「悪」の進化論 ダーウィニズムはいかに悪用されてきたか
佐藤優(著)
/集英社インターナショナル
作品情報
現代科学を根底から変えた進化論──そこには語られざる「暗黒面」があった。生物学のみならず、現代史をも変えてしまったダーウィニズムの功罪を、神学、西洋哲学史、資本論などの観点から、現代日本を代表する「碩学」が解剖する。同志社大学で行なわれた「伝説の集中講義」を、学生たちとの率直なやりとりも含めて完全再現。
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商品情報
- 著者
- 佐藤優
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社インターナショナル
- 書籍発売日
- 2021.06.25
- Reader Store発売日
- 2021.08.26
- ファイルサイズ
- 5.1MB
- ページ数
- 544ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (3件のレビュー)
-
佐藤優氏が、同志社大学生命医科学部「サイエンスコミュニケーター養成副専攻」において『進化論と神の問題』について3日間にわたり行った集中講義の内容を記したもの。進化論の解釈において歴代のアメリカにおける…政策や、ナチスドイツの考え方について異論もあるが、神学、哲学、数学、天文学や科学技術、芸術などのつながりに焦点を当て、深い内容の講義をしている。講義形式なので、論理的に説明をしているわけではないが、さまざまな知識が随所にちりばめられており、勉強になった。
「研究職は別として、総合職としてマネージメントをやっている人の中で、Ph.Dを持っている人がどれくらいいるかな? 修士を取っている人だってほとんどいない。経営の決定権を持っている人にMBAを有している人も少ない。これは国際基準からすれば著しい低学歴社会だ。こうした状況はいずれ変わっていかざるをえない」p62
「「昔はよかった」という人たちは下降史観なんだよ」p75
「人種主義は第二次世界大戦で完全に封印されて、アメリカも公民権運動で封印されたことになっているけれども、それは建て前の世界だ。裁判官も陪審員も半分女性、半分男性で、なおかつ白人と黒人、ヒスパニックの比率もだいたい同じになっている。実態においては絶対にそんなことはない。そういうアメリカの建て前はよく理解しておいたほうがいい。見えないところに人種意識がある」p79
「60歳を回ったとたんに、しょぼくれる男は多いよ。それも年収1800万円くらい。つまり月平均で150万円くらいの収入のあった人たちが特にひどい。一気にしょぼくれちゃう。年収1800万円といったら、サラリーマンの頂点ですよ。そういう人たちが60で定年退職する。年金が出るのは65歳からだから、それまで働かないわけにはいかない。そこで元の会社に再雇用になるんだけど、それだと月給が30万円で固定。客観的には少なくはないけど、一気に月収が1/6になるわけだから本人にとってもショックは大きい。でも、再雇用だと仕事は楽になるから、そんなところが相場になる。「俺、人間の価値が1/5になったみたいだ」と言うんだよ。しょせん再雇用なんて年金が出るまでのつなぎなんだから、ひと月30万円入ればいいじゃないと言っても、全然そういう感覚になれない。本当にそこで老け込んじゃう。あるいは、大学病院に行くでしょ。朝の6時ぐらいから60代後半から70代前半くらいの人たちが待っている。病院の番号札を少しでも若いのを引きたい。それで「俺は何番だった」と自慢してるわけ。彼らは特に病気があって通院しているわけでもなくて、病院で定期検査をするだけなんだけれども、そんなところで競争して、若い番号札を取るのに燃えている。それもまた承認依存症の一種だ」p86
「私は学者を評価する時には必ず翻訳業績があるかどうかを見る。翻訳は大変。訳をすればかならず誤訳が出てくる。文句もつけられるし。それから翻訳というのは印税が安いし、あまり売れないし、全然金儲けにならないからやりたい人しかやらない」p95
「(欧米の考え方)人間には原罪があるからどんなに文明が発展しても平和な世界を作ることはできない。かならず戦争が起こるという建付けがあるから「実際に戦争が起こったらどうするか」というところから、戦時国際法を作ろうというアイデアが出てくる。戦争はやるけれども、やりすぎないように自制する。そのためのルールが必要だというわけだ。こうした人間観は日本人にはないから、その理解はひじょうに重要になる」p141
「「ヒトラーの思想は首尾一貫している」と言ったけれども、それは彼の頭の中での話で、思想としての体系として見た場合には、アマルガム、つぎはぎでしかない。その意味では、ナチズムはデタラメで、知的な水準としては取るに足らないほど低いのだけれども、その思想が世界を破滅の危機にまでおいやったわけなんだ」p164
「マルクス主義は資本主義そのものをなくして、新たなシステムを作る、つまり社会主義、共産主義の革命を起こすことによって格差を解消していくというアプローチになるんだけれども、ファシズムの場合は資本主義はそのままにしたうえで、国家という暴力装置によって労働者の利益を保全するという考えに立つ。すなわち資本主義の利潤の一部を国家の強制力で労働者に再分配し、その代わりに労働者にはスト権を認めない。また雇用に関しても、資本家に雇用を確保させる。こうしたコーポラティズム、一種の協同組合主義として、ナチスの経済政策は始まっているわけだ」p171
「ファシズムも福祉国家政策とともに国家が私的な経済活動に介入して、富の再配分を行うという点においては共通である」p172
「どれだけ中欧、東欧において、ナチズム政党が躍進したのか。まさに、ナチズムやファシズムの支持率はヨーロッパ全土で圧倒的に伸びたんだ」p179
「途中で「派遣社員の方が気楽だと思っていたけれども、これではダメだから、やはり正社員になろう」と思っても、そういうキャリアアップの道は日本ではほとんどない。新卒の段階で派遣を選んだら、一生、派遣社員になってしまって、その先には希望がない」p308
「よく「新卒採用がダメでも、第二新卒があるから」とか「就活なんて過去の遺物だよ」という人がいるけれども、それはまったく正しくない。特に企業において、ことにトップクラスの企業においては終身雇用制は維持される。これはアメリカでも実は同じで、よい企業の方が長く勤めるものだし、企業もそうした社員を圧遇する」p308
「(弁証法)自分が何かについての考えを述べる。それに対して、相手が反駁する。そこでその相手の指摘を踏まえて、自分の考えをさらに深めていく。論理のやりとりの中で事柄への理解が進んでいくことを弁証法という」p334
「(ナチスのアイヒマンについて)凡庸な男が地位と権限を与えられると、人類史上、例のないほどの大虐殺をやる。人間とは本質的に、そういうもんなのだ」p388
「プロフェッショナルになること、研究者になること、その道の専門家になることは何も悪いことではない。だけれども、マクロな視点から見たら、今、自分がやっていることが社会にどのようなつながりを持つのか、という大枠を見る訓練をしておくのはひじょうに必要とされる」p390
「みんなに身につけてもらいたいのは、形式的な学位とかそういった資格ではなくて、社会に出てから本当に役に立つ力だ。競争社会というのは問題もたくさんあるけれども、力のある人にとっては全然悪い場所じゃない。そこの競争の中で生き残れるから」p393
「ロシア語では「彼はずいぶんとずるい」ということを「中国人100人分くらいずるい」と平気で言う。ロシア人にとっての中国イメージというのはそれほど悪い」p419
「(バッファー)ロシアにとってモンゴルもポーランドもチェコも、みんなバッファーなんだよ。このバッファー国家に対して、ロシアはいつでも好きなタイミングでソ連軍を展開できる。そういう領域を常にソ連は必要としている。そうして安全保障を200%担保するわけだ。ソ連の建て前としては、これらのバッファー国家、衛星国はあくまでも独立国であって、保護国ではないし、傀儡国家でもない」p420
「ローレンツは優れた発見や観察をたくさんしているんだけれども、1つだけ間違ったのは、動物の行動は種を維持するためにあると考えたところだと、ドーキンスは考える。今では動物の行動は種全体ではなくて、それぞれの個体が生き延びるためにあり、それを子孫に伝えるのが遺伝子の働きだというのが主流説になっている」p451
「自分を基準にして、教え子に「このくらいの問題だったら、だいたい自力でやれるだろう」とか「今の実力だったら、あと2割くらい負担をかけてもいいな」と思うんだけれども、そこは今と昔ではいろいろ違うから、それをだいたい八掛け、七掛けにしたぐらいの感じで課題を出すわけ。それで大丈夫な人もいるし、ダメな人もいる。そのへんが本当に難しいと思う」p490
「科学リテラシーを持たない人々が増えることによる経済的損失も大きく、社会の隅々にまで科学を理解する人を養成することが、今後わが国の将来を左右するといっても過言ではありません」p532続きを読む投稿日:2022.03.07
このレビューはネタバレを含みます
悪には魅力がある(悪人となって、善人ヅラに可罰したい欲求)、往々にして悪は、善を滅ぼして善玉≒「平和楽土」の守護者となる/「神の存在」は「反証可能性」が無いから科学とそぐわない/宗教否定はすでに一つの…宗教/進化論の話はソヴェート連邦の建設と崩壊ととも語られる。「同志社大学生はモスクワ大学と同じくらい」素質がある。社会主義崩壊の激動のちまで残る語学だけで一日十数時間学習する(毎日小テスト)伝統/少子高齢化は問題ない。世界史教養と語学と理系知識を兼ね備えた社会の中枢となる人材を供給する教育システムを現在構築中続きを読む
レビューの続きを読む投稿日:2022.01.13
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