AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争
庭田杏珠(著)
,渡邊英徳(著)
/光文社新書
作品情報
【『この世界の片隅に』片渕須直監督 推薦】東大教授×現役東大生のユニットが戦前から戦後の貴重な白黒写真約350枚を最新のAI技術と、当事者との対話や資料、SNSでの時代考証などをもとに人の手で彩色。戦前の平和な日常と忍び寄る不穏な影。真珠湾攻撃、硫黄島の戦い、沖縄戦、度重なる空襲、広島・長崎の原爆。そして終戦し、残ったのは破壊の跡と復興への光――。カラー化により当時の暮らしがふたたび息づく。
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この作品のレビュー
平均 4.5 (43件のレビュー)
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たくさんの戦前・戦中の写真はあるが、もっぱらシロクロです。わたし達はそれは見て、無機質で静止した「凍りついた」印象を受ける。戦争を他人事にとらえることに一因にもなっている。このカラー化は、戦争を自分の…こととして捉えることを助けるだろう。
AIで色をつける事はできる(幕末期写真はそれ)。しかしそれでは未だわたし達の知るカラー写真ではない。その記憶を持つ「生存者」と話し合い、色をつける。その写真を見せて、更に記憶が蘇る。更に写真が真に迫ってゆく。
そうやってよみがえった写真の数々。気がついたことを以下に羅列してゆく。
(ー1941)
・1932年大阪浜寺双葉幼稚園。12人の幼児が小山に登ってメルメットを被り、背中にカバンを背負って、おもちゃの鉄砲を構えて、戦争ごっこをしている。明るい日向の下、新緑の芝生の上のいかにも微笑ましいはずの景色ではあるが、鉄砲を構える幼児たちや旗持ちの姿が、あまりにも堂に入っていて、「これが戦前の風景なんだ」と腹落ちするのである。
・あみ傘をさした着物姿の沖縄県糸満の女性。現代のどの映画女優とも似ていないけど、わたしならば直ぐにスカウトするね。それほどの存在感ある美人。後の白いTシャツ、紺のスカートの女の子は裸足である。
・糸満の漁師のふか捕り名人。木綿紺絣(こんがすり)の一枚を羽織って帯で締めただけの普段着の中年の男の堂々とした筋肉と面構え。こういうのを見ると、弥生時代、貫頭衣一枚で人々が暮らしていたのも頷ける。
・1939年。軍服・モンペ姿の結婚式の挙式での2人。2人とも中学生と見間違うほど幼い。モンペといえども、女性は桜色の着物を着ている。草履の鼻緒も色を合わせて精一杯のおしゃれをしているのを、カラー化で初めて知る。女性はずっと「一度は花嫁衣装を着たかった」とこぼしていた。
(1942)
・岐阜県の田舎の村の囲炉裏をかこんだ8人家族を映した写真。カラーだから、多くが鮮明。モンペの上のカスリが如何に粗末なものか、擦り切れた畳表、ピカピカに磨かれた板塀、使い込まれた鉄瓶、真っ白い陶器の湯呑みなどの「生活」が見える。父母と妹2人兄1人兄嫁と子供3人そして本人の9人家族である。
(1943)
・神戸市にて「働く婦人標準服展示会」という名前の街中の行進を写す。全員10-20代。紺一色か、つちいろ一色。しかし作りは意外とオシャレである。←コロナ禍のもと、こういうファッションショーもあって良いんじゃないか?
(1944)
・一月。土俵入りする大横綱双葉山の写真。ほとんどの娯楽は閉まっていたと思っていたが、相撲はやっていたのか!ほぼ満員。まわしも金の化粧で派手だ。
・マリアナ海戦の軽巡洋艦「バーミンガム」から撮影された、戦い後の飛行機雲を眺める兵員。三つ四つの飛行機が左右から違う円を描いて交差している。もはや2度と見ることは無いだろう(軽戦闘機の交戦はもうあり得ない)、青空の下の飛行機雲である。
・特攻隊員たちの笑顔の記念写真が数枚ある。みんな若くてイケメンである。どうして?と思う。
(1945)
・硫黄島(全滅に近い)で、まる2日死んだふりをして土に埋もれ手榴弾を持っていた兵士が、説得されてタバコをもらっている図。こういうところが、アメリカの余裕だな。
・東京大空襲の後の空撮写真。まるで緑色のタペストリーの半分が灰にになってぶすぶすと燃えているようだ。
・3月17日神戸大空襲の跡。少し焼けて白い立て看板が立てかけられている。「楠公の霊地だ、断じて守れ 湊川警察署」。一面の焼け瓦礫。の中にこれを建てる警察署とは何なのか?霊地とは楠木正成が祀られている湊川神社のこと。
・沖縄戦での有名な「鉄の雨(対空砲火)」の実際の色を初めて見た。空襲する日本軍機に向けて、まるで機織り布の糸のように撃ちて撃ち込んでいる「白色」は実は白い光線と橙色の光線が混じったものだった。こちらの方が確かに現実的だ。
・無数の特攻機の写真がある。米軍の論理からすると、人間ではない奴らの仕業にしか映らなかったのかもしれない。日本人から見たら、人の死んでゆく様を写真に撮ったとしか思えない。
・燃え盛る名古屋の街の空撮。まるで一枚の板が下から上に焼けているように見えるし、見ようによっては美しい。もう2度とあってはならない「戦争の姿」。
・1945年6月25日、沖縄で米軍に投降する「白旗の少女」比嘉富子さんの有名な写真。カラーで初めて観る。ぼろぼろの紺のかすり、茶色のズボン、裸足、痩せこけた肋骨と腕、その辺りにあった山地の枯れ枝に白地の布をくくりつけたと思える急拵えの旗。様々な情報がカラー化する事で見えてくる。
・呉市から見た広島市のキノコ雲。助言を得て若干真っ白から少しオレンジ色がかかっている。正に禍々しく美しい。そして、なんと間近に見えることか!
・福山大空襲跡の城址から見える福山市街地。ほとんど海が、山が見える。現代と比べて信じられない。
・禍々しい、長崎市香焼島から見えた、長崎原爆が落ちた直ぐのキノコ雲。エヴァの世界だ。
(1945-1946)
・マーシャル諸島の捕虜兵士の写真。これで生きていけたのかというくらい痩せている。
・11月千葉県国鉄総武本線日向駅近くの買い出し列車。屋根はもはや無く、まるで布切れの輸送列車のように人が溢れる。人はこんなにも列車に乗れるものなのか。みんな帽子をかぶっているか、手拭いを巻いている。裸頭は1人もいない。
・一転、46年1月25日、銀座松屋呉服百貨店の前に発売のタバコ「ピース」を求めて、延々と「密に」並ぶ壮年男女と学生、数人帰還兵も。みんな比較的いい服を着ている。焼け野原の東京の何処から湧いて出たのか。
・広島八丁堀の福屋デパートは、八丁座という名映画館があるために何度か訪れている。そこから被爆1年後の屋上から写したカップルの写真が最後に載っている。あの繁華街から海が見える。しかし、その頃デパートは既にダンスホールを営業していたという。カップルはその客かもしれない。いろんなことを考える。続きを読む投稿日:2021.02.09
カラー写真になったことで一気に戦争をリアルに感じられる。この写真に写っている人たちは、これを撮ってしばらくしたら亡くなったのかと思うと不思議な気持ちになった。原爆関連の写真はどうしても涙が溢れてしまう…。何となく、個人的に原爆というと広島のイメージが強いのだが、長崎市の推定人口の約三分の一が亡くなったのだと知って遣り切れない悲しさが残った。東南アジアに出兵した人たちが骨が浮き出てガリガリになっている写真を見て、東南アジアの死者の多くが餓死だったことを思い出した。戦局を楽観視し、兵士を使い捨てにしたかつての日本に現代人は何を学んだんだろうと、今のニュースを見てると呆れてしまう。続きを読む
投稿日:2023.09.15
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