いじめを考える
なだいなだ(著)
/岩波ジュニア新書
この作品のレビュー
平均 4.2 (6件のレビュー)
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「昔からあった「いじめ」が人権意識の高まりとともに、大人の社会では少なくなりましたが、学校という場になぜ残ってしまったのか。著者は「いじめ」の定義を歴史的に解き明かし、今日の「いじめ」問題をどう見たらいいのか、どうしていかなければならないのか、明快に示してくれている本。(1996年発行であるため、少年法の改訂、文部省から文部科学省への変更など、時代の経過により、「いじめ」問題に対してんお文科省の新しい見解・通達・警察の見解など、新しい情報と入れ替えて読み進める必要はある)。」
(『いじめを考える100冊の本』駒草出版 の紹介より)
もくじ
●はじめに
●第一章 昔に<いじめ>はあったか
ー<「いじめ」>の定義
●第二章 昔にはどのような<いじめ>が・・。
●第三章 <いじめ>はどこに行ったか
●第四章 そして学校だけに残った
●第五章 <いじめ>の心理
●第六章 増えているから問題なのか
●第七章 処方せんー<いじめ>をなくすために
●あとがき
・いじめはいつからあるのだろう。いじめの定義は何だろう。大人の世界では少なくなって、学校に残っているのは何故だろう。いじめの背景や定義、歴史をまずは知る。
・なださんは、精神科医でもある。いじめは、加害者の心の病気であり、被害者だけでなく加害者のケアが必要だと考える。そのケアは一人ひとり違い、何年もかかる。先生に子どものケアを、できれば子どもが自分の生徒でなくなっても継続して、行っていってほしいと考えている。
あとがきより:
「ぼくは、人生のどこかで、小道に入りこんで道に迷ったときには、できるだけ昔に視点を戻し、そこから現在を考えてみることにしている。いまあることを、百年前にはどうだったか、を考えるのだ。また、問題を世界の中に広げて考える。そのためにいいのは、世界の文学だ。読めば、同じような問題が、過去に、世界のあちこちで取り上げられ、論じられてきたことがわかる。」ぼくは、自分の分身のような高校生との対話の形で、この作業をすすめることにした。」
「ぼくの主張は、簡単にいえば、犯罪をゼロにはできないように、いじめをいますぐゼロにはできない、という認識を出発点にしている。だが、人類は二世紀にわたて、このいじめを乗り越える努力をすでにしてきたことを思い出して、それを希望にしちょう、というのだ。いじめの不幸な事件があるたびに、広い意味での人権を守る歴史を見直す機会だと、積極的に受け取り、勉強する。そうしていけば、いつかは分からないが、そのうちにいじめはなくなる。」
「ぼくは徹底した相対主義者だ。絶対主義者ではないから、いじめのような悪だって人間的なものとしてとらえる。相対主義者はけっして、抽象的に悪とか善を考えない。何かと向かい合い、何かと比較しながら考えるのだ。学校のいじめを民族の差別と比較し、また女性の差別と比較する。そして、その比較から、展望を得て、希望を引き出したいと思う。」投稿日:2023.03.11
人間関係の問題は生きていると必ずつきまとってしまうものだ。子どもではいじめと呼ばれていたものが大人ではハラスメントと呼ばれるものに変わっている。なだ先生が書いていた時にもあったと思うが、これほどのもの…ではなかったと思う。
人間には強い力を持った時に、思い通りになることへの愉悦からそれを弱いものに向けたり、自身の欲の開放に用いたりする。大人は年数を重ねた分だけ、それを制御する術を身に着けてくるが、子どもはそれをまだまだ身に着ける段階にあるから、いかんなく発揮してくる。軍隊はまさにその強い力を誇示するところにある。人間のもつ、無意識、生物的、身体的な部分の特徴といってよい。
そのこと自体はともかくとして、そうした強い力をもった際に人間が行うことをどのように取り扱ってきたか。予測と制御の脳化が進んだ社会でどのようにこの問題は隠蔽・抑圧されてきたか。
ひとつは軍隊のような場に取り残された。軍隊は解体されたとはいえ、今でも自衛隊の死者は自殺の方が多いのではないか。もうひとつは教育という名で学校に取り残された。このふたつの場に限ってはいじめの範囲が犯罪レベルから軽微なものまで広範にわたるものとなり、聖域のようにその外に出すことが難しくなった。
この点に関しては職場という場も同じであったと思う。それがいじめ防止法やハラスメント防止法というものとしていけないことだと言えるようになってきたということは、強いものが弱いものにむやみに力をふるってはいけないということを言いやすくなった、そういう行為はあってはならないと言えるようになった、人権意識の進歩と言っていいか。
戦争を経験した者であり、希望を信じる者である以上、そのように語らざるを得なかったのかもしれない。そうであると信じたいというのはなんとなくわかる気がする。あるいは、ソクラテスがうまい具合に善さというところに落とし込まざるを得なかったようなそんな気がする。弱者もまた、徒党を組んで力をふるっていくことで、何でもかんでも取り締まり罰を与えようとするそんな怨嗟の感情で動いているところがあるような気がしてならない。それはある意味で弱いということがある種の力になってそれを行使しているという同じことの繰り返しなのかもしれない。
最後に彼は、時間をかけてある種の物語として人生という物差しの中でいじめを取り込んで成長していくと締めくくっている。ひととひとが生きている以上、こうした軋轢や本能は避けられない。自分もまた誰かにそうしてしまっているのかもしれない。どのような経験もそのひとの人生の成長のひとつとなる。そうした経験があるからこそ、それはいけないとか、同じ境遇にあるひとに対していたわれる。だからこそ、受ける側ではなく、する側も同時に扱わなければならない。関係性の問題はどちらか一方にアプローチするのでは役に立たないのだ。する側もされる側も行為を時間の中で成長を支えるより他ない。それらが、社会全体で当たり前のものとして身近な大人が示せるそんな世界を願ってやまない。続きを読む投稿日:2021.06.05
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