この作品のレビュー
平均 4.0 (7件のレビュー)
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『すべての雑貨』の著者による2冊目のエッセイ集。
前作に比べて文章に隙がなくなった。『すべての雑貨』もすごく読ませる文章だったけど、店のレジカウンターからぐちぐち聞こえる独り言に耳を傾けているよう…な親しみやすいどうしようもなさがあって、ベンヤミンやクンデラの名前がぽこぽこでてくると同時に、「雑貨スタイリストにはなりたくない」と何度も呪詛のように唱えたり、ホットポーの存在を思いださせてくれたりするのが楽しかった。本作は冒頭に置かれた「息を止めて」から完成度が高くて脇が固い。その変わりように少し寂しさを感じていたら、高校時代の担任教師を「担任の女」(男は「男性教師」なのに!)、ディズニーランドで映えを求める女性たちを「女豹」と呼ぶくだりがでてきて、「隙だ!」と喜んでしまった。私は三品さんをかなり好きになっているのかもしれない(笑)。
無印良品考、ミニマリズムとシェーカー教徒、個人経営の”ほっこり”したパン屋や和食屋の雰囲気をそのまま再現したサイレント・チェーン店など、ぼんやりしていると見逃してしまう消費の世界の事柄を著者の視点で拾っていく。”ほっこり”コンセプト料理屋のくだりででてくる「コンセプチュアルなパートのおばあさん」というキラーワードには笑ってしまった。ディズニーランドやアニメが世界の雑貨化に果たした役割も論じられている。名前が挙がってないけれど、ジブリが植え付けた”憧れの生活”観の影響もただならないものがあると思う。
一つ疑問だったのは、悪い意味での「なんでも雑貨にしてしまう感覚」を、「この島国特有の」とか「日本ならではの」と表現していたこと。その比較対象が常に欧米なことも不思議ではあるのだが、仮に欧米と比べたところで、それは現代日本特有の雑貨感覚とは呼べないんじゃないだろうか。というのも、本書と同時に藤井光のアメリカ文学ガイド『ターミナルから荒れ地へ』(2016)を読んでいたのだが、ここで語られているアメリカ文学の〈ターミナル化〉〈荒れ地化〉という概念が三品さんの言う〈雑貨化〉にとてもよく似ているのだ。本書で紹介されているムジ・ホテルの理念なんて、『ターミナル~』に引用されているトカルチュクの文章そっくりであり、むしろグローバル化が地球単位の雑貨感覚をつくりだしているのではないだろうか。
「息を止めて」をはじめ、個人的な記憶を書きとめたエッセイはどれもすばらしい。疎遠になった友人もの、というジャンルがあれば無双できるだろうというくらい上手いのだが、「釣りびとたち」はほとんど恋愛になる手前のようなできごとがあったあとで友人が姿をくらましてしまうという、ドキドキして寂しくなる話だった。お父さんの事業失敗が笑えるレベルじゃなかったとわかる「ホテルの滝」、そして最後に置かれた「水と空」。祖父の友人の奥さんという、ゆるいけれどかけがえのない繋がり。女ばかり生き残った高齢者だらけのマンションで映画鑑賞会をやっていたなんて理想の生活のようだけど、都市生活者特有の陰も差している。堀江敏幸みたいに仕上がっているな、と思ったら、堀江さんが本書の書評を書いていた。
”ていねい”がブランディングされ、揶揄の対象にまでなって久しい今、自分が何を買おうとしているのかについてじっくりと考えてみてもいい。その結果、雑貨化した世界の無秩序なラベルに目がちらつき、ふたたび迷路に迷い込んでしまうとしても。続きを読む投稿日:2023.04.29
雑貨に関連した短編が13.著者のものは初めて読んだが、何か知らない街を歩いて、これまで興味がなかったものに取り付かれてしまったような不思議な感覚だ.登場人物が未知の人ばかりで驚いた.村上春樹、大橋歩く…らいは知っていたが、雑貨に絡む人は知られていないのかもしれない.著者は目の付け所が特殊で、独特の嗅覚や眼力を持っている人のようだ.続きを読む
投稿日:2021.10.21
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