【感想】虚線の下絵

松本清張 / 文春文庫
(6件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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ブクログレビュー

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  • じゅう

    じゅう

    「松本清張」の短篇小説集『虚線の下絵』を読みました。

    「松本清張」作品からちょっと離れていましたが、再び「松本清張」作品を読みたくなったんですよね。

    -----story-------------
    日常に潜む破綻の芽を描いた傑作短篇集。
    画家として名声を得た親友への複雑な思いを抱きながら、しがない肖像画家として生計を立てる男。
    夫のため、会社の重役を相手に注文取りに奔走する妻は、次第に妖しい色気を増していく。
    疑心暗鬼にかられた男が陥った罠とは――。
    男女の業(ごう)を炙(あぶ)り出した『虚線の下絵』のほか、『与えられた生』、『通過する客』、『首相官邸』の全四篇を収めた短篇集。
    -----------------------

    本書には以下の四篇が収録されています。

     ■与えられた生
     ■虚線の下絵
     ■通過する客
     ■首相官邸


    『与えられた生』は、胃癌と診断された画家が二度に亘る手術で一命を取り留めるが、死ぬ覚悟をした際の夢(望み?)を叶えようとして悲劇の階段を堕ちて行く物語。

    画家としての仕事と女性に関する夢を叶えようとする気持ちは痛いほどわかるし、小心者でまわりのことが気になる性質に共感したことで、主人公に気持ちがシンクロして、感情移入しながら読み進みました。

    堕ちるところまで堕ちて… そして、最期の望みが絶えたときに、画家の取った行動は、、、

    わかりますねぇ、その気持ち… でも、そうなっちゃいけないんだ と自分に言い聞かせながら読みましたね。

    それにしても、「松本清張」の魅惑的な女性の描き方には感心させられます… 本当に巧いですねぇ。


    『虚線の下絵』も、画家が主人公の物語。

    親友の画家は画壇の寵児となったが、自分は肖像画を描いて生活を営むしがない生活に甘んじており、常にコンプレックスを抱いている… 肖像画の仕事も、妻が営業して注文を取ってくることで成り立っている、、、

    画廊関係のプロよりも注文を取ってくる妻に感謝していたが、次第に妖しい色気を増していく妻が体を使って注文を取っているのではないかと疑心暗鬼となり、その思いを密かにカンバスの下にデッサンして、自分の欲求不満の捌け口とするが… それが悲劇を生んでしまう。

    妄想だったのか、真実だったのか… それは明かされないままエンディングを迎えますが、パートナーを疑うことは、良い結果を生まないという教訓ですかね。


    『通過する客』は、得意の英語を活かして、海外からの旅行者のガイドをしている主婦の物語。

    主人公は年上の男と再婚した主婦… 優しい歯科医の夫との生活は大きな満足も大きな不満もないが、その平凡な生活に物足りなさを感じている。

    以前、ガイドをしたアメリカ人からの紹介で、一人旅をするアメリカ人女性のガイドを担当することになるが、その女性はとっつきにくく、満足のいくガイドができない… そのうえ、その女性は京都に向かう新幹線で偶然知り合ったアメリカ人青年に気を取られ、と京都での行動を共にする、、、

    結果的にアメリカ人女性は詐欺に遭うのですが… ひとり取り残された主人公の女性は、アメリカ人女性の行動や発言を振り返ることになり、それが自身の夫への態度や姿勢を見つめ直す機会となります。

    他人の行動、姿勢、態度等から、自分の行動を見直す、良い部分は見習い、悪い部分は反面教師として見習わない… ということを改めて感じましたね。


    『首相官邸』は、二・二六事件を見習軍医の視点で描いたドキュメンタリー風の作品。

    軍と共に行動しつつ、軍医という立場から一歩引いた視点から、やや冷めた目で軍の行動を見つめているところが面白かったですね。

    二・二六事件のことを、よく知っていれば、もっと愉しめた作品だと思いますが… ちょっと知識不足でした。



    本書に収録された四篇に共通するのは、殺人もなく、刑事や探偵も出てこないということ… 一般的なミステリー、推理小説ではありませんが、それぞれ惹き込まれる魅力がありましたね。

    人の気持ちを巧く表現してあり、ついつい感情移入してしますので、面白く感じるんだと思います。

    「松本清張」作品、次も読みたいですね。
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    投稿日:2022.05.28

  • tikuo

    tikuo

    清張の男女間のトラブルを主とした人間ドラマ。

    売れない肖像画家である男は、売れっ子の親友画家と親交を深める。そんな中、マネージャーでも有る妻は次々と肖像画の発注を取ってくるため、親友夫婦に伝えてみると、それ以上は知らないほうが良いとたしなめられる。

    短編4篇のうち、3篇がちょっとした不倫から、家族や人物が壊れていくさまを、いろいろな視点から描かれており、特に冒頭の「与えられた生」は、読みにくいものの、非常に良くできた作品である。残りの1本は、2・26事件を小説的に再構築したというもので、松本清張の時代小説って、ほんとに散漫だよね。

    メインは最初の3本になってしまうのではあるが、これがまたちょっと文章のタイプが古い。とっとと進んでしまって良いところに言い訳のように心情の変化、会話らしくない会話を挟んだりと、鴎外あたりの古典でも読んでいるかのような感覚である。しかし、読みにくいなりに、自然とストーリーが入ってくる。

    2・26事件については、見習い軍医という変わった視点で書いたというところが着想なのであろう。ただ、K中尉との接点を作るためにあちらの将校、こちらの兵卒へと視点を切り替えてしまうので集中できず。『小説東京帝国大学』の後半のような、レポートを書きたいのか小説を書きたいのかという、中途半端な作風である。中学の頃に松本清張の歴史伝記ものを、薄いにも関わらず投げ出した記憶があるが、きっと同じような欠点があったのであろう。

    『黒い霧』『昭和史発掘』など、レポートならレポートとして書けるのが清張の強みなのだから、中途半端な小説化ものは、だいたい出来が悪いと避けたほうが良いのだろう。
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    投稿日:2020.01.17

  • ごみつ

    ごみつ

    これ前に一度読んだ事があった。(;^ω^) 226事件を同行させられた見習い医官の視点から描いた「首相官邸」、前は退屈だったけど今回はかなり面白く読めた。こういう作品があるのが、清張と他のミステリー作家との大きな違いなんだよね。続きを読む

    投稿日:2018.09.16

  • anne1024

    anne1024

    松本清張、やっぱり面白い。
    が、解説の岩井志麻子もとてもよかった。そうそう!と思って解説を楽しみました。

    投稿日:2015.11.04

  • kei_m

    kei_m

    与えられた生、虚線の下絵、通過する客、首相官邸、4編を収録。

    二・二六事件を扱った「首相官邸」以外は女性の不倫もの。
    「通過する客」が推理小説として一番面白かった。
    「首相官邸」は難しかったが、大半の兵士は真相を知らずに上官の命に従ってクーデターに参加したことが痛ましい。続きを読む

    投稿日:2013.07.29

  • キリン紙は美味しい

    キリン紙は美味しい

    借本。
    最初の話が衝撃的で、なんとも言えない気分に。
    著者の本は、ぐいぐい引き込まれるので、読んだ後にぐったりする事もしばしば、だけど面白い。

    投稿日:2008.08.01

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