この作品のレビュー
平均 4.0 (6件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
『私が源氏物語を書いたわけ 紫式部ひとり語り』はずっと読みたくて、myjstyleさんのレビューを読ませていただいてから益々その想いは募り……もうこれは中古本を入手するしかないとやっと決断したところ、なんと文庫化しているではないか!と気づいて慌てふためき即購入。山本淳子先生の著作はどれも面白いので、手元においておきたいのだ。
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この『私が源氏物語を書いたわけ 紫式部ひとり語り』改め『紫式部ひとり語り』は、〈人間紫式部の心を、紫式部自身の言葉によってたどる〉というコンセプト。まるで本当に紫式部が語っているかのような“打ち明け話”に、「やっぱり高慢ちきな女性だなぁ」なんてちょっぴり文句をたれながらも、彼女の人生に夢中になる。
『源氏物語』誕生秘話、望んでいなかったはずの女房になった理由、宮中での苦労、主人中宮彰子への賛嘆、清少納言への批判、そして親しい人たちとの別れ……
彼女の人生が確かにこの中にはあった。
紫式部の内面について知ろうとする際、『紫式部日記』と『紫式部集』の、紫式部自身の手による2作品が圧倒的に豊かな情報をもたらしてくれると著者はあとがきで書かれている。これら本人による証言をはじめ、平安時代の文学作品、紫式部をめぐる歴史資料、国文学・国史学の研究成果によって再構成された本書は、小説のように面白いのだが当然小説ではない。
わたしは山本淳子先生の『源氏物語の時代』『枕草子のたくらみ』から読んじゃったので、定子と一条天皇の一途な愛にいたく感動し、清少納言の「枕草子」がどれだけ定子のために書かれたものかに大変感心した。だから紫式部が「枕草子」に対して空虚な嘘だ、欺瞞だと大変批判的だったことに、どうしても彼女に対する印象はあまり良くない。
ただし、紫式部の主人である中宮彰子はとても好きな人物。そうだなぁ定子が太陽なら彰子は月。どんなに帝の心が亡き定子に向かっていようとも、自分の想いは秘めながら、変わらず淡く優しい光でそっと帝を照らしているかのよう。そんなイメージかな。
彰子は定子一筋の一条天皇の元へ12歳で入内し、定子が亡くなればその皇子を愛情を持って育て、そして自分も皇子を産むことを期待される。彰子の人生は父である藤原道長が作ったといっていい。その人生にずっと従ってきた彰子のいじらしさ、我慢強さ。そして母となり、また帝の譲位に関して父の自分に対する「隔て心」に気づいてからの、勇気、強さ。すごく優しくて芯の強い女性だったと思う。
だからこそ、わたしは院となった一条天皇の辞世の歌について思いを馳せると切なくなるのだ。『源氏物語の時代』などから、その歌は定子にあてたものであってほしいとわたしは願っているのだけれど、でもやっぱり彰子に遺した歌であってもほしい。この場面はいつも胸がつまる。ふたりの女性のことを考えると、ああ、もうまた涙が出そうになる。
さらに今回『源氏の物語』の中の1首にも似ている歌があると知り、一条天皇にとっての『源氏の物語』は何だったのか、何かを重ねていたのだろうか大変気になるところであった。
そんな彰子に仕える紫式部。彼女の独白に、やっぱりプライド高くて上から目線だわ。なのに人の目を気にしていじけてしまう面もあるし、なかなか気難しい女性だなぁと、あまり印象は変わらず。
それでも、紫式部が〈心とは現実に縛られないものなのだ〉と気づいたところでは、すんなりと共感できた。常々わたしも心は誰のものでもない、そんなふうに思っているから。
彼女は夫との死別、娘の病気、親しい人の死、そんな自分に与えられた「世」つまり人生が、どれだけ嫌なものであろうと受け入れるしかない、抵抗できぬ現実を痛感する。自分が「世」の前で立ち尽くす無力な現実存在、「身」であることを実感する。不本意な現実に絶望するものの、時が経つことでこの人生を受け入れはじめる紫式部。すると、私という存在は「身」であるだけではないことに気づくことになる。私の中には「心」という部分があったではないか。心は現実に従うしかないのだろうか……
心とは現実に縛られないものだと紫式部は発見する。現実は現実だ。だがいっぽうで、心はそれと違う世界を生きることもできる。
〈心は、現実にひれふさなくてよい。またなんと不遜なものなのだろう。だが、それでいいのだ。現実を我儘勝手に動かすことはできないが、心の中ではどんな我儘勝手をしようが自由だ。それは心だけの世界なのだもの。こうしたことを考える私は、まして不遜であるに違いない。だが止められない。〉
心だに いかなる身にか 適ふらむ 思ひ知れども 思ひ知られず
『紫式部集』56番
こうして紫式部は物語の世界へとのめりこんでいくことになる。物語について友たちと語り合い、自分の心を楽しませるために物語を作る。その先に『源氏の物語』が誕生することになる。彼女は現実を生きながら、もう一つそれとは違う世界、心の世界を生きる人間になったのだ。
その頃からわたしの中でも、紫式部は実は器用に生きられない人だったのかなぁと少し見方が変わってきた。高飛車な割には臆病で。生真面目で敏感で、人づきあいも得意じゃなくて。ちゃんとしなきゃとずっと緊張していて。紫式部の嫌だった部分も不器用さ所以、そう思うことで彼女がちょっぴり可愛らしく見えてくる(紫式部に己は何様じゃーと罵られるでしょうが 笑)。
でも、そんな紫式部だからこそ、「身の程」の中で生きてゆく女性たちの怒りや惨めさ、諦めなどの「心」、光源氏の闇の部分、つらい「身」と過激な恋という「心」を書けたんだなぁと思う。そして、紫式部の心が求めた『源氏の物語』は、これからも時代を超え、読む人を虜にしながら、素晴らしい文学作品として読み継がれていくはずだろうと思うのだ。投稿日:2020.08.24
2020.12.19市立図書館
(長女の冬休みのお楽しみ用も兼ねて)
『私が源氏物語を書いたわけ 紫式部ひとり語り』(2011年)を改題。「紫式部日記」「紫式部集」をはじめとした資料・研究成果に基づき…つつ、紫式部本人が語るスタイルでかかれた自叙伝風評伝で読みやすい。
長女は2021年初読みとしてたのしく読了。
清少納言をえがいた冲方丁の小説「はなとゆめ」と対にして楽しめる作品だったとのこと。続きを読む投稿日:2020.12.19
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