この作品のレビュー
平均 4.0 (2件のレビュー)
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今年の10月1日、あさのあつこさんの講演を聞いた。司会者がこの文庫本を示して「どういう気持ちで書かれたのですか?」。と聞いた。
あさのさんはゆっくりと語り出した。
「2015年、朝日新聞に連載してい…たの。少年少女をテーマに道尾秀介さん、わたし、吉本バナナさん、の順に書き継ぎました。テーマは少年少女以外には何の縛りもなかった。〈少年兵士のことを書こう〉と、パッと浮かびました。私はいつも「誰を書こう」ということが最初。自分が生きている世界のきな臭さがあり、子供が銃を取るのがファンタジーで無くなってきている。それで生まれたんです。
さらに言えば、
私のお母さんや舅のお父さんが「戦前に似ている」と言ったのがきっかけ。母が倉敷の軍需工場に動員されて、最近話をしてくれた。お腹が空いて、肉汁が出ると聞いて喜んだら、猫汁だった。気持ち悪いな、と晩年ずっと言っていました。舅は92-3歳でなくなりましたが、屋根の上で屋根瓦を直していた「美作の怪物」とも呼ばれるどちらかというと保守の人でした。89歳の時に、シベリア抑留経験の話をふとしたんです。ある時、「戦争知らんもんは、きょうてーわ(恐ろしいわ)」と言ったことがありました。あの真意をもっと聞くべきだった。なんか、危うい匂いを感じ取っていたのでは」
「日常は揺らがないとみんな信じているのではないか。信じたいから信じる、というところがある。自分が後何十年生きるのか?私が生きている時は大丈夫、根拠のない「信じている」はあるのではないか。」
最近の情勢ではない。
もっと根本のところから、この作品が出来上がったのである。
講演の次の日に急いで文庫本を買い求めた。読んでみたらわかるけれども、本当にウクライナ・ドンパス地方の、長い長いウクライナ住民とロシア系住民の交流と対立を踏まえたような背景が描かれていてビックリした。これが作家的第六感というのでしょうか?
小説内では、ベル・エイドとパウラという2つの小国の歴史と情勢が語られる。国境線はいつも変動する。人も物も交流していた。その間に稀少な金属の鉱脈が見つかったことで、一挙にお互い戦争準備に入る。交流市場は潰され、根拠のない神話本が教科書化され、反戦を唱えていた人たちは捕らわれ、または転向して愛国心を鼓舞する。反戦家族や貧困家庭は、特別武官養成学校に入らされ、戦闘マシーンになってゆく。それでも、前半の主人公L(学校では名前が無くなる)や後半の主人公Kには、未だ美しい心が残っていた。
「じゃ、もし、言葉を使う者が心を伝えたいと思わなくなれば、伝わらなくても構わないと思いながらしゃべれば、言葉は死ぬのでしょうか」
(略)
「言葉が死ねばどうなるか、ファルド、考えたことがあるのか」
(略)
「戦いが起こります」(86p)
武官養成学校の学生たちのほとんどは死んでしまう。最後の最後に、現れたのはファルドが描いたと思われる百合の花だった。最後の最後で、百合の花の絵は、それがまるで最後の希望のように、人を殺すのを厭わなくなった幾人かの少年たちの心を揺り動かすのである。続きを読む投稿日:2023.10.08
朝日新聞に2015年9月から12月まで連載された表題作(連載を熱心に読んだ)+小説トリッパー2017年秋季号に掲載された「Kの欠片」。
ロシアがウクライナ侵攻した春に現実と重ねながら図書館で借りた単行…本を読み、ようやく文庫本で入手した。単行本に比べると、やさしいタッチのカバー装画で、中高生が気軽に手にとってくれるといいな、という思いを感じる。巻末の解説にもあるように、若い読者には過酷すぎる展開に絶望しそうになるかもしれないけれど、この話を知っていることはなにかの力になるはずだと信じたい。
(くわしい感想は単行本の方に)続きを読む投稿日:2022.08.20
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