東京藝大 仏さま研究室
樹原アンミツ(著)
/集英社文庫
作品情報
2浪、3浪は当たり前、時には10浪以上の学生も・・・・・・。パンダと桜で賑わう上野公園に隣接する東京藝術大学。通っている学生も教授も少し変わった人ばかり。そんな東京藝大で、仏像の保存について研究する通称「仏さま研究室」の修了課題は、なかなか過酷で学生泣かせだ。様々な思いを抱え、真心を込めながらも、「模刻」に悪戦苦闘する学生たちを描く、クスっと笑えてグっとくる青春ストーリー。
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商品情報
- シリーズ
- 東京藝大 仏さま研究室
- 著者
- 樹原アンミツ
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2020.10.26
- Reader Store発売日
- 2020.12.04
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 336ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (50件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
樹原アンミツは、三原光尋と安倍晶子の合作のペンネームで本書は(2020年10月文庫本)書き下ろし小説。
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東京藝術大学大学院の美術研究科・文化財保存学専攻 保存修復彫刻研究室(通称「仏さま研究室」)に通う修士2年生4人が卒業課題の仏像の模刻制作に向き合う1年間の出来事の物語だ。
この研究室は実在し、日本中の寺院や美術館・博物館などに所蔵されている仏像の研究・保存・模倣・修復する研究室だ。
研究室のリーダーは一条教授、「仏さま研究室」を経て独立、著名な彫刻家として活躍中に教授に招かれて10数年が経つ。支えるメンバーは3D撮影等文化財のデジタルアーカイブ化のスペシャリストの佐藤准教授、そして講師に牛頭先生、馬頭先生、アミダ先生、ミロク先生。それに研究助手のキヨミ、修士OBで技術スタッフの杉とその他スタッフと学生含めて30人弱の陣容の研究室だ。
そして修士2年生の4人、川名まひる(通称まひる)、羽多野繁(通称シゲ)、弓削愛凛(通称アイリ)、斎藤壮介(通称ソウスケ)、それぞれが仏像模刻のために奮闘して、各々の困難を克服して完成させ、晴れて修士卒業すると言う物語。
仏像模刻に勤しみながら、研究室の仏像修復という仕事にも携わるのだが、時代による仏像の素材や作り方の変遷があり、選んだ模刻する対象の仏像によってそれぞれ違った課題や困難があり、それは仏像修復という仕事に関わることで実際に習得していく大変な作業であることがよくわかる。
まひるは協力してくれるお寺がなかなか見つからず、模刻する仏像探しに苦労する。やっとのことで福井県小浜市の寺の「十一面観音」に決まるが、原本像の肩の高さが左右で違っていることに気づき、「模刻の方向性」を決めるために現地で調査、熟覧することを決心する。そのことがまひるの卒業後の将来に大きな影響を与えることになるのである。
札幌育ちで父親は会社員、中部の美術大学を卒業後、東京藝大の大学院「仏さま研究室」に入学、東京藝大出身ではないことにコンプレックスを持っていたが、研究室の仲間との交流や仏像の勉強、仏師の技術の習得の中で自信をつけるのだ。
まひるには祐一というボーイフレンドがいる。上野で知り合い、校門の前で待ち伏せされて付き合うようになった。東京藝大に2度落ちて仕方なく東大に入って今工学部建築専攻の3年生だと言う。しかも入学後も再度仮面浪人として藝大を受験して玉砕したというから闇が深い。このボーイフレンドが模刻する仏像の寺探しに協力して、祐一の故郷にある小浜市の寺に辿り着くのだ。
シゲが模刻に選んだのは京都の寺の「大日如来像」、“一木割矧ぎ造り”の大日如来像の模刻には太いヒノキが必要だ。模刻用の材を調達するのに牛頭先生の紹介で群馬の「高橋材木店」まで行く。仏像の工法にも色々あり、材も色々ある。そして高橋社長の長女の栢乃と出会い、後に恋仲になったみたいだ。
シゲは千葉育ちで父親は地元の中学の美術教師をしており、その影響で小さい頃から絵を描くことが好きだった。一浪で藝大彫刻科に受かったシゲに父親は芸術家としての彫刻の創作活動に期待し、大学院は文化財の修復の研究室に行くことに反対した。それ以来父親とは溝が出来てうまくいっていない。自分は天才ではない。しかし仏像のことを知りたい、彫刻のことを知りたい、技術を習得したい、シゲは自分の道をしっかりと見つけていた。勉強するのが大好きなことが修士卒業後の次の道に続く。
アイリが模刻に選んだのは鎌倉の寺の「不動明王像」、ヒノキ材による“寄木造り”、運慶作だ。アイリの本像の構造分析も模刻も正確で早かった。しかし一条教授はアイリに対して「早く正確につくることが目標ではない。仏師が何を思い、どこを工夫したか、どこに悩んだのか追体験することが大切」と言う。
アイリは税理士の父親と情報企業大手に勤務する母親という忙しすぎる両親の一人娘で、食事は家政婦が用意するという環境で都心のマンションに今も3人で住んでいる。小中高一貫の私立女子学院から4浪して東京藝大彫刻科に合格した。中学で美術部に入り、油絵、水彩、塑像、陶芸、なんでもした。高校1年の時、飼っていたチワワが死んだ。忘れないように木を削ってカービングした時、自分の進む道が決まった。
アイリは模刻する場所に仏像のある寺の近くの伊豆山中の空家を借りた。まひるが福井の小浜の使っていない隠居所を借りて模刻すると聞いたからだ。
模刻が8割以上進んだ時、一条教授から顔が小さいと指摘される。原本像の横に組み上げると確かに細面になっていた。悔しさと絶望するアイリに教授は頭を四つに割って「嵩増し」の材を入れる指導をし、アイリはそれに応えて修正に成功する。「仏像の顔が仏さんになってる。アイリの必死さと不動明王の忿怒がいい具合に呼応してる」と一条教授も評価する。
現代彫刻では「目立たずつなげる」という技術は必要としない。しかし「仏さま研究室」で木彫を学び直した者は「肩の部分は角度を変えたいから襠材をかませる」とか「亀裂を木屎漆で埋める」と言った知恵、技術を習得している。
そして運慶も仏像の古典技法をさんざん実践して、揺るがない技術ができてから自分の工夫を持ち込んだ。史上初の芸術家タイプの仏師が運慶なのだ。
アイリは原本像の本堂を後にすると急激に天候が悪化、雷が近くに落ちる。稲光が照らす中、闇の先にある小社に飛び込むと中に同じように雨宿りしていた一人の男がいた夢を見た、と思った。その中でアイリが彫ったチワワの木彫りをその男は手に取り、不思議な顔をする。男は仏師だと言う。民を守るために仏を彫る。戦乱の時代だ。
陰謀、裏切り、戦乱。アイリは僧侶でさえ武装せざるを得なかった時代に不動明王は何を見て怒り、悲しんだのか初めて想像できた気がした。
男はアイリに仏像の意味を説く。「仏像を見ている時、その美しさに打たれる時だけ、人は『御仏はおわす』と思える」と。
一晩経って目を覚ますと誰もいなかった。
研究室が修復作業を手掛けている茨城県の寺の仁王門の金剛力士像の阿形像に大発見があった。像内をX線撮影すると月輪型の木札に続いてチワワのようなものが写っていた。鎌倉時代にチワワはいないのに。金剛力士像は運慶作であった。
こんなロマンありそうで、あるはずがないのにあればいいなあと思ってしまう。本題とは横道にそれたエピソードも楽しい。
ソウスケが模刻に選んだのは奈良の寺の八部衆の中の国宝「沙羯羅像」、脱活乾漆造りだ。これは柔らかい質感と軽さが特長だが、手間がかかり高価な漆を大量に使う。それでいて壊れやすく大胆なポーズがつけにくい。奈良時代の一時期にしか見られず、模刻制作で最大のネックは画像が少なく、許諾の関係で3Dデータ撮影やX線撮影・CTスキャンが行えないことだ。
ソウスケは模刻制作にも行き詰まっている中で、恋人とのすれ違いやラグビー部の後輩との約束等問題を抱えていた。恋人と言うのは東京藝大の中国からの留学生で同じ文化財保存学の専門は工芸の博士2年生の趙魅音。年齢はソウスケと同じ27歳、二人の将来について悩んでいる。
そして研究室の修復作業の仕事をおろそかにしてしまい、牛頭先生と喧嘩して研究室に行かなくなる。まあそれは馬頭先生が牛頭先生を輸し、一条教授の計らいで収まるのだが、問題の模刻が進んでいない。
ソウスケは福島県会津の出身、父親は会津の市役所職員、母親は看護師。ラグビー部の普通の体育会系高校生だったのが、美術で褒められてその気になって受験予備校の美大コースで3年、三浪して東京藝大彫刻科に合格した。3年の正月に帰省した時、地方紙の記事で「福島の『縁日寺』という古い寺の本尊を東京藝大の“保存修復彫刻研究室”が何年かかけて復元し、無事完成した」とあった。掲載された写真に復元された阿弥陀如来坐像と共に二人の人物とおおぜいの大学生が写っていた。一人は一条教授、もう一人がソウスケの中学時代の美術教師小林先生だった。父親によると今は教育委員会に異動して文化財担当だと言う。ソウスケは文化財保存学の院に進みたい旨を親に頼んで了解を得たのだった。何しろ地元で有名な研究室だから。
研究室に戻って模刻制作を再開した前日、福島県を観測史上最大の暴風雨の台風が襲っていた。ソウスケが模刻制作に没入していると一条教授が牛頭先生やミロク先生達講師や助手に何ごとか指示しながらせわしく移動していた。2年前に研究室がご本尊を復元した福島の『縁日寺』のお堂が破損して復元したばかりの阿弥陀如来坐像が心配で住職に教授が応援隊を出すということらしい。ご本尊の脇侍として聖観音と勢至菩薩を研究室でつくる予定で、研究室の資材や道具も作業小屋に置いてあることもあって、数人で見に行く目的もあった。ソウスケの地元でもあるので応援の5人のメンバーに入れて貰う。
結果、ご本尊や資材等は無事だったのだが、寺のシンボルツリーだった松の木が折れて倒れていた。ソウスケは一条教授にその松の木を使って、地蔵を彫りたいと進言すると教授は市長と話して「台風被害材による復興祈念仏像プロジェクト」を立ち上げることになる。『縁日寺』以外の折れた木も利用して、その管理を「高橋材木店」が応援すると言う。
天平文化の代表作と言われる八部衆像の顔は、それぞれ実在する人間のように個性的だ。ソウスケの模刻制作は超集中して作り上げたが、顔が気に入らなくて何度も「木屎漆」を削ぎ落とし、下地の布貼りも丁寧に繰り返し、やり直して軽さと柔らかさを表現した。
先生達や同級生が見守る中完成した時、先生達はうなずき、同級生3人が拍手し、まひるは目を赤くしてバカ笑いし、シゲは優しくほほ笑み、アイリはぎくしゃくと笑っていた。この仲間たちはきっと永遠にこの瞬間を忘れないことだろう。
修士を卒業した4人は、それぞれの道を歩む。
まひるは制作に関係ない就職を選んだ。小浜市の職員になって地元の文化財保存に携わっていくことになった。模刻した小浜市の寺の十一面観音像に恋したようだ。
シゲは博士入試に合格、これから3年間の博士課程の研究テーマは「鎌倉時代、慶派仏師によるカヤ材を用いた制作工程」。つくりにくい素材のカヤが鎌倉時代にあえてまた採用された理由が知りたいと言うことだが、「高橋材木店」の栢乃の名前もきっと関係していると言われている。
アイリは中退して日本の寺院と世界の仏教遺跡を巡りたいと言う。嵐の日の夢の中での運慶との出会い、修復作業の金剛力士像の仏師が運慶で阿形像の像内に入っていたチワワのようなもの、この時以来アイリは変わった。アイリは作家になると決めた。そして何のために何をつくるのか、人が何に祈り、何を祈ってきたのか、ヒントを集めるために旅に出るのだと。
ソウスケは博士入試に失敗し、研究室に技術スタッフとして残ることになった。本音は福島地元のお地蔵さんプロジェクトを優先させたいのだろうと思われている。恋人の魅音とは年末に入籍、二人で東京藝大を目指す中国人学生に向けに個人レッスンのビジネスを始めると言う。
4人は決して奇人天才ではない、普通の若者と同じように劣等感も持ち、家庭の悩みも持ち、恋の悩みも持ち、進路の迷いも持った普通の若者が仏像の修復という作業に必死に取り組む姿に共感する。
仏像の制作の歴史、素材の歴史変遷、制作方法の歴史変遷、そして仏像の修復の歴史、仏師や技術の歴史変遷、いづれも今まで全く興味なかった分野、文化に引き込まれてしまった。
昔全国のお寺の仏像を見に行くのが趣味だと言う知り合いがいたが、今回初めて理解できたような気がする。投稿日:2022.10.08
信仰心あるなしにかかわらず、やはり仏像は向き合う者のココロをうつすもんやなあ、と。/若者でありそれぞれの理由で仏像に惹かれた者でもある四人を描く。あと、まったく知らない世界に触れられる愉しさ。まひるの…仏さま。シゲとカヤノと親たち。運慶の不動明王に対するアイリの苦悩。決められないソウスケの葛藤。2024年1月14日続きを読む
投稿日:2024.01.14
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