【感想】わたしを離さないで Never Let Me Go

カズオ・イシグロ, 土屋政雄 / ハヤカワepi文庫
(1213件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
360
412
258
39
11
  • 祝! ノーベル文学賞受賞

    名前は知っていたものの、作品は読んだことがなかったけど、ノーベル文学賞受賞の報を聞いて読んでみたいと思って購入した口。
    シチュエーションを知らないで読んだら、途中で衝撃を受けたことは予想できるけど、実際あらかじめシチュエーションを知っていて読んでも、何気ない日常がどちらかというと淡々と綴られていくことに、運命の悲しみをじわっと感じた。続きを読む

    投稿日:2017.12.13

  • 「わたし」は誰に語りかけているのか?

    読み終えたばかりでまだ整理がつかないが、この本の本当の主題は何なのかと考えモヤモヤしている。
    理不尽で苛酷な運命に翻弄され健気に生き抜く若者の姿に涙してほしいという動機付けは著者に当然ない。
    進化し続ける先端医療の危うさを警告した書でもないだろう。
    ロボットやAIなどすでに身近に溢れつつある物に心が宿ることを読者に想像させるための書だろうか?
    それも何かしっくり来ない。
    よく「ディストピアSF」と評されるが、そのSF的設定をつぶさに見ていくと、細部までよく練り上げられているとは到底いいがたい粗さや幼稚さが目立つ。

    もし臓器提供用のクローンを確保しておくなら、それが誰に所有権があるのか判然としないまでも、コストのかかり脱走や自傷などのリスクを伴う運営方法よりも、可能であれば映画でよく見られる液体入りのカプセルの中でチューブに全身が覆われるような飼育方法の方がリアリティがありそう。
    保護人の監視下を離れて寄宿舎から巣立っていくという設定もよくわからないし、提供の回数は語られるが何が提供されたのかも触れられず、最後の猶予を認められる認められないも求められる親の健康状態次第でそもそも希望自体に無理がある。

    こういうSF的要素は物語の背景に過ぎず、拘泥していては著者の本当の意図を見誤るのかもしれないが、それ以外にも不可解な点はいくつかある。
    特にピエロの登場の場面。
    「わたし」たちの関係性を暗示するための風船であり、それだけのために都合よくピエロが「わたし」の目の前に現れる。
    介護人という制度も「わたし」がルースやトミーと物語上、少しでも長く結びついておくためだけの作為にしか見えない。
    そもそもこの「わたし」というのは誰に語りかけているのか?
    同じ臓器提供者予備軍なのか、被提供者も含めたすべての人なのかよくわからない。

    "どんな環境下におかれても「心」を失わないことの大切さ"であるとか、"困難な制約下でも生き抜いていくことの素晴らしさ"であるとか、そんな健全な課題図書風のものが主題であるとは到底思えない。
    クローンが自分の親を探しに監視下を離れ自由に出歩く様などの描写は、常人の倫理性を試すギリギリのところを平気で狙っているようで、著者の本当の意図の理解に苦しむ。
    臓器提供するためだけの若者たちを、読者の誰もがノスタルジックな共感を示す寄宿舎での青春の一コマとして丹念に描いたら面白いだろなという、ごく単純な実験的な試みなのか?
    続きを読む

    投稿日:2017.10.10

  • 極上のS F作品

    宇宙人は出てこない。タイムマシンも出てこない。
    これもSF。いや、これこそSF!と思わせてくれる傑作です。
    何の変哲も無い町でごく普通の人達の物語。
    ほんの少しの違和感が、少しずつ膨らんで世界が裏返って行く。静かな恐怖と戦慄が味わえます。続きを読む

    投稿日:2017.10.05

  • 全ては神が創造した。そして…。

    キャシーとトミーとルーシーの淡い青春とこの物語が作る奇妙な世界の内部と外部をきれいに描き切った素晴らしい作品です。
    作者は日系人と聞きます。おそらく私たち日本人と同じように神が世界を創ったという一神教を、キリスト教を外部から覚めた目で眺めたことがあるのでしょう。
    そして、その虚しさを知っていることでしょう。
    芸術がこの作品の山場までの重要点としてあります。
    アートとは神が人に与えた天分でしょうか? それとも自然に畏怖する人の心が紡ぐ虚妄でしょうか?
    マダムやヘームシャルの関係者は展示会の作品を集めこの世界の内部と外部をつなぎながら、大きな流れに逆らおうとします。
    ヘームシャルの生徒たちにとって特別な外部だったマダムたち。
    あるいは彼らはヘームシャルの生徒たちにとっての神としてあらわされているのかもしれません。
    山場はそこにあります。
    マダムたちも人間に過ぎないのです。
    神が創りたもうた一個の人間に過ぎないのです。
    ヘームシャルの最大の主眼だった芸術も結局、作者が描き出した結論に過ぎないのかもしれませんね。
    iPS細胞がある今ではこの作品は色あせて見えてしまうかもしれませんが、この作品は紛れもなく人間を描いています。
    あまりに美しい物語です。
    星5つ。
    続きを読む

    投稿日:2016.03.12

  • 個人的には高評価で、かなり楽しんでいます。

    初めのころは、あまりにも突拍子のない独特の
    世界観(いずれ臓器提供者となる運命の子供たち
    を閉鎖された学園で教育している。そして彼らは
    クローン。)に違和感を感じましたが。話が進む
    につれ雰囲気に慣れて、出演者たちの演技力の高
    さに魅了されていきました。綾瀬はるか、
    水川あさみ、三浦春馬という演技力のある人たち
    が、ややパラレルワールド的な独特のストーリー
    の中で存分に存在感を放っています。
    クローン人間、臓器提供、シェアハウスといった
    普通ではあり得ない個性の強い脚本ですので、
    演技力が無ければとても見られたものにならない
    であろう作品ですが。綾瀬さん筆頭に、鋭いセリフ
    回しと表情の演技で、レベルの高いドラマに出来
    上がっています。

    ドラマを見ていると、原作本も読みたいという
    欲求に駆られて小説を読み始めました。
    割と分厚い長編です。ドラマと原作は、基本的な
    ストーリーこそほぼ同じですが。その雰囲気は
    かなり違います。小説では、テレビのような
    強い演出は必要ないので、かなり静かに淡々と
    進んでいきます。主人公のキャッシー
    (綾瀬さんのキャラ)の完全な一人称回想と
    いう展開になっています。

    ドラマは、もうすぐ起承転結の結の部分へと
    入っていきそうですが。読んでいる小説は、
    まだ転に入ったところです。
    こうやってドラマと小説をシンクロ的に味わう
    のも面白いものですね。
    続きを読む

    投稿日:2016.03.05

  • ドラマとは別モノ

    登場人物の置かれた状況やたどるべき人生は特異なものではあるものの、これはいわゆるよくある「青春モノ」のようだと私は感じました。
    こちらを原作としたドラマの第一話をみて、とてつもなくおもしろうそうだと思い、二話を待ちきれなかったので原作を読むことにしたのですが、私がワクワクするような方向性は全くありませんでした。
    私が期待したのは「介護者」「提供者」のシステムの成り立ちやそれに関わる人々の苦悩、医学的な背景や提供者が任務を終えるまでの現実的な(と思わせるような)心身の過程などですが、このお話にはほぼ全くありません。幼少期や思春期の友人関係や男女関係を中心とした思い出を淡々と語り、せっかくの(?)特異な設定については添え物程度の描写しかないように私は感じました。
    正直、がっかりしましたが、そもそも入り口がドラマというのがよくなかったのだと思います。
    おそらく逆に原作を先に読まれて、こういう作品を好まれる方は、ドラマの邪道さにがっかりされることでしょう。
    原作とは名ばかりの、設定だけを拝借した別物と思って、それぞれをそれぞれに楽しまれることをおすすめします。
    続きを読む

    投稿日:2016.02.05

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ブクログレビュー

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  • kayohiro

    kayohiro

    徐々に暗い運命を感じさせつつ、ヘールシャムの仲間との友情、愛、それぞれの感情が緻密に描かれている。提供者でない視点から読むと、運命の決まっている子どもたちの、儚い人生の物語のようにも読み取れるが、提供者の視点から読むと、その人生の彩りや生い立ちに意味や幸せはあったようにも思え、その中で運命の謎が明らかにされたことは残酷だったのか、本当によかったのか、様々な感情が残る読後感続きを読む

    投稿日:2024.03.14

  • きよ

    きよ

    前半は読みにくさ,見通しの悪さ,違和感があるけど,
    それが少しずつ晴れていく感じで読めた。
    読了しても霧は晴れきらないが…
    読了後にいろいろ考えさせられたお話だった。

    投稿日:2024.03.13

  • 龍が如く

    龍が如く

    正直最後まで読むのたいへんやった…。
    おもしろいのはおもしろいけど、事前に聞いてたネタバレ無しで読んでほしいとかむせび泣きながら読んだとかの口コミと逸脱してる感じ、、、。
    時速20キロでずーっと物語がつづいていく感じ。
    少しつかれた。カタルシスは得られない。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.12

  • 栗原

    栗原

    同作の映画は見たことがありましたが、今回原作を読んで、より深く本質的なところに触れられたような気がします。 着実に、緻密に積み重ねられる心の描写を追ううちに、スルスルと本の世界に吸い込まれる心地がしました。 イギリスには本当にそんな仕組みが根差しているのでは無いかと錯覚するくらいでした。 素晴らしい技術を知ってしまったとき、人はその結果にばかり目がいってしまって、どうしてもその背景や過程が見えなくなってしまいます。 自分の生の礎に何が埋まっているのか、立ち止まって考える時間を持ちたいものです。続きを読む

    投稿日:2024.03.01

  • コータロー

    コータロー

    『日の名残り』が素晴らしかったため、同著者の有名な作品である『わたしを離さないで』を読むことを決意。
    長らく積読していたが、休日を使ってじっくりとカズオ・イシグロの描く緻密な世界を堪能することができた

    ”提供者”や”介護人”、”施設”といった何かを暗示するかのようなキーワードが飛び交い、読者は主人公であるキャシーの回想を追っていくことでその哀しい真実に触れることになる。
    土屋政雄氏の名訳も相まって、爽やかな情景のなかに徐々におぞましい社会の構図が浮き彫りになっていく展開は、残酷だがそれゆえに儚さと美しさを感じることができた。
    どんでん返しや安直なハッピーエンドは望むべからず。だからこそどうしようもなく切なく、心にずしりと残る名作だった。
    続きを読む

    投稿日:2024.02.24

  • nisty

    nisty

    このレビューはネタバレを含みます

    前半は、丁寧かつ繊細な描写、子どもたちの純粋で移ろいやすい心の動きを、少しずつ追いかけるような時間。後半は、徐々に世界の謎が解き明かされ頁をめくる手が止まらなくなる。ヘールシャムでの生活が少しくどくも感じたけど、読み終わってみればあっという間だった。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.02.23

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