【感想】私が見た21の死刑判決

青沼陽一郎 / 文春新書
(7件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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ブクログレビュー

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  • つー

    つー

    「司法統計年報(刑法編)」を読むと、毎年3〜4名ほどが死刑判決を受けていることがわかる。主な罪状は殺人の罪もしくは強盗致死傷がほとんどではあるが、そもそも殺人で裁かれた人数自体が200〜300名は居るのだから、人を殺しても死刑になる確率は2%未満という事になる。世界レベルで見ると、2022年の統計では死刑を執行した国は20カ国、件数は900件弱であった。なお死刑執行数が多いと言われる中国や北朝鮮、ベトナムは死刑執行に関して秘密主義を取っており、数値自体を公表していないため、前述の数字には含まれていない。下手をすれば倍どころではなく執行数の桁を上げる可能性もある。
    それに比べ、人口としては世界の80分の1(1.5%)程度が日本人であると考えるなら、900分の3(0.3%)という数は低く(執行数と判決数を単純比較はできないから目安として)、死刑判決には慎重な国であると捉えられなくない。なお死刑には基準があり、1.犯行の罪質 2.動機 3.残虐性 4.結果の重大性 5.遺族の被害感情
    6.社会的影響 7.犯人の年齢 8.前科 9.犯行後の情状、といった判断基準に基づき、4の重大性=人数で言うなら大体3名以上を殺害すれば死刑になる確率が高いと言える。但し本書でも取り扱う光市母子殺害事件は2名でも死刑になっている。
    本書はそうした死刑判決をジャーナリストとして実際に法廷で見てきた筆者が、事件の背景や実際の判決時の被告の表情・態度などについて考察していく内容だ。ちょうどオウム真理教の裁判及び判決時期と重なったため、21件もの判決を見てきている。よって本書も必然的にオウム真理教の引き起こした地下鉄サリン事件に関する被告の描写が多い。同事件は東大や早稲田、立命館など名だたる難関大学の出身者(しかも首席で卒業するなど)が引き起こした事件として意外性も注目された。
    判決を受ける際の被告の表情や態度もそれぞれ異なるが、冷静に判決を受け入れる者、教団教祖のように不様な者など、それまでの裁判経緯からの結果の予測によったり、本人の精神の成熟度によるところが大きい。とは言え、死刑となれば、判決を言い渡されることが本人の死を意味するから、動揺が無いはずもない。寧ろ地下鉄サリン事件で3名が同時に判決を言い渡されるシーンで、死刑を免れ無期懲役になった1人が見せた動揺する描写は強く印象に残る。
    裁判では被害者の遺族や被告の親族なども同様に判決を聞く事になるから、法廷における緊張感もかなりの物であると思われる。何より判決を言い渡す裁判長の精神的な苦痛はいかばかりか。殺人犯とは言え、人の命を奪う事になる裁判長の発言に際して、心のうちにある苦しさは想像を絶する。本書はそうした出席者の緊迫した状況を、犯人の心情に対する想像を交えながら見事に描き出している。
    現在では日本でも裁判員制度が採用されているため、そうした判決に一般人言わば素人が参加しなければならない。日常的に判断基準を持つ検察や弁護士、裁判長ならまだしも、法律素人の一般人が感情や表面上の出来事に流されて誤った判断をしないとも限らない。制度自体を否定するつもりは全く無いが、十分な注意が必要である。本書を記した筆者自身も法律の専門家では無いものの、数多くの死刑判決を見てきた事で、そうした感覚には優れているが、それでも一部の判決には納得のいかない点もある様だ。それが普通の人間の感覚なのだとも思う。本書を読み進めることでわかるのは、事件の背景にある動機、被告の反省度合い及び将来への期待などはどれも本人以外でなければ真実はわからない。サリン事件の林郁夫の様に実行犯として2名を殺害しておきながら、自白と事件解決への協力から死刑を免れる者もいる。一方で殺害人数が1名であっても自白がなかったことで死刑になる者もいる。
    林郁夫が法廷で見せた、反省の態度が真実なのか演技なのかは誰にもわからない。そうした中で死刑判決がなされ、毎年何人もの刑の執行がなされていく。私個人として死刑制度反対の立場では無いものの(一定の抑止力はあるだろうが、効果的かどうかは解らない)、死刑判決が抱える課題は大きい事は誰の目にも明らかだ。
    その様なシーンをあくまで客観的に記録として残している本書は、日本の裁判制度が抱える問題について考える良い機会になる。
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    投稿日:2023.08.17

  • かつお

    かつお

    わかっているつもりだったけれど、やっぱり世の中には色々な考え方、目線、感じ方があるんだなーと。

    面白いと言ってはだめかもですが…

    投稿日:2022.12.09

  • kasaji

    kasaji

    死刑囚のその後の一部が垣間見られて、考えさせられた。本当に死刑囚と言ってもひとくくりはできないと思う。

    投稿日:2021.05.17

  • deroderoh

    deroderoh

    筆者が実際に法廷で見た死刑判決の出た裁判の傍聴の内容。

    声高に、死刑の是非を問うようなものではない。
    裁判における死刑への攻防戦。法廷でのリアルな描写が迫真をもって迫ってくる。
    オウム真理教の裁判が中心に展開される。

    地下鉄サリン事件にかかわった被告達の量刑の違い、人を殺していないのに死刑、人を殺しているのに無期懲役(自首と見なされたため)など、人を裁くことの不安定さを端々で感じた。そもそも人を裁くとは、そもそもどのような行為なのか。

    人から裁かれるということの不条理さ、自分がその立場に立ったとした場合、どのような態度で対応できるのだろう。登場する検察、裁判官、被告、被害者の発言から、色々考えさせられるものがあった。

    裁判の傍聴が趣味という人がいるのは知っていたが、その人たちがなぜ傍聴にのめり込むのか、わかるような気がした。
    裁判という場では、人間の業のようなもの、世界の不条理さのようなものが、人の数だけバリエーションをもって展開され、自分がそれに対面、対決することなのだろう。
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    投稿日:2017.12.23

  • bax

    bax

    このレビューはネタバレを含みます

    [ 内容 ]
    裁判員制度がスタートしましたが、あなたは、裁判で死刑と判断できますか――。
    麻原彰晃をはじめとするオウム信者、畠山鈴香、池袋の通り魔、光市母子殺害事件の元少年……。
    重大犯罪をおかした死刑犯は、いったいどんな人物で何をしたのか? 
    そして、なぜ死刑を言い渡されたのか。
    あるいは、それを免れたのか――。
    長年にわたって精力的に幾多の裁判の取材を続けてきた著者が、それぞれの法廷で見てきた極刑裁判の様子と法廷で垣間見せた被告たちの素顔を綴りました。
    いつ裁判員に選ばれるか分からない時代に必読の書です。

    [ 目次 ]
    第1章 死刑宣告の瞬間
    第2章 死刑判決者の本音
    第3章 死刑と無期懲役の壁
    第4章 揺れる被告と遺族の心
    第5章 ひとりも殺していないのに死刑
    第6章 裁判員制度と死刑判決

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    投稿日:2011.04.16

  • piromin

    piromin

    新聞記事だけでは知ることのできない細かい裁判中の様子を書いてあるのは参考になったが、内容にそぐわない軽い表現が突然出て来ることもあるので、戸惑うことがあった。

    投稿日:2009.10.30

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