城と隠物の戦国誌
藤木 久志(著者)
/朝日新聞出版
この作品のレビュー
平均 4.3 (7件のレビュー)
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戦国時代、武将の争いに巻き込まれ翻弄される農民や町民がいかにその身や財産を守ったかという事実を幅広い史料と考古学、さらには国際比較を通した文化人類学的視点まで駆使して鮮やかに描く。城を取り巻く曲輪に具…体的な避難場所に迫る地方探訪もまた楽しい。山城から発想を膨らませた村の城、考古学的裏付けのある山谷のシェルターも興味を惹かれる。特に太平洋戦争時の防空壕にまで受け継がれる行き伸びるための知恵(それは決して現実には効果がなかったとしても)としての観点は、文化の連続性と固定制を明白にしている。預物や隠物への執着もまた同じ事実を捉えている。そういった意味で、問題の今日性を実感できる論旨となっているし、そのこと自体が本書の魅力を増している。続きを読む
投稿日:2018.03.31
このレビューはネタバレを含みます
2009年刊行。著者は立教大学名誉教授。
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「城」とは、戦乱下の民衆の避難場所⇔城の修復・維持管理の職責は民衆に課されていた。
戦火の中、いやそれ以上に戦火が蔓延する時代相において、貨幣、農具、銃…砲刀剣の隠匿する必要性は高かった。そういう機能を果たしていたのが城である。
これらの実情について本書は詳述するも、著者の他書の読破歴があれば、さほど内容の意外性は大きくないだろう。
しかしながら、城と呼ばれる存在のみならず、中世後期の「神社・仏閣」が民衆の防衛施設となっていた事実はどうだろうか。
そして、それが特に権門とはいえない神社・仏閣であった場合、これら神社・仏閣と、いわゆる領主が運営する城との間で、地域防衛に関する連関を考慮し、建築されていた事実はどうか。
こういう観点でみると、本書の内容は、著者以外の類書から見出すことはなかなか難しい。
すなわち、従来言われてきた神社仏閣の世俗権力からの独立性。換言すれば、そのアジール性は、それを侵す者に対する神罰・仏罰ゆえに規定されていることに留まらず、それらが持つ防御施設・戦乱保護施設の側面から担保されたものであったこと。こういう事実が中世後期ないし近世最初期に存していたことを本書から窺い知れよう。
本書のこれらの論考が依拠するものは、各種文献、郷土史家との連携と現地踏破、種々の先行研究であり、極めて広範な分析対象であるという印象は強い。
勿論、本書の分析地域は、著者が史料を広範に渉猟してきた関東(北条氏)が多いのは確かだ、しかしそれに止まらず、九州やその他の地域にも言及されていることからみて、本書にある城や神社仏閣の機能が、関東諸地域の地域性ではないということを示している。
そして最も基礎的な点。それは、本書の内容というよりは、著者のかような着想の特異性が如何に生まれたかである。従前より不思議に思っていたこの疑問は、本書を見れば氷解していく。
すなわち、日本の中世・近世民衆史の専門家の著者にとっても、西欧社会史(特に中世ドイツ)の成立と亢進によって露わになってきたアナール学派的発想に関心を向けないではいられなかったところだ。
それは、同じ中世を扱っていることは勿論だが、アナール学派的な発想は、中世に限らず、それこそあらゆる時代に妥当する歴史研究のパラダイム変化(もう少し穏当に言うなら、歴史解釈の方法論が新奇に追加された)である。
本書における、日本の城と中国・西欧ドイツの城郭との比較を見ると、世界史研究におけるアナール学派の議論の進展にインスパイヤされてきたことを、本書は雄弁に語るものとなっているのだ。他の研究者の戦国・織豊権力研究とを比較する場合、この発想の違いが関わっていないかは、読み手としては気にしておく必要があるのだろう。続きを読む投稿日:2017.05.07
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