【感想】ハイエク 知識社会の自由主義

池田信夫 / PHP新書
(42件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • hy343

    hy343

    フリードリヒ・ハイエクは1899年生まれの経済学者で、1974年にノーベル経済学賞を受賞している(1992年に死去)。その主張のユニークさから、主流の経済学者からは無視され、知識人からは嘲笑されたという。

    といって、彼の主張は別に奇異でもなんでもない。

    その根幹は、いわゆる「新古典派」経済学に見られる理念的で純化された前提からではなく、「人間は不完全な知識のもとで、必ずしも合理的とは言えない慣習に従った行動をする」という、フツーに考えれば当たり前の事実から出発していることにある。

    つまり、計画され、規制された社会(たとえば社会主義)はうまく機能しない。野放図では話にならないが、人々の自由を尊重する分散自律型の社会生成を妨げないことがベターな(ベストではないが)解であろうと説く。

    著者は、ハイエクの出自やケインズとの対立、主張の骨格や変遷などをひもときながら、インターネット(分散自律)時代である現代、さらに未来へと進むためには、今こそハイエクに学ぶべきだという。

    そして、日本の官僚機構のムダ、知的財産権の欺瞞、電波やインターネットを行政や大企業が主導しようとすることの見当外れ、派遣など労働者施策の間違いなどを指摘する(これらはいずれも、既得の権益構造が社会を恣意的に規定しようとするものだ)。氏がいつもブログで主張している中味だ。

    こうして見るとこの本、近代経済学の概観、ハイエクを通した現代~未来の捉え方について勉強になるばかりではなく、池田氏の入門書としても好適、ということになるだろう。
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    投稿日:2019.06.13

  • rainygreen

    rainygreen

    いつもブログを読んで勉強させてもらってる池田信夫氏の新著。

    ハイエクといえば、一般的にはケインズに対置される存在の人物として理解されているのではないかと思います。
    政府支出による有効需要創出を唱えたケインズに対して、サッチャーやレーガンによる「小さな政府」を志向した新自由主義思想の後ろ盾となったハイエク、というイメージがあるのではないかと。
    そういうイメージで捉えると、昨今評判の悪い「市場原理主義者」の教祖みたいに思われてしまいそうですが、ハイエクの思想は決してそんな単純なものではない。

    ハイエクの思想のうち、自分が最も共感するのは、人間の不完全性を認めた上で、理論で社会をコントロールしようとするあらゆる計画主義を否定している、という点です。
    最適な経済を計画的に実現しようとする社会主義、国家が社会をあるべき姿に導くために個人を統御しようとするパターナリズム、これらは社会には「目指すべき目的」が存在することを前提としているわけですが、複雑な集合体である社会全体の「目的」を一意に決定することはナンセンスである。
    それよりも、個人の「自由」な経済活動が最大限に発揮される状況を理想とすべきである、と。
    そのことは「市場に委ねればあらゆることがうまくゆく」というような市場原理主義とは一線を画し、「自由」であること自体を重要視し、個人の自由度を最大化するルール作りを目指すもの、なのです。

    …というのは自分の浅薄な理解に基づく要約ですが、池田氏の解説の語り口も相俟ってハイエクの思想はとても鮮やかさを感じさせるものなので読んでいて心地いい。
    一方で、その深遠さを新書一冊読んだだけで真に理解できるものとも到底思えないのですが、その思想の一端に触れることで現在の社会・経済においてリアルタイムで起こっていることを見定めるためのスコープを持つためのヒントは得られたような気がします。
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    投稿日:2019.01.06

  • Στέφανος

    Στέφανος

    帝国末期のウィーン
    ハイエク対ケインズ
    社会主義との闘い
    自律分散の思想
    合理主義への反逆
    自由主義の経済政策
    自生的秩序の進化
    自由な社会のルール
    二一世紀のハイエク

    著者:池田信夫、1953京都府、経済学者、 東京大学経済学部→慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科、SBI大学院大学客員教授"続きを読む

    投稿日:2018.10.31

  • ちむさーちょい

    ちむさーちょい

    アダムスミスから受け継がれる市場経済に立脚したハイエクの思想と、それと対峙した社会主義やケインズ主義を中心に主要な経済学思想との比較を論じている。

    当初は、異端であると考えられ評価されていなかったハイエクの自由主義的経済は、既に現在の米英的な資本主義経済を中心とした先進国経済の活動の中核的な理論となり主流となっている。

    また、フリードマンを中心としたシカゴ学派による定量的なアプローチによって経済学の前提は、自己の利益を最大限に追求する個人としての経済人であり、これが経済学を現実の社会から乖離されている。ハイエクはこうした経済人的な個人の前提を否定し、人間は常に合理的な判断をすることができないという立場をとっている。ハイエクのこの考え方は、現在の経済学のフロンティアであるとも言える行動経済学の出発点となっている。

    中央集権的に特定のプレーヤーによって管理される固定電話が、より自由であり自立的な存在であるインターネットによる脅威にさらされ、競争上の劣位にたたされているのは、ハイエクの唱える中央により管理の度合いの少ない自由経済であり、これこそが全体としての厚生を最大化するのである。
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    投稿日:2018.10.08

  • kohamatk

    kohamatk

    経済学の基本も学ぶことができる内容だった。

    ハイエクの思想は、ウィーンに生まれたことで大陸の遺産を受け継ぎ、英米に移住することで新しい世界と交わってできた。市場経済を擁護し、歴史の進歩を信じる理論のようでありながら、近代の合理主義を否定し、人間の無知を前提に置く。

    ハイエクはオーストリア学派に分類される。その創始者のメンガーは、価値が消費者の必要で決まると考え、その心理に依存する相対的なものと考えた。市場の機能を高く評価する点ではシカゴ学派がその伝統を受け継いでいるが、シカゴ学派が新古典派の均衡理論を取り入れているのに対して、オーストリア学派は人間の非合理的な行動を分析することに注目した。

    ケインズの「一般理論」は、大恐慌という特殊な時代の不完全雇用の状態に対応した特殊な政策だった。戦後の経済学者は政府が経済を自由にコントロールできると考え、慢性的なインフレの原因となった。財政政策によって紙幣を増発すると、インフレになって労働者の実質賃金が下がるため、労働需要が増えることで失業は減るが、インフレを折り込んで賃上げを行うと、失業率は元の水準に戻った。1970年頃から、欧米で失業率も物価上昇も高止まりするスタグフレーションが広がったことで、ケインズ政策が見直された。1980年代以降、フリードマンの主張に近い通貨供給を安定させる金融政策をとると、一時的に失業率が急上昇したが、やがてインフレが終息し、ついで景気も回復した。

    社会的効用を最大化しようとする新古典派の福祉経済学は、論理的に成り立たない。ハイエクは、自由度を最大化するようなルールが望ましいと考えた(ルールの功利主義)。ベンサムの功利主義も計画主義として批判した。

    世界49か国の法体系と経済成長率を比べると、規制が少なく分権的な英米法型の方が、権限が官僚に集中している大陸法型より有意に高い。ただし、大陸法型の日本の戦後の成長率が高かったように、発展段階にも依存する。権限が行政に集中する大陸法型は、遅れて近代化を進める国が国力を総動員するには向いている。明治憲法の骨格を固める際に伊藤博文に大きな影響を与えたのは、日々転変する現実に即応するためには、君主の命令や議会の立法ではなく、官僚の裁量が最も適しているというプロイセンの法学者の国家観だった。

    失業率は、雇用規制の強い国ほど統計的に高い相関関係がある。最低賃金の引き上げによって、雇用されている労働者の賃金は上がるが、賃金コストが上がるために労働需要が減り、失業率は上がる。
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    投稿日:2018.04.03

  • キじばと。。

    キじばと。。

    現代の日本社会に対する著者自身の意見を織り込みつつ、ハイエクの経済・社会思想を紹介している本です。

    ハイエクの思想の哲学的な側面にも触れ、ヒュームの影響のもとで懐疑論的な立場を標榜することになった彼の思索が、現代のインターネットや進化論的な認知科学の動向にも通じるような洞察を含んでいたことも論じられており、読者の内にハイエクへの関心を掻き立てずにはおかないような魅力をもっています。

    本書とおなじPHP新書からは、渡部昇一の『自由をいかに守るか ハイエクを読み直す』が刊行されており、どちらも著者自身の立場から比較的自由にハイエクの思想を読み解く試みがなされていますが、個人的には本書のほうが格段におもしろいと感じました。
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    投稿日:2018.02.08

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