農家はもっと減っていい~農業の「常識」はウソだらけ~
久松達央(著)
/光文社新書
作品情報
「農家」の8割が売上500万円以下という残念な事実/赤字農業をなぜ続けるのか/農地転用という農家の「不都合な真実」/消費者が鮮度の落ちる野菜を食べさせられている理由――第一線の農業者である著者が、農業にまつわる古い「常識」を一刀両断。忖度なしの具体的でロジカルな提言で、読者の認識をアップデートし、農業の本当の知的興奮へといざなう。大淘汰時代の小さくて強い農業とは?
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商品情報
- 著者
- 久松達央
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 農業・農学
- 出版社
- 光文社
- 掲載誌・レーベル
- 光文社新書
- 書籍発売日
- 2022.08.30
- Reader Store発売日
- 2022.08.18
- ファイルサイズ
- 9.3MB
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この作品のレビュー
平均 4.0 (22件のレビュー)
-
大淘汰時代の農業の弱者の戦略とは
読んでいて無性に野菜を噛りつきたくなってくる。
著者が理想としているのは、味と香りと食感のある季節の野菜を育てること。
おやつのようなフルーティーなトマトより、酸味の強い青くさいトマトを、冬の甘い…春菊より、茎が太く齧ると香りが鼻に抜けるような春の春菊を作りたい。
チンゲンサイに間違われるほど太い株の小松菜や、大根菜ほど肉厚なルッコラなど、パッと見て分かりにくいんだけど、食べれば納得の野菜。
「ずこく美味しかった」と言う客に対して、「ありがとう」ではなく「でしょ!」とちょっと上からなところも心意気を感じさせる。
著者は畑の中で、触って匂いを感じながら齧った味の記憶を、いかにして食卓に届けるかを絶えず模索している。
直径2cmくらいの小さなピーマンを齧った時の強い苦み。
それが出荷直前の熟した時に齧るとはるかに味が立体的になっている。
収穫時期を少しズラしただけも、甘みや酸味などがどれだけ変化することか。
味だけではなく、翌日家に帰って食した時には失われてしまう濃厚な香りもある。
ニンジンの強く甘い香りも、収穫時に嗅ぐ土の匂いと混じりあっていて、胸をざわつかせるものがある。
「野菜は畑で生きている状態が100点です。それをいかに損なわずに食べる人のもとに届けるかこそが私たちの仕事」と語るように、鮮度が命。
生鮮野菜は収穫した瞬間から、味と香りが損なわれていき、特に香りは一日経つと、生きた状態の鮮烈さが失われてしまう。
そのため農園では早朝から収穫し、箱詰めまでほとんど野菜に触れないように心掛けている。
著者の農園は有機農業を実践しているが、これは農薬という武器を封じるゲームとしての有機農法に魅力を感じているからにすぎないと主張する。
日本の農薬が危険だからではなく、武器を放棄した上でいかにして病気が広がる要因をつぶしていくかにやりがいを感じているだけ。
農薬の危険性で不安を煽る一部の生産者や流通には辟易していて、業界のガンだと考えている。
有機であることをフックにしてものを売ろうなんて考えてないし、単に道具のひとつにすぎないとも思っている。
いまなら様々なセンサーを使った統合環境制御技術で、同じ目的を実現できるようになっているので、やめたって構わない。
だから、「有機で作っているのに高く売れない。秘訣はあるか」と聞かれると、因果関係が逆だと答えるようにしている。
「有機だから高く売れるのではなく、高く売れる人だから有機でできる」のだと。
有機マンセーから手作業万歳の風潮にも一刀両断。
何かと「最後は手作業なんですね。スゲー」と持て囃されるが、手作業=丁寧なものづくりではないと釘を刺す。
千葉の人参造りの名人が、著者の種まきの様子を見て一言。
「タネは何センチの深さで蒔いてる? 1~2センチ? 7ミリで揃えて」と。
それを聞いて著者は、忍者になって畑をブレなく歩くことを目指そうかとも思ったが、素直に機械を導入する。
農業機械も、一般的な栽培規模に合わせた設計になっているため、いつまでも小規模のまま我流ではいられず、償却できるだけの規模にシフトする必要があるし、標準的な最新のモジュールを学ぶ必要もある。
・農家数が昨今激減しているが、減っているのは売上500万以下の零細農家。
農業で食っているわけではない層が退場しているだけで、売り上げ3000万以上のプロ農家層は規模を拡大している。
・米作りは本来、スケールメリットが利きやすく、作付面積が増えれば増えるほど儲かるはず。
なのに、一定以上で頭打ちになっちゃうのは、赤字農家の退出スピードが遅いから。
おまけに高齢者がせっせと「縁故米」として無償で配ったりするから、高齢者の生き甲斐が市場を荒らす結果に。
・農家の8割以上が赤字で、それがほぼ常態化している。
赤字でも農業が続けられているのは補助金があるから。
日本の農業はすでに、どう補助金をとってくるかを競うゲームになっており、一生懸命やっても手を抜いても一緒。
・だから零細農家はもっと減っていい。
ただそれもカウントダウンが迫っていて、あと数年で一気に離農が進むXデーは目前だ。
しかし著者は絶滅すべきと主張しているわけではない。
皆が同じものを同じ規格で作る時代は終わったのだから、棲み分けをして、個農の皆さんは消費者の愛着にすがる「最愛戦略」にシフトしましょうと語っている。続きを読む投稿日:2023.11.04
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刺激的なタイトルではあるが、自身農園を運営される中で農に対する考えを記した一冊。今の農における課題やあふべきふがたが展開される。読み進めるうちに興味深く感じたのは、書かれている内容が決して農だけに当て…はまることばかりではないこと。これはビジネス書としても成立しているような印象を受ける。後半になるとよりその印象を強く受けるようになり、仕事に対する取り組み姿勢や、マネジメント論にもに通じるエッセンスが入っているように感じられた。あれ⁈これってつまるところアート思考のアプローチだよな、と思わされる一節などもあり、信じるものや想いが自身の野菜づくりや農園運営に表れている。冷静に俯瞰して事態の理解と打ち手を考える中で、ぶれない自分軸をもって動かれているのだなと感じさせられる。
農のことも理解が深まったが、それ以上に得たものがあった、いい意味で期待を裏切られた一冊。続きを読む投稿日:2023.12.05
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