吹上奇譚 第一話 ミミとこだち
吉本ばなな(著)
/幻冬舎文庫
作品情報
双子のミミとこだちは、何があっても互いの味方。交通事故で父を失い母が寝たきりになってから、二人で支え合いながら生きてきた。しかしある日、こだちが突然失踪してしまう。交通事故の原因、異世界人、屍人、夢見の才能、そしてこだちの行方・・・・・・。故郷吹上町で明かされる真実が、ミミの生来の魅力を目覚めさせていく。唯一無二の哲学ホラー、開幕。
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商品情報
- シリーズ
- 吹上奇譚
- 著者
- 吉本ばなな
- 出版社
- 幻冬舎
- 掲載誌・レーベル
- 幻冬舎文庫
- 書籍発売日
- 2020.08.06
- Reader Store発売日
- 2020.08.06
- ファイルサイズ
- 1.1MB
- シリーズ情報
- 既刊4巻
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この作品のレビュー
平均 3.5 (7件のレビュー)
-
フォロワーさんと「はーばーらいと」のお話をさせて頂いたのが切っ掛けとなり、ものすごいぶりに吉本ばなな作品を手に取った。
(ごめんなさい、「はーばーらいと」は文庫化を待つことにして、私は吹上奇譚を。)
…裏表紙に"哲学ホラー"とあったので、怖すぎることなく、ひんやり感を味わえるかなーと。
しかしあまりのご無沙汰に、ばななさんの文体・作調を感覚として忘れていたので、
まるで初読み作家さんのような感覚で読み始めた。
読み始めて早々に霊媒のような場面に突入し、あなたのお父さまは○○ですね?等と言い当てる、引いてしまいそうな台詞が続くが、
主人公のミミが、
「あまりの気味わるさに、どうかこの姉妹の商売に名プロデューサーがついていて、これはセットで、みんな作り話でありますように、と願いたくさえなった」
と思ってくれたことで、私はなんとか引かずに読み進めることが出来た。
ただ霊媒の少女が「モルダーとスカリー」なんて言うものだから、この手の人がXファイルを持ち出すなんて俗っぽ過ぎないか?と思う。
確か妹失踪事件とか、絡んでたドラマだよね。
それをこだち失踪に絡めたいのは分かるが。
しかもその後、ミミが思い浮かべる歌の歌詞。
何の歌だろうと検索したらキャンディーズの「銀河系まで飛んで行け!」という曲だった。
う~ん…ここでキャンディーズかぁ…なんだかなぁ。
(キャンディーズファンの方々をどうこう思う気持ちではありません)
先日まで理路整然とした文章を読んでいたので、
実は、こういう読み心地になってしまうことを予感して、間に短歌集を2冊読んでからばななさんの小説を読み始めたのだが。
美術館でもたっぷり時を過ごしたのだが。
うーん。
私は今、違うところに居るのかな。
読むのは今じゃなかった感。
ばななさんご本人が後書きで似ていると仰られていた「王国」シリーズ、好きだったんだけどなぁ。
偶然訪れた店に雫石という多肉植物を見つけて、買ったくらいだもの。
ぷっくりして瑞々しくて、半透明の緑色をした、綺麗な植物だった。
(因みにフォロワーさんは盛岡市雫石町を思い浮かべられたそう。それぞれの発想があるなと楽しく思いました。)
デビュー作からずっとずっと追いかけていて、自宅の書棚には"吉本ばなな棚"もあるのだけど、
変わったなーと思った頃から次第に、ばななさんの作品から離れてしまった。
いや、先だって「はーばーらいと」のお話をさせて頂いたフォロワーさんとも、
ペンネームを「よしもとばなな」とされた辺りから作風が変わられたように思うよね…と言葉を交わしていた。
本作を読み進めながら、
ばななさんの作品は初めから人の生き死にと向き合われていたし、
心と身体、生きとし生けるもの全てを受け入れるような温かみのある作風だと思い出したのだけれど。
ロルファーであるパートナーさんからの影響もあるのかな。
理屈っぽい自分自身のせいか、物語全体が腑に落ちなかった。
ページを開いて直ぐにある戸川純さんの歌の歌詞も、映画ファンタズムへのオマージュという記載も、自分なりに咀嚼したつもりだったんだけど。
だが、ミミの言葉として、
「目覚めないで母が一生を終える可能性を冷静に受け止めて、自分とこだち(ミミの妹)の生きるべき将来を考えるのが姉としての自分の仕事だと思った。」
と本文にあり、
それはまさに父が結果的に最後の入院となった期間に、私が思っていたことだった。
だからこの文章は心にすっと入ってきた。
私は姉であり長女だ。
元からの性格も相まって、私は今、とても事務的な思考回路を辿りがちだ。
だからどうも、本書におけるファンタジー要素に馴染めない。
世界観に身を委ねて酔うことが出来なかった。
それでも100ページを過ぎた辺りから、少しずつ馴染み始めた。
墓守くん登場のお陰かもしれない。
130ページの
「しばらく全部から逃げて自分を立て直すことを許してくれよって、私はきっと思っていたんだろう。
でもそれが長引いて心が死んでしまったら、どんな暮らしをしても死んだ心のところから私は腐っていく。」
ここもなんだか経験あるぞと、胸に響いた。
本書に心が救われるであろう方々が沢山いらっしゃるだろうということは分かる。
ばななさんの作品はいつだって優しいから。
喜びも悲しみもみんな受け止めて、人も自然も全てが繋がっているのだと、包み込んでくれる。
私だって、大切な人を失うと、偶然に感謝したり、目に見えない何かを信じたくなる。
今年は父の初盆だったのだが、お墓掃除にいつ行くのか決めかねていた。
高齢の母に40度近い気温はきつい。
おまけに台風まで迫っていて、二人で天気予報を小まめにチェックしながら日程を決めたり延期したりと調整するのは面倒でもあり、
そうこうしているうちに、御寺さんがやって来る日を迎えてしまう。
思いきって一人で掃除に行った。(←倒れたら危ないので、良い子は真似しないでね♪)
雨続きと雨続きの間の、たった1日あった晴れの日はじりじりと暑くて、
墓石からの熱も凄くて、母でなくとも私でさえキツかった。
THERMOSで持参したアイスティーが異常に美味しかった。
持参した切り花にも「もう少しだから頑張ってね」と声をかける。
実は向かう電車内でも何度か切り花に声をかけていたのだが、こういう時、マスクって便利ね。
ボソボソ呟いてもバレない……はずだ 笑
バケツ2つに水を汲み入れ、さてやるか!と草むしりや墓石磨きはもぅ必死で、除草剤を撒いてお墓周りをスッキリさせた。
お花を生けてお線香をあげて手を合わせる。
「じゃぁ、裏のSちゃんのお宅の方にもお線香あげてくるね」
そう我が家の墓石に声をかけた時、雲が流れてギラギラの太陽が照りつけだした。
ん?
気付いたのは、その時だった。
そういえば私がお墓掃除を始めてからずっと、太陽は雲に隠れていなかっただろうか?
一人でやってきた私に対し、祖父母や父が出来る限り暑さを凌いでくれていたように思った。
いや、そんな事あるわけないのは分かっている。
もしかしたら太陽は途中で照りつけていたかもしれない、でも。
でも私は祖父母と父だと思いたかった。
「有難う」
墓石に声をかけた。
つまりはそういう事柄(スミマセン、事象としてしか表現出来ないのです)を、もっと具体的にファンタジーとして小説の中に落とし込んだんですよね、ばななさん。
居なくなったこだちも、眠る母親も、それらと向き合おうと動き出すミミも、
自分の内面を旅するような感じに思えたから。
上手く言えないな……間違えてるかな………?
でもやっぱり、
お母さんが眠りについてしまった理由とか、こだちが一人向かってしまった世界とか、野良ロボットとか、隣町にストーンヘンジとか、UFOを見るとか、墓に現れた屍人とか、
物語に入り込めそうだと思った矢先に現れる内容が、私を冷めさせた。
声を大にして何度も言うが、
『読むの今じゃなかったぁ~~~!』
結論としてコレ、私は仕舞いまで外側に居る人間だった。
登場人物たちが泣いたり笑ったりしているのを、
あ。泣くところだったんだ!とか、
え?そこで笑う?とか、
気持ちが寄り添えなくて、何もかもが唐突に進んでいってる感じだった。
文庫版のあとがきとして最後にばななさんが仰っている、ある人にとっては…というお話。
私はどうやら前者のようだ。
残念だし、何だか悔しい。
ただ、墓守くん登場以降、僅かながらにも馴染んできた自分に期待。
どこかで後者へと移行する瞬間は訪れるのだろうか。
続編も、"時を改めて"読み進めてみようと思う。
追伸
久しぶりに手にしたばななさん作品の表紙が、
原マスミさんであるのが嬉しかった。
ばななさんの作品で原さんの作品を好きになり、展覧会も行き、
だいぶ後になってからストレイシープのポーと繋がった。
続きを読む投稿日:2023.08.27
中学生のときに初めて吉本ばななさんの小説を読んだときに深い衝撃を受けて、それから大人になって今まで、全作品ではないものの折に触れて読んでいる。
そして読むと、どんな内容であっても「あぁ、吉本ばななさん…の作品だな」と思う。スタイルが一貫している、と感じるから。
この作品は「哲学ホラー」と銘打っているらしい。主人公は、双子のミミとこだち。幼い頃に事故で父親を亡くし母親が寝たきりになってしまって以来、2人で支え合いながら生きてきた。しかしある日、こだちが突然失踪してしまう。それは、寝たきりの母を眠りの世界から救うためだった。
交通事故の原因、異世界人、屍人、夢見の才能、そしてこだちの行方。故郷の吹上町で明かされる真実が、ミミの生来の力を目覚めさせていく。
半ホラー半ファンタジーな世界観なのだけど、根底にはやはり吉本さん特有の優しい哲学みたいなものに満ちている。
人間ではないもの=異世界人がかつて根ざしていた場所が吹上町にはあって、その名残がまだある現在、異世界人の血を引く者たちはおのおのの能力を持ちながらも人間に紛れて暮らしている。
だけどその血の力は無いものにすることは出来ず、それがミミとこだちの両親が起こした事故にもつながっている。
不思議な能力を持った人は実際の世界にもいるので、そういう人たちももしかしたら…なんて思わされるリアリティがあった。
失踪したこだちを探すミミは、伝説の双子占い師や、町の墓を守る通称墓守くんや、異世界人の末裔である毛むくじゃらの勇などと知り合うのだけど、どの人もこの世と別の世界の境目で生きているような浮世離れしたところがありつつも、しっかりと現実の中で生きている。
生きること、ひいては人と共存していくことについて考えた。思い通りにならないことの方が多い世界で、自分を確立していくこととは。
この小説はシリーズの1冊目なので、続きを読んで明かされていくこともきっとたくさんあるはず。
というわけで、1冊目のレビューはこんなところで。続きを読む投稿日:2021.07.31
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