【感想】これからの「正義」の話をしよう ──いまを生き延びるための哲学

マイケル・サンデル, 鬼澤忍 / 早川書房
(309件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
74
125
54
14
4
  • 幸福、自由、美徳から考え直す正義

    正義とは何でしょうか。書斎の中で思弁的に正義を語ることはできるかもしれませんが、実際に社会に起きている複雑で泥臭い毎日の事件に即して、正義とは何かを考えるのは難しいと思います。本書では、幸福、自由、美徳という正義の基盤となる考え方を道標(みちしるべ)としながら、読者は正義とは何かを探る旅へと導かれます。

    世の中では、社会の最大幸福を追求すべきだとか、自由を尊重すべきだとか、言われるような気がします。しかし、自分を振り返ってみると、ある問題では皆が幸福であるべきだと考えているのに、別の問題では自由を尊重する立場に回ったりして、一貫性に欠けた幸福や自由を尊重していることに気がつきます。改めて、正義とは何かを考えさせられます。

    幸福の最大化はわかりやすい考え方ではありますが、この考えを追求すると、人は大多数のために少数者の権利さえ犠牲にするという考えに陥りがちです。果たして、人権をそういう形で侵してもいいのだろうかということが問われます。

    そこで人権を尊重する自由という考え方が出てきます。ところが、自由が拠って立つ基盤となるのは自己を所有しているという考え方ですが、この考えを突き詰めると、自分が同意さえすれば自分の命を絶つことが許されるという議論に陥ってしまいます。果たしてそういうことは許されるのでしょうか。

    これらの考え方に対して、カントは自己所有とは異なるものに基盤をおいて彼の理論を作り上げたそうです。それは、人間は誰でも理性を持っていて、理性によって自ら行動することができますが、理性こそが人間の尊厳の基盤でもあるということです。さらに、人間は尊厳ある存在であるのだから命を絶つことは許されないというのが、カントの考え方です。

    しかし、サンデルは、この確固としたカントの考えにも満足しません。カントの考えは余りにも理想的過ぎて実際の人生で立ち向かう現実との乖離がありすぎるということでしょうか。理想的な考えで正義が論じられるときには、人々が属している文化の美徳のようなものは無視されますが、果たしてそれでいいのでしょうか。自らのアイデンティティを形成してくれた社会から切り離された正義、ある意味非常に抽象化された正義に従うことが正しいのでしょうか。サンデルは、自らの人格形成に大きな影響を与えたコミュニティの道徳的な重荷と重要性を担いつつ、自由と向き合うことができる道を探しているのです。深い洞察と思索によって裏付けられた確固とした考えで、強い感銘を受けました。
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    投稿日:2013.11.24

  • アメリカの知的エリートの集うハーバード大学の 「正義」についての講義。

    アメリカの知的エリートの集うハーバード大学の
    「正義」についての講義。

    その最終回「善」について、
    私の意見をできるだけ論理的に述べて行きたい。

    第12回(最終回)善き生を追求する近代のリベラリズムは、
    法律は議論の分かれるような道徳的、宗教の問題には中立であるべきだと主張する。
    この見解によれば、法律は、善についての特定の考え方を支持したり、促進するべきではなく、
    市民が自分たちの人生をいかに最善に生きるかをそれぞれに選ばせるようにするべきだということになる。
    しかし道徳性や共通善についての議論を避けて、正義や権利についての問題を解決することは可能だろうか?

    道徳性や共通善についての議論とは、
    道徳とは、すべての人が楽しく人生を謳歌できるために、
    自分より弱者に配慮することだと思っています。

    また、権力者に対しても、権力があれば何をやってもいいのではなく、
    今の国民や将来の国民に対して、有益な行動でなければ
    権力を与えられる根拠である、国民の信任が崩れてしまいます。

    法律は議論の分かれる道徳・宗教の問題に対して中立であるべきという主張には
    ある程度賛成です。
    法律は基本的には、その社会の同意に基づいて常識的な判断をするための根拠の一つです。
    法律で決められているから、コウダ。ではなく、
    社会の同意がコウダから、法律はこのように解釈すべきだという立場です。

    しかし、日本と違い、多様な民族、多様な考え方が併立するアメリカでは
    社会の同意という多数決で、毎回裁判に適用する法律を決めるのは、無理だし、非現実的です。

    あらかじめ、最低ラインの法律は決めておかないと、
    裁判についての信頼性が薄れてしまいます。

    法律はある程度、中立につくっておいて、裁判で社会の議論を見ながら、判決を出していくのが
    ネット社会での裁判のあり方と、法律のあり方になっていくべきでしょう。

    つまり、法律はある程度、中立に作ることで、
    裁判官の裁量に任せて、裁判官は新聞や、インターネット上の議論に
    配慮しながら、そのケースごとに判決を出すという、

    ことで議論の分かれる問題に対処するのが、いいと、私は思います。

    なぜなら、それが、社会の同意を法律に組み入れる現代のネット・情報社会らしい、
    法律と裁判の関係だと信じているからです。




    A)1977年に、アメリカのナチス党は、ナチスによるユダヤ人大虐殺の生存者の多くが住むイリノイ州スコーキで、
    デモを行おうとした。市がそれを拒むと、ナチス党は裁判所に訴えた。
    スコーキ市が公共の場での憎悪発言を禁止したことは許されるだろうか?
    見解の分かれる発言の価値について評価することなしに、この質問に答えることは可能か?

    ナチス党が、アメリカでデモを行うことを禁止したのは、
    ユダヤ人が住む町では、仕方がないことでしょう。
    なぜなら、不愉快に思う人が多い行動を
    市が許可すれば、、それを止める行動を改めてユダヤ人側が起こさねばなりません。
    最初から、許可しないのは、
    自由に反することですが、極度に不愉快に感じる人が住民にいるのならば、
    その住民の利益を考えて、自由をある程度制限するのは、仕方ない。
    なぜ、そんなに許されないことと考えるのか?
    その事情がよくわからない。
    それほど、デモの自由が大切なんだろうか?




    B)人間は受胎と同時に人間となるのだから、中絶は殺人となると信じている人がいる。うつうぜ
    一方、女性には自分自身の体に関する判断をする権利があるのだから、
    中絶は合法であるべきだと主張する人もいる。あなたはどう思うか?
    中絶は合法であるべきか?どのような条件であれば中絶められるべきか?
    中絶が殺人となるかどうかをという論争を避けて、中絶が合法であるべきかどうかを決めることはできるか?


    中絶は生きている現実の母親の幸せを望むための選択肢のひとつである。
    殺人だからといって、社会に与える損害は程度が違う、
    犯罪者に死刑を与える法律もあるし、
    安楽死を望む病人もいる。
    死を自ら望み命を絶つ人もいる。
    それらはそれぞれ、社会に損害を与えるが、
    それはその命に、社会が投資した教育や愛情などによって
    価値が違う。
    命の尊さに上下はないのかもしれないが、
    それは、建て前であって、実際には、価値の高い命というのがある。
    それが、社会に与える幸せや貢献の大きさから判断される。

    中絶は殺人になるのかもしれないが、
    母親の幸せを第一に考えるべきだろう。
    その母は、愛されたという、社会に価値を認められた存在だし、
    その愛される年齢までの教育を受け、役割を果たしてきた証として、
    高く評価されるべき命だ。

    それに対して、中絶された子供は、まだ、教育も役割も果たしていない。

    それならば、その母親が望むなら中絶を完全
    続きを読む

    投稿日:2013.09.25

  • 「常識」も「善悪」も揺らぐもの。

    普段なんとなく判断している善悪。著者のガイドに従って突き詰めて「なんでコレを悪と判断するんだろう?」と考え始めると、意外と自分の判断の根拠があいまいなことに気づく。

    こういう哲学の本、好きです。

    投稿日:2014.04.09

  • 何が正義???

    タイトルが「正義」について語ろう、という思い切ったもので装丁も文字が並んでいるだけ。どうも、すごいことが披露されているのではないかと期待が膨らむ。世の中には正しいか正しくないかの2方向に明確に判定できるようなものばかりではない。どうも、グレイなところにひしめいている事柄が増えてきている。多種多様な考えの人間が自分の主義主張を言い出したら、世の中収拾がつかなくなってしまう。その解決のポイントを歴代の著名な哲学者の論を引合いに出しながら、論理的に解き明かしてくれる。中盤のところで当方の頭が混乱してしまい、もうどちらでもいいやと投げやりになってしまった。続きを読む

    投稿日:2013.11.10

  • 究極の選択の答えを考える方法が述べられています

     政治哲学って、小難しいイメージがありますが、結構読みやすいです。自分で考えながら、古今の哲学者の考えを使って、正義とは何かとか、自由とは何かとか、お金で買えないものは何かとか、考えることができます。
     現代の社会で発生し、我々が議論している問題は、アリストテレスの時代から哲学者が議論してきたんですね。
     この本を読んで脳みそのコアな部分がすっきりしました。サンデル教授の他の本も読んでみようと思います。
    続きを読む

    投稿日:2013.11.05

  • NHKでの放送などがきっかけで大ヒットした哲学書

    内容は「正義」というものの考え方の変遷が、時系列ではないにしろ大まかな考え方の流れに沿って論じられ、最終的にサンデル教授が考えるコミュニタリアニズムに基づく正義論へと収斂する。その過程はわかりやすいようであり、しかし奥深く、ときに難しい用語が混じったりしながらも何とかついて行くことが出来るように配慮されている。
    とはいいつつも、そこは哲学書である。一度読んでわかったようなフリは出来ても、実際にはちんぷんかんぷんなところもないわけではなく、二度三度と読むうちにきっと腑に落ちるところや逆にサンデル教授の論理の穴が見えてくるなんて事もあるのかもしれない。まだ一度読破した程度の頭ではとても浅い理解しか出来ていないだろうけど。
    なんにせよ、腰を落ち着けてじっくりと探求の旅に出たいときにふさわしい一冊であることは間違いない。
    続きを読む

    投稿日:2013.12.07

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  • けんた

    けんた

    わたしの人生の中でこれまで「正義」について考えたこともなかった。「正義」に限定せずあらゆる視点で物事をみる楽しさがあります。またいつか読み返します。

    投稿日:2024.03.23

  • ぼじょまる

    ぼじょまる

    このレビューはネタバレを含みます

    ・感想
    現代の正義、善についてあらゆる哲学者の理論や具体例を交えながら模索している本。
    納得したり反感もったりそもそも書いてる内容が理解できなかったり。
    正義なんて「人によって違う」ものだけどその「人によって違う部分」をもっと掘り下げて考えてみましょうという本。
    著者がコスモポリタニズムの第一人者らしくやはり結論はそっち向きになってた。
    読みながらそんなこと言われたって一般大衆(私含めて)ってあんたが思ってるより馬鹿なんだよなって気持ちになってしまった、
    まぁだからこそもっと思考して考えて議論して、生きなさいと説いている。

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    投稿日:2024.03.06

  • 勇気

    勇気

    自分の正義(信念)は一体なんなのか。人それぞれの想う正義があり、それを信じて生きている。
    全て正義である。自分の正義は自分で決める。とても考えさせられる本でした。ぜひぜひ読んで欲しい本です。

    投稿日:2024.02.04

  • 238

    238

    このレビューはネタバレを含みます

    一貫した主義を持つこと、全員の正義感が一致することの不可能を痛感する本。
    本作では数々の例を挙げ、多角的な視点から各々の意見が述べられる。それらに目を通すうちに己の主義は何なのかと迷走を始めた。
    誰しもが納得のいく政治、経営の難しさが身に染みる一冊となった。

    一点疑問だったのは、アリストテレスの奴隷擁護論で、当時の政府への忖度があったのではないかと疑うほどの脆弱性を感じた。
    ソクラテスの最期を知ってかどうかはわからないが。

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    投稿日:2024.01.11

  • さってぃ

    さってぃ

    なかなか読むのに苦労した。
    歴史を重ねることでより、議論が難しいテーマなのではないかと思った。
    善い生について考えることは大切だろう。

    投稿日:2024.01.05

  • planets13

    planets13

    リバタリアニズム・功利主義・美徳重視という 3 方向からのアプローチに、追証・反証それぞれ具体的で身近な事例があり解かりやすい。正義も善き生も難しいということがよくわかった。

    投稿日:2023.12.24

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