なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図
渡瀬裕哉(著)
/すばる舎
この作品のレビュー
平均 3.8 (16件のレビュー)
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【感想】
本書は前半で、民主主義社会でもたらされているアイデンティティの分断が、選挙によるものだということを説明している。
この視点はありそうでなかった。
まず社会の中に分断があり、それをメディアが伝…えることで分断が増幅される、という構図を普通は想像してしまう。人種差別問題、LGBT問題、格差問題など、社会には一定の憂き目にあっている集団が「既に」存在し、そうした集団の怒りが表出した結果、選挙の勝敗が決定されると考えられている。
しかし、「分断そのものが大学教授とメディアによって作られたものなのだ」、と本書は指摘する。
資本主義vs共産主義といった大枠での対立構造が従来の分断要因であったが、現在では、市民の間に潜むステータス格差へと、分断がミクロ化していった。問題が先鋭的でニッチになるほど情報操作しやすくなり、知識人たちの自作自演によって分断そのものが再生産されていった。
これは「分断を煽ることで利益を得ている人々」が存在する限り、消えることはないのだ。
本書の後半になると、アイデンティティを分断する要素は「通貨」だという主張のもと、仮想通貨の発展によるアイデンティティ再構成の話が始まる。
正直、筆者の主張とそれを立証する根拠とのあいだが飛びすぎており、論理的とは言えない。近年話題になっているニュースだけを拾って文の形にしました、という感じであり、本としてのまとまりは無いに等しい。
本書の前半だけさらい読みし、後半は飛ばして構わないだろう。
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【本書のまとめ】
1 アイデンティティの分断と選挙
民主主義社会におけるアイデンティティの分断は、選挙のマーケティング技術の発達によってもたらされている。
アイデンティティの分断とは、技術革新がもたらした単なる結果にすぎない。そして、アイデンティティの分断が政治的動員に利用されることで、本来は多様であるはずの人々のアイデンティティは、画一的で単純なものに押し込められていく。
現代社会におけるアイデンティティの分断は、全く赤の他人である政治関係者やメディアによって、主に政治に関する話題の形を取って、押し付けられてくる。特に、選挙において、政治家は自らにとって都合がよい動員を強いるため、画一的で単純化されたアイデンティティを有権者に与えようとする。
選挙活動の基本原理は「人々の分断を煽り、みずからの支持者を投票に行かせるように動機づけること。こうして見事なまでの二項対立が生まれる。
選挙のマーケティング技術の定義は、社会に存在するアイデンティティの分断を発見し、その分断の認知を広く流布し、なおかつ有権者のアイデンティティを画一化に向けて誘導する技術のこと。
アイデンティティの分断を発見する仕事をしている知識人の代表例は、大学教授である。そして大学教授は、メディア関係者にとっても、それなりに面白いネタを提供してくれるため都合がいい。
知識人やマスコミによって流布された言説、それも正しい裏付けのない論考で社会が「分断」されているのだ。
特定のイデオロギーが先鋭化し、拡散していくプロセスには、「知識人による特定」「メディアによる流布や批判」「テクノロジーによる反復された情報の提供」が欠かせない。
2 米国政治におけるアイデンティティの分断
米国では共和党と民主党支持者しかいないようなレッテル張りが人々にされ、価値観の分断が起こっている。
●リベラル派(民主党側)によるアイデンティティの分断方法
リベラル派は知識人層。大学関係者によって発見されるアイデンティティの分断を利用している。
最も利用する切り口は「属性ラベリング」。所得、人種、学歴、性別など、客観的に確認可能なデータを基に人間を複数グループに区別し、それらの違いを再否定する。属性ラベリングによる分断を自分が作っておきながら、「分断を埋めなければならない」と言い自らの行いを正当化する。
●保守派(共和党側)によるアイデンティティの分断方法
共和党を支持する保守派にとって重要なのは、「米国人であること≒米国の建国理念を受けいれること」である。
米国はイギリスによる課税に反対して独立・建国された自由の国だ。したがって、「政府介入からの自由」という理念を共有できる人は米国を守る人物、共有できない人は米国を壊す人物、ということになる。
米国における「アイデンティティの分断」は、左右両陣営から際限なく煽られ続けることになり、民主主義の多数決システムでは解消しきれないレベルにまで発展し、深刻な対立を引き起こす可能性がある。
3 中国におけるアイデンティティの分断
中国のような権威主義的国家でも、アイデンティティの分断は起こっている。
伝統的な価値観からの乖離、ひいては価値観の多様化は既に表出しており、それを法律によって制御・統制しようという動きは止められていない。
中国には言論統制と検閲によって国民を画一的に管理する制度が存在するが、国民の変化のスピードに間に合わない。信用スコアを使って「社会不適合者」というラベリングを行うことで、管理側社会に対する不満分子を増やし続けている。
4 グローバル化とアイデンティティの再構成
グローバル化は世界の平準化を生み出すように見えたが、実際は、世界を二つの新たな分断の方向に導こうとしている。それは、
①属性ラベリング(主に文明・宗教・民族)による分断
②国家のナショナリズムによる分断
である。
5 アイデンティティが分断される未来
・アイデンティティの一部を構成する法定通貨を、越境性を持つ「仮想通貨」が駆逐し、アイデンティティのさらなる分断圧力が起こる。
・政府機能が極めて弱い国家の中央銀行システムを仮想通貨が駆逐し、そこに集まった人々が、国境を超えた共通利害を持つ政治勢力を生み出す。
・法定通貨を重視する政党vs仮想通貨を重視する政党など、現在の与党や野党の枠組みが一変する。
6 これからを生き抜くために
無限に湧き上がってくる分断に心を揺らさず、自分が持つアイデンティティの構成要素として取り入れるべきか否かを「自らの自由意志」で判断する。
「アイデンティティの分断」を煽る議論に乗せられて他者に干渉しようとするのではなく、あくまでも各個人が当事者同士による合意ができることを尊重する姿勢を持った政党が必要。そして、人々のアイデンティティを画一化しようとする政治勢力にNOを突き付ける勇気が必要。続きを読む投稿日:2021.05.09
分断化の手法について、保守、リベラルでの手法の違いなど。これはコントロールしているような言説が多いですが、本当にコントロールできてるのか、自然発生的に起きているものをコントロールしているようになってい…るのではないかという気もしました。
空気の研究で見た集団に属性を付与するような行動は多く見られるので、重要なのは人についての細かい理解なのではないかなと。
前半が良いと思います。続きを読む投稿日:2023.07.19
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