うそうそ(新潮文庫)
畠中恵(著)
/新潮文庫
作品情報
若だんな、生まれて初めて旅に出る! 相変わらずひ弱で、怪我まで負った若だんなを、両親は箱根へ湯治にやることに。ところが道中、頼りの手代たちとはぐれた上に、宿では侍たちにさらわれて、山では天狗に襲撃される災難続き。しかも箱根の山神の怒りが原因らしい奇妙な地震も頻発し――。若だんなは無事に帰れるの? 妖たちも大活躍の「しゃばけ」シリーズ第5弾は、待望の長編です。(解説・西條奈加)
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商品情報
- シリーズ
- しゃばけ(新潮文庫)
- 著者
- 畠中恵
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2008.11.14
- Reader Store発売日
- 2020.04.03
- ファイルサイズ
- 2.4MB
- シリーズ情報
- 既刊22巻
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この作品のレビュー
平均 3.9 (214件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
畠中恵「しゃばけシリーズ」5作目(2006年5月単行本、2008年12月文庫本)。
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シリーズ久々の長編、一太郎が湯治目的で箱根に行く話だ。同行するのは、仁吉に佐助、そして松之助の総勢4人に3匹の鳴家が加わった旅で、いつもの江戸の町ではなく箱根が舞台の物語に、今の箱根の地図を重ね合わせながら、どういう展開が待ち受けているのか胸を弾ませた。
近所に出かけるだけで寝込んでしまう一太郎が箱根なんかに旅して大丈夫なのかという思いの方が強かったかもしれない。それでも仁吉と佐助が一緒で松之助まで一緒なら何とかなるかと思っていたら、船の中で仁吉も佐助も行方不明になり松之助と二人旅になってしまうではないか。これはいくらなんでも無謀だ、引き返すかと思ったらそのまま行ってしまう。きっと事情があって箱根でまた合流出来ると信じているのだが、仮に引き返すと一太郎をおいて二人が行方不明になったことを藤兵衛やおたえがどう思うかを一太郎が心配してのことでもあった。
どんな事情があっても何も言わずに消えるのは駄目だろうと、読了した後も声を出してダメ出ししている自分に笑ってしまうのだが…。
話の展開は最初ちょっと複雑だが、江戸で頻繁に地震が起きていることが物語の発端になっている。そして一太郎が夢とも幻想ともわからない奇々怪界な出来事に遭遇していた。それはこれから起こる箱根での出来事を暗示していた。
小田原まで向かう長崎屋の所蔵する船の常盤丸から仁吉と佐助が消えた。一太郎と松之助は小田原から湯治先の塔之沢の宿「一の湯」まで評判の悪い雲助の山駕籠で行くことにしたのだが、ゆくゆくこの雲助の頭領「新龍」が大きく関わって来る。一の湯では湯に浸かる間も無く何者かに攫われ、一太郎と松之助は箱根の夜の山道を山駕籠に乗せられて進んでいた。攫ったのは二人の武士、柴垣勝之進と太田孫右衛門で小さな藩の藩士だった。目的は藤兵衛の持っている珍しい朝顔を奪う為の人質らしい。しかしその朝顔は既に枯れていて、種もつけていなかった。そして偶然にも山駕籠の雲助は一太郎達を乗せて来た新龍達の同じ雲助5人だった。
道々新龍は一太郎に箱根に伝わる色んな話をしてくる。芦ノ湖の九頭龍明神の話、地下水脈の水門を縛っている朝顔の蔓の話、烏天狗の話、龍神への生け贄の話、その生け贄に村の幼い娘が捧げられたこと、その娘は山の神の娘だったという噂、怒った山の神は娘を救うと同時に神山を大噴火させ芦ノ湖の半分を埋め、村も消滅した。娘は父神の元へ行き姫神となったとのことだ。
その姫神はお比女といい、烏天狗が守っている。実は今回の一連の騒動はお比女に起因していた。どうゆう訳かお比女が一太郎を嫌っているらしく、そのことで山神も烏天狗も右往左往していた。佃島で小田原へ向かう船に乗り換える時に仁吉と佐助の元へ山神の遣いの烏天狗と皮衣の使いの狐白孔がやって来て、お比女が一太郎を嫌っている訳を聞きに来たのだ。
剣呑な雰囲気を察した仁吉は船には乗らず、お比女に会いに先に箱根に向かうことにした。後を佐助に任したつもりになっているが何も告げていない。全くコミュニケーションがなっていない。佐助は佐助で遣いの烏天狗を一太郎達から引き離すために烏天狗を引っ張って箱根に向かってしまったのだ。一太郎に会わすと攫われてしまいかねなかったからだ。こちらも仁吉に一太郎は任せたつもりでいる。二人のコミュニケーションは全くどうなっているのだろう。
そういう訳で一太郎と松之助だけの箱根への旅に次から次へと危険が迫ってくるのである。
最初の危機は侍二人に攫われたこと、次にまもなく烏天狗の一団に襲われたこと、烏天狗は佐助が現れ一団を引き付けているうちに何とか逃げのびることができたが、松之助は大怪我をする。駕籠には怪我をした松之助と孫右衛門が乗り、一太郎は自らの意思で歩くのだが、目的地の箱根宿までは16㎞の道程だ。一太郎には無茶なことで途中崖下に落ちてしまう。そこに仁吉が現れ救うのだが、箱根宿の村人と思われる一団が一太郎を探していた。何かおかしい、危険な雰囲気だ。一向は箱根宿には入らず、芦ノ湖近くの東光庵薬師堂に身を寄せる。そこで仁吉は一太郎にお比女に会わすと一太郎はお比女と話し一連の出来事を全て解明するのである。
地震も、烏天狗が一太郎を襲ったのも、 村人達が一太郎を殺そうとしていたのも、全てお比女の精神状態の影響が起因していた。一太郎はお比女に自信を持たせるために注力しようとする。最終的には侍達が水門を縛っている朝顔の蔦を切って大洪水をもたらすのをお比女自らの神としての力で食い止めることで自信を持つことができ、全ての怪奇現象は収まるのである。
やっと解決して一太郎達は一の湯に戻ってゆっくり湯に浸かるのだった。投稿日:2021.10.26
「しゃばけ」シリーズ5作目。これまでは短編集だったが、これがシリーズ初の長編になっていて、どうしようもない病弱だけど心が優しい「若だんな」が湯治の旅で箱根に行く、という物語。毎回謎解きをしつつも、どこ…かに切なさが残る話も多かったが、今回の話も、主人公の「若だんな」も含めて、登場人物のそれぞれが悩みや不安、コンプレックス、自己嫌悪、自己の限界といった弱さを抱えつつ生きていく、という物語になっている。いくつか心に残る言葉が登場人物の台詞として示されている。例えば「『ずーっといつまでも優しくしてはもらえない。だ、だって相手も疲れちゃうから』それが分かるから、また人に怯える。悩みはいやでも己の中に溜まってゆくのだ。生まれてきて、役に立ったことがあっただろうか。いやこれからだとてあるだろうかと、迷う声が続く」(p.173)と、自分に自信が持てず、人に頼りきれない感じ、という揺れ動く内面の描写のいくつかは、読者にも当てはまるかもしれない。そういうデリケートな部分を中和するように、クスッと笑えるユーモラスな場面もたくさん描かれているのがいい。そして、ブクログの感想で毎回書いている、かわいい「鳴家」の活躍が描かれていて満足。毎回鳴家かわいすぎ。(23/12/03)続きを読む
投稿日:2023.12.05
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