【感想】ドラコニア綺譚集

澁澤龍彦 / 河出文庫
(15件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
5
6
4
0
0
  • 澁澤龍彦の世界

    雑誌「ユリイカ」に連載していたエッセーを一冊にしたものです。
    なお、表紙にドラゴンが描かれていますが、ドラゴン関連のエピソードはひとつもなく、
    題名も「龍彦ランド」という意味の造語です。

    足がないので休む事無く飛び回り、空気を食べて生きている鳥と信じられていた極楽鳥、
    その伝説と博物学者ロペス・デ・ゴマラの思惑、日本での噺の考察「極楽鳥について」、
    仙人が語る、過去の自分と対面した時の話「鏡と影について」、
    『怪世談』の飛頭蛮の話と、それに関するY氏との議論、著者の不思議な体験「飛ぶ頭について」、
    アポコロキュントーシスと、ククルビタ・コロキュンティスなどに関する「かぼちゃについて」、
    タッソーの『エルサレム解放』の文字を食べた衣魚との会話、『今昔物語集』と『法華験記』にある
    衣魚と転生についての話「文字食う虫について」、
    バルデス・レアールの絵画「この世の栄光の終り」とそれを描かせたミゲル・デ・マニャーラに
    関する「スペインの絵について」、
    シドニウスの別荘や業績、黄金で出来た蜜蜂の飾りに関する「ラテン詩人と蜜蜂について」、
    玉虫の厨子、玉虫と箱の関係、級友kとの思い出「箱の中の虫について」、
    図を描いた徽宗皇帝とルドルフ二世との共通点、鸚鵡との逸話と鳥の集団死、
    仙人とのエピソード「桃鳩図について」、
    『変痴気物語』と飛行機内でのショッキングな体験、仮面の文化と効果、マルコンテンタ荘の
    便所に関する「仮面について」、
    蘭溪道隆と乙護童子、弁才天の話、護法童子、明恵の『夢の記』に関する「童子について」
    サドと「アペニンの巨像」、プラトリーノ荘とモンテーニュ、ビアンカと千々石ミゲルに
    関する「巨像について」の十二篇が収録されています。

    私は特に、博物学者ロペス・デ・ゴマラがわざと極楽鳥には足がない事にしたのではないかという
    大胆な考察が展開する「極楽鳥について」、
    五年前の自分と対峙した物が感じるであろう親近感とそれに伴う嫌悪感が描かれた「鏡と影について」、
    著者の語る不思議な体験が印象的な「飛ぶ頭について」、「文字食う虫について」が楽しめました。

    ただ、澁澤氏の他のエッセーと比べると20ページと長めで、統一的な内容ではなく
    博識な著者の幅広い興味が奔放に語られている内容なので、興味のあるものは多いに楽しめますが、
    興味にないものは少々長ったらしく、退屈に感じてしまいます。
    図版もはじめの一枚以降、一切ないのもそう感じさせる要因だと思います。

    またロペス・デ・ゴマラと極楽鳥など、ただそう思うと根拠を示していない考察も少なからずあり、
    ゴマラが修道士であったことを考慮すれば、彼が宗教心からそうしたのではないかと思えるのですが、
    著者はそのような言わずもがなの着地点には興味がないようです。
    所々で「これくらいは知っているでしょう?」と一般教養外の知識を延々と語り、
    あえて物事の裏に潜む秘密について全ては語らない渋澤氏は、本当に人が悪いなと思います。
    まあ、そこが惹かれる所でもあるのですが…

    著者の幅広い興味とそれらについての見解を一冊にまとめた、まさに「澁澤龍彦の世界」です。
    エッセーの中のY氏を気取って「いやいや、そうじゃなくて」とか「つれない奴だな~」とか心の中で
    突っ込みながら読んでみても面白いと思います。
    少々好みの分かれる内容ですが、渋澤氏がお好きであればおススメです。

    続きを読む

    投稿日:2015.09.15

ブクログレビュー

"powered by"

  • zasetu

    zasetu

    さすが円熟期のエッセイ集、です。該博な知識に魅了されていると、小説のような不思議で幻想的なエピソードが織り込まれて、虚実皮膜、綺譚と称すに相応しい澁澤の世界が──まさしく「ドラコニア」なる幻想世界が現れてきます。ここから『高丘親王航海記』等の晩年の小説へと、ドラコニアの世界は広がっていくのです。そのような意味では澁澤龍彦を語る上ではやはり避けては通れない、印象深い一冊でした。個人的にはやっぱり澁澤さんのエッセイが一番好きなので、エッセイであり小説のようでもある本作は好きでした。お気に入りは「飛ぶ頭について」「桃鳩図について」です。「文字食う虫について」もいいなぁ続きを読む

    投稿日:2022.06.15

  • がと

    がと

    澁澤の筆がエッセイから小説へと向かっていく過渡期の作品集。だが、このエッセイとも創作とも言い切れないバランスは、のちの『ねむり姫』や『うつろ舟』ともまた違い、これはこれで一つの完成形と言える。『思考の紋章学』と対のような感じ。

    「鏡と影について」は、南宋の仙人がドイツロマン派的なドッペルゲンガー譚を語るのでニヤッとさせられる。「スペインの絵について」はバルデス・レアルの絵の依頼主がドンファンのモデルになった騎士だったという、それ自体が面白い逸話にバロック絵画の解釈をめぐる講義が挟まっている。「ラテン詩人と蜜蜂について」では、『思考の紋章学』所収「時間のパラドックスについて」でチラッと触れられたシルデリク王の墓から発掘された黄金製の三百個の蜜蜂について詳しく語られている。『思考〜』では蜜蜂は「馬具の装飾」としていたが、ここではもう一つ「マントの飾り」とする説も紹介していた。
    そして、玉虫の厨子についての導入から魂(タマ)と箱の密接な関係を語り、中学時代の同級生との少し奇妙な思い出話に流れていく「箱の中の虫について」がやっぱり好き。これはネクロフィリアの対象になるということのナルシシズムの話なんだと思う。フランチェスコ一世の別荘からビアンカ・カペッロ、そして『黒死館殺人事件』に繋がる「巨像について」も面白かった。最近『黒死館』読み返してよかったなと思うことが多くて、再読の縁を感じている。
    続きを読む

    投稿日:2020.05.09

  • yamada3desu

    yamada3desu

    2008年11月4日~5日。
     この人のエッセイなのか小説なのか、虚実が混淆としている作品は、えも言われぬ面白さがある。
     エッセイだけの作品には、今一つのものもあるが。

    投稿日:2018.01.06

  • tikuo

    tikuo

    澁澤龍彦らしい、博学なエッセイ。他の本に比べると、固有名詞が非常に多くなっているため、いくつかの章は読みづらい。また、「綺譚集」というだけあって、簡単に説明の付かない不思議体験が織り込んであるのも特色

    澁澤龍彦のなめらかな筆致は非常に好みなのだが、今回は体調もいまいちだったのか、いくつか読み飛ばしてしまった。しかし、一つのテーマに対して「日本書紀では」「中国の故事で」「スペインでは」と色んな話が出てくるところが超然としたところである。それが飛頭蛮(首抜け族)だったり、連続殺人・食人鬼だったりするから、完全に掴まれるわけです。

    そこに急に友達の話であり、自分の学生時分の話、正倉院展での話などが、自然に同列にはいってくるところがすごい。また体調が良い時に読み返すと思う。保留ということで星3。

    「ドラコニア」はどこかの昔の国かと思っていたが、1本目でわかった。「龍彦」の国のことである。

    「何はともあれ 頭は隠さずとも 尻は隠してもらいたい」
    おもしろい。

    (余談)
    河出の著者名が「澁澤」ではなく「渋澤」になってんだけど、名前を勝手に帰るのは失礼ではないか?
    続きを読む

    投稿日:2015.03.20

  • MS-K

    MS-K

    自分の知識不足のためわからない箇所も多少あったが、作者が非常に楽しそうに書いているのがわかる良エッセイ。

    投稿日:2013.08.21

  • naokabadboogie

    naokabadboogie

    美術史かぶれだった大学生のころの愛読書を、再び読み返しました。妖しくも魅力ある澁澤ワールド。大人になってからまた読むと、若い頃と異なった感覚を楽しめますね。

    投稿日:2012.11.29

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。