この作品のレビュー
平均 4.1 (48件のレビュー)
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【感想】
政治に関してはずぶの素人である和田さんと、現職の国会議員である小川さんとの政治問答。内容が「政治」とあって難しそうに見えるが、決して形式ばったディスカッションではない。むしろ小学生の社会科見…学のように、疑問と驚きを交えながら政治の世界を覗いていく、そんな一冊だ。
筆者である和田さんは結構な大人(50才)でありながら、政治経済に関しては本当にぺーぺーである。税金や社会保障のことなんて、「良く分からないけど、高いので嫌いです」というレベルの知識しかない。
対する小川さんは立憲民主党の現職議員である。保守政党の自民党よりはだいぶリベラルだが、立民の中では割と中道寄りとのこと。市民の生活に即した感覚を持った、バランス型の議員と言えるだろう。
インタビュー当時は、自民党政権のコロナ対応がお粗末だったこともあり、対談する中で現政権のかじ取りに対して語気を強める場面が目立つ。特に和田さんはこの年までずっと苦しい生活をしてきたこともあり、自民党に対する怒りの気持ちを隠さない。対して小川さんも自民党に対してはもちろん批判的なのだが、ただの罵詈雑言で終わるのではなく、むしろ「彼らを支持する人たちの中にも、きっと苦しい人はいるはずだ。それを考えてみよう」と、歩み寄りの気持ちを持っている。日本を良くするのは、特定の誰かと戦うことではなく、弱さや無知などの構造的な背景と戦うことだ。小川さんはそれを重々理解している議員であり、揚げ足取りや過度な批判だけでお茶を濁すことはない。必ず「こういうことから変えていきましょうよ」という建設的な意見をくれるのだ。
小川さん「安倍さんの支持者には確信的な支持者もいれば、知らないまま流されて支持している人もいる。そして支持者の多くはもしかしたら生活に人生に失望している、さまよえる人たちじゃないか。その人たちを自分とは違う人たちだと除外していいのか、考えてみてはどうだろう?」
そんな対照的なコンビだが、これが不思議とカッチリとハマり、いつの間にか面白い対談ができあがっていく。中学生レベルの和田さんに対しても、小川さんはずっと並走してくれており、素人質問にも「たくさん考えていて素晴らしいです」とほめてくれる。そのうち和田さんの「なんだかよく分からない」がきれいに解きほぐされていき、いつの間にか民主主義を語り合う「政治対談」ができあがっていく。
本書で凄いと思ったのは、筆者の和田さんがみるみるうちに政治を語ることができるほど成長してくことだ。そもそも最初から和田さんは「がんばる人」だった。無知のまま現役国会議員に質問するなんて、普通じゃ怖くてできない。でも、「わからないのは恥ずかしいことじゃない」というスタンスで、何度も何度も質問を繰り返す。いくら聞いてもすんなり飲み込めないものを、必死でかみ砕いて嚥下し、自分の中に消化していく。そうした「ゼロからはじめる勇気」は普通、いい大人が持てるものじゃない。そんな勇気をもって毎日夜の3時まで政治の勉強を続けていたら、いつの間にか言いたいことが自分の言葉で言えるようになっている。
そして小川さんも、議員の鑑と言っていいぐらい本当に真摯な御方だ。手間をかけ、時間をかけ、今の政治の問題を和田さんに解説していく。しかも相手は知識のない素人だし、感情的な議論を持ち出してもくる。原発のときの話なんて喧嘩一歩手前の雰囲気だったが、そういうふうに議論が激しくぶつかっても、丁寧に説明を繰り返していく。まず目標として2050年までに再エネ100%を達成しなければならない、すると年間3%のシフトが必要だが、そのためには化石燃料に課税しつつ、ある程度原発を稼働しなければならない。反対する人も確かにいるが、ゴールから逆算すると、原発を今すぐ停止しては成り立たなくなる。きちんと実現可能な道筋を立てることで、この国のやるべきことが見えてくる。
不可能な青写真をばらまいてポピュリズムに走るのではなく、きちんと現実を見つめた上で、現在の居場所と問題を提示し、解決方法を二人三脚で探っていく。
そう、政治ってそういうものなのだ。どこか遠くに感じる人口問題や社会保障の問題を、国民一人ひとりが消化しきれるぐらい噛み砕いて、自分ごとに落とし込んでいく。そのプロセスを通じて身の回りの社会を少しずつ見つめ直すことで、「こんな国に住みたい」と自分の言葉で言えるようになる。こうした地道な試みが、「民主主義」の第一歩なのだ。
――私が「日本の問題が何か少し分かってきたら、別に何も変わってはないけど、不安がちょっと減ってきたと思う」と言うと、小川さんがたいそう喜んだ。「その言葉が希望だ」と言う。「小川さんが最初にそう言ったじゃないですか」と言うと、「みんながそう思ってくれることが願い」だと。国の問題を政治家と一緒に考え、悩み、理解すること。「それをする人が一人でも増えれば、将来に向けて問題はほぼ解決したに等しい」ことになるという。
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【まとめ】
0 まえがき
筆者は衆議院議員の小川淳也氏(立憲民主党)に、日本の抱える政治的問題についてインタビューする。昨日までの今日が、明日もまた確実に続く、その時代を確かに手にするための仕組みを知りたい。その思いから、共同で本を作ることを決めた。
しかし、筆者は政治の知識がゼロで、何がわからないのかがわからない。小川さんと一緒に、広大な政治の世界をそろりそろりと歩くことから始めていった。
1 最大かつ最難関の「人口問題」
日本が抱える一番大きな問題は、やはり「人口問題」である。これは人類が歴史上初めて向き合う課題であり、世界中で同じ課題を抱えた国がたくさんある。日本はその先頭を走っている。
人口が減少し続ければ、経済が成長することを前提に政策の基本を置くことはできない。社会保障、インフラといった、従来の社会構造の基盤を根本から作り変える必要がある。そのため、今の政治家は、長らく上昇曲線の中で作られた政治と社会を、下降曲線に耐えられるものにリビルドするという、歴史的な使命と世代的な宿命を背負っている。
国家の屋台骨を作る基礎が「統計」であるが、2018年に、厚生労働省が統計を不正に歪めていたことが発覚する。2014〜2017年、安倍政権下で統計不正が行われていた当時のニュースを思い出すと、アベノミクスは成功し、賃金は上がり、個人消費は回復していると喧伝されていた。でも、そんなことは実感できなかった。暮らしは日々苦しくなり、不安は大きく膨らむばかりだった。社会は不景気にどんどん傾いていた。不安を大きくしたのは、政治だ。
小川さん「安倍政権が作った日本社会を定義すると、対外政策、外交、安全保障政策は明治の日本を目指し、経済、社会政策は昭和の日本を目指していたと思います。もうちょっとかみ砕くと、明治の日本は明治憲法のもとで、天皇主権の貴族社会。富国強兵で軍事力に相当力を注ぎ、植民地経営まで行う独立国家でした。安倍さんはそういうタカ派(武力行使も辞さない強硬な姿勢)外交安全保障政策を目指していたと思います。一方で経済、社会政策では、昭和の高度成長を前提とした、豊かで強い成長する日本を目指していましたね。ただ、実際にやれたことは、憲法解釈の変更と集団的自衛権の容認だけ。それから金融緩和。目指したものにくらべると、小さかったかもしれません。」
この20年で格差が広がり、人と人とが分断させられてきた。そのことが、いろいろな生きづらさの原点にある。
2 借金まみれの財政と伸び悩む経済
日本の借金は1000兆円を超えており、その大部分は社会保障費。その中でも高齢者向けの社会保障費に、われわれの税金が充てられている。現役世代に向けた社会保障費は、他の先進国に比べてほぼ半分と言われており、バランスを欠いている。
小川さんは、基礎年金はみんなに7万円〜20万円程度の金額を、それぞれの現役時代の年金の掛け金に応じて保障するという制度設計がちょうどいいと考える。最低保障額を大幅に増額して一人7万円程度にまで引き上げ、同時に高齢でも自前で一定の収入、現役世代の平均収入の50%以上がある人には、一部我慢してもらう。我慢を強いられる人からしたら「とんでもない」話だが、今まさに国のかたちを変えるべき事態なのかもしれない。
何より必要なのは、国民負担を真正面から議論できる政治である。「将来のためにはここでやるしかない」と決断し、その理念を国民が納得できるよう説明する政府である。
他国では政府が無償、ないしは安価で提供するような財・サービス――例えば住宅、教育、育児・保育、養老・介護等――の獲得に必要な資金を、日本では減税で還付してきた。つまり日本は「減税」することで、「自ら働き、自ら助ける社会」を築いてきた。増税を拒否し、減税に喜びながら、実は自助に追い込まれてきたのだ。
小川さんの描くインフレ政策は、消費税を段階的に上げていくという常識とは真逆の発想。ただし、上げたぶんを全て社会サービスと現金給付で国民に返し、金を循環させていく。加えて法人税、相続税も今より上げることを見込んでいる。
小川さんは、社会構造を変化させる方法については、「トータルのプランを提示したら、最終的に国民投票にかけたい」と述べている。「国民自身の手で決めてくれと。誰かがいつのまにか制度を整えてくれるという世界観ではもはやないので、自分たちの手で乗り越えたという経験的な厚みと社会制度の変革を、同時進行でこの国にインストールできたらいい」
これからの社会保障を立て直すには、政治家と私たちが共に侃侃諤諤、話し合うことは必須だ。政治家側に任せるだけじゃなく、私たちも、その責を負ってこそ、解決に向かう。その実感は大切だ。自ら汗することなく、この大きな局面を乗り越える力は湧いてこない。
3 硬直化する労働市場
硬直化した雇用市場を柔軟に作り変える。そのためには、
・退職金の優遇税制を段階的に見直す。退職控除と退職金そのものを少しずつ縮小し、浮いた額を小分けにして給料に上乗せさせる。
・最低賃金を1500円まで上げ、扶養控除を撤廃する。正規と非正規の区分けをなくす。その代わり、パートも時給から社会保険を払うようにする。
鍵は、一人の人生を一つの企業に一生縛り付ける文化を変えることである。正社員だけが年功序列文化のメリットを受け続ければ、非正規との格差が広がるばかりだ。社会制度上で不利や齟齬が生まれないように、社会の変化に対するダイナミズムをつけなければならない。
4 政治をどう考えるか
小川さん「原発もそうだし、化石燃料もそう、辺野古もそう。指導者が都合のいいことを言うけど、それ以外は隠し立てしてウソをつくか、そうじゃないこともきちんと説明して、説得することに少なくとも努力をするか、それによって抱えている問題も見え方が変わります。指導者の能力と覚悟次第で、風景を変えられる可能性はあると思います」「今、権力者の側からすると、オリンピックを国民がああだこうだ言おうと、物言う国民を反日呼ばわりして押し切ってしまえば問題ないと考えています。彼らは少々横暴を働こうが、さぼろうが、『オレたちは政権交代させられることはない」という慢心、油断の塊みたいになってるんですね』
日本には政治の選択肢が1つだけしかない。現政権を諸手を挙げて賛成とは誰も思っていないが、我慢せざるをえない。それは国民の責任ではなく野党側の責任でもある。
民主主義とは、人間の尊重ということにほかならない。
豊かさと平和を担保して、人々の心と暮らしに少しの余裕とゆとりを芽生えさせ、民主主義がもたらす手間とコストを引き受ける用意と決意を求める。それはかなり長期戦になるかもしれないけど、その覚悟もあわせて求めていきたい。そのための脱成長であり、再分配だから。逆を言えば、民主主義をとると決意することは、絶対にこの平和と豊かさを保持すると決意することだ。
明日の幸福を築くには、政治が欠かせない。たとえ新たな不安が芽生えても、不安の原因を探り、原因が分かれば、そこに解決の道筋が見え、不安が縮んでいく。私というひとりの不安が解消されていくことは、日本に住む多くの人の不安が解消されていくことだ。私の不安は決して私だけの不安じゃない。私は不安をそのままにせず、不安を解決するよう、政治を考えることを続けたい。当事者として、あきらめることは、止める。これから先、私は、私なりの幸福にあるのだ。続きを読む投稿日:2022.10.29
タイトルは賃金の話だけど、それに留まらず、いまの日本社会の様々な問題はなぜ起きているのか、どんな解決方法が考えられるのか、について、和田さんの疑問に答える形で国会議員(当時)の小川さんが噛み砕いて話し…てくれる一冊。続きを読む
投稿日:2023.11.25
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