クリーンミート 培養肉が世界を変える
ポール・シャピロ(著), ユヴァル・ノア・ハラリ(ほか著), 鈴木 素子(訳) / 日経BP
作品情報
クリーンミートとは――動物の細胞から人工培養でつくる食肉のこと。 成長ホルモン、農薬、大腸菌、食品添加物に汚染されておらず、一般の肉よりはるかに純粋な肉。培養技術で肉をつくれば、動物を飼育して殺すよりも、はるかに多くの資源を節減できるうえ、気候変動に与える影響もずっと少なくてすむ。そして、安全性も高い。2013年に世界初の培養ハンバーグがつくられ、その後もスタートアップが技術開発を進めている。 これはもはやSFではない。 シリコンバレー、ニューヨーク、オランダ、日本など世界の起業家たちがこのクレイジーな事業に大真面目に取り組み、先を見据えた投資家たちが資金を投入している。 フードテックの最前線に迫る!ユヴァル・ノア・ハラリ(『サピエンス全史』著者)序文で推薦! 「希望にあふれる魅力的な本書で、著者は『細胞農業』と呼ばれる食品・衣料品の新たな生産方法の可能性を生き生きと描き出している」エリック・シュミット(グーグル元CEO)絶賛! 「クリーンミートの革命をリードする科学者、起業家、活動家について学ぶには、説得力があり、前向きな本書を読むといい」
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商品情報
- シリーズ
- クリーンミート 培養肉が世界を変える
- 著者
- ポール・シャピロ, ユヴァル・ノア・ハラリ, 鈴木 素子
- 出版社
- 日経BP
- 書籍発売日
- 2020.01.10
- Reader Store発売日
- 2020.01.01
- ファイルサイズ
- 0.9MB
- ページ数
- 368ページ
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この作品のレビュー
平均 4.2 (15件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
クリーンミートは代替肉ではなく、本物の肉である。現代のバイオテクノロジーを使って細胞を培養し、動物を殺すことなく、必要な本物の肉を生産していく。そのスタートアップ企業で夢と理想を追う人々を追う。
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クリーンミートがこの地球に及ぼす影響は甚大である。それは道徳から環境問題、公衆衛生まで「正」の革命を引き起こす。工業的畜産によって生産=殺される動物がなくなる。現在の畜産による温室効果ガスの放出は車、バス、電車、飛行機、船・・・など運輸部門全部合わせたものより多いが、それが大きく削減される。畜産物の糞便による食中毒がなくなるばかりでなく、家畜- ヒトへの新たの感染症が発生するリスクが極小化される。
2013年にはクリーンミートハンバーグはすでに作られ、すでに人の口に入っている。そして今、「細胞農業」によって様々な畜産品が生産可能になってきており、一部ではスーパーにも供給され始めているという。
あと10年もすれば、世界は変わっているかもしれない。ワクワクする本。投稿日:2020.03.15
【感想】
「いただきます」
それは日本文化特有の言葉であり、全ての生命とそれを調理した人に感謝の気持ちを伝えるあいさつである。
しかし、この本を読んだ後で、「いただきます」の意味を今まで通り受け止…められるだろうか?
本書は、フードテックの最前線に迫るバイオルポルタージュだ。様々な問題を解決する夢の食糧、「クリーンミート」の実現を目指すスタートアップ企業の実績と課題を追う。
「培養肉」というものの存在は知っていったが、それが目指す理念がここまで多岐に渡って展開されているとは、全く想像だにしていなかった。
本書では、培養肉のメリットとして、
①環境にやさしい
②動物たちを傷つけない
の2点を強調して語っている。そしてここが驚くべきポイントなのだが、理念を掲げる人々が、これらを実現する「ために」価格を安くしようと研究開発している。なんと、環境を改善することが第一目標で、利益がその後なのだ。
そう、培養肉はコストとの戦いを重きに置いているわけではない。「道徳との戦い」を目指すのである。
道徳と戦っている代表的な人物がヴィーガンだ。ヴィーガンは肉が嫌いな人ではなく、動物を傷つけてまで肉を食べたくない人である。そのため、動物を介しない培養肉ならば喜んで口にする。
人間は「われわれが生きるため」ということを口実に、残虐非道な畜産工場を営んでいる。そこで飼育される動物には幸福に生きる権利は無く、ただ人間の食欲のために肥え生まされていく。そして、人間が生きていくためには、その命の殆どが必須ではなく、殺された動物の肉が何万トンと廃棄されていく。「いただきます」の裏では、こんな欺瞞が平然とまかり通っているのだ。
本書の凄いところは、こうした「動物の不幸」から更に踏み込む点だ。
「もし傷つけられる動物がいなくなったら?」という、クリーンミートが普及した先の世界まで物事を考えている。「家畜はもはや人間抜きでは生きられず、そして生きている限り苦しみを味わいつづける。ならば、彼らを絶滅してあげることこそが幸福ではないのだろうか?」
何とここで「反出生主義」が出て来るのだ。動物の幸福という視点を持つだけでも先進的なのに、その先の「真の幸福」の地点にクリーンミートはいるのだ。
何という長いスパンで物事を捉えているのだろうか。
今話題となっている培養肉を、環境負荷軽減の面で後押しする人は多いと思うが、こうした道徳の視線があるなんて思いもよらなかった。ただただ驚きだ。
みなさんも是非手に取り、「いただきます」の意味を考えてみてほしい。
【本書のまとめ】
1 培養肉(クリーンミート)の可能性
インド、中国といった途上国でのライフスタイルの欧米化によって、食肉需要は何倍にも膨れ上がっている。地球の人口は2050年までに90~100億人になると予測されているが、利用できる資源の量はその増加に見合うほど増加しない。
そこで注目されているのが、試験管の中で作られる「培養肉」だ。
従来のやり方で肉を育てるのには大量の水がいる。スーパーに並んでいる鶏肉を作るのに、それぞれ3.8リットル入りの水のボトルが1000本以上も費やされている。畜産業界のCO2排出量は運輸業界と釣り合うレベルに高い。
また、肉を育てる過程で動物を奴隷化する。農場を工場にし、自由を奪い、効率的に身体を大きくするために薬品や合成餌を与え続けている。「動物の権利」を尊重する目的から、肉食からヴィーガンに転身する人が大勢生まれているほどである。
植物ではなく動物を飼育して食糧とすることは非常に効率が悪く、畜産物の受容が急増すれば、地球はとうてい持ちこたえられない。そうした状況下においては、ますます牛や豚、鶏への動物虐待が横行する。
これら環境・倫理面からの打開策になり得るのが、畜産品を細胞から作り出す「細胞農業」である。細胞農業は、動物には手を触れず、ほんの少し採取した動物の筋細胞から、生体外で筋組織を作る。本物の肉や畜産品を研究室で作りながら、広大な農地をより自然な生息地として動物たちに返すことができるのだ。
もし培養肉が実現すれば、
・加工過程での糞便汚染
・食品添加物が含まれた餌の人体への悪影響
・抗生物質が投与された動物を食べることで、抗生物質が人間に効かなくなること
・過密化した牧舎での伝染病の流行
・飼料生産(大豆)による熱帯雨林などの環境破壊
などを防ぐことができる。
つまり、地球環境と動物を一挙に救いたいなら、食べる肉の量を減らさなければならないということだ。細胞農業のスタートアップ各社が成功すれば、私達の食糧生産方法に、約一万年前の農業革命以来最大の変革が起こるだろう。
2 「安価」というインセンティブ
鯨脂が石油に、馬が自動車に取って代わったように、動物たちの苦痛を取り除いたのは、人間の慈悲心でも環境への懸念でもなかった。新たに誕生したより安価な代替品だった。
2005年に、医学雑誌に掲載されたマシーニの論文「培養肉の試験管内生産」は、またたく間に注目を集める。
培養肉は臓器再生とは違い、ただ筋肉量を増やすだけで事足りる。それならば筋細胞を採取し、単離し、細胞増殖のよりどころとなる足場に接着させるだけでいい。核となる細胞は「筋サテライト細胞」と呼ばれ、牛や人間の筋肉が傷ついたとき、その筋肉を修復するのに使われるのと同種の細胞である。
ポストの考えでは、ハンバーグ1個をつくるのに必要な牛の筋繊維は約2万本だ。増殖のスピードから計算すると、たった3か月しかかからず、牛を育てて解体する(14か月)よりはるかに速い。
また、生産に必要な資源もはるかに少ない。肥育場では未だに、牛1頭に対して1日に9キロ以上の飼料が必要である。
ポストの計算によれば、この培養手法なら、1頭の牛から小さじ1杯の組織片を取るだけで、理論的には肉牛40万頭以上分にあたる牛肉を生産できると見込んでいる。
ポストはグーグル創業者からの支援を取り付け、培養肉の試食会兼記者会見を行った。1枚33万ドルもするパテで焼いたハンバーグは、試食者が言うには「普通の肉に近く、ジューシーさは足りないが歯ごたえは完璧」とのことだった。
記者会見は大成功に終わり、培養肉産業は一躍投資産業へと変化した。
ポストとフェアストラ―タの培養肉ハンバーグの商品化には、まだ乗り越えなければならない壁がいくつかある。その筆頭がコストだ。
現在の技術であれば、もう少しで1キロ65ドルから70ドルというところまで下げられそうである。(ちなみに、現状ではひき肉以外を作るのは技術的に難しい)
もう一つの問題は、肉好きな人がクリーンミートを食べてくれるかどうかだ。動物無しで育つ肉に、多くの人は本能的に嫌悪感を抱く。それは「得体の知れないものは食べたくない」「自然に近いものを食べたい」という安全意識が根底にあるからだろう。しかしながら、そもそも現代社会の食物は品種改良されたものばかりであり、それのどこが自然と言えるのだろうか?
結局のところ、人間の食肉欲求はなくならない。動物由来の肉を人々が止めるかどうかはモラルにかかっているのではなく、味と値段にかかっている。培養肉がそれを満たせば、肉がどうやって出来たかなんて気にしなくなるだろう。
3 培養レザー
細胞業界は、食肉ともうひとつの動物由来の繊維組織、「培養レザー」の可能性を追求している。
毛皮を持つ哺乳動物は、人類史の大部分において、人間の防寒のための主要な手段であり続けた。しかし、一頭の牛から取れる牛皮は身体ぜんぶの経済価値の10%程度。であるならば、革を取るために牛をまるまる育てるのは非効率的ではないだろうか?
アメリカの皮革業界は世界的な巨大産業であり、1年で30億ドル――牛3500万頭分――の牛革を輸出している。
懸念すべきは動物への虐待だけではない。皮をなめす過程で、様々な化学物質が使われ、労働者と周辺環境に深刻なダメージを与えているのだ。
これに比べ、モダンメドウで作るレザーには毛も肉も脂肪分もないため、皮なめしの工程は従来の第2段階だけで済み、ずっと環境に優しい。
培養肉よりも簡単で実用性に富むため、フォーガッシュはもっぱら培養レザーに力を入れ、大量生産化を目指している。すでに高級品として一部実用化されたものもある。
4 アメリカのクリーンミート
モダンメドウがすでに皮革だけに舵を切り始めた一方で、クリーンミートの商業化に目的を絞った世界初の企業「クレビー・フーズ」(のちにメンフィス・ミートに社名を変更)が、2015年後半に誕生した。
メンフィス・ミートは、
①動物を苦しめずに畜産物を収穫すること
②より健康的な肉による成人病を防止すること
をミッションとしている。
また、メンフィス・ミートは、世界初の培養ミートボールを作り上げた。コストは33万ドルからぐっと下がり、わずか1200ドルだ。着実に実用化に近づいている。その後は培養肉のフライドチキンと鴨肉のオレンジ風味を作り、キロ当たりのコストをより割安にした。この功績が投資家の眼に止まり、巨額の投資の提案も舞い込んで来た。
クリーンミートは人類史上最高に清潔で安全な肉と言えるかもしれない。糞便汚染の危険がなく、今ある肉よりもずっと消費期限が長持ちする。流通に革新が起こるのは間違いないだろう。
5 プロジェクト・ジェイク
ハンプトン・クリークが立ち上げた「プロジェクト・ジェイク」は、鶏と鶏卵にターゲットを向けている。環境に最もダメージを与えるのは、アメリカで年間3500万頭が解体される牛だが、動物の福祉の観点から見れば、年間90億匹が殺されている鶏を救うほうが先決だからだ。
そして幸運なことに、牛や豚よりも鶏や七面鳥のサテライト細胞のほうが、取り扱いがずっと簡単である。
理論的には、一羽の七面鳥から採取したたった1つのサテライト細胞が、3ヶ月間で75回の分裂を繰り返し、1つの細胞からターキーナゲット20兆個分以上の筋肉が取れる。
テトリックが技術を進歩させることで目指しているのは、単に新たな食品を生み出すことだけではない。他社にも新たな食品を生み出す力を与え、食料システム全体を改革することを目指している。
6 遺伝子組み換え
パーフェクト・デイとクララ・フーズは、分子レベルから牛乳と卵白を作っている。
これらが培養肉と違うところは、培養肉は細胞「が」食品を作るのに対し、牛乳と卵白は細胞「で」食品を作ることである。ビール酵母がアルコールを作る様に、酵母を遺伝子操作によって組み換え、牛乳や卵白を作り出すように設計し、ゼロから食品を「醸造」しているのだ。
しかしながら、培養畜産物の市場への導入は、コストや規制など導入期の障害を克服したとしても、一筋縄ではいかない。それは遺伝子組み換えというテクノロジーに対しての、消費者の受容度の低さが原因だ。
調査によれば、アメリカ人の51%が「自然」と表示された食品を選ぶと言明している。その一方で、何が「自然」かという疑問への定まった回答は無い。私達が食べている家畜や多くの野菜は、成長が早くなるよう意図的に育種されたものだ。とても「自然」とは言えないが、消費者が食べ物を買うときにそれを問題視しているようには見えない。
ギボンズは消費者の態度について重要な点を指摘している。小規模なオーガニックの畜産に戻れと主張する人々はしばしば、工業的畜産が生まれる以前の「古き良き時代」を思い描き、大規模か小規模かという二元論に陥る。だが、現実は、工業的畜産が標準的になる以前から、ギボンズが列挙したような多くの虐待が蔓延していたのだ。
結局のところ、本書に登場する各スタートアップは、自らの食品が完全に安全であり、ほかの食品の生産方法と変わらないことを消費者に明示する責任があるのだ。
7 倫理と道徳
もしクリーンミートが世界に普及して、現在不幸を味わっている動物を必要しなくなった場合はどうなるのか?彼らは人間無しではもはや生きられない。そして、彼らは生まれて来なければよかったと思うほどの苦痛を味わっている。であれば、彼らを絶滅させて、農地を森や草原に戻るに任せて、本来の野生動物に返すのが望ましいやり方なのではないか?これは非常に難しい倫理的問題である。
すべての畜産動物を大切に思えるようになるためには、私達の多くが、まず口にする肉の量を減らさないといけないのかもしれない。まずまずの代替肉がいまより簡単に手に入り、頻繁に口にされるようになって初めて、徐々に、畜産動物を、知性を持った個々の存在として見られるようになるのかもしれない。続きを読む投稿日:2021.03.01
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