依存症と回復、そして資本主義~暴走する社会で〈希望のステップ〉を踏み続ける~
中村英代(著)
/光文社新書
作品情報
薬物やアルコールの「依存症」は、「意志の弱さのせい」ととらえられがちだ。現代の資本主義社会において「依存をめぐる行動はこの社会の中で必然的に生じる行動パターンのひとつ」と著者は説く。本書では、当事者コミュニティ(薬物依存の回復支援施設「ダルク」、依存症からの回復のための世界規模の共同体「十二ステップ・グループ」)における回復実践をみていきながら、これらが示す人類の新たな共生のあり方を描き出す。
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この作品のレビュー
平均 4.0 (5件のレビュー)
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筆者は依存症を取り巻く社会と回復過程を分析し、現代社会に内在する目的のために自己を制御できないといけない前提が社会にあると捉えた。この前提を変えるために、自己の弱さを共有できる対等な関係性を広げていく…ことが必要としている。
読後は生きづらさを共有できる依存症患者がある意味で少し羨ましく、こんな関係性を自分も築きたいと思った。続きを読む投稿日:2023.06.11
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この本を読んで、依存症になる人はこうでなければならないとか、普通はこうだということに縛られてたり、〇〇が出来ない自分を責め続けてたりしている割と真面目な人が多いんだなという意外な印象を受けた…。
依存症になる原因として、根本的に心に問題を抱えていて、それを克服できないことの腹いせに依存対象と関わってる感じがした。あくまでもポジティブな気持ちで関われば依存症にはならないで上手に付き合えるのではないかなと思った。やる時点でダメな違法薬物とかは話は別だけど。
WHOのアルコール依存症チェックシートやってみたら大丈夫だった。基本月1-2ぐらいしか飲まないし、かなり多量に飲むときは年1ぐらいだし、記憶無くしたこととか飲酒のせいで失敗したことがないから自分は今の所依存症の心配は無いと思った。
中村英代
1975年東京生まれ。専門は社会学。日本大学文理学部社会学科・教授。お茶の水女子大学文教育学部卒業、東京大学大学院修士課程修了、お茶の水女子大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。博士(社会科学:お茶の水女子大学)、専門社会調査士。(ウェブサイト)http://www.hideyonakamura.com著書に『嫌な気持ちになったら、どうする?―ネガティブとの向き合い方』(2023、ちくまプリマー新書)、『依存症と回復、そして資本主義―暴走する社会で〈希望のステップ〉を踏み続ける』(2022、光文社新書)、『社会学ドリル―この理不尽な世界の片隅で』(2017、新曜社)、『摂食障害の語り―〈回復〉の臨床社会学』(2011、新曜社)など。
https://ja.wikipedia.org/wiki/DARC
そこで、ダルクについての疑問を四つにまとめた 61。 Q1 なぜ、入寮者は一日に三回ものミーティングに毎日出なければならないのか。 Q2 なぜ、就労よりもミーティングが優先されるのか。 Q3 なぜ、毎日の生活費は、使い切ることが推奨され貯蓄が忌避されるのか。 Q4 なぜ、本名ではなく全員がニックネームを使っているのか。
Xダルクは常勤スタッフ三名、非常勤スタッフが二~三名、入寮定員は九名で、Yダルクは常勤スタッフ五名、非常勤スタッフが二名、入寮定員は十三名である 62。スタッフは全員ダルクに入寮経験のある元薬物使用者である。入寮期間は個人によって異なるが、両ダルクともに二年が退寮の目安とされている。もちろん、ダルクに入寮しても必ずしも薬物使用がとまるわけではなく、入寮後の経過も退寮後の生活もさまざまだ 63。
元入寮者Bさん(男性/二十代後半/覚醒剤・睡眠薬) も、入寮して四カ月しかたっていない頃に私が行ったインタビューでは、ミーティングは〈好きじゃないし〉、〈めんどくさい〉、〈何の意味があるんだろう〉(2012.1) と語っていた。 ミーティングの意味は説明されるわけではないため、入寮者は何度もミーティングに参加するなかでそれが持つ意味をつかんでいくしかないが、ミーティングへの参加によって入寮者の一部は変化していく。元入寮者Cさん(男性/三十代後半/咳止め薬) も、入寮した当初はミーティングが苦痛で、〈綺麗事ばっか言って〉いたというが、入寮後二~三カ月たった頃から、そうした自分の態度が次第に変わっていったと語る。 〈前はなんかまわりの目を気にして、いいこと言わなきゃみたいな、正当なこと言ってたんですけど。なんとなく人の話を聞いてても、そういうのってわかるじゃないですか。……心にしみるというか。うん。すんなり入ってくるっていうのは、どちらかというと綺麗事っていうよりは、ま、意味不明でもなんか、本音で話してる人なんだろうなっていう。うん。……そっからですかね。できるだけ正直、正直っていうより、聞かせるために話す、ではなくて、ただ自分の思ったことを話すっていうことに変わっていったっていうのは。〉(2012.2)
ミーティングでは社会的によいとされることを話しても誰からも褒められないし、過去に犯した罪や心の内の醜い感情を語ったところで誰からも裁かれない。周囲の人々の要求を満たすことが習慣になっていて、自分の感情がわからなくなっている依存者もいるが、褒められもせず裁かれもしないミーティングでは正直に話せるようになる。
この語りからわかることは、まず一日の生活費は使い切ることが基本であり、それもまた回復のプログラムのひとつとされている点である。一般的には、無理をしてまでその日の生活費を使い切るよりも貯蓄することが推奨されるだろう。しかし、ダルクではこの点が〈外と違う〉。 Yダルクの責任者であり創設者でもあるDさん(男性/四十代前半) は、生活費を使い切る習慣について、次のように答えてくれた。 〈ちゃんとその日の生活費をその日に使うっていう。……お金を貯めないで使い切りなさいって、普通じゃ逆ですよね。……使い切りっていうのはいろんな意味があると思いますね。……お金を持っていることによって[薬物の]引き金になるってことは十分にあるので、それを防ぐためでもあるし、ちゃんとした食生活に戻るということもありますし。〉(2013.6)
本章を振り返ると、ダルクでは、経済活動や競争を伴う活動ではなく、一日に三回のミーティングやさまざまな活動によって仲間たちのなかで毎日を過ごし、貯蓄をせずに決められた生活費を使い切り、ニックネームを使うことによって対等な人間関係が目指され、未来や過去にとらわれずに今日一日を精一杯生きることが推奨されていた。
こうした変容のなかで同時に生じるのが、エゴの収縮である。ビルは自分自身に起こったスピリチュアルな体験を、「最奥での自我(エゴ) の収縮 97」と述べている。なんでもかんでも神のように取り仕切ろうとする振る舞い、利己主義、自己憐憫など、ここでいうエゴとは、いわば 自分が自分がと前に出てくる自己 98 のことで、ベイトソンのいう「魂の司令官」だ。 AAでは、自分よりも大きな力に自分の意志をゆだねることで 99、エゴの収縮が促される。なお、自分は他人よりも劣っていると考えて「自分は駄目だ」と 後ろにひっこむタイプのエゴ も、厳しい親のように 自分に常にダメ出ししてくるエゴ もまた、収縮していく。こうして人は、大き過ぎもせず小さ過ぎもしない等身大の自分に近づいていく。 そして、エゴと同時に小さくなるものが他人だ。依存者は、自分と他人を比較しては勝ったり負けたりし、他者を裁いたり自分を裁いたりしてきた。しかし、自分より大きな力の前で、私たち人間同士の違いなど小さなものでしかなくなる。他人と平等な関係が形成されると、かつて見下すように関わっていた他人への尊敬が生まれ、同時に、やけに強そうにみえた他人への恐怖感も薄らいでいく。
現代社会では、誰もが学校を卒業し、就職し、金銭を管理し、自立して暮らすことが求められがちだが、実際には、そうしたことができない人はたくさんいる。できないことには、知的な問題や精神障害が絡んでいる場合もある。こうした現実があるにもかかわらず、私たちの社会では 頑張ればできるはずだという思い込み が共有されており、できない人はできるようになることを求められ、できなければ努力が足りないと責め立てられる。自分の意志では酒をやめることができなくなっているのに、周囲から酒をやめろと言われるのと同じパターンだ。このパターン(これこそベイトソンが指摘した「社会の狂った前提」だ) が、飲酒問題だけでなく、現代社会のあちこちで展開されていることがわかる。
今回、本書を執筆するなかで私が気づいたのは、他者とのつながり方は、直接的な、物理的な、身体性を伴う関わりだけではないということでした。たとえば、本を読んだり音楽を聴いたりすることも他者とのつながり方のひとつであり、そうした場所では、日常の意識よりも一段深いところで結ばれる関係性が日々生まれています。私は十二ステップ・グループでの人々のつながりには、この一段深いところでの結びつきに近いものを感じてきました。人としての内的共通性によるつながり、とでもいうのでしょうか。続きを読む投稿日:2023.12.06
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