【感想】蟹工船・党生活者

小林多喜二 / 新潮文庫
(308件のレビュー)

総合評価:

平均 3.5
35
91
128
15
7
  • 『共産主義社会』というより、『自由』への欲求を訴えた作品

    【蟹工船】
    非常に有名なプロレタリア作品。

    極寒の北の海、蟹工船にて法外なほど過酷な労働を強いられていた労働者達が一致団結し、船の上では絶対的な権力をもつ悪の資本家側として描かれる現場監督を中心とした上層部に対しストライキを起こす。

    前半における監督の悪どさと、労働者達の過酷さの描写は凄まじく、それをどうする事も出来ない労働者達の絶望感が非常に強く伝わってきます。しかし、最後にはその絶望感が払拭され、むしろ戦う強い意志と僅かな希望に変わり、そして勝利を納めるという過程は、実に気持ちの良いものでした。

    共産主義を色濃く賛美している文章なのかと思っていましたが、あまりそうは感じませんでした。「働く人達が団結すれば資本家達に虐げられることはないので、労働組合等を介して、しっかり交渉や行動を行いましょう。」と言った程度の印象です。そういった制度は資本主義経済国家に於いても一応法的には整ってますし、政治的に取り立てて啓発される様な事はありませんでした。

    労働者達による資本家への決起というコンセプトは、働き者のアリ達が、働かずに彼らを虐げ搾取するキリギリス達と戦う、ディズニーピクサーのバグズライフとそっくりです。似通ったプロットの物語が、方やプロレタリア文学の代表者と評価され、方や資本主義国家アメリカの子供映画として公開されており、資本主義とか共産主義とかの境目もよくわからないものですね。

    【党生活者】
    今月末に600人の臨時工の不当な解雇を企む軍需工場に勤める3人の共産党員、私、須山、伊藤を中心に、彼らによるストライキ計画の日々を描く。

    当時非合法だった共産党員が、会社の監視や警察から逃れながら、工場でのビラ撒きや新たな同志の勧誘、そして行く行くは大衆全体を見方につけようと、密かに共産社会実現に奮闘する日々が事細かに描かれています。それはまるで世捨て人のような生活で、とりわけ先に工場を辞めた“私”の生活は、昼夜逆転し、親とも縁を切り、生活費に困窮するなど、非常に荒廃しています。それでも彼は、ただ資本家の売り上げの為に人ならざる生活をするよりは、社会の革命の為に同様な生活をする方が遥かに良いと、自己犠牲の有意性を自らに言い聞かせ、この様な生活を続けます。共産社会の実現という最終目標はさておき、社会貢献のための自己犠牲の覚悟という点に関しては、自分には出来ない、なかなか良い心掛けだと思いました。

    ところで、文中では工場で働く共産主義支持者達を “細胞”と呼んでおり、これぞ当に社会統一的な思考だと感じましたが、これではまるで資本家が労働者を歯車と考えているのと似通った表現であり、共産社会を賛美する人々であるならば、“細胞”というのはあまり上手い表現だとは思いませんでした。

    本作における攻防は、「原始的な抑圧を与える現場監督と、そこで自然発生的に組織化しだした労働者」という形であった蟹工船とは打って変わり、会社側はより賢く、オブラートに包んだ抑圧をして来ており、また労働者側も既に共産党員としての知識を身につけた人々でした。中でも、会社側のずる賢いやり方は、現代でも問題となっている所謂“派遣切り”とも似通った面がありました。この問題を解決するため、共産党員である主人公らは立ち上がっているわけですが、彼らが当面の目標としているものは、決して現代にイメージを抱かれているコテコテな共産主義思想からなるものではなく、単に財閥や独占が罷り通っていた、当時の『封権社会的資本主義』からの脱却であり、共産社会というよりも、むしろその根底では、自由主義社会の実現を目指しているように感じました。
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    投稿日:2013.09.24

  • 群像小説

    蟹工船のみ読了。

    文章がものすごく分かりづらい。
    漁夫、雑役たちの名前もなく、
    群像として描かれているため、
    細かい描写を拾いきれず、
    流し読みして雰囲気とあらすじを
    つかむのが精一杯。


    党生活者は、気が向いたら読むことにして
    一旦この本は閉じる。
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    投稿日:2013.12.26

ブクログレビュー

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  • jun55

    jun55

    プロレタリア文学の代表作。

    行き過ぎた資本主義への抑制、という観点では、現代社会においても、共感できるところ、学ぶべきところはあるのだろう。
    最後に監督が解雇され、自分もまた大きな社会構造の歯車でしかないことに気づかされる。
    厳しい労働環境を具体的に描く一方、この終わり方を以って社会構造全体の問題として提起することの効果はあるのだと思う。(文中にも、そのようなことは触れられているが)

    小林多喜二自身は、国家権力に抹殺されたわけでが、この作品が今なお読み続けられているということは、イエスキリストではないが、殉教者として将来への影響を却って大きくしているのだろう。
    続きを読む

    投稿日:2024.01.21

  • shunsuke_h

    shunsuke_h

    ー蟹工船ー
    マルクスは労働力の商品化を唱えたが、蟹工船では、労働者(人間) が器と化している。その器とは、「労働」という機能を果たすための器である。家畜ならば、働けなくなっても、 その肉を食らうことができるが、壊れた器は捨てるしかない。なので、蟹工船の労働者たちは、家畜にも劣る扱いを受けている。作者はこれを、ぼかすことなく明確な言葉で、寒々と した海や船を背景に描いている。虐げられた労働者は、少しずつ、抵抗の方法を模索し、こわごわと実行しいく。その中で、大金持ちがその手下を従え、その手下が労働者を絞り上げるという図式に「国」 が加担していることが見えてしまう。手下はここでの労働を「お国の ため」と労働者に刷り込んできたが、「国」は大金持ちやその手下と一蓮托生だ。しかし、 蟹工船の労働者の抵抗は、資本家 VS 労働者という構図よりももっと根源的な、労働者が生き延びて故郷に帰るための行為として捉えられる。当時の労働者の扱われ方の現実、主義、 思想などに絡む重たいテーマを取り上げながら、情景をまざまざと思い浮かべさせる描写の妙、登場人物が語る方言に人間味とユーモアをも含む、質の高い文学作品だと感じた。

    ー党生活者ー
    題名からイメージされる、活動家たるが故にさらされる緊迫感や、潜伏生活での不自由さやストレスなどはあまり伝わってこなかった。どちらかと言えば、自分たちの活動に懐疑的なところからの自虐的なおかしみや虚しさを感じる。
    気になるのは、所々に使われる意味の分からない活動家用語。登場人物たちは、もちろん、言葉の意味は分かっているのだろうけど、その活動がどういう意味を持つのか、最終目的の具体的なイメージは何なのか、その活動はそのイメージに近づくためにどのような位置づけなのか、分かっていないような気がする。その言葉や、その言葉で表わされるアクションに酔って踊っているだけではないのか。更に、彼らは、安全なところでぬくぬくとしている誰かに酔わされ踊らされているだけなのではないか。そんなことすら考えてしまった。
    続きを読む

    投稿日:2024.01.18

  • 琳

    『蟹工船』も『党生活者』も、労働者や党員の置かれていた惨状があまりにも詳細に記されていて、本当にこんな世界が存在するんだとひしひしと実感して辛い。
    「戦争は資本家が自分たちの利益のためだけに始めた」というような記述があって、自分が今まで習ってきた歴史がひっくり返るような気持ちがした。わたしは命の重さが人によって違うような世界に生きているのかもしれない。
    わたしは共産主義者ではないけど、それは共産主義について何も知らないからであって、この本で小林多喜二が言っていることは間違っていないように感じる。もっときちんと勉強したい。
    続きを読む

    投稿日:2024.01.04

  • あずき

    あずき

    日本史の授業とかでタイトルだけ知ってたのを読んでみようと決意。

    どうしても、文体とか知らない言葉とかで読みづらさはあるが、作品として表現したいことや当時のひどい労働者の境遇などはよく伝わってくる。

    小林多喜二がこの作品を書いた数年後に虐殺された現実がこの日本であったことを思うと非常に心が痛い。
    続きを読む

    投稿日:2023.12.16

  • 星野 邦夫

    星野 邦夫

    貧困者から無慈悲に労働力を搾取する蟹工船。資本主義という名の下に軍需工場で不合理な労働を強いられる党生活者。大小の差はあれどブラック企業やハラスメントと名を変えてスケールダウンしながらも現代にまで受け継がれてしまっていると感じた。現代の社会人にも多くの人に読んでほしいプロレタリア文学である。続きを読む

    投稿日:2023.12.13

  • しお

    しお

    このレビューはネタバレを含みます

    蟹工船めちゃくちゃ面白かったです。
    価値のある高い船が難破してた時、監督が船を引き上げてその船の番号を書き換える(番号が若いと価値が高くなる)?シーンがまるで今話題のビッグ○ーターの不祥事みたいだなと思いました。

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    投稿日:2023.08.25

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