ボランティアと有償ボランティア
安立清史(著)
/ボイジャー
作品情報
なぜ、有償ボランティアという概念は必要になったのか
紙版の出版元は弦書房。無償のボランティアと有償のボランティアは矛盾しているのでしょうか。ボランティア活動に生きがいを見つけて、長くその活動を続けたいと考える人たちにとって、「ボランティア」概念の拡大が必要だと考えるところから、本書はまとめられています。個人や非営利団体が継続的に活動を続けるためには、どういう枠組みを作ればよいのでしょうか。「労働」観、「仕事」観が崩れていく時代で、まったく新しいボランティアの見方を描こうという試みです。〈有償ボランティア〉という概念はなぜ必要なのでしょうか。
【目次】
第1章 ボランティアと有償ボランティア
──何が問われているのか
《コラム》「有償ボランティア」とその普及の実態
第2章 「有償ボランティア」は矛盾か
──流山裁判をめぐって
《コラム》アメリカの病院ボランティア・システム
第3章 ボランティアに突き刺さった2つの棘
──パターナリズムと功利主義
《コラム》「ボランティア拒否宣言」について
第4章 「労働・仕事・活動」そして「天職」
終章 これからの世界へ向けて
あとがき──二つの中心をもつ楕円
【著者】
安立清史
1957年、群馬県生まれ。九州大学・大学院人間環境学研究院・共生社会学講座・教授。専門は、福祉社会学、ボランティア・NPO論。著書に『介護系NPOの最前線-全国トップ16の実像』(共著、ミネルヴァ書房、2003)、『ニューエイジング: 日米の挑戦と課題』(共著、九州大学出版会、2001)、『高齢者NPOが社会を変える』(共著、岩波書店、2000)、『市民福祉の社会学――高齢化・福祉改革・NPO』(ハーベスト社、1998)、『21世紀の《創造の共同体》』(弦書房、2021)など。
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商品情報
- シリーズ
- ボランティアと有償ボランティア
- 著者
- 安立清史
- 出版社
- ボイジャー
- 書籍発売日
- 2022.01.31
- Reader Store発売日
- 2022.01.19
- ファイルサイズ
- 0.7MB
- ページ数
- 180ページ
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この作品のレビュー
平均 2.3 (3件のレビュー)
-
なんだろう、自分の集中力がなかったのか、読んでいるそばから言葉が救おうとした指の隙間から零れ落ちていってしまうような感覚。
掴めそうになったと思ったら、いつのまにか違う話が始まっていたり。
あっさり論…じられていたのかな。
タイトル通り、「無償」ボランティアと有償ボランティアの話。
ボランティアとは、とかそもそもなぜ人はボランティアをするのか、みたいなところは期待していたよりも書かれていなかった。
P.19-
「有償ボランティア」が矛盾だとする議論のほとんどは、西欧語の「Volunteer」の語源にさかのぼって議論を始めている。
代表的な論者、大阪ボランティア協会の早瀬昇によればvolunteerの接尾辞のvolの語源はラテン語のvolo(ウォロ)で英語のwill(進んで何かをする)という意味だという。火山(volcano)とボランティアとは語源を共有しているという。
P.49-
「ボランティア」は、無償の社会奉仕・社会貢献活動のはず、しかも特定の政治党派を支持するような政治活動はせず、宗教活動でもなく、自発的に無償で公共や社会を支援してくれるはずー政府や行政から見たら、こんなありがたい存在はない。諸手をあげてボランティアやその活動を支援するに違いないーところが現実を見ると不思議にそうではなかった。
「市民参加」(明治では議会開設や普通選挙、大正ではデモクラシー)とは、政府や政策への批判でもあった。だから明治民法の公益法人制度は、営利企業は歓迎したが、非営利の公益法人やその活動を警戒した。政府行政の批判に使われると困るからだ。たとえば政府行政がしっかりしていないから民間の非営利活動が必要になる、という主張にも転化するからだ。
このようにもともと警戒されていたところに、今度は「ボランティア」という衣をまとって「新しい公共」を目指す運動が生まれてきた。さらに「有償ボランティア」というもっと不思議な存在が現れた。このように「有償ボランティア」が警戒されたのは理由があった。ボランティアなのかボランティアではないのか、ボランティアなら「無償」のはずだ、有償なら「労働」の一種のはずだーそう短絡的に考えがちなのだ。ボランティア活動と言って税を納めないのは脱税行為だ。そしてNPO側と正面衝突することになった。それが「流山裁判」である。しかし、この裁判でNPO側は敗訴した。敗北した理由は、NPO法人による「ふれあい事業」があまりにもシステム化されすぎていたことだったようだ。
裁判に負けたことによって、結果的に、ボランティアやNPOの世界が、「労働」へ近づいてはいけない、「労働」になってはいけないという教訓がはっきり見えてきた。「労働」の論理とは別次元の論理を立てないといけないのだ。ところが「ボランティア」や「有償ボランティア」には、そのオルタナティブな論理、「労働」とは違うもうひとつの論理の構築がまだない。ここに大きな問題と課題がある。
P.73-
ボランティアの世界に、ボランティアを拒否するという痛烈な批判が出現しました。しかも障がい者の自立生活運動など、ボランティアをもっとも必要とする人たちの中からそれが現れたので重大です。
阪神・淡路大震災以後は、災害が起こるたびに、大きなイベントがあるたびに、さらに近年では地域の福祉課題が浮かび上がるごとに、政府や行政からのボランティア養成が絶えません。この考え方の背景には、通常の労働や仕事としてではなく、人々のボランタリーな思いや活動によって問題や課題を解決できるとするボランティア期待論や待望論もあるようです。
「ボランティア拒否宣言」として有名な「花田えくぼ」という人の死は、「ボランティア」という存在の持つ無意識的な暴力性について強烈に教えてくれる。善意や自発性を言い訳に、自分の都合や好悪を優先してしまいがちなボランティアの恣意性や身勝手さ、そうしたものへの耐えがたいほどの嫌悪や反逆が、この詩には込められているように思われる。
P.94-
イスラエルの高校生を二つのグループに分けて実験した。第一のグループは、その募金が大切な福祉資源になるという説明だけで街頭募金活動への送り出された。第二のグループは、募金の成果に応じたインセンティブ(報酬金)がでるという条件のもとで募金活動に出た。結果は意外のもので、インセンティブを与えられたグループは最初は成績が良かったが、やがてインセンティブなしの、つまり理念で募金活動していたグループに追い抜かれた。
ちょっと頭を使うクイズのような問題を解く場合に、同じように二グループに分けた場合の結果だ。かんたんな問題の場合には、インセンティブをつけたほうが正答率は高くなった。しかしすこし難問の、ある意味で頭を本当に使わないと解けないような難しい問題の場合には、インセンティブなしのグループのほうが成績が良かったという。
この二つの事例から、インセンティブの二重の意味が見えてくる。第一は、単純の繰り返しやじっと我慢して何かを行うような場合には、インセンティブは効果を発揮する。しかし第二のより重要なことは、インセンティブがあると、ほんとうにそれを意味あることと信じて行うことにはならない、ということだ。あくまでもインセンティブのためにそれを行っている、という意識が抜けないのだ。
P.104
「ボランティア拒否宣言」(花田えくぼ) ※一部抜粋
(略)
ボランティアの犬達は 私を優しく自滅させる
ボランティアの犬達は 私を巧に甘えさせる
ボランティアの犬達は アテにならぬものを頼らせる
ボランティアの犬達は 残された僅かな筋力を弱らせる
ボランティアの犬達は 私をアクセサリーにして街を歩く
ボランティアの犬達は 車いすの蔭で出来上がっている
ボランティアの犬達は 私を優しい青年たちの結婚式を飾る哀れな道具にする
ボランティアの犬達は 私を 夏休みの宿題にする
(略)
私はもう彼らをいい気持ちにさせて上げない
今度その手が伸びてきたら
私は きっとその手に噛みついてやる
p. 148
日本は人口減少社会・超高齢社会などと喧伝されています。年齢だけでみた現役世代の労働人口は減少しているのですから、日本社会はこれまでと違った「働き方」が求められています。新しい「働き方」の可能性として、ボランティアや非営利組織などが注目されてきたのはそのためだと思います。
現在は「再雇用」や「定年延長」という微調整路線ですが、問題の本質的な解決からは程遠いと思います。欧米では「定年制度」そのものが社会的に認められなくなっています。年齢だけをみて人間を差別する「年齢差別(エイジズム)」だからです。アメリカではかなり以前から「定年制度」を雇用規制に入れることは憲法違反になっています。
P.152
ゴッホの生前に、描いた絵は一枚も売れなかったそうです。でも死の直前まで描き続けました。彼にとって絵を描くということは何だったのでしょうか。職業とも言えない、労働とも言えない、かといって無償のボランティア行為だったとも言えないでしょう。
あえて言えば、彼は≪仕事≫をしたのだ、そういえるのではないでしょうか。労働でもボランティアでもない、ただ何かに突き動かされるように≪仕事≫をしたのだと思います。
P.155
NHK放送文化研究所が持続して実施してきた世論調査が「日本人の意識」調査です。1973年以来、5年ごとに実施されてきました。
調査では「人によって生活の目標もいろいろですが、リストのように分けると、あなたの生活目標にいちばん近いのはどれですか」として次の4つが示されています。
1 その日その日を自由に楽しく過ごす
2 しっかりと計画を立てて、豊かな生活を築く
3 身近な人たちと、なごやかな毎日を送る
4 みんなと力を合わせて、世の中をよくする
それぞれを「快志向・利思考・愛思考・正思考」と名付けて、過去50年間の変化をみます。最も目立つのは「正思考」が一貫して低下していることです。反対に「愛思考」は一貫して上昇しています。このゆっくりとした、しかし持続する変化の動向と、ボランティアやNPOとは、じつは密接に関連しているように思われるのです。
仁平典宏さんのボランティアの誕生と終焉も借りれるといいなぁ。続きを読む投稿日:2023.05.27
有償とボランティアの二つは矛盾するのか、という題に対し、著者なりに意見を述べた本。労働哲学や社会的な経緯などにも触れており、正直難しいところがあった。だが、「ボランティアであることと非営利組織であるこ…とは別の概念なのに、両者を混同することで認識の相違が生まれてしまう」ということは分かった。
また、ボランティアを受ける(介助される)側の苦悩とパターナリズムという概念は初めて知った。少なくとも今の自分はボランティアを「する」側だが、パターナリズムについては常に自覚的でありたい。続きを読む投稿日:2023.04.08
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