなかったらしいが、本土では酷い扱いを受けたのは歴史的事実らしい。
    そして、日系人の中でも、アメリカのために忠誠を尽くそうとする者と、あくまでも日本民族としての誇りを捨てずに生きていこうとする者(アメリカ政府と対立して兵役にもつかない)とが対立する。
    主人公は、どちらにも属せず、あくまで日本人として誇りを捨てずに生きることがアメリカのためにもなるという信念のもとに行動する。
    そんな行動は、両派から理解されずに時には両派から疎まれることもある。

    そして、この戦争を早く終わらせることが両国の国益になると考え、日本の暗号解読を担う軍人になる。
    続きを読む

    投稿日:2023.06.21

  • MASIA

    MASIA

    アメリカで生まれ、アメリカ人として育てられた日系二世。

    日本による真珠湾攻撃により、太平洋戦争が勃発。
    アメリカに残る日本人、日系人には過酷な試練が待っていた。

    日系二世たちはアメリカ人として生きるか?
    日本人として生きるか?問われる…

    天羽賢治も日系二世として、厳しい選択に迫られる…

    どちらを選ぶべきなのか…

    父・乙七は日本人としての、薩摩の郷士としての誇りを。

    弟・勇は、アメリカで生まれ、育ち、日本に対する想いや天皇陛下に対する想いもなく、アメリカ人として生きることを。

    賢治は…

    難しい選択。
    日系二世だとしたら、どう生きるだろうか…
    チャーリーのような生き方はできないだろうが。

    戦争が賢治の家族を切り裂いていく…
    元の家族に戻れる日が来るのだろうか…

    続きを読む

    投稿日:2023.05.04

  • yukia

    yukia

    やっぱり戦争のテーマは考えるところが多い。父 乙七と意見の違う賢治。賢治はなぜ、日本語教官になる選択肢しかなかったのに、自分の意志で米軍に協力すると父に伝えたのか。自分が置かれた立場への決意であろうが、父は受け入れ難い。本当のことを話しても決して分かり合えないと知っていたからかもしれない。この後、この父と子は分かり合う未来があるのだろうか。続きを読む

    投稿日:2022.08.12

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。