性からよむ江戸時代 生活の現場から
沢山美果子(著)
/岩波新書
作品情報
小林一茶はなぜ妻との交合をつぶさに書き留めたのか.生まれた子は自分の子ではないと言い張る夫と妻の裁判の行方は.難産に立ち合った医者の診療記録にみる妊婦の声や,町人が記す遊女の姿・・・・・・.史料の丹念な読み込みから,江戸時代に生きた女と男の性の日常と,それを規定する「家」意識,藩や幕府の政策に迫る.
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商品情報
- シリーズ
- 性からよむ江戸時代 生活の現場から
- 著者
- 沢山美果子
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波新書
- 書籍発売日
- 2020.08.20
- Reader Store発売日
- 2020.12.24
- ファイルサイズ
- 8.8MB
- ページ数
- 200ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (15件のレビュー)
-
そう言えば、江戸時代の「性」が出てくる小説は、大抵は「遊郭」モノばかりだ。この新書には「買う男、身を売る女」の章もあるが、大半は人口的に最も多い百姓の性実態を描く。封建社会で表に出てこない人たちに焦点…を当てた、新しい江戸時代史料の読み解き本。
一章目には比較的有名な小林一茶の「七番日記」(1810-1818年)を紐解く。妻との交合を克明に記録したのは何故か。そして何が判るのか。
48歳でやっと土地と家を手に入れた一茶は初めて妻を娶る。子供を持ち、家を存続させたい。その目的のために、一茶は民間の知恵を参考にしながら徹底的に「妊活」をした。そのための克明な記録である。しかし、よく見ていくとそれだけではない。妻との間にもうけた三男一女をすべて夭折させたこともあるかもしれない。記録からは、民間療法では「忌日」に当たる日にも一茶は妻に交合を強要している。閨の中の真実はわからないとは言え、日記からも一茶の要望が強いことはわかる。妻は産後の肥立ちが悪くて若死にする。一茶は気の良い俳人ではない。それは知っていったが、これを読んで更に嫌いになった。
二章目は、本書のメインイベント、村の夫婦の不倫疑惑に端を発する離婚訴訟(1805)である。生まれてきた子供の認知をどうするか、が問題になったために藩のお裁きが必要になり、克明な裁判記録が残された。
著者は出来るだけ現代読者にも判るように、サスペンス形式で叙述する。歴史書なので限界はあるが、私は楽しめた。
ここからわかるのは、村の三役(肝煎、欠代、長百姓)の端っこにいる両家の当事者の力関係とそれに翻弄される女性、並びに特定の人口政策をもつ藩の要望である。夫婦の思惑、家の思惑、藩の思惑が交錯して、結果的には現代的に見ても妥当な判決が下される。しかし、このことが本人たちの幸せに結果的に繋がっていないのが哀しい。
その他、多くの出産・堕胎・間引きに立ち会い啓蒙書も著した医師の記録(第三章)、遊女の史料的検討(第四章)を経て、第五章「江戸時代の性」で著者は以下のようにまとめる。
(1)幕府は特に人口減少地域で、18世紀末から妊娠・出産の管理政策を取るようになった。そして、現代とは少し違う「性規範」が作られる。
「男も女もフェミニストでなきゃ」を読んだばかりということもあり、私は当初ジェンダー論の視点から本書を読もうとしたが、ムリだった。そもそもガチガチに型にはめ込む社会の中で、それに抵抗する人たちを見つけるのは困難である。ただ、19世紀になって、都市部に逃れて「馴合ひ夫婦=恋愛結婚」と男の「遊郭」通いが増えているという情報は抑圧の帰結と見えなくもない。
(2)江戸時代前期から貝原益軒「養生訓」が人々の性意識に大きな影響を及ぼす。「長生きのためには性欲をコントロールせよ」一言で言えばそういう内容。類似書は19世紀に武士から民衆へと広まってゆく。
(3)百姓の名主が書いた「農書」(1808)には、家と土地の存続を大事とし、妻に求めるのは「労働能力と生殖能力」だけとなっていた。反対に言えば、そうではない現実があったから書いたのだろう。
一方では生きるのが厳しい時代ではあった。研究によれば、出生児の20%近くが一歳未満で死に、五歳までの幼児の死亡率は20-25%。10-15%が死産。産後死と難産死は21歳から50歳の女性の死因の25%を上回っていた。平均余命は18世紀は男女ともに30代半ば、19世紀には30代後半。よって「家」は「いのち」を支える最初にして最後の砦ではある。性のコントロールは藩の思惑であると同時に民衆の願いでもあったろう。
平均余命が50歳を超えるのは、1947年以降。ジェンダーを論じることができるのは、こういう時代的背景もある。反対に言えば、現代は昔と違ってみんなが「フェミニスト」になるべき時代なのだ。現実は遠の昔に変わっているのだから。
著者は「江戸時代の性はおおらか」という一般的な学者の常識に異議を唱える。確かに明治以降の「家」制度で管理される時代よりはおおらかだったかもしれないが、決して現代よりもおおらかではなかった。それよりも、明治時代には江戸時代の民衆意識が、現代には過去の性規範が我々の意識を囲んでいるように思える。歴史を学ぶことは、現代を考えることである。
続きを読む投稿日:2020.12.19
性は人間と人間社会にとって避けられない営みであり,時代や場所で性をどのように扱っていたかは興味深い。生物的な営みは大きく変わらない(変えられない)が,どのような意味を持たせるかは時代背景やその価値観に…よって変わるため,江戸時代と現代とは異なる。交わる,孕む,産む,堕ろす,間引く,買う,売る,といった動詞をキーワードに江戸時代の性の捉え方を解説する。江戸時代あるいは日本の性がおおらかという表現がよくあるが,明治時代に入って急速な西洋化による大転換の影響が大きそうだ。性は命に対する見方にも影響を受けるのだろう。続きを読む
投稿日:2022.12.30
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